ネット広告市場がGoogleとFacebookの2社による複占、すなわちデュオポリー状態であるということは、業界関係者であれば一度は耳にしたことがあるかと思います。
実際、eMarketerによれば、2017年の米国のネット広告費において2社が占める割合は合計して58.5%と実に半分以上となります。AmazonやSnapchatの影響により徐々にこの数値は減少していくであろうとのことですが、2020年の2社を合算したシェアも55.6%となる見込みで、デュオポリー状態はしばらく続きそうです。
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これは同時に、広告運用に関するデータがこの2社に集約されていくことを意味します。集約された膨大なデータで両広告プラットフォームの機械学習の精度はますます向上し、より優れたパフォーマンスを発揮するようになれば、広告費はさらにこの2社に集中し、そしてまたデータがさらに集約され…というスパイラルが生まれるのは想像に難くないでしょう。
このような状況下では、広告運用者はGoogle AdWordsとFacebook広告を押さえる必要があるのは言うまでもないでしょう。そして、この2つの広告プラットフォームの実践的な打ち手にフォーカスした『ネット広告運用“打ち手”大全』が2018年4月に出版されました。
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そこで今回、Facebook広告パートを担当されたアユダンテ株式会社の高瀬さんに、本書の内容に関する突っ込んだお話や広告運用者として日々意識されていることをお聞きしました!
話し手:アユダンテ株式会社 高瀬順希
聞き手:アタラ合同会社 高瀬優
※このインタビューは2018年4月に実施されました。
目次
GoogleとFacebookの102の打ち手
高瀬優(以下優):まずは、簡単に自己紹介と現在の業務について、教えてください。
高瀬順希(以下順希):アユダンテ株式会社でSEMコンサルタントとして運用型広告のコンサルティングしております。具体的には、Google AdWordsやYahoo!プロモーション広告、Facebook広告を使ってお客様のビジネスをお手伝いしています。
優:アユダンテに入る前から運用型広告に関わるお仕事をされていたのでしょうか?
順希:最初の仕事はシステムエンジニアでした。そこから転職してウェブ業界に入りました。最初の思いとしては、ウェブサイトを自分で作って自分でSEOをかけて、広告も自分で打てる人間になりたいなと思っていました。
ただ色々とやっていく中で全部できる必要はないなと感じ、一番深く興味を持ったのが広告だったので、そちらに寄っていきました。興味を持って取り組んだからこそ、結果的にこうして本にまとめられるだけの知識を吸収できたのかなと思います。
優:SEOの知識もありながら広告運用できるのは運用者としてのひとつの強みだと思いますし、御社はSEOチームもあるので、チーム間での連携もスムーズに取れそうですね。
早速ですが、今回発売された書籍『ネット広告運用“ 打ち手”大全』の内容について伺いたいと思います。まずは同書の概要を教えていただけますか?
順希:同書では、GoogleとFacebookの2媒体に絞って有効な打ち手を紹介しています。レベル感としては初級者というよりは中級者・上級者向けで、実際にやってみて成果が出やすいものをテーマ化しています。102の打ち手があるのですが、1つの打ち手につき2~4ページでまとまっているので、全部読まなくても気になる項目を開いてすぐにアクションに移ることができるのが特徴です。
最初からGoogleとFacebookに絞ったわけではなく色々な媒体を扱ったマルチな広告の本というコンセプトだったのですが、それだとどうしても広く浅い内容になってしまうという懸念があり、2社に絞って深く掘る方向性になりました。
優:Google・Facebookの2強にフォーカスされたというのは、現在の時世にも合っていて非常に良いのではないかと思いますし、Googleアナリティクスに関しては逆引きタイプの書籍はこれまでにもありましたが、運用型広告ではどちらかというと考え方や初級者向けの本が主流だったと思いますので、ニーズもあるのではないかと思います。また、ウェブメディアでも運用型広告に関する記事はよくありますが、ここまで具体的に打ち手を紹介するコンテンツはなかなかありませんね。
順希:加えて、媒体を1つに絞って書いている本はたくさんあるのですが、2社入っているのはなかなかないかもしれません。
優:GoogleとFacebookという組み合わせはなかなかないですよね。しかし、運用者としては必ず押さえておかなければならない媒体だと思うので、逆に今までなかったのが不思議なくらいです。本書の中で順希さんはFacebook広告のパートを担当されています。Facebook広告を運用する機会は増えていると思いますか?
