運用型広告のアカウント構成は複雑である
毎年、春になるとアカウント構成について説明することが多くなる。何度経験しても、アカウント構成の説明は難しい。基本的なルールに従いながらも、案件の条件を加味しながら考えなければならない。どんな広告主でも通用するアカウント構成は存在しない。
そして何よりもアカウント構成は運用の成果に直結する。アカウント構成の初期設計を間違えると、どんなに優秀な運用者が運用しても効果を出すことは難しい。アカウント構成は運用型広告の中核である。過去に数え切れないアカウント構成を考えてきたが、未だに最適解は出ていない。
そこで今回は、運用型広告で最も複雑な設定が可能な Google 広告の検索連動型広告を題材に、初心に戻って改めてアカウント構成について考えてみようと思う。
アカウント構成の概要
下記の図は、Google 広告ヘルプの「Google 広告の構成について」に掲載されているアカウント構成の概要図である。
※Google 広告ヘルプのGoogle 広告の構成についてより転載
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大きな枠組みの順にアカウント > キャンペーン > 広告グループになる。
Google 広告以外のプラットフォームでも同様の構造な場合が多く、アカウントの基本的な構造として覚えておくとよい。なぜなら、新しいプラットフォームに出会った時、Google 広告と同じことは覚える必要はなく、異なっている部分だけをそのプラットフォームの特徴として記憶すればいいからだ。
現在は、数年前と比較にならないほど複数のプラットフォームを操作しなければならなくなっている。今後も増えていくだろう数多くのプラットフォームについて効率的に覚えるためにも、まずは中心となる一つのプラットフォームを徹底的に覚える方が、経験から言っても最終的に効率が高い。
アカウントとキャンペーンの役割
※Google 広告ヘルプのGoogle 広告の構成についてより転載。赤枠は著者により追加
まず、アカウントの役割は、下記のように説明されている。
1.アカウントには、ログイン メールアドレス、パスワード、お支払い情報が登録されています。
※Google 広告ヘルプのGoogle 広告の構成についてより引用
代理店の運用者の場合は、担当部署などで設定してされている場合が多いので気にしなくても問題ない。一方、広告主企業でインハウス運用を担当されている場合、まれにクレジットカードの期限切れ等で掲載が停止されてしまうといったトラブルが発生する。お支払情報についての対処方法などは把握している方がいい。
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次に、キャンペーンの役割は、下記のように説明されている。
2.各キャンペーンでは、広告予算や広告の掲載先を設定します。
※Google 広告ヘルプのGoogle 広告の構成についてより引用
アカウント構成の視点から考えるとキャンペーンの役割で重要なのは広告予算の設定である。
広告予算は、各キャンペーンに1日の上限予算として設定する。ほとんどの場合は1ヶ月間の広告費が決められているから、キャンペーン数が多くなればなるほど、各キャンペーンに設定できる広告予算の上限額は小さくなる。
このことを考慮せずにアカウント構成を設計を進めていくと、キャンペーンの数が多くなる傾向にある。1ヶ月間の予算規模がかなり大きければ支障はないかもしれないが、予算規模が小さい場合は1ヶ月間の広告費と登録したいキーワードのクリック単価を考慮した設計を心がけたい。
例えば、1ヶ月間(30日間の場合)の広告費が30万円の場合を考えてみる。単純計算になるがアカウント全体で1日の予算は1万円。キャンペーンが5つの構成で、均等に配分すると、各キャンペーンの1日の予算は2,000円になる。各キャンペーンに登録しているキーワードの上限クリック単価を100円とすれば、各キャンペーンの最大20クリックの計算になる。これでは、各キャンペーンの掲載結果が良いか悪いかの判断が出来ない。
上記の例はあくまで理解しやすいように極端な例を挙げた。伝えたいことは、1ヶ月間の広告費と掲載しようと考えているキーワードの平均クリック単価(Googleが提供しているキーワードプランナーで確認が可能)から、最適なキャンペーン数を考えなければならないということである。
