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マーケターがAI を当たり前のように使いこなす時代に
2017年5月に行われた Google Marketing Next 2017 において、Google の広告製品を統括する Sridhar Ramaswamy 氏は、Google の広告製品を機械学習の力を最大限に活用して強化していくことを発表しました。
このGoogle の機械学習への力の入れ具合からもわかるとおり、運用型広告の世界では、マーケターや広告運用者があたりまえのようにAIを活用してマーケティングを行う世界がすぐそこまで来ているように思います。
近い将来確実に訪れるであろうAI を活用したマーケティングについて、AI の技術を応用したマーケティングソリューションをご提供されている、Appier Japan (エイピアジャパン)株式会社で、エンタープライズ製品の日本責任者をご担当されている松崎亮さんにお話を伺いました。
AI によって オーディエンス予測分析を可能にする データインテリジェンスプラットフォーム「Aixon(アイソン)」を中心に、これからのマーケティングについて伺ってきましたので、ぜひご一読いただければ幸いです。
話し手:
Appier Japan 株式会社
エンタープライズソリューションセールスディレクター 松崎 亮さん
聞き手: アタラ合同会社 杓谷 匠
※このインタビューは2017年7月に行われました。
杓谷:松崎さんのこれまでのご経歴を教えてください。
松崎:現在はAppier のエンタープライズ製品の日本マーケットの責任者を務めております。
2017年の2月に Appier に参画するまでは Google に5年間おり、その内3年間は DoubleClick というデジタルマーケティングソリューションを広告代理店様や広告主様に提供していました。その前の2年間は AdWords の中小企業様向けの営業部隊に所属し、立ち上げから参画していました。Google の前は総合代理店に営業担当として在籍していました。
杓谷:これまで一貫して広告業界でキャリアを積まれ、Google でも検索連動型広告、ディスプレイ広告、DoubleClick など様々なプロダクトに携わってきたかと思いますが、Appier に移られる決め手は何だったのでしょうか?
松崎:決め手は2つありました。1つめは弊社のエンタープライズ製品を責任者として日本で立ち上げる、というゼロから何かを作りあげられる機会で自身を成長させたかったこと。2つめは、デジタルマーケティングでは、ビッグデータが集まって可視可されるところまでは非常に進んでいると思うのですが、それをもってどうするのか?に関しては多くのクライアント様や自分自身も課題に感じていた部分があり、それをAppierのソリューションで解決できるかも知れないと思ったからです。
AI研究のドクタークラスが創業者として設立
杓谷:Appier がどういった会社なのかを教えてください。
松崎:Appier は、2012年に台湾で設立された、人工知能のテクノロジーを開発・提供する会社です。日本では2014年からサービスを開始しており、人工知能のテクノロジーをマーケティングの分野で展開しています。創業者のチハン・ユーは米ハーバード大学の AI の博士号を持っているその分野の先駆者であり、Googleの自動運転技術プロジェクトの前進となる研究チームに在籍していた人物です。彼以外にもAI技術に詳しい人間が創業者チームにいます。
杓谷:これまでは具体的にどのようなサービスを展開されていたのですか?
