モバイルアプリのパフォーマンスマーケティングプラットフォームを展開する米国Liftoff社が日本に本格進出。LiftoffのCEO、APAC統括、そして新しい日本のカントリーマネージャーに、お話を伺いました。
話し手:
Liftoff Mobile
CEO マーク・エリスさん
APAC統括 マーク・ヘイルさん
Country Manager,Japan 天野耕太さん
聞き手: アタラ合同会社 杉原 剛
※このインタビューは2017年9月29日に行われました。
モバイルユーザーの深い理解と、そのデータを活かしたサービス
杉原:まず、皆さんの自己紹介をお願いします。
マーク・エリス(以下エリス):Liftoffの創業者でもありCEOのマーク・エリスです。当社は6年目の会社になります。米国パロアルト市に本社を構えています。ニューヨーク、シンガポールに次いで日本オフィスを立ち上げました。社員は95名になります。
マーク・ヘイル(以下ヘイル):APAC統括のマーク・ヘイルです。Liftoffには1年間在籍しています。
天野:7月に日本のカントリーマネージャーに就任した天野耕太です。アメリカでの研修を経て8月より始動準備を始めました。現在オフィスには私以外に営業担当とアカウントマネージャーの2名が在籍しています。サービスは基本的にフルマネージドで我々が運用することになるので、アカウントマネージメントは非常に重要です。ようやく3名体制が整い、ローンチパーティを実施、彼らが来日し、改めて本格始動を迎えました。
杉原:Liftoff社について、サービスについて、教えていただけますか?
エリス:Liftoffは、モバイルアプリ向けのパフォーマンスマーケティングプラットフォームです。モバイルマーケティングを実施する企業が、もっともエンゲージメントの高いユーザーによってユーザーを増やすお手伝いをしています。1つ目は新規アプリユーザー獲得広告。2つ目はリエンゲージメント広告、つまり既存ユーザーのうち、アクティブでないような層に対応したものを提供しています。
さらに、これを実施するにあたって、3点の差別化ポイントがあります。1点目は、モバイルユーザーに関しての深い理解です。当社は現時点で20億のユーザープロフィールを保有しています。
当社は創業時からモバイル、中でもアプリ分野に完全に特化してきたので、モバイルユーザーに関しては非常に深く理解していると考えています。データだけではなく、どの属性パターンが特定のキャンペーンで高い効果を生むなどのニュアンスを理解しています。例えばECで言うと、アマゾンと楽天は似ているかもしれませんが、何をもってエンゲージメントするかは両者では異なるはずです。そのニュアンスを迅速に理解できるのが特長の一つです。
2点目は、そのデータインサイトを機械学習と予測インテリジェンスにかけている点です。これによって企業は単なるインストールにお金を払うわけでなく、エンゲージするユーザーにお金を払うことを可能にしています。
3点目が、これらのデータをターゲティングのみに使うのではなく、ダイナミックな広告クリエイティブ技術を使ってパーソナイズされたメッセージングを行える点です。広告を見せる人が特定できた直後に、ダイナミックに広告が生成されるので、受け入れられやすいモバイル体験を提供することができます。
満を持しての日本進出
杉原:ありがとうございます。Liftoffのビジネス状況はいかがですか?
エリス:とても順調です。2012年設立ですが、ここ2年間は黒字転換しています。米国でプライベートカンパニーやスタートアップ企業を取り上げるIncという雑誌があり、毎年最も成長が速い5000社を選出するのですが、広告・マーケティング分野で当社がNo.1、全体でもNo.8に選ばれました。成長に関しては喜ばしいですが、これに甘んじることなく、さらにグローバル市場で貢献していこうと考えています。
杉原:なるほど。なぜこのタイミングで日本市場進出か、教えていただけますか?
エリス:当社は非常にデータドリブンな会社です。意思決定はデータをもとに行う文化です。性急すぎる拡大は避けたかったのはありますが、モバイルの利用度合いや広告市場の規模からしても、日本は世界でもトップ3。言うまでもなく、とても重要な市場であることは常々理解していましたので、「進出すべきか」という問題ではなく、「いつ進出するか」でした。
ヘイル:1年前にLiftoffにジョインして、日本は進出したい重要市場だと考えていました。ですが、他の市場と比べて異なる点などを考慮して、スピーディに、というよりも正しくやりたいという気持ちが強かったのです。それもあり、広告代理店パートナー、広告主、エコシステムにいる他のプレーヤーと、かなり会話をしました。実際に日本に進出した折には、戦略的に練られた動きであるよう、彼らからアドバイスやインサイトを数多く入手しました。
杉原:お話しいただける顧客導入事例はありますか?
エリス:もちろんです。アマゾンショッピングは当社のユーザー様で、数年お仕事をさせていただいています。先進的なユーザー様ですし、自社のデータについては当然よく理解しておられます。ショッピングで開始しましたが、その後KindleやAudibleでも開始しました。他のプロダクトも視野に入れています。当社にとっても、とてもよい導入事例です。1つで始まったプロダクトが4つほど広がり、ほとんどの国をカバーしています。
杉原:フォーカスしている業種はありますか?
