動画広告市場が右肩上がりで成長していることはご存知の方も多いかと思います。この市場の成長に呼応するかのようにプラットフォーム側の動画広告に関する機能アップデートも着々と進められており、目的に応じたキャンペーン設計や広告フォーマットの選定がより詳細にできるようになってきています。
参考:
一方で、単純にテレビCM用の動画クリエイティブを二次利用するケースもみられ、プラットフォームの機能を広告主や動画制作会社が活かしきれていない印象を受けることもあります。これは、そもそも運用型広告での動画配信を想定していない、もしくはデジタルの知見が少ないことが障壁となっているのではないでしょうか。
そこで今回、「動画制作は、まずコンサルテーションから」と謳いテレビCMからWebCMの制作・広告運用まで手掛ける株式会社プルークスの皆木様、松浦様、塩口様に、動画マーケティング・動画制作会社としての強み、動画クリエイティブの考え方、TVとデジタルを連動させた動画広告商品について詳しくお話をお伺いしました。
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話し手:
株式会社プルークス
代表取締役社長 皆木研二様
代表取締役副社長 松浦寛之様
取締役 塩口哲平様
聞き手:アタラ合同会社 高瀬優
※このインタビューは2018年6月に実施されました。
クライアントの売上アップが一番
高瀬:皆さんの自己紹介と御社の事業内容について教えてください。
皆木:株式会社プルークスで代表取締役を務めている、皆木と申します。もともと学生時代にベンチャー企業の立ち上げに参画し、そこから経営コンサルティング企業での勤務を経て現在に至ります。動画マーケティング・動画制作を主軸とした会社でありながら社長が制作畑出身ではないというのが、弊社のひとつの特徴だと思います。
塩口:コンサルティング事業部で営業活動とディレクション業務の責任者を務めている、塩口と申します。新卒で経営コンサルティング企業に入り、中小企業向けの経営コンサルティングを行っていました。その後、当時同僚だった代表の皆木に誘われ、プルークスにジョインしました。
松浦:今年の4月に入社しました、松浦と申します。もともとジュピターテレコム(以下J:COM)に6年間在籍しており、このたびJ:COMとプルークスが資本提携した関係で、資本だけでなく実際に私もこちらにきてこの事業を大きくする部分を一緒にやらせていただいています。J:COM案件を担当したり、現在会社が成長し規模が大きくなってきていることもあり経理や管理業務を支援する役割も担っています。
皆木:弊社では動画制作と動画広告運用の大きく2つの業務内容があります。動画制作についてはクラウドソーシング型を採用し、クリエイターが1000名弱ネットワークしています。社内にいるプロデューサーが海外/日本のクリエイターを案件ごとにマッチングさせ、一緒にチームを作って制作を進めています。
高瀬:動画広告の市場は年々拡大しており、それに伴って動画制作会社も群雄割拠の状況だと思いますが、他社との差別化はどのように図られていますか?
皆木:他のクラウドソーシング型の動画制作会社では管理画面上でのマッチングを行っているところが多いですが、弊社は我々が必ず間に入ってディレクションを行います。年間500~1000本の動画を制作しており、そのノウハウを使ってクリエイターとクライアントのクリエイティブのアサイン管理を徹底しています。つまり、マッチング精度の高さが強みと言えます。
また、通常制作会社がクリエイターを抱えてしまうと、例えばWebCMはできるがテレビCMはできない、実写は強いがアニメーションはできないなど、できることの幅が狭くなってしまいます。我々は各分野の専門のクリエイターがネットワークしているので、採用動画ならこのクリエイター、バズを狙うならばこの人といった選定が可能です。
高瀬:さまざまな分野をカバーできているというのは大きな強みですね。
皆木:毎月かなり多くの問い合わせをいただいていて、問い合わせ内容も幅広い。すごく堅いものもあれば流行りものもあり、それらをすべて一定の基準をもってパフォーマンスの高い動画として制作することができています。
そして、デジタルの動画広告運用に強いのも弊社の強みです。通常の制作会社はそこが弱い。これまで広告運用は代理店が行い、クリエイティブ制作はパートナーの制作会社が行うというパターンが多かったですが、我々は動画の制作と運用をトータルで受けられる体制を整えています。
高瀬:そもそも皆木さんはコンサル畑出身ですが、どうして動画制作マーケティング会社を立ち上げられたのでしょうか?