松崎:人工知能の技術を活かしてマーケティング、特に弊社では「クロスX(エックス)プラットフォーム」と呼んでいる、人工知能の技術を最大限に活用してデバイスやブラウザなどの環境を横断してユニークユーザーを特定し、マーケティングに活かしていくサービスを展開していました。その「クロスX」を基に広告のバイイングテクノロジーを作り、アジア12ヶ国で広告のソリューションとして展開してきました。
アジアで20億デバイス、7億人のユニークユーザーデータを保有
杓谷:AI の技術がコアにあり、それを広告配信ソリューションとして提供してきた、ということですね。
松崎:デバイス、ブラウザ、地域、時間帯など様々な精度、粒度で得られるユーザーデータを人工知能に学習させて、ユニークユーザーの特定まで実現できることを強みにしています。精度で言うと、集めたデータのうち8~9割強をユニークユーザーとして推定できるようになっており、集めたオーディエンスデータのボリュームはアジアで20億デバイス、ユニークユーザーで言うと7億人まできています。
ボリュームは今も増え続けていますが、人工知能を活用して作成したデータベースをもとに、デジタル広告のソリューションを展開をしてきたということになります。
ユニークユーザーを判別する3つのキーポイント
杓谷:ユニークユーザーレベルでデータをお持ちということですが、具体的には cookie 、デバイスID、ブラウザのデータなどを全部を横串で紐づけていらしゃるということですね?一般的にユニークユーザーを特定する方法としてログインID などがあると思いますが、具体的にはどんな技術を活用してユニークユーザーを判別しているのか教えていただけますか?
松崎:クロスデバイスの判別にはログイン情報やメールアドレスなどからとる特定型のものか、様々な情報をもとに機会学習によってとる類推型があり、弊社はその両者を活用しています。前者はデータプロバイダーやパブリシャーのパートナー様などからデータを一部提供頂いています。ログインIDに近しいものをご提供いただいているので、違ったデバイスから来ても同一のログインID であればユニークユーザーとして判別することができます。
類推型に関しては、インターネット上でも様々な cookie や ID の情報が飛び交っていますが、そのままではユニークユーザーとして判別できないデータ群を、取得できるあらゆるシグナルを活用して機械学習の技術によって判別しています。機械学習に学ばせてユニークユーザーとして判別する技術をAppier は保有しています。
例えば、広告の配信を通じて、あるパソコンから毎日特定の時間に来る cookie のデータがあったとします。また、ある別のスマートフォンからの cookie が夕方にいつもある特定のパターンで動いているとします。それらが例えばIPアドレスや地域、どういったサイトを閲覧しているか、もしくは同じサービスを利用しているか、など、取得できるあらゆるシグナルを機械学習が常に学んでいった時に、朝に来るパソコンの cookie と夕方にモバイルから来る cookie は同じ人なんじゃないか、という類推をベースにした判断が可能になります。地域によって異なりますが、その精度は前述の通り8割~9割強と非常に高いです。
判断をした時にデータベースに組み込まれて、先程の20億デバイスや7億人のユニークユーザーとしてカウントされるのですが、我々が強いのは、その技術を弊社の創業者達を中心とした AI のスペシャリストチームが常に最適なものに保ち続けていることにあります。ボリュームは類推型のものが多いですが、特定型のデータを教師データとして使うことでも高い精度を実現しています。
杓谷:ログインID が紐付いているデータであれば判別は容易ですが、そうではないデータには取得できるあらゆるシグナルを利用して精度を高く推定できる、ということですね。そして、このデータの保有量が Appier さんがアジアで No.1 ということですね?
松崎:そうですね。我々の認識している範囲ではアジアにおいて弊社以上の精度、ボリュームで保有している会社はないと思います。Google や Facebook などのビッグプラットフォームはログイン情報は相当なボリュームがあるので非常に強いですし、かなりマーケターの方も恩恵を受けているのかなと思うのですが、それでも限定的になります。それ以外のプラットフォームで機械学習を最大限に活用して高い精度を持ったユーザーデータを提供できている所は見当たらないので、そこが我々の会社が評価されている所以ではないかと思います。
アジアに特化し、世界でも高く評価されているAppier
杓谷:アジアに特化しているということには何か理由がありますか?
