広告の透明性、AI、プログラマティックTVの現在:PROGRAMMATIC I/O 2017イベントレポート

広告の透明性、AI、プログラマティックTVの現在:PROGRAMMATIC I/O 2017イベントレポート

運用型広告レポート作成支援システム glu グループログラマティック広告に関する世界最大規模のカンファレンス「PROGRAMMATIC I/O」が、2017年10月25日から26日の2日間にわたり、米国東海岸のニューヨーク市で開催されました。

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会場はNew York Marriott Marquis。マンハッタン区ミッドタウンに位置し、タイムズスクエアを目の前にするこの会場に、プログラマティック広告に関する最新情報を求めて世界中から関係者が集まってきます。

会場の受付
1日目はボーナストラック含め5つのトラック、2日目は1つのトラックで数多くのセッションが行われ、筆者は「Programmatic Ops Talk」「Artificial Intelligence」「The Plenary Program」の3つのトラックで計20以上のセッションに参加しました。トラックならびにセッションの概要は以下で確認することができます。

広告主、広告代理店、メディア、ツールベンダー等、プログラマティック広告の各プレーヤーがそれぞれの観点でセッションを展開するため、全体のエコシステムを俯瞰する非常に良い機会でした。同時に、これらのセッションを通して、プログラマティック広告における現在のトレンドは大きく以下3つあると感じました。

1. 透明性 (Transparency)
2. AI (Artificial Intelligence)
3. プログラマティックTV (Programmatic TV)

本記事では、筆者が参加したセッションをご紹介しながら上記がトレンドたる理由を紐解いていきたいと思います。

ブラックリストからホワイトリストへ

広告主にとって重要な「透明性」のひとつとして、自社広告がどのドメインに配信されているかを把握することがあげられるかと思います。2017年3月に世界的な広告会社Havas が、ブランドセーフティの観点からGoogle ディスプレイネットワークやYouTubeへの広告出稿をイギリスで全面的に取りやめたことが話題になったのはご存知の方も多いかと思います。

参考:

JP Morgan Chase のプログラマティックバイイング最高責任者Jake Davidow 氏(以下Jake 氏)は「How To Implement A White List Strategy」と題したセッションの中で、同時期の2017年3月に同社が実際に行った広告配信面のホワイトリスト化を紹介しました。

「How To Implement A White List Strategy」の様子
具体的には、同社は2017年1月から2月の広告配信先をドメインレベルでリストアップし、現状を把握することから始めました。リストアップの結果、以下のことが明らかになったとのことです。

・広告の配信先Web サイトは40万
・10万以上のドメインでインプレッション数は10以下
・クリックもしくはコンバージョンが発生しなかったドメインは全体の75%
・不正インプレッションやフェイクニュース、過激なコンテンツを含むページへの掲載多数

ドメインのブラックリストやプレビッド対応(広告リクエストに応じる前のフィルタリング)、アドベリフィケーション等の対策をしていたのにも関わらず上記が明らかになったことに関して、Jake氏は「フェイクニュースや扇動的なコンテンツをサードパーティのツールを使って自動的かつ完全に抽出することは困難だと思う。」と述べていました。

リストアップの結果を受けて、同社は以下手順でホワイトリストを作成していったとのことです。

1. 2か月間に1,000インプレッション以下のドメインを除外
2. クリックもしくはコンバージョンの発生しなかったドメインを除外
3. 既存のブラックリストに該当するドメインを除外
4. プレミアムパートナーや業種別ランクのリストと照会
5. 上記の中で既存のブラックリストに該当するドメインを除外
6. 担当者による監査

上記のステップでブラックリストからホワイトリストのアプローチへ変えた結果、アドフラウドは47%減少、ビューアビリティは5%増加と非常にポジティブな結果が出たとのことです。また、ホワイトリスト化で配信先ドメインを絞ることにより懸念されることのひとつとして、リーチ数があげられるかと思います。これに関しても、ホワイトリストに絞って予算を強化したことにより、リーチしたユニークユーザーの数は結果的に増加したとのことです。

ホワイトリスト化の過程でCPM は上昇していったとのことですが、これをネガティブに捉えないことが大事だとJake 氏は強調していました。「例えCPM 1ドルでがらくた(Junk)を買ってもそれはがらくたを買ったに過ぎない」という言葉はとても印象的でした。