皆木:結局はクライアントの売り上げアップが一番だと考えていて、売り上げを上げるには結局マーケティングがしっかりできている必要がある。コンサルティング企業にいた頃からそうした考えのもと様々な案件に関わってきたのですが、中でも動画を使って売り上げや認知度、会社のブランディングが向上するシーンをいくつも見てきました。
また、プルークスは2015年に設立したのですが、この年は動画元年と言われる年でした。肌感覚として動画マーケット拡大の兆しを感じていましたが、既存の広告代理店や制作会社でデジタルの動画広告についてのノウハウがない会社が多かった。つまりマーケット自体の可能性の高さを感じたことと、コンサルティングを行っていた私たちだからこそできることもあるのではないかと思い、起業に至りました。
高瀬:コンサル畑出身でいらっしゃるので、制作に関してのノウハウ蓄積は最初苦労なさったのではないかと思います。クリエイターのネットワーク構築はどのようにして行われたのでしょうか?
皆木:ひとつは、私が優秀なクリエイターを引っ張ってくるやり方です。「このWebCM、センスが良いな」と思ったら、とにかく直接アプローチ。意外とアナログな方法で地道にリクルート活動をしています。一方で、募集もかけています。インターネット上で弊社を見つけられるようにページを作ったり。毎月かなりの数の応募をいただいており、面談を通過した人のみ、我々のプラットフォームに登録しています。
経営戦略から施策に落とし込む
高瀬:御社では動画制作に加えて動画マーケティングも担われていますが、動画マーケティング業務における強みを教えてください。
皆木:やはりコンサル畑出身なので、お客様が会社全体として目指されている方針、経営戦略の段階から我々が把握・分析できる点が強いと思います。その中で動画で何ができるのか、そもそも動画である必要がないならば、紙媒体やLPの工夫でもよいと思います。
高瀬:マーケティング全般のコンサルティングも請け負うことができるということですね。
皆木:また、J:COMグループに入りましたので、配信会社もあればメディアを持った会社もあります。いくつか関係会社があるので、そことうまくタッグを組んでもっとサービスを展開していければと考えています。
高瀬:コンサル畑出身だからこその社風ですね。全体的な流れとして、ネット広告専業代理店においてコンサルティングファーム出身者は増えてきていますし、逆にコンサルティングファームがネット広告の領域に進出するという流れもあると思います。
動画広告の運用においても様々なプラットフォームがありますが、運用が得意なプラットフォームなどはありますか?
塩口:案件として多いのは、TrueView動画広告とFacebook広告です。
高瀬:配信する際のKPIはどこに置かれるのでしょうか?
塩口:大きく2つあり、ブランディングかダイレクトレスポンスなのかによって変わってきます。ブランディング寄りの場合は認知率や想起率、購入意向での態度変容など。要は、ブランドリフト調査の結果から広告接触者/非接触者の態度変容を見るイメージです。それを実現するために完全視聴率や完全視聴単価を手前に置くことも多いのですが、基本的には購入意向が変わらないとどんなに視聴されても意味がないと思うので、あまり重視していません。
ダイレクトレスポンスの場合は非常にシンプルで、クライアントに求められるのはCPAなので、CPAを下げるためには実際のクリック単価、インプレッションボリュームがどのくらいなのかをKPIに置くことが多いですね。
高瀬:例えばAdWordsは、ブランディングであればバンパー広告やTrueView for reach、 態度変容が狙いであればTrueViewインストリーム広告やTrueViewディスカバリー広告、ダイレクトレスポンスであればTrueViewアクションキャンペーンと、今やフルファネルをカバーできるようなプラットフォームだと思うのですが、動画広告単体でブランディングからダイレクトレスポンスまで行うケースもありますか?
塩口:中長期的に行う場合はあるかと思うのですが、マーケターの方が望まれるのは、結局のところ新規ユーザー獲得なのか既存ユーザーの利用継続なのかの2つだと思います。それを、顧客のカスタマージャーニー一覧ですべて洗い出して、それに対して動画でどう対応できるか、という相談が最近は多いと感じています。
フルファネルで対応することも今後あるかとは思いますが、一社単体ですべてを行うことはあまりありません。認知の獲得だけでも2~3年やり続けて初めてクリエイティブテストができる段階まで来るということもざらにあるので、それでいくと認知から理解訴求まで行うことが多いです。
高瀬:我々も最近動画広告を配信したいという要望をクライアントからいただくケースが増えているのですが、実際フルファネル対応はできるもののまだまだハードルが高い部分があるかと思います。例えば動画広告を視聴したユーザーに対してディスプレイ広告を配信して最終的にコンバージョン獲得を狙うケースがあるかと思いますが、こういった要望があった場合御社ではどのように対応されているのでしょうか?