松崎:アメリカでは様々なスタートアップがあり、AI の技術者もたくさんいるので、同じ土俵で戦ってしまうと One of them になってしまうのですが、創業者が台湾出身ということもあり、アジアでは非常に強みを発揮できるということがありました。アジアにもAIの技術者がたくさんいるということが、創業者らのネットワークの中でわかりましたので、それならば自分が生まれ育った台湾に一度戻ってきて、自分たちが一緒に勉強してきたAI のスペシャリストの人たちと一緒になってはじめようと考えたことが最大の理由です。
アジアは国によって地域や言語、考え方などの違いに多様性があります。この多様性に耐えうる結果が出せれば、他の地域でも勝つことができるだろうという考え方で始めました。まずはアジアで一番になって、それからグローバルに展開していこうというのが弊社のビジョンです。
杓谷:Appier は米雑誌のフォーチュンでも注目されている企業として取り上げられているとお聞きしていますが、どういったところが評価されているのでしょうか?
松崎:米フォーチュン社は今年の2月に「AI革命をリードする50社」を発表しましたがその中の1社に選ばれました。アジアからは4社かつ3社は中国本土、それ以外では台湾のAppierのみというところに我々も評価いただけていると感じています。
その他にもアメリカのメディアの CB Insights や VentureBeat, Media Post からも AI による革命の旗手という位置づけで評価をいただいております。
併せて、我々は設立して5年ですが、まだまだスタートアップの段階にあると認識しています。その中で、現状はシリーズBというステージに来ていて、現在約55億円の調達資金を集めています。
松崎:セコイアキャピタル様やJAFCO Asia様などマーケットを代表するベンチャーキャピタルの方々とパートナーを組むことで、資金だけでなく様々な形でご支援をいただけるような布陣を組んでいます。そうそうたる顔ぶれのベンチャーキャピタルの方々にご出資いただいておりますが、アジアファーストという戦略、確たる技術、そして我々のビジョンに共鳴いただいた所が3度に渡る資金調達の実現につながっているのだと思います。
また、デジタルの領域でアジアから世界に行くという流れは極めて少なく、多くはアメリカ・ヨーロッパ発のものがアジアに展開してきているというのが現状かと思います。
その中で良し悪しはあると思いますが、アジアとひとくくりに言いますがその中でも地域ごとにユニークさがあり、各国によってマーケティングのやり方違います。そういった状況の中で、我々はアジアがファーストだという戦略を持っていることがひとつの強みになると思っています。我々はアジアをまたぐ企業としてそれぞれの地域についての違いが分かっているので、そこをもとにして、ひょっとしたらその後にアメリカやヨーロッパに、アジアの強みを発揮しながら展開することもあり得るかと思います。
杓谷:なるほど。世界からも注目されるアジアの企業であることがよくわかりますね。これまでの日本の状況を教えてください。
松崎:おかげさまで、2014年の東京オフィスの開設以来、順調にビジネスが伸びております。日本は最大の重要マーケットと位置づけており、2017年7月には大阪にもオフィスを開設しました。
AI を活用したオーディエンス予測分析プラットフォーム「Aixon(アイソン)」
杓谷:AI で圧倒的な技術力を持つ Appier で、松崎さんは「Aixon」というプロダクトをご担当されているとお伺いしていますが、「Aixon」がどういったプロダクトなのかを教えてください。
松崎:「Aixon」は人工知能を搭載したデータインテリジェンスプラットフォームです。人工知能を活用することで、データサイエンティストなどの専門家を動員することなく新規顧客の開拓やリーチの拡大、顧客の行動に関する深い理解を可能にしてくれるのが強みです。
松崎:「Aixon」は、先ほど申し上げた「クロスX」というこれまでAppier が培ってきた高性能の人工知能と高精度のアルゴリズムを組み合わせることによって開発したツールです。
「Aixon」では、データの収集から予測、活用までをAIが自動的に一気通貫で行うことができます。それに関わる業務や人、開発のコストを最小化することができるデザインになっていて、かつ高性能のAIの予測インサイトをもとにマーケティングの ROI を最大化できます。
「Aixon」が他のツールと一線を画す点は、まだ起きていない未知の部分を予測できることが挙げられます。いわゆる今日のデータ分析は過去で起きたものをなるべく整理して、ビジュアライズしていくことだと思いますが、「Aixon」ではそれらに加えて、蓄積したデータをもとにまだ起きていない予測データを抽出できることが、他と一線を画す点だと思います。
杓谷:分析と予測の両方ができるという所が強みということですね。
松崎:おっしゃる通りです。予測部分というのはデータサイエンティストやデータ分析担当の方々がかなり時間をかけて、労力をかけて行っていることがほとんどだと思います。「Aixon」があれば、簡単にスピーディに機械学習を使った分析、予測が可能になります。
杓谷:デジタルマーケティングの世界で言うと、DMP がCRM 情報を cookie に紐づけて広告配信に活用していますが、広告主が個別にDMP を作ろうするとかなりの予算が必要となり、なかなか実現に踏み切れない広告主も多いのではないかと思います。「クロスX」がすでに世の中の cookie をユニークユーザーレベルに分類しているので、広告主の持つCRM データと「クロスX」のデータを突合させることで、ユーザーレベルでの分析が可能となる、ということですね?