透明性の実現には各プレーヤーの協力が必須

広告枠を提供するパブリッシャーにとってもプログラマティック広告における「透明性」は死活問題です。アドフラウドの標的となってしまえば広告主からの評価は下がり、広告在庫が売れなくなってしまう恐れがあります。

Business Insider でプログラマティックならびにデータ戦略の責任者を務めるJana Meron 氏(以下Jana 氏)は「Insider View From The Publisher」と題されたセッションの中で、ドメインスプーフィング(なりすまし)に関する興味深いエピソードを紹介していました。

「Insider View From The Publisher」の様子
ある広告主(以下A 社)から、同社が提供するPMP(プライベートマーケットプレイス) から今後インプレッションを購入したくないと連絡が入りました。理由を聞くと、かなりのインプレッションをPMP より安いCPM でオープンエクスチェンジ経由で購入できるからだといいます。不審に思った同社は調査を始めます。

A 社は1日に40,000ドルに相当するインプレッションをオープンエクスチェンジ経由で同社から購入しているといいますが、調べたところ、実際にA 社から購入されていたインプレッションはわずか97ドル分でした。これを受けて、同社はさらに調査をすすめ、パートナーシップを結んでいる複数の広告主から広告リクエスト先のリストを共有してもらったところ、取引のないアドエクスチェンジ/SSP が散見されたとのことです。

リストアップされたアドエクスチェンジ/SSP に広告リクエスト元の情報開示を依頼し、そのうち1社(以下B 社)は情報開示に応じました。5つの広告主がB 社経由で同社の広告在庫を購入した履歴がありましたが、そのうちの1社はこれまで一度も同社の広告在庫を購入した記録がなかったことが明らかになったとのことです。

上記のような出来事もあり、Jana 氏はドメインスプーフィングを防止するためにもads.txt(権限のない広告在庫販売の防止を目的にしたテキストファイル)の重要性をしっかりと認識しているとのことです。パブリッシャーが自社のWeb サーバーにads.txt を置くことはもちろん、広告配信の際にこれをクローリングできるDSP があって成立する仕組みでもあるため、パブリッシャーとDSP ベンダー双方が導入をすすめていく必要があるでしょう。

AI 活用に適切なデータセットは不可欠

マーケティングの分野においても、「機械学習(Machine learning)」や「深層学習(Deep learning)」といったAI に関連するワードが飛び交い、注目を浴びているのはご存知の方も多いかと思います。ランジェリーブランドCosabella のAI マーケティングプラットフォーム「Albert」の活用事例も出てくるなど、プログラマティック広告においてもAI は無視できない存在となっていることが伺えます。

参考:

「AI In the Ecosystem」と題されたパネルディスカッションでは、AI マーケティングプラットフォームを提供する3社のCEO の方々 がマーケティングにおけるAI の意義について語っていました。

「AI In the Ecosystem」の様子
まず、AI の活用が必要になってくるポイントとして、Lattice Engines のCEO 兼 共同ファウンダーShashi Upadhyay 氏(写真右から二番目)はリード獲得であるといいます。ユーザーのエンゲージメントを基準としたルールをマニュアルで作成し、それを元にターゲットを抽出していくことも可能ですが、適切なデータセットがあればAI に任せた方がより優れたパフォーマンスが期待できるとのことです。

Albert のCEO 兼 ファウンダーOr Shani 氏(以下Or 氏、写真左から二番目)は、業界のトレンドという理由だけでAI を導入するのは間違いだと前置きしたうえで、現在の課題を明確にし、 その課題が非常に複雑で解決するのに複数のデーターサイエンティストを雇う必要があるというのであればAI を導入する価値はあるといいます。

CognitivのCEO 兼 共同ファウンダーJeremy Fain 氏(以下Jeremy 氏、写真一番左)は、現在より正確に結果を予測する必要がある施策を実施する場合にAI は適切であるといいます。そのうえで、正しいデータセットがあればAI にできないことはないだろうと言い切っていたのはとても印象的でした。

広告主が保有しているデータの問題点として、Or 氏はサイロ化していることをあげます。AI を活用するうえでCRM データとの連携は不可欠ですが、デジタルマーケティングの担当部署がCRM データに容易にアクセスできる環境がない例がみられる等、社内の組織間でのデータの分断が起きているのが現状のようです。Jeremy 氏も同じ文脈で、データを一か所に集めることが大切であると述べていました。

