※この記事は、AppsFlyer 日本カントリーマネジャーの大坪直哉さんからご寄稿いただきました。
アトリビューションってなんだ?
Attributionという言葉には適切な日本語がない。2012年ごろにAttributionという考え方が流通し始めてからずっとAttributionはアトリビューションだ。記号論の観点から言えば、それはそれに該当する概念がないからだということになる。例えばidentityという言葉もそうだ。自己同一性という訳は存在するが、誰もそんな言葉は使わない。Identityはずっとアイデンティティだ。
なぜこんな書き出し方をしたかというと、言葉ってとても大切だからだ。人は言葉で考える。りんごの香りをかいでも、りんごを知らない人はりんごの香りと表現できない。りんごを知っている人であれば、その香りを「りんごの香り」と共有することができる。言葉がなければ考えを共有することができないのだ。逆に言葉を創造したとしても、こなれてない言葉では流通しない。アトリビューションという概念が、非常に重要な考え方であるにも関わらず、マーケターの間で十分に認知されていないのは、やはりこの言葉の問題があるのではないかと感じている。
とはいいつつも、ひとつの記号として「アトリビューション」という言葉をまずは使用することになるが、この連載ではアトリビューションの重要性と、アトリビューションを理解することで何を解決することができるのかということについてわかりやすく説明していきたい。それがこの連載のWhat’s in it for youだ。
「アトリ飯店」の場合
あなたは中華料理店「アトリ飯店」を開店したとする。ただし時代は30年前だ。なのでスマホもなければ、FacebookもInstagramもLINEもGoogleもない。開店したことを世に知らせ、お店に来てもらうためにいわゆるオンラインマーケティングという手法は使えない。お店に来てもらう人を増やすために、どうすればいいだろうか?
やはり常套手段はチラシだろう。お店に来てくれそうな人がいそうな場所でチラシをまくのだ。お店の場所からして考えられるのは、1.駅前 2.大学前 3.自転車置き場の3つだ。まずはチラシをそれぞれの場所で100枚ずつ撒いてみよう。
チラシを撒いてから1週間経った。来店者数は確かに増えた。チラシは効果があったようだ。だが一体どこの場所で撒いたチラシが来店効果をもたらしているのだろうか?
印刷するにもコストがかかる。来店しそうにもない人たちにチラシを渡すのはお金も時間ももったいない。そう思ったあなたはいいアイデアを思いついた。自転車置き場は黄色、駅前は青、大学前には緑色のシールをそれぞれ貼り、チラシには大きく「チラシ持参で餃子半額!」と書くことにした。これでどこで撒いたチラシが集客に貢献しているのかわかるだろう。
シールを貼ったチラシを撒いてから1週間が経った。驚いたことに、来店者が持ってきてくれたチラシのシールの色には大きな偏りがあった。黄色のシール、つまり自転車置き場で撒いたチラシを持ってきてくれた人が90%以上を占めていたのだ。
どこでチラシを撒けばもっとも来店数が伸びるかを理解してから、来店者数もコンスタントに伸びてきた。欲の出てきたあなたは、今度は売上を伸ばしたいと考えるようになった。実は来店者のうち大半は餃子単品の注文で、あなたとしてはもっとも他のメニューを注文してもらいたかった。中でも酢豚をぜひ食べてもらいたいと思っていた。それもそのはず、あなたの作る酢豚は非常に手が込んでおり、最高の材料と合わせて、お店一押しのメニューなのであった。ただし問題はこだわりすぎて価格が一般的な酢豚よりも高価なことだった。なのでなかなか酢豚を注文してくれる人もいなかったのだ。
あなたの作る酢豚の素晴らしさをチラシで伝えれば、酢豚を注文してくれる人がもっと増えるのではないかと考えたあなたは、いままでのチラシのデザインとは別に、酢豚のこだわりについて詳しく説明したチラシを作ることにした。酢豚フィーチャーのチラシにも「チラシ持参で餃子半額!」という文言は忘れずに挿入した。
2種類のチラシを自転車置き場前で撒いて1週間が経った。あなたの目論見通り、酢豚の注文が爆発的に伸びた。酢豚を注文した人のほとんどは酢豚フィーチャーのチラシを持ってきていたのだ。さらに酢豚を注文した人はあなたの料理を気に入ったのか、他のメニューも合わせて注文することがわかった。閉店後にチラシごとの来店者あたりの売上を調べたあなたは驚愕した。酢豚フィーチャーチラシを持ってきた人の売上は2,500円、通常のチラシの人は800円だったのだ。これを理解したあなたはいままでのチラシデザインを廃止し、酢豚フィーチャーのチラシデザイン一本で行くことにした。
「アトリ飯店」の売上増加のストーリーをここまで見てもらった。成功の要因は、1.来店可能性のある人にリーチできる場所(自転車置き場)を見つけたことと、2.売上単価を増加させることのできるチラシデザインを発見できたことだ。
アトリビューション=「おかげ」
おそらくこれら二つのアクションは、読者の皆さんのほとんどが考えついたことだと思う。それくらい一般的なアイデアだ。そして実はこれがアトリビューションの考え方そのものなのだ。つまりアトリビューションとは、成功(もしくは失敗)の要因を辿ることだ。もっと平たい言葉で言い換えるならば、それは「おかげ」という表現だ。この例でいうと、自転車置き場のおかげ、酢豚フィーチャーチラシのおかげ、ということだ。英語ではAttributionと一言で言えるものが「成功(もしくは失敗)の要因を辿る考え」という長ったらしい表現になるのはなんだか残念だし、腹にすっきりと落ちてこないかもしれないが、「おかげ」と言えば誰でもなるほどと理解できるだろう。ただしビジネス的にイケてる表現ではないので、この表現が一般的に流通するかは疑問だが(多分しない)。
アトリビューションをすでに理解されている筋には長ったらしい説明だったかもしれないが、連載をこれから読み進めていただくにあたり、皆さんこれで同じページに立っていただけたのではないかと思う。これから社内でアトリビューションを語る際にはぜひ「アトリ飯店」の例え話と「おかげ」という表現を活用していだければ幸いだ。
ところで、順調に繁盛を続けていたと思われた「アトリ飯店」だが、様々な荒波が「アトリ飯店」を襲うことに。その難局をオーナーのあなたはどのように乗り越えていくのか?次回以降、アトリビューションの知識を利用しながら、皆さんとともに難局を乗り越えていければと思う。