松崎:そうですね。例えばDMPや分析ツールというものは、今も重要なツールであると思います。「Aixon」はそれらをリプレイスするものではなくて、一緒に使うことによってさらに精度の高い予測分析、意思決定を実現できると考えています。
例えば、DMP単体だけだと多くの場合、ファーストパーティデータを格納して、そこで何か新しいオーディエンスを組み合わせたりといったことができると思います。ただ、それを自由にエクスポートしたり、それ以外のデータと紐づけて計算をさせるといったことができなかったり、使い方に限定的な所があるかと思います。
分析の部分に関して言いますと、過去のデータに関してはデータを可視化するところまで持っていけると思うのですが、過去のデータを基に未来のデータを予測する、といった所でも同じく限定的になるのではないかと思います。
「Aixon」の場合、それらの過去のデータに基いて分析やエクスポートをすることができるので、現在使われている過去のデータを格納しているツールと組わせることで未来の予測データを抽出することができます。
「Aixon」の3つの強み
杓谷:「Aixon」の強みを教えてください。
松崎:「Aixon」の強みは3点あります。まず1点目は、異なる種類やフォーマットのデータを簡単に入力することができて、Appierのデータベースと自動連係できることです。2点目は、日々更新される人工知能による予測分析ができること。3点目は利用者のCRMシステムなどでオープンにエクスポートできることです。これらを自動で一気通貫に行うことで、コストが様々な面で最小化されます。これは、データ分析と予測に関わる業務自体を最小限にしたいという我々の思いがあったからこそ実現できたことではないかと思います。
杓谷:データを分析できる形に加工していくところはどなたも困っている所だと思うのですが、ここが自動で行われていくという点はかなりの強みですね。
松崎:はい。データクリーンアップから機会学習による継続的な計算までをしてくれるのが 「Aixon」の非常に強い所です。広告主様の中にはデータの整備自体をまだやっている所で、データ整備の一番大変な所がクレンジングだとおっしゃっているところも多いです。膨大なデータの中から判別してきちんと整備し直すことに非常に苦労されていたので、そういったものが自動的に抽出できるというのは強いと思います。
「Aixon」の管理画面
杓谷:実際の管理画面を見せていただけますか?
松崎:まずは「Aixon」のホームスクリーンを見てください。
ここではインプットしたWebサイトのデータやアプリのデータ、広告キャンペーンの配信データといった具合に、別々のデータが格納されている画面になっています。強みで申し上げた、複数の種類のデータを一元化できることの理由がここで、Webサイトやアプリのデータ、さらにはCRMのオフラインデータ、広告サイトのキャンペーンデータも、すべてこちらに一元で格納することができ、格納したデータをベースにクロス分析することも、ユニークユーザーを特定することもできます。
杓谷:例えば「Webサイトのデータ」にはどのようなものが入るイメージですか?