AI は全てを決めてはくれない

適切なデータセットがあればAI は万能に機能すると思われるかもしれませんが、AI が人間よりも不得意とすることもあるといいます。Jeremy 氏とOr 氏が共通して触れていた例が、ブランド戦略そのものの決定です。Or 氏は「Visionary(想像力のある)」という単語を強調したうえで、3年、5年、10年後に顧客にとって何が大切かを見通すことは人が得意とするところであり、AI にとって代わることが難しいといいます。

コンバージョン率の高いユーザーや、ユーザーのセグメントに応じた最適なクリエイティブの抽出はデータを溜めることができるため、AI が人の代わりに、むしろ人よりも優れたパフォーマンスを発揮できる領域かと思います。一方で、未来の予測については、データを溜めることが難しく、AI よりも人が活躍するという話は非常に納得感のあるものでした。

AI と人との今後の関係性については、「Demand-Side Perspective: AI To Drive Audience Insights And Segmentation」と題されたセッションの中でも話題にあがりました。

Equals 3のファウンダー兼CTO Marc Dispensa 氏(以下Marc 氏、写真左)とHavas Media のCatherine Cottle 氏(以下Catherine 氏、写真右)による本セッションでは、Equals 3 が提供する人工知能「Lucy」について、実際にこれを活用しているCatherine 氏も交えて機能概要や活用方法が紹介されました。

「Demand-Side Perspective: AI To Drive Audience Insights And Segmentation」の様子
Catherine 氏によれば、Havas Media はLucy を活用することによって、同社が保有するデータを最大限引き出し、より深くかつ生産的にクライアントが必要とするユーザーインサイトを提供できるようになったといいます。これは同社が独自にもつプラットフォームとLucy との結合によって実現可能になったとのことです。

セッション最後のQA では、「AI に仕事が奪われる恐れもあると思うが、どのように折り合いをつけるべきか」という質問が参加者から投げかけられました。Catherine 氏はこれに対して、「確かにLucy の果たす役割はHavas Media において非常に大きくなり、あるチームメンバーは今まで自分がしていたことをLucy がするようになったことに不安を覚えていた。しかし、Lucy は仕事を奪うのではなく、仕事をより楽しくしてくれている。」と答えていました。

Marc 氏も同じ質問対して、「これらのツールはマーケターや代理店の仕事をより効率的にしてくれる。これによって、彼らはより多くの時間を、だれに対してどのようなメッセージを届けるか考えることに充てることができる。人が適切なオーディエンスをデータから導いて実装するのに最低でも8時間から10時間はかかるでしょう。」と答えていました。

セルサイドとバイサイドでポジティブな革命を

「The Next Year In Video: Evolving Programmatic For A World Of Video Convergence」と題されたセッションでは、FreeWheel のゼネラルマネージャHerve Brunet 氏(以下Herve 氏)がプログラマティック・バイイングによって実現される動画広告配信について紹介していました。

「The Next Year In Video: Evolving Programmatic For A World Of Video Convergence」の様子
冒頭、Herve 氏は現在の動画視聴環境について、テレビに加えてデスクトップやモバイル、タブレットなどデバイスが多岐にわたることをあげます。これに加えて、オリジナルコンテンツや動画視聴プラットフォームの増加により、オンデマンドでの動画視聴へのシフトが加速しているといいます。いまやユーザーは、デバイス・プラットフォーム・コンテンツを自由に選んで動画を視聴できます。

このような状況下のため、広告主は数多くのユーザーにリーチするためにリニアTV だけでなくOTT(オーバー・ザ・トップ)への広告出稿を検討する必要が出てきますが、課金形式(GRP とCPM)や広告配信プロセスの違いがあり、ユーザーの動画視聴環境の変化に広告主が追い付けていないのが現状だといいます。このギャップを埋めるためには、セルサイドとバイサイド双方の協力が必要で、これを実現することは「ポジティブな革命」であると締めくくっていました。

eMarketer によれば、2017年のプログラマティックTV 広告費は前年比75.7%増の11.3億ドル、2019年には40億ドル近くになるといいます。Herve 氏のいうポジティブな革命が起これば、この成長スピードはさらに加速するかもしれません。

参考:

