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位置情報を使ってオフラインの行動を計測する
運用型広告の世界では、店舗誘導施策など、オンラインでの広告配信がオフラインの行動にどのような影響を及ぼしているかを計測することが長年の課題でした。
これまで、センサーやビーコンなど、様々な技術を駆使して試行錯誤が進められてきましたが、今回ご紹介するシナラシステムズジャパンは、通信キャリアの持つユーザー属性と位置情報に基づいた広告配信の仕組みを開発し、この領域にチャレンジしています。
シナラシステムズジャパンでセールスディレクターを務めている松塚展国さんに、これまでのキャリアを振り返りながら、位置情報の面白さについて伺ってきました。
話し手: シナラシステムズジャパン株式会社 松塚展国さん
聞き手: アタラ合同会社 杓谷匠
※このインタビューは2016年10月に行われました
●松塚さんのお仕事内容と役割、これまでのキャリアについて教えてください。
松塚:通信キャリアの持つユーザー属性と位置情報を活用したマーケティングプラットフォームを提供する、シナラシステムズジャパン株式会社で、セールスと事業開発の責任者として日本事業の立ち上げと推進を行っています。2016年2月に入社して6月にサービスをローンチし、電通・博報堂含めて30 ~ 40社の広告代理店とお取引を進めています。
バレーボール、炭素繊維強化プラスチック、ミスター東大
●松塚さんは大学を卒業してから博報堂、グーグルを経て、今のシナラシステムズジャパン株式会社にご入社されたと伺っていますが、そもそもこの業界に入ったのはどのようなきっかけだったのでしょうか?大学を卒業して博報堂を選んだ理由を教えてください。
松塚: 博報堂を選んだ理由は2つあって、一つは大学のバレー部に在籍していたこと、もう一つは自動車のボディの研究をしていたことです。
バレーに関しては、春高バレーはテレビ放映もするし、観客が多いじゃないですか。大学バレーはもっとレベルが上がっているのに、観客が少なくてガラガラなんですよ。高校から大学にかけてバレーをする人が結構多く、大学でバレー人生を終える人も多いわけです。となると、最後の一瞬にかける思いみたいな、ドラマがもっとあるのに人が少ない。
もう一つは、自動車の研究で、今でこそ結構有名になっている炭素繊維強化プラスチックの研究をしていて、当時はよいものを作っているのに誰も知らないような感じでした。
●そこにマーケティングの力を感じたわけですね。
松塚:はい。研究をこのまま続けていくのもいいけれど、自分の性格などを考えると、この良いものや技術者の考え方などを多少はかじっている自分が伝える役目というのも面白いんじゃないかということで、テレビ局と広告業界、あとは商社を受けました。ミーハーな感じですね(笑)。
●体育会系出身で体力もあるし、ということですよね。噂でミスター東大というご経歴を聞いていたので、広告研究会のようなところに在籍していて、そこから広告業界に興味を持たれたのかと思っていました(笑)
松塚:それもあります。大学1年生のときにミスター東大になりました。ミスコンは結構昔からあったんですが、ミスターコンテストは1999年に始まって、私は2000年だから2代目なんです。20世紀最後のミスター東大です(笑)。そこで一瞬、自分が芸能人になるのかなと思ったわけです(笑)。
取材依頼がきたり、雑誌の表紙のオーディションを受けてくださいといったこともあって、行ってみると周りはモデルだらけで、モデル、ジャニーズ、俺(笑)。みんな超顔が小さくて、突然普通の自分が行き、「1分間自己紹介してください」「笑顔作ってみてください」といった感じで。当然表紙になるわけもなく、芸能界ってすごい世界だなと。山口県から受験して東京に出てきて、最初の年でいきなりそういう経験をしました。
自分がタレントになったりする道はないなと思ったけど、「なんじゃこりゃ」というある意味の挫折感があったことで憧れは残ったというような感じです。
●私も上京して大学で初めて友達に誘われて行ったバイトが、某有名音楽番組の観覧者で、こういう世界があるのかと思いました(笑)。バレーボール・炭素繊維強化プラスチックの開発、ミスター東大のご経験が博報堂にご入社されるきっかけになっているんですね。
松塚:ぶっちゃけテレビでもよかったし、広告でもよかった中でいうと、営業が別にやりたいわけではなくて、ストラテジックプランニング(以下ストプラ)、このよいものをどう伝えていくかを設計することがやりたかったんです。当時、博報堂はストラテジックプランニングに強いという印象を受けていて、ストプラに強い博報堂に入ったのが最初のきっかけです。
営業からプランニングまで経験した博報堂時代
●入ってからはどのようなクライアントを担当していたんでしょうか。入社前と後でギャップはありましたか?