松崎:基本的にはお客様のサイトからトラッキングなどを通じて得るデータになります。これらは粒度を深くいただくこともできるので、実際どういうページまで至ったかなどの動きまでを記録して管理することも可能で、そういったデータを格納することができます。
杓谷:Googleアナリティクスや Adobe アナリティクスなどと直接繋ぐことができたりするのでしょうか?
松崎:基本的にはタグの設置をお願いすることになります。タグマネージャーを利用することができるので、そんなに手がかからずタグの設置ができるのかなと思います。
杓谷:この管理画面でいう「広告キャンペーン」というのは、AdWords や Facebook で配信したデータのことを指しますか?
松崎:そうですね。基本的にどんな広告プラットフォームでも、「Aixon」のトラッキングURLを設定することでインプレッションやクリックなどの広告配信データを「Aixon」に送ることが可能になります。アプリの場合はSDKになります。サードパーティのSDK、トラッキングツールといったものは基本的にはすべて連携していますので、どのツールでも比較的簡単にデータをインポートする設定ができます。
9つの分析テンプレート
杓谷:「Aixon」ではアップロードしたデータを、どのように使うのでしょうか?
松崎:現在、コンバージョンをするユーザーの予測や、離脱をするユーザーの予測など、9つの分析のテンプレートをご用意させていただいております。
具体的な例を申し上げると、あるサービスからの離脱ユーザーの予測を選択し、アップロードしたデータセットをドラッグ&ドロップして簡単に分析を実施することができます。
あるデータセットを機械学習のメインの種のデータにするとします。その種のデータをもとに、違ったデータセットのオーディエンスから離脱をするんじゃないかというオーディエンスをフラグ立てするといったことも可能になります。分析結果は数分ほどで表示されます。
杓谷:このスライドでは、アプリのデータで離脱するしそうなユーザーを抽出するといった設定をされていますが、それが次の図の画面で表示されるということですね。
松崎:そうですね。この結果でいうと、アプリの全体のオーディエンスが100 あった場合に、その中のすべてがどれくらいの予測値で離脱してしまうのか、といったことを分析したものです。それらが全部オーディエンスのボリュームサイズと離脱する予測率という2つの軸でグラフ化されます。
杓谷:この画面の左上にある「予測精度」はどういった数値でしょうか?
松崎:実際の予測の精度を様々な要素からスコアリングして、予測スコアとして表示しています。具体的には、機械学習をするための要素(リッチネス)、ボリューム、リーセンシー、の3つの観点から総合的にスコアリングをしています。
実際に分析にかけた結果の判断を手助けします。だいたい60~70点くらいを合格基準を満たしたスコアとして我々も推奨しています。この予測精度の数値によって、実際にこの分析結果がマーケティングに使えるのかどうかの判断をすることができます。
杓谷:分析にかけるのに最低どのくらいのデータボリュームが必要なのでしょうか?基準などはありますか?
