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前年比63%増で拡大した2017年の動画広告市場
オンラインビデオ総研と株式会社デジタルインファクトの共同調査によれば、2017年の日本の動画広告市場は前年比63%増の1,374億円になる見込みで、デバイス別ではスマートフォンが、広告商品別ではインフィード広告が全体の成長を牽引しているとのことです。
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アメリカにおいても市場は拡大しており、eMarketer によれば2017年の動画広告費は前年比23.7%増の132.3億ドル(約1.3兆円)になる見込みとのことです。デジタル広告費に占める割合も15.9%と、その存在感は比較的大きいかと思います。
筆者もいちユーザーとして動画広告を見る機会が増えたという感覚はありましたが、上記のレポートからそれが事実であることが伺えます。配信可能なプラットフォームやコンテンツも増えている中、アプリやWeb を毎日利用していれば、動画広告を見ない日はないと言っても過言ではないのではないでしょうか。
ユーザーの動画広告視聴環境を表す興味深い5つのグラフ
プラットフォームやコンテンツの多様化は、ユーザーが動画広告に触れる環境の多様化も同時に意味します。しかしながら、配信される広告のクリエイティブはテレビCM の流用や、異なるプラットフォーム・フォーマットで同一のものが使われているケースも散見され、ユーザーの視聴環境に追いついていない側面があると考えております。
このような状況の中、Facebook は動画広告の視聴のされ方に関する興味深い5つのグラフを公開しています。(原文は英語ですが、日本語訳でご覧いただけるようになっています。)
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具体的には、ユーザーの動画広告視聴環境を以下5つに大別し、それぞれの動画セッション数(Video sessions)と視聴時間(Watch time)をグラフ化したもので、それぞれ傾向が異なり興味深い結果となっています。
本コラムでは、上記5つのグラフを元にユーザーの視聴環境に合わせた動画広告の考え方について考察していきます。
1.インフィード:即座にアテンション獲得を
Facebook や Twitter に代表されるインフィードは、フィード上のいちコンテンツとしてユーザーの目に触れるため視聴回数はスケールしやすい一方、興味のない内容であればすぐにスクロールすることもできるため、動画セッション数と視聴時間は反比例の関係となります。動画セッション数のポテンシャルを最大限活かすためにも、動画が再生されて早々のタイミングでユーザーのアテンションを獲得することが鍵となるでしょう。
この点でまず重要になってくるのが動画の構成です。Facebook によれば、モバイル環境ではニュースフィードのスクロール速度がデスクトップ環境と比較して41%も速いとのことですから、ユーザーの目に触れてすぐにアテンションを獲得できるような構成にする必要があり、ポイントとしては以下4つがあげられるとのことです。
・15秒以内にメッセージを伝える
・冒頭にインパクトを持たせる
・ブランド要素を早めに提示する
・投稿の文章を工夫する
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次に、動画のアスペクト比を一工夫することも効果的です。以下は横長(Horizontal)、正方形(Square)、縦長(Vertical)の比較ですが、縦長動画はスマートフォンの占有面積が大きいため、ユーザーの注意を惹きつけやすいことが伺えます。
A better vertical video experience
A better vertical video experience
Posted by Facebook Business on Tuesday, February 14, 2017
Facebook が北米、ラテンアメリカ、ヨーロッパで実施した調査によれば、従来の横長、正方形と比較して、縦長動画は広告想起含めブランドリフトに大きく貢献したとのことですので、実際に一定の効果があることも裏付けられています。
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画面の専有面積が大きくなることによるユーザーの反応は気になるところかと思いますが、IAB によれば、縦長動画を初めて見たユーザーも含め、縦長で動画を見れた方が良いと答えるユーザーは8割以上おり、7割以上のユーザーはエンゲージメントしやすいと回答しています。
一方で、すべてのモバイルアプリやウェブサイトでサポートされておらず、かつ縦長動画を作成するためのコストにより、活用できている広告主にも偏りがあるようです。以下は IAB のデータですが、映画やテレビに代表されるメディア業界では活用が進んでいるものの、それ以外の業界では活用が思うように進んでいないようです。
動画の構成についてはトライ&エラーを繰り返して最適化を進める必要があるかと思いますが、アスペクト比の変更は比較的取り組みやすいのではないでしょうか?縦長動画に対応できていない広告主も多いとのことですから、試す価値は十分あると考えています。
2&3.インストリーム:短尺でブランデッド・モーメントを