過去の経験から、1ヶ月間の広告費が小さなアカウントの方が難易度は高い場合が多い。1ヶ月間の広告費が小さい場合は、無理に検索数の多い単体キーワードを登録せずに、ターゲットユーザーが検索する的確な掛け合わせキーワードを中心に考え、クリック率とコンバージョン率を高くする運用に注力した方がよい。
このような背景を考慮せずにキャンペーンの数が多くなりすぎてしまい検索広告のインプレッションシェア損失率(予算)が高くなり掲載が抑制されているアカウントを見かける。掲載が抑制されると成果につながりやすい時間帯などの獲得機会はどこにあるのか?を判断することが難しくなる。
インプレッションシェアについて知識が曖昧な方は、下記のヘルプを読んで覚えておいた方がいい。単純に指標の意味を覚えることは難しい。何故この指標が重要であるのかなどの背景を理解して覚えると忘れにくくなる。
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年に数回程度ではあるが、キャンペーンをマッチタイプ別に作成しているアカウントに出会う。何かしらの意図があってのことだと思うが、どうしてもキャンペーン数が膨大になってしまう。その結果、各キャンペーンの広告予算が小さくなり掲載が抑制される可能性が高くなるなど様々な面からデメリットが大きく推奨しかねる。
基本的には運用開始後にキーワード追加や広告文のクリック率改善されても、掲載が抑制されないように余裕のある広告予算の設定を設計段階から心掛けたい。
また意外と知られていないのが超過分と1日の予算の関係である。
1日の予算を最大20%上回るクリック数が許容されることは知られているのだが、1か月の請求期間全体で見ると、1日の予算の30.4日分を超える請求が発生することがない点は意外と知られていない。
では、30.4という数字は、何が根拠なのか?
30.4 というのは、1か月の平均日数です(365 日/12 か月 = 30.417)。Google 広告では、1日の予算にこの数を掛けることで、1か月分の予算を計算しています。
※Google 広告ヘルプの請求額と1日の予算の関係より引用
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単純に30日間で割ってしまうと30日間の月では、0.4日分の予算をオーバーしてしまう。31日間の月では、0.6日分ショートしてしまう。1ヶ月間の広告費を厳密に管理しなければならない場合は少ないかもしれないが、念のために覚えておくとよい。
広告グループの役割
※Google 広告ヘルプのGoogle 広告の構成についてより転載。また、赤枠は著者により追加。
広告グループの役割は、下記のように説明されている。
3.広告グループは、同じテーマを持つ広告やキーワードをまとめたものです。
※Google 広告ヘルプのGoogle 広告の構成についてより引用
また、Google 広告ヘルプの広告グループでアカウントを整理するでは下記のように説明されている。
Google 広告アカウントを整理する際の一般的な方法として、カテゴリやビジネス目標を基準にするというものがあります。多くの場合、まずはウェブサイトの構造を参考に始めると効率的です。各広告グループを、サイト内のページやカテゴリに対応させます。
※Google 広告ヘルプのGoogle 広告の広告グループでアカウントを整理するより引用
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各広告グループをサイト内のページやカテゴリに対応させるということは、同じ広告文、リンク先に紐づくキーワードは、同じ広告グループにまとめるということである。
Excelで掛け合わせマトリックスから広告グループを作成していると想定できる場合に多いのが、「化粧水_口コミ」「口コミ_化粧水」のように掛け合わせキーワードのABとBAを別の広告グループにしている場合や「化粧水_口コミ」「化粧水_くちこみ」のように掛け合わせ語の単位で別の広告グループにしている場合だ。
「化粧水_口コミ」「口コミ_化粧水」は語順が逆になっているだけであり、「化粧水_口コミ」「化粧水_くちこみ」は検索結果は同じであり、打ち間違いか、あえて変換せずに検索していると想定できる。どちらの例も、ユーザーの検索意図は同じであり、一つの広告グループにまとめても問題はない。
必要以上に広告グループを作成すると、広告文を入稿するなど作業工数も増加する。不必要に広告グループを作成することは、作業工数からも避けた方がよい。
また、広告グループを細分化していると運用を進めていくなかでキーワード追加や除外キーワードを設定していく場合に問題が出てくる。管理画面では、下記の画像の設定画面から検索語句を確認し、キーワード追加 or 除外キーワードの設定を進めていく。
特に気をつけたい点は追加、除外済みの列に対する理解である。
[追加済み/除外済み] 列は、レポートの検索クエリがキーワード(追加済み)または除外キーワード(除外済み)かどうかを示します。
追加済み:
[追加済み] となっている場合、その検索クエリが既に広告グループに追加されていることを示します。
除外済み:
[除外済み] となっている場合、その検索クエリが現在広告グループまたはキャンペーン レベルで除外キーワードに設定されていることを示します。除外キーワード リストとして追加される前に、このクエリで広告が表示されています。
※太字は著者による強調
特に注意すべき点は、[追加済み]は当該の広告グループに登録されているか否かを示している点である。ある検索語句が、ある広告グループで[追加済み]になっていても、他の広告グループでは[なし]となっている場合もある。複数のキャンペーンや広告グループに同じ検索語句が出ているとするならば、意図した通りの検索結果に広告を表示できていない可能性が高い。意図した通り適切に広告を掲載するためにも広告グループを細分化せずにシンプルにして管理した方がメリットが大きい。
また、キャンペーンのときと同様に広告グループをマッチタイプ別に作成している例を見かけるが、各マッチタイプの広告グループでキーワード追加 or 除外キーワードの作業工数が必要になる。運用を進めていくと設定忘れなど管理が煩雑になり、意図した通りの検索結果に広告を表示できていない可能性がさらに高くなる。
マッチタイプ別に広告グループを作成している背景には、ユーザーの検索語句と登録キーワードを一致させたいという意図があるように思う。しかし、Google 広告には検索語句と一致する複数の類似したキーワードの取り扱いというルールがある。
基本的には、下記の3点で構成されている。
・検索語句と正確に一致するキーワードを使用する
・キーワードが同じ場合に完全一致のキーワードを使用する
・広告ランクが最も高いキーワードを使用する
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上記のルールから、同じ広告グループに異なるマッチタイプをまとめても、ユーザーの検索語句と登録キーワードを一致させたいという意図は実現できる。
逆に検索語句に類似するキーワードが複数の広告グループにある場合には、広告ランク(広告の品質×上限入札単価)が最も高いキーワードを使用するというルールが問題になる。運用を進めるなかで。完全一致の広告グループよりも部分一致の広告グループの方が上限入札単価が高くなってしまう場合がある。広告グループで入札管理している場合は何とかコントロール可能かもしれないが、キーワード単位で入札管理している場合はコントロールが難しい。
最近は自動入札機能(目標コンバージョン単価、拡張クリック単価(eCPC)など)を利用しているアカウントも増加している。自動入札機能は広告オークション単位で入札の強弱がつけられており管理しようとすること自体が無理な状況になる。
ここまで解説してきた様にさまざまな背景から、広告グループを極端に細分化をするメリットはない。シンプルな広告グループの構成が望ましい。
最後の補足として優先ルールの例外の一つにキャンペーンが予算により制限されている場合について触れておく。
例
次の例で、マッチタイプの異なる同一のキーワードが複数ある場合に、予算が制限されているキャンペーンでキーワードの使用にどのような影響があるかを説明します。
広告主様が、「排水口が詰まったシンク」キャンペーンと「壊れた給湯器」キャンペーンを運用しているとします。「排水口が詰まったシンク」キャンペーンでは完全一致キーワード「配管工」が設定されていて、「壊れた給湯器」キャンペーンでは部分一致キーワード「配管工」が設定されています。
他の条件がすべて同じであれば、ユーザーが「配管工」を検索したときには、より限定的なマッチタイプである「排水口が詰まったシンク」キャンペーンの完全一致キーワードを使用して広告が表示されます。ただし、「排水口が詰まったシンク」キャンペーンが予算の制限を受けているとしたら、このキャンペーンの完全一致キーワードで広告を表示できないこともあります。その場合は、「壊れた給湯器」キャンペーンの部分一致キーワードが代わりに使用されます。
※Google 広告ヘルプの検索語句と一致する複数の類似したキーワードの取り扱いより引用。太字強調は著者による。
キャンペーンの役割でも書いたことに繋がるが、キャンペーン数が多くなり予算の制限を受けることにメリットはないことを改めて書いておく。
自動入札を前提にしたアカウント構成
キャンペーン、広告グループの役割を中心にアカウント構成について考えてきた。キャンペーン、広告グループを最小限にしシンプルなアカウント構成に抵抗感がある運用者は多いと思う。経験が長い経験者ほど、この傾向があるように感じる。
広告グループの役割の中でも書いたが、最近は自動入札機能(目標コンバージョン単価、拡張クリック単価(eCPC)など)を利用する前提になっている。自動入札機能など、プラットフォームに実装されている最適化機能を十二分に発揮できるアカウント構成にすることが必須になっている。自動入札機能の精度は年々向上しており、さまざまなシグナルを考慮した自動入札を実施している。
オークションごとの自動入札機能では、入札単価の最適化の際にさまざまなシグナルが考慮されます。シグナルとは、個々のユーザーやオークション時のコンテキストを特定できる属性のことで、端末や地域など、手動の入札単価調整に利用できる属性のほか、Google 広告スマート自動入札固有のシグナルとその組み合わせが該当します。
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この自動入札機能を利用するためには、キャンペーンに一定のコンバージョン数が蓄積されていることが重要になる。例えば目標コンバージョン単価の場合は、過去30日間に30回以上のコンバージョンが望ましいとされている。もちろん、コンバージョンが多ければ多いほど精度は高くなる。キャンペーンや広告グループを細分化してしまうと、掲載結果のデータが分散してしまい自動入札機能を十二分に効果を出せない状況になる。
日別のキーワード別レポートで平均掲載順位とコンバージョン率を定点観測し手動で入札調整をしていた時代のアカウント構成では成果を出すことが難しくなってきている。最近は、自動入札機能を利用する前提が当たり前になって来ているのである。
例えば自動入札機能を使っていないとしても、広告のローテーションの機能は使っていると思う。
例えば、コンバージョン重視で最適化を設定している場合
この方法では、クリック率(CTR)とコンバージョン率の両方が考慮されます。コンバージョン率の高い広告を特定できるだけの十分なデータが蓄積されていない場合、広告はクリック重視で最適化のデータを基にローテーション表示されます。
つまり、広告文に十二分なデータが蓄積されていなければ、広告はクリック重視で最適化のデータを基にローテーション表示される。同じ広告文を複数の広告グループやキャンペーンにデータが分断することは最適化を目指していないことと等しくなる。同じ広告文、リンク先に紐づくキーワードは、同じ広告グループにまとめたシンプルなアカウント構成は必須になっている。
まとめ
初心に戻って、改めてアカウント構成を考えてみてきた。最近は動的検索広告やショッピングキャンペーンのようにキーワードの入稿が不要なプロダクトが積極的に活用されてきており、キーワードを入稿する機会が減ってきている。直近では動的検索広告はフィードでも管理できるようにもなった。
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過去のように何万何千ものキーワードを作成し、深夜まで入稿作業をしていた時代とは異次元の世界になってきている。網羅的なキーワード作成や細かな手動入札は運用者の仕事ではなくなっている。だから、プラットフォームの進化に合わせてアカウント構成を常に見直すべきだ。
同時に、アカウント構成が大きく変化しているということは、運用の定義も大きく変化している。過去の時代のように、どれだけ時間を掛けて手作業が出来るのかではなく、自動最適化など時代の進歩に合わせたアカウント構成の設計、自動最適化では対応できない急激なトレンドの変化への対応、フィードなどデータをどのよう形式で保有するのかなど運用の中心軸が移動しているように思う。
日々進化の激しい運用型広告の世界に実を置く限り、現時点で有効な考え方が明日には通用しなくなるかもしれない、と常に危機感をもつべきだと思う。当然、このアカウント構成の考え方は、2018年の今頃には変化しているかもしれない、否、変化しているに違いない。