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ブランディングからダイレクトレスポンスへ
株式会社マクロミルと株式会社デジタルインファクトによる動画広告市場の動向に関する業界アンケート調査によれば、動画広告を有効活用する上で重視すべきKPIは「視聴回数」という回答が最も多く全体の48.3%、これに「視聴者数(リーチ)」が42.0%と続き、「クリック」や「コンバージョン」を大きく上回るとのことです。
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これは動画広告の大半がブランディング目的で活用されていることを示唆するものでしょう。実際、YouTubeのプロダクトマネージャーNicky Rettke氏は、ダイレクトレスポンスを目的に動画広告があまり活用されてこなかった理由について、以下のように述べています。
One thing we used to hear from performance marketers was that, with video, it was difficult to align budgets with business goals. Historically, video advertising hasn’t been actionable, optimizable, or measurable against direct response objectives. The only way someone could “act” on a video was to watch it. Marketers could only optimize for reach (with TV) or views (with digital video). And tracking hard ROI back to video was just about impossible. That meant performance marketers very rarely considered video as an acquisition tool.
パフォーマンスマーケターから聞くことのあった理由のひとつとして、動画広告では予算に応じたビジネス目標の設定が難しいことがあげられます。歴史的に、動画広告はアクショナブルでなく、最適化可能でなく、もしくは計測可能でもなかったため、ダイレクトレスポンス広告とは対の関係にありました。動画に対して取れる唯一のアクションは視聴であり、マーケターはテレビであればリーチ、デジタルであれば視聴回数しか最適化することができませんでした。ROIのトラッキングとなるともはや不可能であり、パフォーマンスマーケターは動画を顧客獲得ツールとして考えることはほとんどありませんでした。
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一方、昨今ではダイレクトレスポンスの領域でも動画広告の活用が広がってきています。アプリインストール広告がイメージしやすいかもしれませんが、広告プラットフォームのプロダクトアップデートにより、商品の購入やサービス利用者の獲得を目的としたキャンペーンにおいても活用しやすい環境が整いつつあります。
直近では、YouTube動画広告におけるカスタムインテントオーディエンスの適用が記憶に新しいかと思います。ユーザーのGoogleでの検索履歴をターゲティングに活用することができるため、実際に該当の商品の購入を検討しているであろうユーザーに対して情報量の多い動画でアプローチすることが可能です。
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このアップデートと同時に発表されたTrueViewアクションキャンペーンは、Call-to-Action(CTA)をカスタマイズでき、かつ入札戦略は目標コンバージョン単価が自動的に設定されるという点で、まさにダイレクトレスポンス目的の仕様となっています。
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このように動画広告をダイレクトレスポンス目的に活用しやすい環境が整っていく中、これをうまく利用して大きな成功を収める広告主も出始めています。以下では、成功事例をもとに動画広告のダイレクトレスポンス活用について考察していきます。
インストリーム広告で数千件のコンバージョンを獲得
ダイレクトレスポンス用途での動画キャンペーンの成功事例として、Think with Googleではオンライン高級アウトレットをグローバルに展開するYoox Net-A-Porter(以下Yoox)が紹介されています。
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Yooxは昨年(2017年)のホリデーシーズンに「The World’s Most Exclusive Collection」と題して25秒のTrueViewインストリーム広告のシリーズを展開し、数千件のコンバージョンを獲得、数十万ドルの売り上げを達成したとのことです。