順希:もちろん増えていますね。BtoBが中心かと思います。
優:Facebookは、私が一ユーザーとして見る広告はBtoC向けのものが多くBtoBの印象がそこまで強くないのですが、よくよく考えてみると日本では特にBtoBに活用できるのかなと思いました。
順希:アメリカなどではLinkedIn中心に広告を展開しているとしても、日本ではFacebookの方が浸透しているかと思いますので、ビジネスユーザーがFacebookにいると考えて問題ないと思います。
BtoBの課題として、PCへの配信しか効果がないのではないかという懸念も感じていたのですが、Facebook広告をやる中で、Facebookはモバイルで広告を出してもしっかりとコンバージョンが取れました。これは大きな発見であり、改めて良い媒体だなと確信しました。
優:確かに、ビジネス=PCという固定概念はあるかもしれませんね。しかしモバイルデバイスが普及している現在、移動中などにビジネスパーソンがFacebookを開き、そこに広告が配信され…というパターンは当然考えられます。
本の内容に戻りますが、本書ではタイトルの通り数多くの「打ち手」が紹介されていると同時に、プラットフォームごとの仕組みも押さえてあり、非常にいいなと思います。結局仕組みを押さえないと、何故その打ち手を推奨しているのかも理解できないですからね。
リンク広告と比較してCVRが10倍になるケースも
優:本書の中でリード獲得広告の打ち手が紹介されていますが、リード獲得広告とランディングページへ送客するリンク広告のABテストの結果の例で、リード獲得広告のCVRがリンク広告の10倍になるケースがあるというお話がありました。キャンペーンの目的にもよると思いますが、例えばセミナー集客や資料請求にはマストなフォーマットなのでしょうか?
順希:そうですね。ただサンクスメールの問題だけ懸念があります。というのも、リード獲得広告の弱点はサンクスメールが送れない事です。それを補完するツールも同書で紹介していますが、その部分のクライアントの理解を得るのが大変ではあるかと思います。
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優:サンクスメールは、資料ダウンロードなどにおいてはリード獲得フォームの感謝スクリーンにリンクを貼ればよいので必ずしも必要ではないと思います。一方で、セミナー集客においては、場所や時間が記載されたサンクスメールが来ないと非常に不便ですよね。Facebookから獲得したリストをダウンロードして、手動でメールを送ることはできると思いますが、セミナー規模が比較的大きい場合、手動で送るのは現実的ではないですよね。
クライアントの理解を得る部分がネックとのことでしたが、具体的にどういったところがネックとなったのでしょうか?
順希:お客様のコンバージョンを自社システムとそれに乗らないラインでリードが来てしまうというのが障害になります。
優:CRMに直接連携するものではないので、そもそもリード獲得広告を行う所にハードルがあるというイメージですね。そこのハードルは今までどのようにして超えてこられたのでしょうか?
順希:まず担当者に理解していただき、リード獲得広告をやりたいという気持ちになっていただき、会社と交渉していただく必要があります。自分で全部交渉して、リード獲得に合わせてシステムを変えてもらうのは難しいと思うので、担当者の理解と協力が不可欠です。
優:実際にリード獲得でセミナーに来ていただき、そのあとでCRMに登録するということもできますね。あれだけ高いCVRが出る例があれば試す価値はあるなと思いました。
順希:ただ、コンバージョンが取れないと、他のリンク広告に比べるとCPM自体が高いので割に合わないとも言えます。その部分の見極めは重要です。
優:フォームのデザインも大事ですか?
順希:「変な所に情報を開示したくない」というユーザー心理が働くと思うので、個人情報を入力する際に納得していただけるような内容、ある程度の長さは必要だと思います。また、「限定〇〇名」などの今すぐ申し込む必要がある理由があった方が良いと思います。入力項目は極力減らした方がベターです。
BtoBでも効果の高い動画広告
優:ここまでリード獲得広告のお話が中心となっていますが、他に使う事の多い広告フォーマットはありますか?