松塚:最初の数ヶ月は色々と研修があり、適性を見て配属が決まるんですが、ストプラ第一志望だったのでずっとストプラっぽい振る舞いをしていたわけですよ。でも蓋を開けたら営業に配属で、とあるメーカーの担当営業部に入り、ひたすら営業活動をしていました。博報堂にいた5年弱で約10社ほどを担当していました。
営業が嫌だった理由の一つとして、戦略に携わりにくいと思っていたところがあるし、巨大な規模のクライアントの場合、担当が細分化されていて、色々ある中のカタログを5年やっているような諸先輩方がいて、しんどいなと。自分のいたチームはたまたま人が少なかったので、やっている領域は広く、結果として営業でありながら広告制作もメディアバイイングも全部担当することができたんですよ。
●フロントの営業とプランニングの両方をうまく体験できたんですね。
松塚:博報堂時代の思い出深い仕事は2つほどあります。とあるメーカー様がBS放送を一社提供していました。月1回放送くらいの番組で、某有名ワインソムリエの方が毎回地方でロケをして、その地域のメーカー様の上顧客を観覧に招きます。その後、ワインセミナーをおこなったりするなど、クライアントもその先のお客様も楽しめるスキームでした
その中で、当時少しずつインターネットをどう使うかとなり、ブログをやることになったのですが、書く人がいないと。仕方なくその番組のこぼれ話を計20?30回、ゴーストライター的に全部僕が書き続けていました。
●そこでインターネットを使ったマーケティングに出会ったんですね。
松塚:もう一つが、某娯楽企業です。ウェブ施策のコンペで、ウェブコンテンツだけでなく戦略PRも絡めた提案をしたところ、15社ほどのコンペで勝ったわけです。優木まおみさんとWeb上でデートができるコンテンツがあり、アクションを選んでいって、いい感じにデートできると、優木まおみさんの電話番号(偽物)がゲットできるという。
同時に優木まおみさんに加えて石田純一さんもゲスト出演してもらい記者会見を行いました。それがスポーツ新聞に載ったりして、当時フェイスブックはまだまだ普及していない時期でしたが、ローンチしたときに少し2chなどで口コミが広がり、アクセスが集中してサーバーが落ちるということがあったんです。そこで改めてインターネットの可能性を感じていました。
中小企業を支援したいと思ってグーグルに入ったけれど
●「インターネットが面白いぞ」ということを仕事を通じてご経験されたんですね。その後、博報堂からグーグルに移られることになりますよね? 直接のきっかけは何だったんですか?
松塚:一番のきっかけは、僕が山口県出身で、親父が地元の山口で中小企業をやっていて業績が傾いたんです。ちょうど大学2年くらいのときでした。結構良いものを売っているのに、売り方が分からないといった感じでした。
民事再生から復活したけれど、そういう経験もあって、本当は良いものをどう伝えていくかに携わっていくことを考えたときに、大企業は大企業でもちろんマーケティングが必要だけれども、本当に必要としているのは中小企業じゃないかという思いを博報堂で仕事していてすごく感じました。
博報堂ではある程度の規模感のある会社しか担当できないので、そういうところにいたら、おそらく世の中の会社の上位1%しか救えないというのがあり、残りの99%を救う仕事は何かなと考えたときに、そういう会社がテレビCMなんて打てるわけがなくて、おそらくやれることはウェブだろうなと。じゃあウェブで一番いいところはどこかということでグーグルに入りました。
●中小企業をサポートしたい想いが強くなっていったんですね。グーグルに入られて、総合代理店のカルチャーから全く違ったカルチャーに飛び込んだと思いますが、一番驚いたことは何ですか?
松塚:まず初日に驚きました。僕は広告営業の中小企業担当部署として採用されましたがそのチームが解体していて、中小企業担当部署だと思っていたら結局は大企業担当部署に異動しました。なおかつ上司になるはずだった方が、入社して挨拶に行ったら辞めていたんです。デスクも確かPC1台しか置いていなくて、自分でセットアップして、後は「分からないことがあったら検索の会社なんで、検索してね」というのが初日でした。
●それは面食らいましたね(笑)。それから旅行業界を担当されることになったんですよね?