以下は実際に配信されたTrueViewインストリーム広告の一例ですが、動画冒頭の「SKIP IT AND YOU’LL MISS IT」のメッセージや、動画開始5秒後以降の「BEFORE IT’S GONE」のカウントダウンから、ユーザーのアテンションを獲得する工夫が随所に見て取れます。
以下はモバイルでの広告表示例ですが、見出しは「Don’t miss it!」、CTAは「SHOP NOW」にカスタマイズされていることから、TrueViewアクションキャンペーンであることが分かります。
コンバージョンや売上以外の部分、例えば視聴率についてもEコマース業界の平均を23%上回る37.2%と非常に高い数値を記録し、全体としてキャンペーンは成功したとのことです。この結果を受けて、Yooxは本キャンペーンをホリデーシーズン限定ではなく定常的な施策として実施することを検討しているとのことです。
最初の5秒間で自分ごと化してもらう
Yooxの成功事例から、ダイレクトレスポンス目的の動画広告におけるポイントをGoogleは紹介しています。そのひとつは、最初の5秒間でユーザーに動画の内容を自分ごと化してもらうことです。
TrueViewインストリーム広告は再生開始から 5 秒が経過するとスキップ可能になります。裏を返せば、この5秒間でユーザーに動画の内容を自分ごと化してもらうことができれば、動画を最後までみてもらえる可能性は高くなります。
動画の内容に加えて、自分ごと化できるユーザーを配信対象として設定することも重要です。Yooxの場合、ターゲットとなるユーザーインサイトを独占欲の強い層と衝動買いをする層の大きく2つに絞り、これらに該当するであろうユーザーに対して動画広告を配信しました。
具体的には、アフィニティオーディエンスの「バーゲンハンター」とカスタムインテントオーディエンスをターゲティングとして活用したとのことです。カスタムインテントオーディエンスに関しては、Yooxが取り扱っているブランド名を検索、もしくはファッション関連のコンテンツを閲覧したユーザーで設定しています。
ショッピング好きであろうユーザーに対して、上記の通り「The World’s Most Exclusive Collection」というタイトルに「SKIP IT AND YOU’LL MISS IT」というメッセージを添えて最初の5秒間を展開したことが成功の要因のひとつであることは間違いないでしょう。
アクションまでの導線はスムーズに
最初の5秒間でユーザーのアテンションを獲得した後の課題としては、いかにアクションを取ってもらうかということだと思います。本事例では、該当の商品が15秒間で破壊されてしまうというある種ゲーム感覚のようなコンセプトを取り入れ、かつ残り時間をカウントダウンしてリズムを作っています。
これに加えて、見出し「Don’t miss it!」とCTAの「SHOP NOW」は最初から動画の下に表示されており、すぐにアクションを取れるように設計されています。動画の内容はもちろんですが、広告の見出しとCTAの設計も重要であることが分かる良い例かと思います。
CTAをうまく活用している事例として、旅行プランニングツールを提供するKayakも紹介されています。CTAに「Search Now」と設定することで、Kayakに興味をもったユーザーが旅行プランを探すというアクションを起こしやすい設計になっています。
また、広告ではありませんが、Yooxの事例は昨今普及してきたライブコマースを彷彿させるような動画とも言えるのではないでしょうか。残り時間のカウントダウンや、この機会を逃すと購入することができないといった臨場感はある種のライブ感を伴うかと思います。
インタラクティブ x オーディエンスデータを有効活用
今回ご紹介したYooxの事例は、動画広告のダイレクトレスポンス活用におけるポテンシャルの大きさを感じさせるものだと思います。カスタムインテントオーディエンスとTrueViewアクションキャンペーンの組み合わせは、ダイレクトレスポンスを目的とした動画広告のデファクトスタンダードになるかもしれません。
ユーザーインサイトの深堀をし、それに合わせたクリエイティブを制作することも重要です。Yooxはターゲットとなるマーケット(アメリカ、イタリア、日本、韓国)における高級ファッションブランド関連の検索クエリをリストアップし、それをもとにキャンペーン限定の400商品をピックアップ、さらに400商品を5つのカテゴリーに分類し、カテゴリー毎に動画のテンプレートを作成したとのことです。
従来のブランディングを目的とした動画広告はもちろん、インタラクティブでかつオーディエンスデータを活用できるという特徴を最大限利用することで、ダイレクトレスポンス目的での活用も有効になり得るでしょう。Yooxの事例はそのお手本と言っても過言ではありません。