エリス:はい、当初からゲーム以外の業種にフォーカスすることを考えていました。ゲーム業界に取り組まないわけでは決してありませんが、Eコマース、旅行、レジャー、ソーシャル、出会い、金融、コンテンツなど、ゲーム以外の業種に大きな機会があると考えました。理由としては、まず第一に、どの業種も大きく成長しています。それぞれの業種のパフォーマンスマーケティング担当者は、当社が提供できる最適化サービスに対しての理解が高く、その結果をもたらすために必要なデータを当社に共有することに関してもオープンです。
杉原:日本での戦略についてお聞かせいただけますか?
天野:なぜ今日本に参入するのか、という問いは、なぜ私自身がLiftoff Mobileに入社を決めたのかとシンクロする部分がありますので、それも交えてお話します。
理由の一つ目は、フォーカスエリアがゲーム以外であるという所です。どうしても今までアプリの市場自体が、ゲームが占めるが大きかっただけに、リテールや旅行などのごく一般的な事業者がアプリのマーケティングを行う時に、事業者が本来持っているKPIにもう少し近い所でお助けできるソリューションというのは参入意義があるのではないかと思いました。入社前のディスカッションでそういった戦略や会社立ち上げのコンセプトを聞き、自分のキャリアの中でおつきあいいただいたお客様であっても、アプリの領域でやっていけるのではないか、つまりとても参入意義があると思いました。
我々にはインストールの新規ユーザー獲得とリエンゲージメントの2つの強みがありますが、特にアプリのマーケティングにおいて市場として大きいのはまだまだインストール、新規ユーザー獲得部分です。新規ユーザー獲得にはわかりやすくインストールがありますが、本来KPIはその先の実際のコンバージョンイベントであって、そこでチャージするというのがすごく受け入れやすく、皆さんがチャレンジしやすい。
そしてアプリはまだまだ伸びていきます。日本ではモバイルWEBも発展しているという背景からアプリかウェブか、という議論が良くありますが、どんな企業もアプリを無視する事は出来ないと思います。今までにやってきた方はもっとチャレンジを、新たにやる方もチャレンジをしなければいけない時に、事業者が持っているKPIに近い所でアプリの新規ユーザー獲得ができるというのは、かなりの強みになるのではないかと思います。
ですので、彼らが今までアメリカやヨーロッパ、アジアの他地域で実績を持っていることが、そのまま日本のお客様のニーズにあてはまるかを探るのが、我々の日本でのファーストステップです。日本の皆さんの課題を聞きながら我々のソリューションを紹介する所までは、一定の実績が出せるのではないかと考えています。
フルマネージドサービスと広告代理店との関係
杉原:フルマネージドサービスの形でサービス提供するとのことですが、全世界的にそのような形態なのでしょうか?
エリス:はい、全世界的にフルマネージドサービスを展開しています。
杉原:その中で、広告代理店とも協業されているのでしょうか?
エリス:その通りです。他の国でもそうですが、日本でも広告代理店とのパートナーシップは非常に重要で、すでに数社、パートナーシップを結んでいる会社があります。Liftoffの特徴の一つとして、さまざまな文化の、数多くの国の大企業で働いた経験のある人たちの集団なので、戦略が一つでも、国によってカスタマイズしていく必要があることも理解しています。ですので、日本においては広告代理店との協業は戦略の大きな部分を占めています。
杉原:広告代理店が絡む場合でも、フルマネージドサービスなのですね。
エリス:他の国の例ですが、広告代理店を通じての顧客案件でも、Liftoffが顧客である事業主とリレーションシップを構築するのは広告代理店にもメリットがあると考えるようです。ですので、Liftoffのプラットフォームをホワイトレーベルで広告代理店に提供して、広告代理店が完全な窓口になるというわけではなく、3者間におけるパートナーシップという感じになっています。
天野:日本は広告代理店さんとのビジネスをとても重要視します。その点については入社前からディスカッションがあり、私もそれをやるために入社を決めた部分があります。
ただ、我々のサービスはフルマネージドなので、どこに広告代理店さんのポジショニングがあるかという話に当然なってくると思うのですが、そこは例えばダイナミッククリエイティブでクリエイティブも作る、機械学習もやっていきますという所で、それぞれ単体でサービスに違いを出すのは難しい所だと思いますが、最終的には広告主がインハウスか広告代理店かを決めることです。我々が目的のコンバージョンイベントに対してCPAでチャージするためには、計測パートナーからたくさんのアプリの中のイベントをポストバックでデータとして我々にいただかなくてはいけない。それがどういうイベントであるとか、必要あるか、KPIはどうあるべきか、単純にCPAが安ければいいかというとそれは結果的にボリュームに繋がらなかったり、CPAだけでなくインターナルにはその先にROASの色々あったりなど実にさまざまなデータです。我々はそれらをすべて伺ったうえで、きちんとそれに合った設計をして、はじめてCPAのチャージ、ひいては末永いお取引に繋がっていくと思います。