順希:クライアントに提案しに行くときにまず刺さるのが、スライドショー広告です。「動画を作りましょう」という話をするとハードルが高くてなかなか受け入れていただけないのですが、スライドショーという形であればハードルはそこまで上げずにストーリー性を持った広告が出せるというのが非常に良いです。実際にしっかりと作りこめばスライドショー広告でもしっかりと成果を出せるのでおすすめですね。
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優:画像数枚があれば気軽に作れるというのがいいですよね。
順希:あとは、シネマグラフもおすすめです。
優:なるほど。静止画ではなく動画のほうがCTRやCVRが良い傾向にあるということでしょうか?
順希:実際に本でも紹介していますが、静止画と比較して動画の方が効果が高いので、ハードルが高いというお客様にはスライドショーやシネマグラフをおすすめします。
優:動画広告の打ち手の中で、動画のアスペクト比は正方形か縦長が良いという話がありますが、専有面積が大きく、かつサービスの仕組み上スクロールできるという点が良いですよね。その中でも、正方形は横長画像を加工するだけでできるという点を本書の中で強調されていて、おっしゃる通りだと思いました。BtoBで動画を使う機会も多いのでしょうか?また、どのような目的で使われるのでしょうか?
順希:機会は多いですね。目的としては資料ダウンロードが多いです。資料請求の場合は、注意を引くタイトルやバナーで訴求するのですが、その資料のデザインを持ってきて、スライドショー広告を作ったり、パラパラめくっているようなイメージの動画を撮影して配信します。
優:動画の製作コストをそこまでかけずに、かつ正方形で流すというのがポイントですね。実際の成果はいかがでしたか?
順希:とても良いです。BtoBの大型案件で試してみたのですが、どの媒体よりも一番良かったです。リード獲得広告と組み合わせて流してもいいと思います。
優:配信面ではInstagramもありますが、BtoB案件でInstagramも使っていらっしゃいますか?
順希:使っています。Instagramは、「インスタ映え」という言葉が流行ってからユーザーが爆発的に増えています。昔のイメージだとInstagramは10~20代の女性が使うプラットフォームというイメージがありましたが、ユーザーが増えている昨今だと、ターゲティングさえよければ、40~50代の男性、つまりビジネスパーソンにもしっかりと響かせることができます。
優:その場合、キャンペーンの目的は何にされていますか?
順希:コンバージョンです。資料ダウンロードもFacebookと同様スライドショーで、Instagramでも取れています。男女比率的でいうとほとんど男性からコンバージョンを獲得できています。
スマートフォンを使った広告プレビューを
優:同書の広告の配置の話で、高瀬さんのベストプラクティスとしてFacebookのフィードと右側、Instagramフィードに絞るのが良いとされていたのですが、その理由を教えてください。
順希:Facebook広告に関しては配置ごとに入札単価を調整できないので、強めたくない所に配信が寄ってしまう傾向が強いことから、基本的にはその2面に絞っています。しかもその2面に出せば基本的には取れるので、そこでしっかり取れてくれば、他の面に拡大するという考え方です。オーディエンスネットワークとインスタント記事に関しては、どこに広告が出ているかは一部の広告主しかわからない状態なので、ブランドセーフティという観点からすると出さない方が良いかなと思っています。
優: クライアントさんにもよると思いますが、FacebookとInstagramはユーザー層が異なると思いますし、相性の良いクリエイティブも違ってくると思います。そこを考慮して最初から広告セットを分けてクリエイティブも使い分けるケースもあると思うのですが、そこに関してはいかがですか?
順希:広告セットに関しては、目的をコンバージョンに設定している場合、コンバージョンデータを溜める必要があります。その単位が広告セットなので、2つ作ってしまうと、週50件ずつ溜めなければいけなくなります。つまりハードルがあがるため、広告セットは1つにまとめた方が良いと思います。また、広告に関しても、Instagram用の広告は別の画像を使うための設定ができます。
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優:FacebookとInstagramそれぞれの広告クリエイティブを作るにあたり、押さえておきたいポイントはありますか?