塩口:現状では社内にオペレーション担当がいないので、実際にはマーケティングの設計のみを行っていることが多いです。メディアプランニングまで弊社で行い、実際の運用や広告枠の買い付けはパートナー企業にお願いしています。
皆木:最近は広告運用だけでなくクリエイティブ含めトータルでみてほしいというニーズも徐々に出てきており、広告運用企業から相談を受けるケースも増えてきています。
二次・三次拡散を意識した動画を
高瀬:クリエイティブに関して言うと、テレビCMの素材を使ってそれを6秒動画用に編集したのでバンパー広告として配信してくださいというケースがあると思いますが、目的ありきでないためこのパターンは行き詰まることが多いと感じています。クライアントもどういったクリエイティブを動画広告として配信したらいいのかわからないなかで、模索されていると感じています。
皆木:いただいた素材が悪いと、広告運用企業も効果を出しづらいと思います。そこで運用力を測られても困ると思う。だったらもっとしっかりした素材で、運用の効果を最大限に上げてほしい。そういった要望が、今後マーケットでは増えていくのかなと感じています。
高瀬:動画を使って何がしたいのかを明確化させる必要があると思います。そもそも動画広告を配信する必要があるのか、必要があるのであればその目的は何でターゲットは誰なのか。運用型広告はターゲティングも精緻にできるので、それを活かしてクリエイティブもターゲットに合わせて作り変えるのがベストだと考えています。
特に現在、入札や配信の最適化はプラットフォームに任せてしまったほうが良い場合も多いので、何をインプットするか、つまりクリエイティブがより重視されてきていますし、それは動画にも言えることだと思います。
クリエイティブの話をより深くお聞きしたいのですが、どのプラットフォームでも共通するクリエイティブのポイントはありますか?
塩口:重要なのは視認性の確保と視聴を継続するための構成です。視認性の確保はインフィード型にせよインストリーム型にせよ、注目力を上げることが前提として必要になります。特にインフィード型は情報がかなり乱立しますので、サムネイルに視認性を確保できるシーンを置くとか、インパクトが出るような映像構成にするなどの工夫で注目力を上げます。
また、どれだけ継続して視聴させるかというのが、完全視聴型動画においては非常に重要です。1構成が長いと基本的に離脱が多く、ワンカットが5秒以上あるとSNSを使う若年層ユーザーは視聴に耐えられない。そのため大体3秒くらいでカット割りをするとか、インパクトがあるシーンを3秒に一度入れるような方法をとっています。それはインストリーム型にもインフィード型にも言えることです。
さらに、視聴者が自分ごと化できるコンテンツにすることが大切です。テレビは強制視聴型なので基本的にはサービスやブランドの特徴を広告っぽくしても見られますが、デジタルは能動的な視聴になるので興味を失うと視聴者が自分で離脱してしまいます。いかに広告っぽくせず、自分に役立つ情報が流れているんだと思わせるかが重要です。
高瀬:自分ごと化するというのは、キャスティングにも言えることでしょうか?
塩口:ターゲット層がどういうものが好きか、どういう嗜好性かを見て、キャスティングをしています。それを考えずとも成り立つのがテレビの良さかと思います。デジタルの場合はこだわらないと一気に興味を持たれなくなるので、キャストだけでなくシーン設定や表記の仕方にもこだわっています。
高瀬:ターゲティングが複数にまたがるケースもあると思いますが、その場合はABテストをされるのでしょうか?
塩口:J:COMで扱った案件でいうと、TureView動画広告の最後にぶら下がりの行動を促すようなものを入れるか入れないかでABテストを行いました。結果、ぶら下がりを入れたほうが10%クリック率が上がりました。そういった微妙な差異のテストを繰り返すだけで、まったく結果が異なってきます。
高瀬:出だしのメッセージも、ターゲットに応じて変えるだけで効果があるという話も聞きます。クリエイティブ制作とメディアプランニングは同時進行でやるのがベストだと思いますし、それができるのは御社のまさに強みですね。
動画のアスペクト比はいかがでしょう?やはり縦長やスクエアがニーズとして増えている状況でしょうか?
塩口:基本的に動画を当てるのはスマートフォンが多いので、スマートフォンの画面の占有率が高いスクエアや縦型はマストかなと思います。
高瀬:これまで、動画をバイラルさせることを重要視する傾向が全体としてあったかと思うのですが、最近はブランドリフト調査を実施してその動画がターゲットにどう影響を与えたか、またダイレクトレスポンス目的であればどのぐらい購入に繋がったかという質の部分を重視するケースが増えてきていると感じています。視聴回数と視聴の質という観点では、御社はどちらを大切にしていらっしゃいますでしょうか?
