ホームサービス広告(Google home services ads)
Google が2016年秋頃からベータ版で提供していたホームサービス広告(以下、Google Home Services: GHS広告)が、これまでのサンフランシスコ等の一部の都市圏から、カルフォルニア州全域に適用範囲を拡大したとの報道が流れています。
リンク:Google Home Services Ads roll out on mobile
この GHS広告とは、端的に表現すれば、「Google版クラシファイド広告」です。古くは電話帳、現在では Yelp のようなローカル情報サービスがカバーしていた領域に、Googleマップ と AdWords とを組み合わせて、地域の情報として掲示していくタイプの広告になります。
クラシファイド広告というジャンルは特段新しいものではなく、インターネット以前から「三行広告」などとも言われ、長く存在している広告の一つです。インターネット普及後も一定の規模があり、IAB のインターネット広告市場規模レポートでも、(目減りしながらも)ある程度の割合を確保しているジャンルです。
これまでも Google はローカル在庫広告などで地域に根ざした小売ビジネスとインターネットとを接続する(いわゆる狭義のO2O的な)機能を提供していました。GHS広告では、これを小売だけでなく、HVACサービスと呼ばれるような、ちょっとした水道や鍵のトラブル、庭の手入れ、電気工事などに代表される(モノ以外の)ホームサービス分野にまで拡大したことになります。
第三者として審査機関を担うGoogle
GHS広告 は、地域性のあるHVACサービスに関連の検索に対して、モバイルの画面上に「Googleによる保証付きの広告」として表示される仕様になっています。
※最近はPCにも拡張されている模様
GHS広告は Google の審査を通過した個人/スモールビジネスのみ表示されるため、必然的に広告を出すには、Google が行う審査をパスする必要があります。これは言い方を変えれば、Google が個人の評価を保証する第三者認証機関になるということを意味します。
第三者による保証というのは、保証する第三者に客観性が認められる程度の最低限の信用がないといけませんし、その審査に効力があることを証明するために、永続的に審査や基準をアップデートしていく必要があります。
審査や更新にかかるコストは、認証する個人や団体が多くなればなるほど連動して肥大していくため、通常、ほとんどの第三者機関は審査試験や資格のグレードを設定し、審査を受ける個人や団体から審査料・登録料などを徴収して運営しています。
一方で、Googleは(少なくとも現時点では)登録料を設定していません。この第三者認証にかかるコストを担保するためのビジネスモデルとして、Googleは審査料や登録料ではなく、GHS広告という、自身がこれまで得意としてきた広告モデルを採用しています。
これはつまり、国家資格などの許認可モデルとは違い、権利を存続するためにお金を払うのではなく、審査通過後の集客や販促費の対価として Google からの裏書きが保証される仕様ということです。権利の存続ではなく集客にダイレクトに響くコストですので、審査を受ける個人側は、そのコストを費用ではなく投資と捉えることも可能になるでしょう。広告のプラットフォームと、多くのユーザーが利用している地図や検索などのサービスを保有している Google だからこそできる大技だと言えるのではないでしょうか。
「枠」から「人」へ
このモデルが破綻することがあるとすれば、それは「Googleの保証」に信用がなくなった時だと思います。裏書きの効力を多くのユーザーが認めなくなったときに、このモデルは有効性を失うからです。検索連動型広告が検索エンジンの情報探索精度の信頼性によって担保されているのと同じ理屈かもしれません。
もし GHS広告 に登録している個人事業者が何かしらの不正を行ったり著しくサービス品質が低い場合、その個人事業者だけが非難され、監査機関である Google が素知らぬ顔でいれば、監査機関として存在意義はなくなってしまうでしょう。
だからこそ、信用を維持向上することが、このモデルの(たった一つと言っても過言ではない)生命線になります。信用を維持する方法はシンプルで、保証した側が(も)責任を負うということです。責任を持たない人の保証は保証として機能しません。
Google は既にEコマースで商品の購入補償(上限10万円)やトラブルの解決サポートを提供する認定ショップ制度を運営して認証制度の運用実績を積んでいます。このモデルの要諦を理解した上で、コスト試算も含めて設計しているのは間違いないでしょう。
今後、Google はプラットフォーマーとして、ビジネスの第三者機関的な色合いをますます強めてくると思われます。2016年9月に発表された「Shop the look」や、同10月に買収した「FameBit」などを見ても、Googleの持つ信用を背景に、「枠」そのものを運営するのではなく、「枠」を作り出す「人」や「ビジネス」を取り込むような仕掛けを通じて、自分たちの資産(プロパティ)以外でも売上が上がっていくような仕組みを志向しているように見えます。(ソーシャルの運営は苦手っぽいですしね)
検索という金のなる木を軸に、パブリッシャーを「枠」として接続・運営してきたディスプレイネットワークに加え、そのネットワークの外側にも「人」という軸で取り込んでいく流れは、単にメディアを買収・運営するだけにとどまらず、あらゆるものを疎結合していき、最終的にデファクト化していくという現代的な経営戦略だと捉えることもできます。GHS広告は、その戦略の一つの発露だと言えるかもしれません。日本での実施はまだ未定のようですが、注目していきたい機能です!