YouTube 等の動画プラットフォームに代表されるインストリームについて、Facebook は上記の通りNon-skippable (スキップ不可)と Skippable(スキップ可)の2つにグラフを分けて紹介しています。Non-skippable はスキップ不可のフォーマットのため動画セッション数と視聴時間のカーブは緩やかになっていますが、インフィードと同様に視聴時間の短いセッション数が多くなっていることから、Non-skippable 動画の短尺化が一般的になっていることが伺えます。
Skippable については、視聴時間が一定に達したタイミングで動画セッション数が急激に下降していることが分かるかと思います。Facebook によれば、この形式では5秒以下の動画が最も見られ、尺が15秒~30秒と長尺になると全体の10%未満にしかリーチできなくなるとのことです。YouTube のバンパー広告が普及したことで、よりユーザーのアテンションを長尺で維持することが困難になっていることが伺えます。
短尺動画としていまや一般化したバンパー広告について、Think with Google ではいくつか成功事例が紹介されています。パーティーコップ(party cups)のブランド Hefty は以下のバンパー広告を配信し、ブランド認知向上に成功したとのことです。
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クリエイティブディレクションを担当した Havas の Karen Goodman は Think with Google の中で次のように語っています。
“When it comes to the six-second format, the challenge is to avoid treating it as a shorter version of a longer ad. We think of the six-second ad as its own branded moment—not a cut-down. Thinking this way avoids the temptation to tell too complex of a story, and it opens the door for branding to be a central part of the moment. It’s clear how that came through in ‘Office Party,’ where the Party Cup is organic and integral to what’s happening.”
6秒フォーマットの広告を作成するにあたってのチャレンジは、長尺広告の短尺バージョンとして扱うことを避けることです。我々は6秒広告それ自身をブランデッド・モーメントとして考えました。このように考えることでストーリーを複雑化させることを避け、ブランディングをモーメントの中心に置くことが可能になります。パーティーカップがあることが自然でかつ必要な状況の「Office Party」でそれがどのように成功したかは明らかです。(太字は筆者強調部分)
大手電池メーカーの Duracell は動画リマーケティングを利用して、同社の30秒動画を見たユーザーに対して以下を含む複数のバンパー動画を配信し、購入意向の上昇がみられたとのことです。
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本キャンペーンの運用を担当した Spark Foundry の Erin Breen は次のように語っています。
“We built ‘Slamtone’ and several other bumper ads, and remarketed them to viewers of our equity-building 30-second ads. Our media strategy was to reach viewers with these longer stories, then reinforce them with quick, hard-hitting six-second ads to keep Duracell top of mind.”
我々は「Slamtone」を含む複数のバンパー広告を制作し、30秒動画を視聴したユーザーに対してリマーケティングを実施しました。我々のメディア戦略は、すでに30秒動画を視聴したユーザーにバンパー広告を配信することで、常にDuracell が彼らが一番に思い浮かべる電池ブランドであり続けることを補強する狙いがありました。(太字は筆者強調部分)
ブランド認知、購入意向のリフトとキャンペーンの目的は異なりますが、Hefty も Duracell も6秒というフォーマットに合わせた非常にシンプルかつインパクトのある動画という点では共通しているかと思います。6秒というフォーマットに合わせてクリエイティブを制作することが鍵となるでしょう。
4.ストーリーズ:最新機能も活用しながら最適化を
Instagram や Snapchat のストリーズは最も新しいフォーマットで、縦長フルスクリーンの短尺が特徴です。このため、一定の視聴時間を超えると動画セッション数が急下降するグラフとなっています。2016年8月に Instagram で提供開始されて以降、利用者は順調に拡大し、2017年10月時点のグローバルでのデイリーアクティブアカウント数は3億を突破しています。Instagram 全体のデイリーアクティブアカウント数が5億(2017年9月時点)となりますので、全体の60%を占めるストリーズはいまや無視できない配信面となっています。
