デジタル神無月
2016年10月19日〜20日の2日間、福岡のIMSホールで九州発の大型カンファレンス「デジタル神無月」が開催されました。九州では屈指の規模となる本イベントには、400名近い参加者が集まったと聞きます。
特設サイト:デジタル神無月 | 10/19(水)〜10/20(木)@福岡イムズホール9F
筆者は、2日目(10月20日)のデータフィードセッション「データフィード 〜事業主も代理店も知れば始めるデータベースを使った売上改善〜」でモデレーターを務めさせて頂きました。割り当てられた60分という時間はあっという間でしたが、その中で議論したこと、考えたことをかんたんにまとめてみたいと思います。
データフィードとは何か
最初に会場にお聞きしたところ、データフィード広告を活用されている方は全体の2割くらいのようでした。そこで改めて「データフィードとは何か」を、かんたんにおさらいすることにしました。
データフィードとは、その名の通りデータを供給する仕組みのことです。Aという場所にあるデータをBという場所へ受け渡すために、お互いの項目を一致させる(構造化させる)仕組みと、受け渡すデータそのものを指します。
受け渡すデータが商品情報であれば「プロダクト/マーチャントフィード」と呼ばれます。Googleのマーチャントセンターに格納するデータが代表例ですね。フィードの内容が記事であれば「ニュースフィード」です。このサイト Unyoo.jp も RSSフィードを通じて記事を供給しています。
当日も早口で触れましたが、このデータフィードという仕組み自体は以前から存在しており、決して新しい概念ではありません。2000年代前半には既にリスティング広告で広告文の自動変更や在庫連動などのシステムに利用されていましたし、検索エンジンが動的なURLに弱かった時代に有料でインデックスするサービス「ペイドインクルージョン」なども、URLフィードを利用していました。2016年の現在から見れば、概念としては枯れていると思います。
それが近年脚光を浴びるようになった背景には、近年のデバイスやメディアの進化による「フラグメンテーション(断片化)」の加速が大きな要因として挙げられます。
フラグメンテーションとは、大雑把に言えば、スマートフォンを始めとしたデバイスの多様化や、ソーシャル/アプリの普及に代表される接触メディアの多様化、そしてデバイスとメディアの多様化が掛け合わされることによって、人々の可処分時間が細分化されていることを指しています。
断片化したユーザーに接触するためには、それぞれの接触面に適切なタイミングかつ適切な方法でアプローチできるように網を広げていくしか対処方法はありません。マーケターにとっての試練は、ただ広げるだけではなく、デバイスやメディアのタイミングや文脈に合わせて、適切なフォーマットで到達させる必要があることです。そして何より、情報の鮮度が保てるよう、常に情報の同期を取っておく必要があります。ECサイトであれば在庫がなくなった商品を掲載し続けるわけにはいきませんし、ホテルであれば満室なのに空室と表示されていたらダブルブッキングになってしまいますから。
というわけで、広がり続ける接触面に対し、手作業で対応するのは難易度が高いどころか現実的には不可能な作業です。当日は意思決定に影響するメディアの一部を例に挙げましたが、これは氷山の一角で、実際には人間が把握できる量はとっくに越えていると思います。
だからこそ、こういった断片化をシステムで解決していくために、データフィードという概念に脚光が当たるようになりました。
Googleのショッピング広告や動的リターゲティングのCriteoの登場を契機に、これまで社内の利用にとどまってきた商品情報のようなマスタデータが、マーケティング用のデータやクリエイティブとして外部利用できる環境が急速に整ってきたことも追い風になっています。プラットフォーマーがこの領域に力を入れているため、近年はデータフィードが「集客の武器」としても急速に注目を集めています。
当日は、Criteoの中嶋さん、フィードフォースの川田さんにそれぞれ動的ディスプレイ広告の仕組みや事例、ショッピング広告の重要性について語って頂きました。どちらもデータフィード広告を語る上では欠かせない最重要プラットフォームのため、お二人の説明には会場の方々も真剣に耳を傾けていらっしゃいました。
データフィードを始めるには
フラグメンテーションが進めば進むほど、何もしない企業がアプローチできる総接触面積は減り、データフィードを活用する企業の接触面積は増えていくことになります。実際、ショッピング広告でリーチできる接触面はどんどん増えている一方で、モバイル経由のコマーシャルクエリでは、オーガニックが画像付きでリスティングされるケースが増えてきていますので、ショッピング広告を実施していない広告の方がむしろ目立たないという事例も出てきています。EC企業のプロモーションにおいて、データフィードは必須対応というか、経営課題に限りなく近いレベルの議題だと思います。