松塚:当時は同じタイミングで7、8人が入社。全員中小企業担当チームに入る予定だった人達だったので部署が決まっておらず、僕だけたまたま2ヶ月ほど色々なところを回った後で決まりました。それで旅行業界担当チームに配属になり、業務を教えてもらうメンターとして当時新卒2年目の方が付いてくれて、社内外のミーティングを一緒に周った後に、「しゃべらないんだったらもうミーティングに来ないでください」と入社1週間経たないくらいで言われました。
これが外資系なんだろうなと思いましたね。その後もディスカッションしていて、僕が「こういう風なものがいいんじゃないか」と言ったら、「ロジカルに考えて僕はあなたの意見をいつでも論破できますよ」と言われたりしました。
●最初から厳しい船出でしたね(笑)。仕事内容も最初はアカウントマネージャーですよね。管理画面の使い方などもイチから覚えていく形だったのでしょうか。すぐに慣れましたか?
松塚:元々シミュレーションゲームが好きだったから結構面白いと思いましたね。親父の会社で手すりなどを売っていて、ホームページを自分で作って実際に広告を運用し、色々な機能をテストしてキーワードを追加してみたりして管理画面の使い方を覚えました。
また、前述の同僚がアグレッシブだったので、彼と一緒に動いて、夜な夜なキーワードを100万行くらい作ってはワンタッチでエディターで入稿できる形に整え、お客さんに渡すといったことをやって、その半年で広告運用がだいぶ見えたという感じでしたね。
●そこからエアライン系のクライアントを主に担当することになるわけですが、旅行関連のお客様ということで、その頃から位置情報の面白さを感じていたのでしょうか。
松塚:まだ感じていませんでした。グーグルでまずは外資系のオンライン旅行代理店などを担当していた時期だったので、いわゆるサーチから入り、エアライン担当になって初めてデジタル×ブランディングみたいなものを考えていくようになりました。だんだんとお客さんと方向性をディスカッションするようになっていって、じわじわとどういうデータが価値があるんだろうと探り始めました。
●検索は一般的には購買ファネルの下の方で需要が顕在化していますが、ある程度やりきっていくと、今度はどのように需要を作っていくかという課題が出てくると思います。その領域は松塚さんのご経歴が最も活きる分野だったのではないかと思いますが、具体的に成功した事例はありますか?
松塚:そもそも入社して旅行業界担当チームに配属され、自分なりのミッションとしては基本の検索などを押さえるのはもちろんのこと、広告予算ってデジタルは最近増えて10、20%になっているけれど、大概はテレビなどに使われますよね。この予算をデジタルにどう取っていくかに自分が貢献できる付加価値があると思っていたこともあり、デジタルの方に進んでいったのはあります。僕がやっていたのはひたすらYouTube上で起こっている検索など、そういう分析をたくさんして、一体どういうクリエイティブを作ればいいのか、というコンサルから入っていきました。
一番印象に残っているのは、エアライン系クライアントのグローバルマーケティングで、グーグルプロジェクトみたいなものがクライアント内で発足し、クライアントのグローバルの全体戦略をグーグルと一緒に隅々まで考えるというようなことをしていました。アウトプットはYouTubeだけど、その手前の人や予算にも戦略設計として入っていて、組織の立て付けと役割分担、どういうプラットフォームが必要か、どれくらいの差額が必要かというのを外部の検索データを見ることも踏まえてクライアントと設計するわけです。ちょうど来年度戦略を固める期限が1月15日くらいだったので、大晦日も資料を作っていました。
●組織をデジタル化していく重要な仕事ですね。運用がわかっていて、なおかつその領域まで踏み込んでやれる人は少ないと思います。
松塚:クライアントに恵まれていたと思います。検索だけで完結せず、グローバルで、そもそもブランドワードの検索が起こらない課題をどう解決するのグーグルさん、というよいお題を与えてくれたから結果そういう仕事ができたと思います。
ニーズが顕在化する前のデータを求めて
●そこからシナラシステムズに移られたきっかけは何だったのですか?
松塚:最後にやった仕事が、自分が担当していたエアライン系クライアントとTBS、博報堂、グーグルとで番組を立ち上げたんですよ。深夜番組で、テレビで流している内容をYouTubeでグローバルに展開しました。それもYouTube 検索で今週のテーマは何にするかを分析して作ったりして。
ここですごく感じたのは、日本に関する検索をするのはニーズが顕在化している人たちだということです。本来ブランド予算やブランディングは、顕在化する手前の人をどう捉えていくかという中で考えていくと、検索データの分析だけだと限界がある。おそらく他にもブランドに寄与するデータが世の中に転がっているのではないかということから、位置情報や決済情報に興味を持ちました。
●オーディエンスデータにどんなものがあるのかに興味が移っていったんですね。グーグルやフェイスブックの持っているデータもすごいですが、違う軸で世の中にはどんなデータがあるのか興味が湧いたということですね?
