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Appierを通してマーケティングとAIの関りが見えてくる
2018年4月、AI(人工知能)テクノロジー企業のAppierは台湾本社で記者向けの説明会を開催し、AI搭載のデータインテリジェンスプラットフォーム「AIXON(以下アイソン)」の新機能と、Appierの製品を支えるAIの技術について発表を行いました。
CEOのチハン・ユーさんをはじめ、企業向けAIのVPを担当するチャールズ・エンさんや、アイソンの製品マネジメントを担当するVPマジック・ツーさんなど、Appierの技術を支える方々に直接お話を聞く機会をいただきましたので、その模様をご紹介したいと思います。
CEOのチハン・ユーさん
運用型広告の世界において、「AI」や「機械学習」は、AdWordsの「スマート自動入札」や、「来店コンバージョン」の計測などに活用されているため身近な存在となっています。しかし、これらの技術が利用されているのはプラットフォーム側であり、実際にどのようなアルゴリズムが働いているかについてはマーケター側からは見えにくく、どうしてもブラックボックスのように感じてしまうことも多々あると思います。
Appierのことをより良く知ることで、今日のデジタルマーケティングに関する課題が浮き彫りになるとともに、AIがどのようにその課題を解決していくかが見えてきます。Unyoo.jpでは今後複数回に分けてAppierについて特集していきます。
第1回の今回は、CEOのチハン・ユーさんのお話を中心に、Appierという会社と、Appierが考えるAIの現在について触れていきます。
今後のデジタルマーケティングの方向性を示す表徴としてAppierという会社を捉えていただき、マーケティング領域でのAIとの付き合い方について、少しでもご自身なりの輪郭を掴む一助になることができれば幸いです。ぜひご一読ください。
AI(人工知能)テクノロジー企業のAppier
Appierは、2012年に台湾で設立された人工知能のテクノロジーを開発・提供する会社です。日本では2014年からサービスを開始し、人工知能のテクノロジーをマーケティングの分野で展開しています。共同創業者のひとりでCEOのチハン・ユーさんは米ハーバード大学のAIの博士号を持っているその分野の先駆者であり、Googleの自動運転技術プロジェクトの前進となる研究チームに在籍していました。共同創業者もハーバードやスタンフォードで研究者をしていました。
AppleやGoogleなどに出資したことでも知られるシリコンバレーを代表するベンチャーキャピタルのセコイア・キャピタルからも出資を受けています。共同創業者のウィニー・リーさん曰く、シンガポールのエレベーターの中で偶然セコイア・キャピタルの方と乗り合わせて、その場で出資の依頼をピッチしたそうです。今でこそ「エレベーターピッチ」という言葉もありますが、本当にエレベーターでピッチしたというのが創業期ならではのエピソードとして大変興味深いです。日本からはソフトバンク、LINEなどからも出資を受けています。
Appierでは、AIをインターネット、モバイル/クラウドに次ぐ3つめのインフラと捉えており、インターネットやスマートフォンが普及したことと同様に、今後すべての企業になんらかの形でAIが使われていくだろうとしています。次回以降に登場する製品マネジメントのVPであるマジック・ツーさんもこの点については強調されていて、自分たちがAIを普及させていくんだという強い意志を持たれていたのが印象的でした。
AppierのAIを活用した製品
Appierの製品は大きく分けて「マーケティングインテリジェンス」と「データインテリジェンス」の2つの領域があります。その根底には、AIによってデバイスやcookieを横断してユニークユーザーを特定する「クロススクリーンインテリジェンス」という高度な技術があります。(詳細については次回以降で紹介していきます)
「マーケティングインテリジェンス」領域はディスプレイ広告を配信するプラットフォームで、cookieやデバイスID単位ではなく、ユニークユーザー単位で広告を配信できることが特長です。
マーケティングインテリジェンス領域
例えば、オンライン通販の会社が動的リターゲティング広告を配信する場合、モバイルサイトで閲覧した商品を、デスクトップの広告で表示させることはcookieが異なるため、そのままではできません。
同様に、モバイルデバイス上でもモバイルアプリとモバイルウェブの間では、デバイスIDとcookie間で商品の閲覧情報を受け渡すことができません。そのため、モバイルアプリで閲覧した商品をモバイルウェブの広告で表示することはできません。
ユーザーに閲覧した商品の広告をデバイスをまたいで配信するためには、ログインIDなどのいわゆるCRMデータを使ってデバイス、cookieをユニークユーザー単位に紐づける必要があります。
GoogleやFacebookなどの巨大企業は前述のデータの分断に対応すべく、自社の持つGoogleのアカウントIDや、FacebookのログインIDなどを通じてユニークユーザーの特定を進め、広告の配信に利用しています。
また、世界最大の広告会社WPPも傘下のGroupMを通じて早い段階からユニークユーザーレベルのデータの整備を進めています。国内では電通が「People Driven Marketing」を提唱してユニークユーザーレベルのデータの整理に力を注います。
インテージ社が2017年に調査したところ、一人当たりのcookie数は平均して7.0個あるそうです。ユーザーに関連性の高い質の良い広告を届けることが、デバイスの多様化によってcookieではいよいよ限界を迎えているというのが実情です。
Appierはこのようなデバイスの多様化によるデータの分断にAIを使っていち早く取り組み、アジアを中心に前述の巨大企業に比肩しうるレベルでユニークユーザーレベルのデータを整備しているため、質の高い広告をユーザーに届けることができます。
データインテリジェンス領域
データインテリジェンス領域では、前述のAIで整備したユニークユーザー単位のオーディエンス情報をベースに、オーディエンス分析などを行う「アイソン」を提供しています。
例えば、広告主の保有するCRMデータをアイソンにアップロードすると、Appierの持つユニークユーザーレベルのオーディエンスデータと照合して、誰がライトユーザーからヘビーユーザーになりやすいかや、ロイヤルユーザーはどのような分野に興味・関心が高いかなどを予測モデルをベースに分析することができ、より効果的で最適なメッセージをユーザーに伝えることができるようになります。
「アイソン」の機能の詳細については過去の対談記事でもご紹介していますが、今回発表された新機能の発表などは次回以降ご紹介していきます。
AIは人間と同じような創造性を 持てるのか?
Can AI be as creative as a human?(AIは人間と同じような創造性を 持てるのか)というテーマでCEOのチハン・ユーさんから現在のAIについての解説がありました。
下記のスライドを見せ、「11月に台湾のECサイトで掲載したバナー画像ですが、売上が高かったのはどちらだと思いますか?」と記者陣に問いかけました。
個人的には掲載時期が11月ということなので、セーターを来ているAかなと思ったのですが、売上が高かったのは実はBで、10倍以上も売上に開きがあったそうです。
購買率などの予測など、ある一点の領域に限って言えばAIはすでに人間の判断力を越えているということが証明されていると言います。
個人的にも、AdWordsのスマート自動入札などで機械学習に慣れ親しんでいると、機械に任せたほうがうまくいくケースは多いなと感じているので、違和感なくこの結果を受け入れられます。
また、AIによってユーザー向けに最適なコーディネートを提案することもでるようになっているという事例も紹介され、AIがデザイナーの仕事の一部を肩代わりして助けられる日はすぐそこまで来ていると言います。
広告運用の観点から言えば、ディスプレイ広告のクリエイティブを作る際に、AIに効果的なバナーを提案させたり、自分の作ったバナーを検証させるなど、AIと対話しながらクリエイティブを製作するような日が近づいていると思います。
Appierには優秀なAIのエンジニアがたくさん集まっていますので、今後の進化がますます楽しみです!