順希:Facebook ・Instagram共通して、SNSという特性上ユーザーの評価をまず気にします。過去にシネマグラフのツールで一度火を着けるようなイメージのものを使ったことがあるのですが、その際はすぐに否定的な反応が出ました。うっとうしいと思われない範囲でクリエイティブを見るという点は気を付けています。テキストに関しては、Facebookで見出しとテキストを設定しても、Instagramではテキストしか表示されないという出方の違いがあるので、そこは必ずプレビューで確認しながら作成したほうが良いです。
また、BtoBに関していえば、あまりビジネスビジネスしたのものよりも、和やかでカジュアルなクリエイティブの方が反応が良いですね。
優:打ち手の中にも書かれてましたが、メンバー全員でスマートフォンを使って広告のプレビューを確認することが大切ですね。広告マネージャー上のプレビューで確認して終わり、というパターンの方が多いと思いますが、意外と見出しが切れてしまうこともありますので、必ず私も見るようにしています。また、Instagramのオーガニック投稿でもテキストを改行しているケースをたまに見かけるのですが、デフォルトで2行までしか表示されないのに、改行してしまって情報量を自ら減らしてしまうのは非常にもったいない。広告も実際どのように表示されるかしっかりと確認することが大事ですね。
クリエイティブの知見をもった運用者に
優:同書のFacebook広告のパートでは合計30近い打ち手が紹介されていて、非常に幅広くかつすぐに実践できそうなものばかりですが、一方でプラットフォーム側の機能は日々アップデートされていくため、それに合わせて打ち手の幅が広がったり狭まったり、より精緻にできる部分もあると思います。そういった打ち手のバリエーションを持たせる能力を日々磨いていくために、運用者として気を付けていることや行っていることはありますか?
順希:Googleに関してもそうですが、機械学習の精度がどんどん上がってきているので、設定の方に時間を費やすよりも、クリエイティブの方に時間を使うという流れがあると思います。ですので、いかに良いクリエイティブを作るかという技術を学ばなければいけないなと感じていて、最近は動画編集をよく行っています。編集ツールを使ってみるなどです。
優:ご自身で広告に使用するクリエイティブも作ってしまおうということですね。
順希:その方が今後、運用者としての価値が高まってくるのではないかと思っています。
優:おっしゃる通りだと思います。Facebook広告でいえば、入札や配信の最適化はoCPMで任せしてしまえる。ターゲティングはカスタムオーディエンスや類似オーディエンス。機械学習の精度が向上している中で、いったい運用者は何をするのかについてしっかりと考えることで、今後差がついてくると私も思います。
順希:同書においても、Google AdWordsパートの方でもクリエイティブを発注する際のコツなどが載っていたり、全体を通しての考え方は同じトーンだと思います。また、気を付けていることとして、日々の情報収集的な部分は日々欠かさないようにしています。
優: 私も情報収集は仕事の一つだと捉えて欠かさないようにしているのですが、プラットフォームのアップデート情報や業界動向など含めてどうしても海外の方が早いと感じており、海外の情報を積極的にキャッチアップするように意識しています。その一環として海外カンファレンスにも定期的に参加しており、アウトプットも積極的に行っています。その結果、『海外カンファレンスの歩き方』という電子書籍を著者の一人として書かせていただくことができました。そういう部分は共通していますよね。
参考:
順希:確かにFacebookに関しても海外の方が情報のアップデートが早いので、私も情報収集する際には海外の記事を見るようにしています。
優:ちなみに、掲載されている打ち手はどんな場合にも使えるというものではなく、キャンペーンの目的やターゲットによって異なってくると思いますが、共通して気を付けているポイントがあれば教えてください。
順希:目的によって変わるとは言うものの比較的汎用性の高いものもあります。例えば優良顧客の類似オーディエンスなどはどのお客様に行っても成果がでると思います。また、まずはクリエイティブにこだわって色々なフォーマットを試してみて、どの場合にはどのクリエイティブが効くかを試していくことから始まると思います。
優:優良顧客の類似オーディエンスはFacebook広告においてはマストですよね。これに加えて、クリエイティブにいかにこだわるか、最適化を促進するためのアカウント設計を考えるというところがキモということですね。本日はどうもありがとうございました。