塩口:肌感覚としては、どちらも重要だと思っています。記憶に残らない動画でも広告配信すればYouTube上での視聴回数はカウントアップされていくので、そういった動画における視聴回数はあまり意味がないと思っています。ただ、80~100万回視聴されると急上昇ランクにのったり、ネットメディアに取材されやすくなります。
それってまったく侮れなくて、広告の1キャンペーン単位で見れば視聴回数はそこまで重要ではなくても、デジタルのPR的な目線で考えた場合は一気に動画広告で視聴回数を80万回くらいにあげて、二次拡散でメディアに取り上げられ、さらに三次拡散されることで一種広告以上の効果が得られると考えます。単純に獲得に向けた広告展開を考えているのであれば、視聴回数をKPIに置くのはあまり意味がありませんが。
高瀬:KPIに認知度を置く場合は、二次・三次拡散を意識した企画にする必要がありますね。
塩口:バイラルは、つまりネット上で議論されることを指しています。良い意味で議論の対象になると、今まで知られていなかった企業やブランドがターゲットに接触する時間が長くなるので、議論してもらえるようなコンテンツ作りも重要です。
皆木:実は弊社で制作した動画がJapan YouTube Ads Leaderboardでも4位に入賞しました。これは再生回数や運用までを含んだデータで審査されているので、そういった部分も評価されつつあるのではないかと思っています。
参考:
TVとデジタルを連動させた動画広告商品
高瀬:J:COMとの展望についておしえてください。このタイミングで資本業務提携された背景はどういったものなのでしょうか。
松浦:J:COMには2つのビジネス軸があり、1つはケーブルテレビのサービスでこれはBtoCのサービスです。もう1つはメディアエンターテイメント事業で、こちらはBtoBになります。ここでは有料放送のBSやCSチャンネルの運営、映画の製作や配給、ビデオオンデマンドなどを担っています。
中長期的に同事業を伸ばすにはどうすればよいかを社内で議論する中で、メディアエンターテイメント市場を広く見た際にもっとも市場として伸びていたのが動画広告市場でした。ここに投資することは決まっていたのですが、動画の広告枠を取引するテクノロジーを提供する切り口や、動画広告を提供するメディアを運営する切り口など、様々な方法を考える中で、社内でこれまでテレビや映画を作るなどクリエイティブに近い仕事をしている人間がいるためそこのシナジーも今後出せるだろうという意図で制作領域から入るためのパートナーを探していました。
2016年に女性向けのCSチャンネルにおいて、デジタルメディアの広告枠とテレビCMのスポットをセットにした商品を作りましたが、その際に制作できるノウハウやリソースが社内にあまりないということを再認識させられました。映画やテレビのフォーマットと動画広告の違いも顕著に分かったため、デジタルに強い会社と組むべきだろうということで、プルークスと提携を結びました。
高瀬:資本業務提携のリリースの中で今後行っていく事業がいくつか掲げられていましたが、我々としてはTVとデジタルを連動させた動画広告商品の開発というところに興味があります。
松浦:商品自体は現在開発中のステータスです。J:COMでいくつかの有料チャンネルを放送しており、その広告枠を売る営業チームもいます。そうした環境の中で現在考えている構想の1つはCS・BSに対して広告を出稿されるお客様に対して、クリエイティブの部分をプルークスが担う。出す面としてはテレビ、CSおよびYouTubeやFacebookといった配信先です。簡単に言えば、ミックスした売り方のパターンです。
もう1つは、プルークスが受託したクライアントに対して、実はテレビにも出稿することができるという売り方。今後スタディしなければいけないと思っているのが、同じクリエイティブを両方に出してもなかなかワークしない部分もありますし、出すタイミングもあると思います。放送中にセカンドスクリーンとしてスマホを見ている人に対して、同じ時間にテレビで配信して効果を生むかどうかという考え方もあるし、テレビを一度見た人に対して、そのデータが取れたとしたら、後追いで動画広告を打つパターンも考えられます。いくつかのパターンを検証して、ニーズがあるものを探る必要があります。
高瀬:テレビとデジタルをワンストップで配信する場合、クライアントに対してはどのように提案されますか?
松浦:BS・CSのテレビCMにおいては獲得のための通販の広告が多いのが現状なので、あえて獲得のほうでテレビ×デジタルをするやり方もあります。一方でスポーツのチャンネルなどでは車や比較的高級商材も扱っているので、ブランディング目的で売られる広告を打つ方もいらっしゃいます。そういった場合は、テレビ×デジタルでどれをどれくらいのボリュームで配信したことによってどう認知度がアップしたかなど、調査ベースでレポートを出す必要が出てきます。
高瀬:なるほど。効果をできるだけ可視化することで、WebCMからテレビCM、テレビCMからWebCMといった流れができるといいですね。また、これはかなり先のお話しになるかと思いますが、技術的にはセットトップボックスから視聴データを取得することは可能だと思うので、チャンネルや時間帯ごとのより精緻な視聴データやオーディエンスベースで広告を出しわける半ばプログラマティックTVのような取り組みにも期待しています。本日はどうもありがとうございました!