重要度が高まる一方で、「さて、始めたいけどどうすればいいのやら…?」という声もよく挙がります。そこで、このセッションでは、データフィードの始め方や、よくある躓きポイントを株式会社AZの藤堂さんに語っていただきました。
データフィードはデータを供給する仕組みなので、データを持つ人、データを供給する人がゲームのカギを握ります。
ゲームに参加するには、まず元になるデータを持つ必要があります。EC企業でありながら商品データを整備・抽出することが難しいケースや、抽出するためにシステムの改変が必要になることがあり、そこが多くの企業で起こる最初の躓きポイントです。そして、単に抽出するだけでなく、フィードの送信先のフォーマットに変換するところで固まる、というのが次の躓きポイントですね。最後に、せっかくだからと仕組み化するために最初からカチッとしたシステムを組みたくなってしまって開発会社に見積もりを取ったら膨大な額(もしくは長い納期)で返ってきて固まる、というのが躓きポイントのハイライトではないでしょうか。
躓きポイントを避け、データフィードを集客に活かすには、しっかりと事前にアセスメントをする必要があります。企業のその時の状態によって必要な解が違うためです。
アセスメントには、状況の把握だけでなく、ロードマップの共有も含みます。藤堂さんからは、データフィードは運用が必須なので、一度仕組み化して終わりではなく、ゴールイメージを明確にして、それに向かってカジュアルに段階を上げていくことの重要さも併せてお伝え頂いたのが印象的でした。
データフィードの最適化
データフィード広告は、ターゲティングの情報やクリエイティブの元になる情報がフィードの中身で定義されています。これはつまり、入札やキーワードの追加などではなく、データの中身を整理することが広告の最適化の近道になることを意味しています。そして、スキーマの違うそれぞれのプラットフォームに合わせて適切に情報をマッピングすることの重要性もまた、このパネルディスカッションで議題に挙がりました。
フィードフォースの川田さんはGoogleマーチャントセンターの最適化項目を、Criteoの中嶋さんにはCriteoの最適化エンジンの仕組みをそれぞれ説明して頂きました。詳細には触れませんが、お二人とも、「入れて無駄な情報はない」「配信システムを理解して、データの質を上げていく」ことが重要だと仰っていたのが印象的でした。
データフィードと、これからの広告運用
データフィード広告の規模が拡大すればするほど、手動で行う仕事は高度化(上流工程へシフト)していかざるを得ないと思います。情報の鮮度や精度はフィードで自動的に担保される一方で、情報構造を理解し、メディアやプラットフォームごとに設計の部分を最適化することは、これまで以上に重要なスキルとして求められてくるでしょう。パネリストの皆さんから、実務者としての生のご意見を聞けたのはとても貴重でした。
併せて、自動化が進むほど、運用型広告におけるマニュアル作業は、単なる入札やレポート作業のレベルから、パフォーマンスを左右する重要な意思決定作業への完全な転換が図られる時期に来ているのではないかと思います。データフィードによって自動化の割合が増えていく運用型広告において、この「意思決定の精度」こそが、これまでよりも一層、求められてくるはずです。
データフィード周りの話は、少し前までは「こういうことができるようになる」とか「こういう取り組みが始まっている」というレベルだったのが、2016年の現在では、多くの企業から事例が聞かれるようになるくらい、現実が非常に速いスピードで追いかけてきています。
その事実をしっかり受け止めるための契機として、「デジタル神無月」のデータフィードセッションはあったのではないかと勝手ながら思う次第です。パネリストの皆さま、ご来場頂いた皆さま、本当にありがとうございました! 記念すべき第一回に登壇できたことを光栄だと感じるとともに、この面白いデータフィードという分野で、しばらく起こることを眺めていきたいなと改めて思います。
【お知らせ】
2016年11月25日(金)に行われる「Unyoo.jp Meetup The BEST 2015-2016」では、このデジタル神無月に登壇されたアナグラム田中さんとフィードフォース川田さんとともに、データフィードについてさらに語りたいと思います。まだ僅かですが席がありますので、ご興味ある方はお申込み下さい。
?リンク: Unyoo.jp Meetup The BEST 2015-2016
※本イベントは終了しています