TV 業界は緩やかにプログラマティックTV に移行

プログラマティックTV の浸透にはテレビ業界の協力も欠かせません。「State Of Cross-Media Measurement And Programmatic TV」と題されたセッションの中で、Coalition for Innovative Media Measurement (CIMM)のCEO Jane Clarke 氏(以下Jane 氏)は、冒頭テレビ業界がプログラマティック広告に対して持っている見方を紹介していました。

「State Of Cross-Media Measurement And Programmatic TV」の様子
Jane 氏によれば、細かい粒度でのターゲティングや広告在庫管理の自動化はテレビ業界もプログラマティックTV のポジティブな面と捉える一方、ビューアビリティ問題の増加やブランドセーフティ、広告枠のコモディティ化をネガティブな側面として見ているとのことです。

実際には、テレビ業界は注意深くプログラマティックの世界に足を踏み入れている状態で、ターゲットの最適化を目的としたファースト/サードパーティデータの活用、限られた範囲内での世帯ターゲティング提供、一部広告在庫の自動管理(実際は完全に自動化できていないようで、Jane 氏はこの状態を「Progra-manual」と揶揄していました)には乗り出している一方、RTB(リアルタイムビディング)対応はまだできておらず、かつプレミアム在庫の提供のみに留まっているとのことです。

最後にJane 氏は、2018年にプログラマティックTV に起こりうる変化として以下5つを紹介していました。2018年は2017年よりも動きや変化の多い年になるとのことですので、今後の動向に目が離せません。

1. オーディエンスベースで購入可能な広告枠の増加
2. データセグメント名とその分類の標準化
3. クロスプラットフォーム/デバイスで購入可能な広告在庫の増加
4. MVPD(Multi-channel Video Program Distributor:複数チャネルビデオ番組配信業者)によるアトリビューションモデリングのための広告データ開示
5. テレビ業界内の提携による番組や広告識別子の標準化

5年、10年先の世界へ

ここまで、「透明性」「AI」「プログラマティックTV」について、参加したセッションの内容をご紹介してきました。マーケティング先進国のアメリカで起こっている変化を関係者の口から直接聞くことができたことはもちろん、プログラマティック広告の未来がぼんやりと見えた気がしたのも事実です。

「透明性」に関しては、バイサイド/セルサイドの双方で取り組みが進んでいくでしょう。バイサイドは広告の「配信量」よりも配信先の「質」に比重を置き、セルサイドはPMP の在庫を拡充していくだけでなく、自社メディアの質を損なわないようads.txt といったソリューションの導入を進めていくかと思います。バイサイドとセルサイドをつなぐDSP/SSP ベンダーはこの過程で吟味され、「質」を担保できないベンダーは淘汰されていくことが予想されます。

「AI」を導入するうえでカギとなるのは「データ」です。一定量かつ期待するアウトプットに応じたデータをインプットできるかどうかでAI を有効活用できるかできないかがはっきり分かれるかと思います。オンラインでのコンバージョンデータはもちろんですが、これに加えて広告主は自社のCRM データをインプットできる環境づくりが不可欠でしょう。

また、AI はデータマイニングにおいて人に取って代わる存在になりうる(Havas Media ではすでになりつつあるとCatherine 氏は言っていましたが)かもしれませんが、3年後から10年後の適切なブランドメッセージ等、想像力を必要とする仕事は人の方が上手だといいます。Albert のOr 氏が「Visionary(想像力のある)」という単語を繰り返し強調していたことがとても印象に残っています。

「プログラマティックTV」に関しては、トラディショナルなテレビ業界含めた大きなうねりがまさに起こっている状況だと感じました。動画視聴するデバイスやプラットフォームの多様化により、オーディエンスベースでのターゲティングは必要不可欠となり、それを実現するための仕組みが整えられています。CIMM のJane 氏によれば、以下の通り2021年にはAddressable TV (世帯レベルでターゲティング可能なテレビ)を保有する世帯が7400万世帯に達する見込みとのことですので、このタイミングでブレイクスルーが起こるかもしれません。

「State Of Cross-Media Measurement And Programmatic TV」の資料より引用。Jane 氏より本資料の引用について承諾を頂いております。(We have permission to quote from Jane Clarke.)
2017年も残すところあと僅かとなりました。2018年もさまざまな変化が起こりそうですが、もっと先の5年後から10年後のエコシステムがどのようになっていて、私たちの仕事はどのような位置づけになっているのかを想像しながら、2018年を迎えたいものです!

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