松塚:ファネルで描くと、(描きながら)顕在層、アクション、潜在層。ウェブ上で全部で完結するビジネスだったらいいけれど、世の中の会社はなんだかんだリアル行動を伴うことが多くて、アクションがウェブで完結しない。となったときに、色々と施策をして結局どうなったという物理的アクションと、ここに至る過程の行動パターンを押さえられる、特にリアル行動を擁するマーケティングが大事だなと思いました。
松塚:ウェブ以外のデータは2種類あり、決済か行動データだと思っています。決済は既にアクションを起こした結果のデータなので、潜在層のデータが取れる位置情報が面白そうだなと思いました。
●それでグーグルを辞めてシナラシステムズに移られたんですね。
松塚:グーグルに入る30歳くらいで子供が生まれて、嫁が会社に復帰するタイミングだったんですよ。どちらかが子供をケアしなければいけないので、どっちが主たる働き手として今後の数十年間生きていくんだというディスカッションがあったわけです。お互いのキャリアプランを語り合う会があり、僕が勝ったと(笑)。
そのときに今までこういうのがやりたいなというのがぼんやりとあったのが、そのディスカッションのためにきっちり整理できて、45歳でこういうことをやっていたい、そのために40歳でこれをやっていて、30歳でこれを、という自分のキャリアスケジュールができました。なので、グーグルを辞めるとしたらベンチャーに行きたいというのがまずありました。
ベンチャーに行くのであれば、マーケティングが食いっぷちというのは変わらないと思っていて、面白いことができそうな会社ということでシナラシステムズでした。当時いくつかオファーをもらっていたんですよ。その中で選ぶ軸としては、一番完成されていない、一番激しそうな会社に行きたいというのがあり、それもシナラシステムズを選んだ決め手でした。
●実際に入ってみてどうでしたか? 潜在層にリーチできるような位置情報との出会いはありましたか?
松塚:結構面白いのは、例えば僕週1回ジムに行っているんですよ。それは絶対ウェブ上の行動には現れなくて、僕は毎回ジムを検索するわけがないですよね。ただその人の生活習慣やものの考え方を考える上で、実は非常に大事なファクトデータなんです。シナラの場合、ジムによく行く人、健康志向が高い人といったものも抽出できるんですよ。そういう人たちに健康系を訴求するとか、逆に夜ひたすら飲み歩いている人も位置情報で分かるので、その人たちに特茶を訴求するとか、色々なパターンをお客さんと一緒に今試し始めているところです。
●:位置情報自体はどのように取得しているんですか?
松塚:位置情報は、現状でいうと、とある携帯キャリアと連携していて、そのキャリアのWi-Fiが全部で45万ヶ所くらいあります。そこで携帯を検知、今この携帯がこの近くを通って一瞬通信が起こったという情報をベースに取得しています。
●:それを元に、営業資料にある、直近で美容院に行ったことのある人をセグメントした「スタイル一新女子」や、週に5回以上居酒屋に行く人をセグメントした「居酒屋頻繁利用者」などがターゲティングできるようになってくるということですね。すでに事例はあるのでしょうか?
松塚:店舗誘導系、特にチラシの代替を狙ったものがすごく多いです。シナラシステムズが一番得意としているのは何故かというと、店舗の周辺に過去の行動パターンとして、よく検知されている人、生活動線上で近くにいる人というのがまず分かります。なおかつその人たちに広告接触させて店舗に来たかどうかも、店舗にWi-Fiさえ置いていればトラックできるので、「コストパー来店」という手法を提供することができるんです。
某大手スーパーマーケット様に関しては、「コストパー来店」がインプレッションベースで100円台とかになるんですよ。これはチラシの代替として十分可能性があるものだと思います。
●:ターゲティングがうまくセグメントされているほど、安くできているということなんですね。面白いですね。
松塚:当然といえば当然ですが、クリックした人とインプした人だと10倍くらい来店率が違います。うちの場合は契約者情報なども色々使えるので、クリックした人の生年代や、普段どういう路線を利用している人なのか、そういうデータも取れるのでコストパー来店が全部分かります。さらにどういう人が反応していたか、反応している人たちの普段の行動パターンみたいなものも分かるので、それをベースに次により精度の高いターゲティングやコミュニケーション、訴求ポイントを変えるなどといったことができます。
●:面白い未来が見えてきますね。将来的にグーグル もこの領域に進出してくるのではないかと思うのですが、改めて古巣を競合としてどう捉えていますか?