例えばフェイスブックやグーグル、ヤフーを含め、そういったことを広告代理店が広告主ときちんとご相談されているケースはたくさんあって、そうした場合はやはり、広告代理店とお付き合いすることで我々が求めている情報、我々が努力できるスターティングポイントに繋がります。ですので、広告代理店とのパートナーシップがとても大事になってくると思います。
オープンな企業カルチャー
杉原:そういった、さまざまな戦略を実行する日本のチームの代表として天野さんを見つけたわけですね。
エリス:ある程度立ち上がっている組織に加わり、比較的要望レベルの高いユーザーが多い日本のような国で、チームをリードする必要があります。ビジネス機会が多いと思いますが、同時に期待値も高いわけです。コウタは、これまでのオーバーチュアやCriteoでの確かな実績もありますし、個人でも力を発揮してきましたし、マネージャーとしても活躍してきました。ですので、コウタが我々のチームに加わって、とてもエキサイトしています。
ヘイル:コウタは魅力的な人材を引きつける力を持っている人だと思います。数多くにディスカッションを経て、我々のチームに加わる決断をしたときにすでに彼は、世界クラスのチームをどう作るかを考えていました。彼ほどの経験を持つ彼が作り上げつつあるチームを見るのはとてもエキサイティングですし、コウタにもチームにも日本市場にも高い期待値を持っています。まだ小さなチームですが、これまでの成果には満足していますし、これからが楽しみです。
杉原:バイサイドとセルサイドの両方の経験がある人は希少ですよね。
エリス:ファッションセンスもね(笑)
杉原:確かに(笑)!Liftoffの社内カルチャーも特徴の一つと聞いています。
エリス:当社では各部門でベストと思われるメンバーを集めています。会社からメンバー一人一人へのコミットメントの証しとして、一つ目に、透明性を持つことが挙げられます。どのような意思決定をしたか、どのようなプロダクトを作っていくか、など、毎月あるいは四半期ベースで会社の健康状態がどうかをメンバーが把握できます。透明性は会社の文化の大きな部分を占めています。
二つ目にに、とてもデータドリブンであること。どのようにプロダクトを作るかも、意思決定をするかもデータドリブンです。よりよくデータを理解することで、よりよい意思決定ができると信じています。
三つ目に、謙虚であること。他社でもよく語られることですが、実践できているかというとそうでもないと思います。これについて、当社は成功してきましたし、これからもよい結果をもたらすものと思っています。例えば日本市場に参入する際にも、よりよいサービスを提供するためにも、市場の声に耳を傾けました。アイデアはもちろんありますが、一方的に提供するのではなく、我々の周辺にいる皆さんからよい影響を受けたいと思っています。
四つ目に、変化に対して勇気を持つこと。いつ何時でもベストな判断を下したいと思いますが、メンバーが増えるにつれ、「今までよりももっと違う方法があるよ」と言えるように奨励しています。
他にもいくつかあるのですが、このような会社の価値観が会社のカルチャーを作り上げています。どのメンバーもそれぞれ多様な文化を代表していますが、共有できるミッションもある、という感じです。みんな戻ってくることができる我が家のような感覚を持っています。
天野:(従業員意識調査などを行う機関である)Great Place to Work、Glassdoorなどでのスコアがとても高く、入社前から良いカルチャーを持っているのだろうなと思っていました。実際本社行ってみたらとてもフレンドリーで、お客様に対しても皆ピュアで真摯に向き合っていました。社員同士の仲も良く、まさに目から鱗というくらいに良いカルチャーだと感じました。日本では現在僕を含め3名が在籍していますが、チームとして同じカルチャーを東京でも作っていきたいですね。
杉原:今後の日本における展開予定を教えてください。
天野:今年はまだ予定していませんが、グローバルでは積極的にマーケティングを行っているので、来年は日本でもマーケティングに力を入れていきたいです。今はまだきちんとお客様の声に耳を傾けて課題を知ることが先です。また日本はケーススタディを重視する傾向にあるので、風呂敷を広げる前にしっかりとケースを作る、地に足を着けることが先決だと考えています。小さなスピーキングの機会は少しずつ設けたいと思っています。
さらに、日本のコミットメント、オフィスを作るうえで、日本のインベントリとの接続や、日本のパートナーさんとの連携を重要視しており、日本のSSPとの接続も積極的にやっていこうと考えています。その一つ目が先日発表した、Supershipさんの提供するSSP、Ad Generationとの接続です。
繰り返しになりますが、まずは皆さんのニーズをきちんと聞くこと、そして日本にコミットメントするためにどういう方々とパートナーシップを組ませて頂くかを地道に模索するフェースにしたいなと思っています。
杉原:アプリ市場は活況ですが、リエンゲージメントを含めたパフォーマンスマーケティングはまだまだこれからが本番だと思います。日本での展開を楽しみにしています。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました!