スマホでモノを買う人はどんな人か?
こんな質問を仮にされたとしたら、どう答えるのが適切でしょうか。 「若い人?」 「パソコンを持っていない人?」 など、様々な回答が考えられると思います。
この質問は、2017年の現在ではおそらく 「タクシーに乗るのはどんな人か?」 や、「海外旅行に行くのはどんな人か?」 といった問いとあまり変わらない、その回答によって得られる情報が少ない類のものではないかというのが、個人的な印象です。つまり、携帯電話でモノを買うという行為自体が、既にそんなに珍しくない、普通の人がおこなう、普通の営みになってきているということではないかと思います。
一方で、スマホでモノを買うという行為が”普通”だと認識されるようになったのは、ごくごく最近のことです。(いや、まだ”普通”じゃないし…という反論もあると思いますが、もう少し時計の針が進めばいずれ”普通”化していくということは多くの方にご賛同頂けると思います)
もちろん、少し前までは当たり前とはほど遠い状況だったのは間違いありません。一つ前の干支(12年前:2005年)まで遡れば、携帯電話でモノを買う(当時はスマホがないのでケータイですが)のは、非常に珍しい、”普通ではない”行為だったことが分かります。
参考リンク:
上記の ITMedia の記事の冒頭に、以下のようなくだりがあります。(太字は筆者による)
携帯電話でモノを買う、モバイルコマース市場が伸びている(5月31日の記事参照)。
モバイルコマース市場は、通販を中心とする物販系、イベントや航空券などのチケットを扱うサービス系、証券取引やオークションなどの手数料を扱うトランザクション系の3分野で構成される。2004年の1年間で2013億円を売り上げ、前年度比145%という成長市場だ。
このなかで特に伸びているのが物販系。しかしそう聞いても、個人的には身の回りで「私は携帯でモノを買っている」という人はほとんど見かけない。
少なくとも12年前には、IT系の敏腕記者という、市井の人々よりもアンテナを張っていそうな界隈でさえ、携帯でモノを買っている人をほとんど見かけない状況だったことが分かります。(筆者は2005年当時20代中盤でネット系広告代理店勤務でしたが、たしかにEコマースはすべてパソコンで行っていました)
スマホでモノを買う時代になってしまった
スマホでモノを買う時代は、データにも現れてきています。
ショッピングモールの雄である楽天市場では、流通総額に占めるモバイル経由の比率は既に60%ほど(2016年第三四半期:59.8%)に達していますし、アパレル通販のスタートトゥディでは、同比率が7割を超えています。(2017年3月期第二四半期:71.6%)
参考リンク:?楽天株式会社 決算短信・説明会資料
参考リンク:?株式会社スタートトゥデイ 決算概況
経済産業省が出している「平成27年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」においても、やはりスマートフォンの隆盛は大きくハイライトされています。2015年末時点でモバイル流通比率は30%程度でしたが、2016年はさらに大幅に伸びていると予想しています。
参考リンク:
こういった調査は、「スマホでモノを買う」のが当たり前の時代が既に目の前にある現実であると、我々に強く示唆してきます。一方で、その現実を受け止めたあと、企業が実際の対策(場合によっては構造改革)に踏み切るのには、どうしてもタイムラグが発生します。そのタイムラグが経営に計り知れないほどのインパクトを持つほど、世の中の変化する速度が早まっているのではないかと思います。
スマホでモノを買う時代の広告運用とは
Unyoo.jpは広告運用に関するメディアですので、ここでは、スマホでモノを買う時代の広告運用はどのようにあるべきなのか、少し考えてみます。
考えうる一つの回答としては、これまでも筆者がしつこいくらいに 記事や寄稿、セミナー等で訴えている、データフィード広告です。ワンパターンですみません。
以下は2014年に筆者が作成したスライドです。現在は2017年ですので既に3年近く前になりますが、今でも通用する部分があると思いますので、データフィード広告とは何ぞや?という方は一度ご覧ください。
データフィード広告の中でも、Eコマースに関わるところで一番に押さえておくべきは、やはり Googleのショッピング広告(旧:商品リスト広告)だと思います。
ショッピング広告についての近年の Google の力の入れようは目を見張るレベルで、いちいちすべてを追っていくのが困難なほど、強烈なアップデートを何度も繰り返しています。その結果、登場からたった5年ほどで、一気にEコマースのリスティング広告の主役の座に躍り出ました。
Google が力を入れる理由は分かりやすいです。それは、Retail(小売/コマース)は全世界的に見ても業種別広告費の圧倒的トップで、ここでいかに集客チャネルとしてのシェアを確保できるかで、成長率に明確に差が出てくるからです。IABのレポートでも、2016年上半期の時点で全広告費の21%が Retail になっており、2位の Finalcial Services(金融) の13%を大きく引き離しています。この傾向は以前から変化がなく、今後もしばらく大きく変わることはないだろうと思われます。
そして、Google の広告機能のアップデートは、彼らが公言しているように、ほぼ全て「モバイルを最優先」を前提としています。「モバイル対策」という言葉はなくなり、モバイルがユーザーデバイスの前提となることで、敢えて「デスクトップ/ノートPC対策」をしないといけない時代がすぐそこまで迫っています。
先ほどの IAB の資料でも、モバイル広告費の伸びは明らかに異常値を示しています。これまでのインターネット広告の前提がひっくり返るタイミングに我々は生きているのだなあと思いますね。
そして、モバイルでの広告表示において、データフィードの活用はほぼ必須事項です。ショッピング広告はデータフィード広告の代表例ですが、例えばモバイルの検索結果(特に商品検索クエリ)に広告を出そうとする場合、ショッピング広告でないとほぼ広告を出す意味がないというレベルにまで、検索結果がアレンジされてしまっています。
上記のスクリーンショットのように、2016年の中頃より、コマーシャルクエリ(購買を意図した検索)や、インフォマーシャルクエリ(情報収拾目的のクエリ)を中心に、モバイルの検索結果にサムネイル画像が表示されるようになっています。オーガニックの方が圧倒的に情報量が多い状態で、シンプルなテキスト広告がユーザーにとって有益である可能性はどうしても低くなってしまいます。ショッピング広告でないと違和感すら覚える検索結果が当たり前になるかもしれません。
検索だけじゃないショッピング広告
また、ショッピング広告は検索結果だけでなく、ユーザーの様々な状態に対応が可能です。ショッピング広告は以前から広告在庫が少ない(=コマーシャルクエリがそのまま広告の表示機会の総数)という問題を抱えていましたが、モバイルでのカルーセル型表示など、ショッピング広告の表示形式自体に常に改善を繰り返しており、イメージ検索の検索結果や AdSense for Shopping の促進によってパートナーサイトへの表示機会を大幅に増やしています。
結果として、上記の Merkle のレポートにあるように、ショッピング広告のクリック数の増大にパートナーサイトが大きく寄与するという結果になって現れています。今後もパートナーサイトの割合は増えていくと思われますので、Googleの外側にも表示機会が広がっていることが分かりますね。
Merkleのレポートについてはこちらもご参照下さい:
データフィードは検索やディスプレイ広告だけでなく、動画にも配信することができます。(動画の視聴するデバイスも既にモバイルがPCを凌駕しています)
TrueView for Shopping や Shopping Ads for YouTube のように、動画とデータフィードが連携する事例が出てきていますので、ユーザーの様々なシーンに対して商品情報をリーチすることが可能になってきます。
こちらもご参照下さい:
その他にも、ショッピング広告は様々なショッピングカートやEコマース系のプラットフォームと連携を進めていますし、ショッピング広告だけでなく、動的リターゲティングの雄である Criteo などもあります。データフィードは広告だけでなくレコメンド機能や CRM 、オフラインの店舗コンバージョンや在庫連動にまで波及する概念だということを考えると、モバイルという狭いスクリーンを起点にして購買活動が完結してしまう時代において、データフィードを抜きに広告運用を語ること自体がますます難しくなってくるのではないかと感じています。
Googleをはじめとするショッピング広告(PLA)は、対象広告主予算の8割に近い将来到達してもおかしくない。
Andreas Reiffen -Crealytics CEO
2016年の SMX Advanced で ECサービスを展開する Crealytics の CEO が発した上記の言葉は、ある人には荒唐無稽に響き、また別のある人にはリアリティがある、そんな言葉だと思います。
GoogleをはじめとしたプラットフォームのEコマース関連のアップデートについていくことは、自社の集客やプロパティ(サイトやアプリなど)をモダンな環境に変化させ、ユーザーに向けてリアルタイムに合わせていく、という活動と同義になるでしょう。数年前とは広告運用の体制やアカウント構成がガラッと変わった企業も多いのではないでしょうか。
これからもそんな急速な変化が続くと思うと運用者側としては大変なことこの上ないのですが、変化する企業が結果的に生き残るのもまた事実ですし、その変化の先鞭をいち早くつけることができるのも、運用者の特権なのではないかと思います。