松塚:あまり競合として捉えていないんですよ。広義の意味では、グーグル、ヤフー、フェイスブック含めて仲間だと思っています。ウェブプラットフォーマーやリアル店舗向きのプラットフォーマーが考えるのはどちらかというと、オフラインメディアや折込チラシなどの紙媒体かなと思っています。どうデジタル化させていくか、特に大手小売系広告主なんて広告宣伝費が1000億円ほどあって、デジタルは10億円ほどですから1%くらいで、この99%をどう取っていくかという視点で考えると、運命共同体かなと思っています。
●:確かにそうですね。最終的にはやはりDSPで広告を配信するので、配信先もグーグルのGDNやYDNになりますし、パートナーという位置づけなんですね。
松塚:今は「Cinarra DSP」(シナラディーエスピー)という自前のDSPを使っているのですが、正直最適化能力で考えると、後発で開発のリソースも少ない我々がグーグルなどに勝つわけがないでしょう。弊社の位置付けは、今はDSPですが、2つの方向性で考えています。
一つはロケーション分析プラットフォームで、もう一つはデータプロバイダ。ロケーション分析に関しては、ランディングページタグやインプレッショントラッキングタグをヤフーなどのDSPに挿入すれば、広告に接触した人が来店したかとか、普段の行動パターンもシナラのロジックで出すことができるというものです。配信は巨大プラットフォームに任せて、うちは物差しを提供するということを考えています。これは今β版で、1月以降に利用してもらえるのではないかというところです。
●:広告の配信結果とシナラのデータを繋げて見られるわけですね。これからますますオーディエンス分析が盛んになってきそうですね。リターゲティングだけやっていても結局は刈り取りですから、このようなデータを活用して新たな切り口で広告を配信できるのは魅力ですね。
松塚:オンライン完結型の広告主はユーザーの行動が可視化されているので費用対効果、ROIを精緻に計算して広告を配信しますよね? その範囲をリアル店舗に広げていくのが短期的なミッションかなと思っています。弊社のデータを元にすればウェブだけで完結せず、来店までを同じ軸で追いかけることができるので、リアル店舗を持っているお客さんの投資判断の一助になると考えています。
Wi-Fiはリアル行動のコンバージョンタグ
松塚:最近よく言っているのが、「Wi-Fiはリアル行動のコンバージョンタグです」ということです。これはすごく刺さります(笑)。GPSだと空から降っているので、建物に入るとどう頑張っても精度が少し落ちるんです。Wi-Fiさえ置いておけば、精度が高くトラッキングできます。コンバージョンポイントがウェブではなくてたまたま「リアル店舗」だっただけなんです。
●:そのキーワードはキャッチーですね。ワクワクしました(笑)
松塚:あとはどう色々なキャリアがこのプラットフォームに参画してくれるかというところですね。入ったときは正直分からなかったですが、やっていくうちにすごく可能性を感じています。シナラのコアバリューは、位置情報を使い回すことではなく、超安全・超大切に扱わなければいけないデータを超安全に超高速で処理できるところが最大の価値です。
ヨーロッパなんかは個人情報に関してすごく厳しいですし、情報を第三者に提供して分析などを行うのは広告会社からするとNGですが、その対処がしっかりできて、尚かつ超高速に処理できる能力というのがすごく活かされています。僕の個人的な考えでは、まずは携帯キャリアのデータ、その後は金融機関など、非常に丁寧に扱わないといけないデータを処理できるプラットフォームとして、進化していくものと思います。
●:シナラシステムズさんは、ただ単に位置情報の会社というわけではなく、大容量のデータを暗号化して使いやすいものするのがとてもうまい、テクノロジーの会社なんですね。最初の素材がたまたま通信キャリアの持つ位置情報なだけであって、金融など他の分野のデータも考えられるということですね。シナラシステムズさんの本質が見えたような気がします。
松塚:ヨーロッパでは「個人情報マネージャー」というような役職があり、高給らしいですが、個人情報保護法に関する理解と、テクニカルにどう捌くかの両方の知識を持っている人たちが求められているようです。
●:日本でも今後そういう会社や役職が増えていくんでしょうか?
松塚:増えていくと思います。弊社の領域もまだ個人情報について法律が規定しきれていない領域だと思いますので、物理的にはできるけれど、きちんと法律などとも連携しながら、安全・安心に、かつ個人も企業もハッピーな形に進めていければなと思います。
●:AIが仕事を奪っていくような話も聞きますが、その逆で必要な仕事が作られていくようなケースもあるわけですね。引き続き楽しみにしています。本日はありがとうございました。