松崎:明確に基準はなく、どれだけ小さくても大きくても基本的に分析自体は可能です。しかしながら、予測精度スコアに関しては明確にデータのボリュームも非常に大きなファクトなので、例えば結果が10万以下のものだったりすると、比較的低い予測精度スコアになる傾向があります。したがいまして計算する以上はある一定のボリュームが必要になってくると思いますので、分析に必要なデータボリュームが足りているか否かを判断する一つの指標としても、予測精度スコアをご利用いただければと思います。
今はデータのボリュームと予測の精度をグラフと各数字で見ていただきましたが、それ以外の数値では、分析結果と一緒に付帯情報というもの表示されます。
例えば性別や年齢といったデモグラフィック、デバイスの所有状況、どういったカテゴリのサイトを見ているのかや、サイトのコンテンツを表すキーワードを表示していたり、予測した理由をランキング別で表示することができます。これにより、分析の結果をマーケティング活動に利用する際のヒントとして活用できると思います。
例えば、クロスデバイスを有しているユーザーが多いのであれば、クロスデバイスターゲティングがやりやすいプラットフォームで広告を配信する方法が相性がいいでしょうし、どういったカテゴリのサイトを見ている人が多いかがわかれば、広告配信のターゲティングでそれを活かすこともできると思います。
また、予測インサイトはサイトやアプリの動きを中心に表示されているのですが、機械学習がどこを見ていたのかということが表示されますので、マーケティング分析をされる方は常にここを眺めて、何がユーザーに支持されているのかいないか、といったことを判断する重要な要素となるかと思います。
杓谷:例えば、普段とは違う媒体やターゲティングに広告を配信した場合、この分析結果に出てくるデータががらっと変わってくるわけですよね。それを見ながら、キャンペーンが成功したかしてないかを判断することもできる、ということですね。
松崎:はい。人間による変数はボリューム的に限界があったり、パターン化してしまったりして、実はそんなにロジックがない中で判断することが多いと思うのですが、機械学習をすることによって、新たな発見があったりします。すると、自分たちが考えていた仮説を修正して新しい仮説を立てるなどに活用できると思います。
杓谷:面白いですね。マーケターは、昔だったらペルソナを考えてそれをもとにターゲティングしていくという手法もあったかと思いますが、今はデータの量が膨大すぎて人の力では予測することができない。それを機械学習がアシストして、膨大なデータからユーザー像を浮かび上がらせることができるようになるということですね。
松崎:ここは我々も重視している所です。機械学習というのは人工知能によるものなので、人間には理解できない所までも計算してくれます。逆に人間が理解できない所まで組み入れるので、人間では説明できない領域も出てきます。
一方で、人間のマーケターが重要視しているポイントや変数は機械学習も重要視する傾向があります。その部分はバランスを取って、どういった所は機械学習が注視したのかといった情報を開示する部分と、機械に任せて自動化する部分のバランスが必要だと思っていて、理由を可視化することでマーケターにインサイトのアドバイスを間接的に提供することが重要なことだと思います。
こんなにデータを見られるようになったけれど、複雑すぎて何をしたらいいのか、が多くの企業の課題だと思います。だからこそ、そこの部分を埋めることができれば、非常に強いのではないかと思います。今後我々はここをパワーアップさせていく予定です。
例えば、分析の結果、離脱予測されたオーディエンスがいるとします。予測分析の理由をもとに、いつどういった商品やメッセージを訴求すると理論上は一番いい結果がでますよ、といったアドバイスができないかと思っています。
多くのマーケターの方は機械学習を導入して、最終的にはフルオートメーション化することが理想かもしれませんが、現実はまだまだそこまで行っていない状況です。機械学習によって得られたインサイトをどのように活かしていくのかは人間の頭が必要です。
分析データを広告配信に活用
杓谷:分析結果に出てきたオーディエンスデータを直接 Google 広告 や Facebook広告 で広告配信ができるという点について教えていただけますか。
松崎:分析結果をどう活用するかについてですが、大きく2つあります。1つ目はデジタルの広告プラットフォームへ同期すること、2つ目は分析結果を出力してCRMシステムに戻すことです。例えば外部広告チャネルに同期する場合は、弊社のDSPサービスから広告配信をすることも可能ですし、現在 DoubleClick プラットフォームとの連携を行っていますので、DBMなど他社のDSP に接続して広告を配信することもできます。
また、DSP を使用しなくても、Google 広告 や Facebook広告 に直接cookie を送ってユーザーリスト、カスタムオーディエンスを作って広告配信をすることができます。
杓谷:DSP経由で配信するイメージはできるのですが、Google 広告 や Facebook広告 に直接オーディエンスデータを送ることができる点を詳しく教えていただけますか?