参考:
インフィード同様コンテンツのひとつとして再生されるだけでなく、フルスクリーンかつ短尺でユーザーのアテンションを獲得しやすいといったメリットがあります。また、オーガニック投稿はユーザーのスマートフォンで撮影されたものがほとんどですので、クリエイティブは必ずしもハイクオリティである必要はありません。
例えば、韓国のファッションブランド Beanpole Outdoor は、Instagram のストーリーズ広告で注目を集め、従来の動画キャンペーンと比較して視聴率(View rate)は2倍に、コンバージョン数は1.4倍と非常にポジティブな結果が出たとのことです。実際のクリエイティブは以下リンク先でご覧いただけますが、非常に簡易的な編集(動画上部にテキストとスタンプを追加したのみ)となっており、クリエイティブを構成する要素によってはオーガニック投稿になじむクオリティの方がパフォーマンスを発揮する良い例かと思います。
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Instagram はストーリーズ広告にカルーセル形式が追加(グローバルパートナー企業から順に提供開始)されたことを発表しており、広告主はより柔軟にストーリーズ広告を作成することができるようになります。広告商品としてもローンチから1年未満と新しく、今後も機能アップデートはあるかと思いますので、最新機能を積極的に活用しながら最適化を図っていくことも鍵となるでしょう。
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5.テレビ:スマートフォン片手に視聴されることを意識
Facebook はテレビCM についても上記の通りグラフを公開しており、これがインストリームの non-skippable 形式と似たかたちになっていることに着目しています。直近の調査では、テレビの視聴中(大半はテレビCM が流れている時間)にスマートフォンを使うユーザーは全体の94%にのぼるとのことで、これが動画セッション数と視聴時間のグラフに影響しているようです。
また、テレビCM の視聴をMRC のモバイル動画のビューアビリティ規格(2秒継続でかつ50%以上の視聴面積)に則って計測すると、実際のビューアーはセッション数の半数になるとのことです。Facebook はこれに関して以下の通り補足しています。
That doesn’t mean TV doesn’t work. We know that it does. But the point is that our understanding of how people choose to pay attention, how long it takes to influence them, and how value is created—they all need a total re-work in the mobile era.
このことはテレビCM が効果的ではないということを言っているわけではありません。我々は、テレビCM が効果的であることを知っています。しかし、ユーザーがどのようにアテンションを向ける先を選択するのか、彼らに影響を与えるのにどのぐらいの時間を要するか、そしてバリューはどのように生成されるのかについて、われわれがしっかり理解することは重要です。モバイル時代においては、それらを頭から再整理する必要があります。
スマートフォン片手にテレビ番組を視聴することが当たり前となった状況下では、テレビCM に関してもユーザーのアテンションを如何に早い段階で引くかということが重要になってくるのではないでしょうか?音声オフの状態でテレビ番組を視聴するユーザーは少ないかと思いますので、音声もユーザーのアテンション獲得に有効に活用できるかもしれません。
まとめ:いちユーザーとして立ち返ってみる
ユーザーのアテンションを早い段階で獲得することは、どの視聴環境においても重要であることが理解いただけたかと思います。動画の構成だけでなく、それぞれのフォーマットに合わせたアスペクト比やクリエイティブで動画広告を作成することがアテンション獲得の第一歩となるでしょう。
本コラムの冒頭に、「動画広告を見ない日はないと言っても過言ではない」と書かせていただきました。これは裏を返せば、いちユーザーとして動画広告に触れる機会が数多くあることを意味します。ユーザーとして、それが広告だと分かっていても画面に見入ってしまった時、画面をスクロール・スワイプする手を思わず止めた時の感覚に、何かしらヒントが隠されているかもしれません。
テレビの視聴中にスマートフォンを使うユーザーは全体の94%にのぼるという調査結果も、広告主の視点ではかなり大きな数字に感じるかもしれませんが、日々の生活を振り返ってみれば自分自身もスマートフォン片手にテレビを視聴していることに気づかされ、納得感のあるものになるのではないでしょうか。
新しいプラットフォームやフォーマットは今後も引き続き登場してくるとは思いますが、いちユーザーとして感じたことを大切にしていけば自ずと答えは出てくるものかもしれません。動画広告に限った話ではないですが、いち広告運用者としてユーザーになる時間もしっかり持ちながら日々の業務に励みたいものです!