松崎:AdWords の場合は「Aixon」でセグメントしたオーディエンスデータを、Google 広告にファーストパーティデータとして送ってユーザーリストを作成することができます。
実は2つやり方があって、1つはメールアドレスをキーにしてカスタマーマッチとしてユーザーリストを生成する方法。もう1つは、Google の cookie 情報と、我々が保有する cookie 情報を突合させて、Google 広告 アカウントにユーザーリストを作成することができます。Facebook広告 も同様に cookie を我々のデータと突合させいるので同様の仕組みとなります。
分析結果をエクスポートしてCRMデータに蓄積
杓谷:分析結果をエクスポートしてどのように活用するのか教えてください。
分析結果をエクスポートすると、CSV形式でローデータのようなものをダウンロードすることができます。お客様のユーザーIDを紐づけて分析結果を出力できるので、どのユーザーが離脱するユーザーなのかを特定することができ、Eメールなどを通じて離脱を思いとどまらせるようなメッセージを配信することができます。
また、データはAPIを通じて自動的にインポートとエクスポートできるので、あるCRMシステムに分析結果が常に流し込まれるような設計にして、常に最新のデータに基いてセグメントされたユーザーに、「こういうメッセージを打とう」といったことが設計できるようになります。
メディアのお客様で多い活用方法としては、自社サイト内のバナーをリターゲティング広告として設定しておいて、離脱しそうなユーザーがサイトに来た時に瞬時にそれを判別して、サイト内のバナーの中にクーポンの訴求をするなど、パーソナライズメッセージを実現するツールとしてご活用いただいている事例もあります。
ここもポイントで、DMP はユーザーID をもとにした出力ができないことが多いです。「Aixon 」ではこれを自由に出すことができるところがとてもユニークなポイントだと思います。
杓谷:これは活用のし甲斐がありそうですね。運用者としては分析結果を見るだけでも結構楽しくてずっと見ていてしまいそうです。
松崎:そうですね。外部広告は新規ユーザー獲得の目的が多いかと思うんですが、このCRMデータの分析や出力に関しては、既存ユーザーに対するアップセルやクロスセルへのソリューションに有効にお使い頂けると思います。
杓谷:プラットフォーマー側であればバックエンドでAI を活用していることも多いかと思いますが、 AI をマーケティング領域に特化して活用しているサービスは、一部のマーケティングオートメーションツールを除いてあまりないように思います。これからは広告主が保有するデータにAI をかけ合わせて使いこなしていくことが当たり前になってくるんでしょうね。
松崎:そうですね、我々もよりそれに近い形でブラッシュアップしていきたいと思っていますし、AI は今、第3次ブームの中にいるのですが、マーケティングのエリアでもそのブームの影響で関心が高まっていると感じます。
2015年までは AI は「なかなか良さげだね」と皆さんもなんとなく聞いたことがあったり考えはじめていたのですが、2017年の今は、2020年までに具体的にどういったA!技術を開発や取り入れることで自社の競争力が圧倒的に上がるのか、ということを多くの企業様が検討されていらっしゃいます。
2020年にはきっとそういったAI を活用したツールをマーケティングで使うことが当たり前の状況になると思うんですよね。我々は今まさにそのど真ん中で AI の技術を提供している立ち位置にありますので、先進的なマーケティングに取り組みたいお客様に使っていただきたいなと思っています。
杓谷:最後に、今後のAppier の向かっていく方向性について教えてください。
松崎:我々は 人工知能を使った機械学習の技術力に強みを持っていますので、それを活かしてデータの有効活用をお手伝いできるような存在になっていきたいと考えています。今はマーケティングの領域に特化したサービスを提供していますが、今後は様々なデータを使って企業の意思決定を支援する、高度な分析を提供できるプレイヤーを目指しています。
そして急成長中のAppierの新製品「Aixon(アイソン)」に関わるチームメンバーを絶賛募集しております。ご興味ある方は是非お気軽にご連絡いただければと思います!
杓谷:Appier の核となる強みは機械学習にあって、今はそれを最初の分野としてマーケティングの領域で行っている、ということですね。今後のどんな領域に展開していくのか楽しみです。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました!