感情を切り口とした動画広告のプランニング:アンルーリー香川晴代さんに聞く

感情を切り口とした動画広告のプランニング:アンルーリー香川晴代さんに聞く

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動画広告に関するニュースや記事、目にすることが多くなっていませんか?2016年7月5日のD2Cの発表によると、2015年の動画広告費は516億円とインターネット広告費全体の5.6%を占めており、2016年の動画広告費は825億円となると予測され、前年比160%と、引き続き高い成長率を示すと推計されています。

一方で、動画広告を配信してみたものの期待していたよりバイラルしなかったり、そもそも何を目的に、誰に配信すべきなのかが曖昧になってしまっている広告主も数多くいらっしゃるのではないでしょうか?今回、昨年10月に東京オフィスを開設した英国の動画アドテクノロジー企業アンルーリーの日本代表取締役の香川晴代さんに、ユーザーの感情を切り口にした動画広告の分析、プランニングについて話をお聞きしました。

話し手:アンルーリー 日本代表取締役 香川晴代さん

聞き手:アタラ合同会社 高瀬優

※このインタビューは2016年7月に行われました


2兆ビューの動画のビッグデータを活用

高瀬:まずは御社の事業についてご紹介頂いてもよろしいでしょうか?

香川:当社は2006年に創業した動画専門のアドテクの会社です。共感されシェアされる動画コンテンツ作りを支援するサービスと、媒体ネットワークへの動画配信サービスを提供しています。私達の強みは、2兆ビューの動画のビッグデータを保有している点です。YouTube、Facebook、Twitterにおける動画の再生に関する視聴数や、ソーシャルメディアでどんな動画が何回シェアされているかといったデータです。

以上に加えて、消費者の動画への心理反応データもあります。これは独自の動画コンテンツ評価サービス、ShareRank™を通じて蓄積したものです。

もう一つの強みは、世界の学術機関との協業を積極的に行っている点です。ハーバードビジネススクール、ペンシルベニア大学ウォートンスクール、アーレンバーグバス研究所(南オーストラリア大学)のほか、日本では慶應ビジネススクールなどです。動画視聴、シェアと消費行動との相関関係、共感をされ、バイラルする動画はバイラルしない動画と何が違うのか?などの学術研究に協力しています。

ShareRank™は、制作途中の動画をパネル調査によって評価し、拡散率を予測します。これは弊社が持つアルゴリズムに基づく評価システムであり、上述の学術機関との協力によって開発したものです。データに基づき、客観的に動画コンテンツを評価し、改善提案を行います。そしてデータに基づき動画配信を行います。

感情を動かしシェアしたいと強く思ってもらう事が重要

高瀬:ShareRank™は、昨年の11月から日本で提供開始したものですよね。

香川:そうです。消費財メーカー、自動車、家電・IT企業を中心に、日本でも導入が進んでいます。動画を見た人が共感してシェアをするという、態度変容が起きるには、約100種類の心理要素が関与します。心理要素の中で、最も重要なのは二点で、見た人の「感情」をどれだけ動かすかということと、「これはシェアしたい」と強く思ってもらえるか、です。シェアする動機はさまざまです。友達に意見を聞いてみたい、製品がいいから、動画をシェアしてリアルな世界で繋がりたいから、などです。

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動画視聴者の心理反応周期表

感情を動かし、シェアしたいと思われる動画は、ブランド好意度や購入意向を高めます。創業以来10年間実施してきたShareRank™のデータから、この相関関係が明らかです。つまり、感情を動かすメリットは、動画のシェアに繋がるだけではないんです。

ニールセンからも、感情が実際の売上高に大きな影響をもたらすとの調査結果が出ています。脳波測定装置を付けて、広告がどれだけ人の感情を動かすかを測定したところ、脳波記録(EEG)スコアが平均以上の、つまり感情を動かした広告は売上高が23%高いという結果です。

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高瀬:非常に興味深い結果ですね。御社が調査に使うデータを具体的に教えて頂けますでしょうか?

香川:私たちの動画の調査には、2つのデータソースがあります。1つはフェイシャルコーディングです。動画をウェブで配信する前の段階で、500人のパネルに動画を見てもらいます。うち100人はターゲットサンプルです。パネルに協力をお願いし、動画視聴中の顔の表情をウェブカメラで撮影します。もう1つは、動画視聴後のアンケート調査です。この2つのデータソースを使って動画の分析をしていきます。

フェイシャルコーディングは、世界で最大の顔表情データを持っている企業Affectiva社の技術を使っています。一方アンケートでは、より深い心理反応とその強度、認知、本能的、ネガティブな反応についてデータを集め、シーン別に分析します。

具体例として、パナソニック社は、「Beautiful Japan towards 2020」キャンペーンで、Webの動画て?なせ?離脱したのか、何を改善すれは?離脱率を下け?られるかを具体策に落とし込む目的でShareRank™を活用しました。

リンク:パナソニック、動画が与える感情の変化に基づき再編集、CTRは6%に

高瀬:事前に評価する方法は存じ上げていませんでしたが、ターゲット層の100人を含め500人からしっかりと評価されているんですね。

香川:はい。アンケートでは、動画を見た後にどんなことをするか、シェアしたいと思ったか、その理由、どのSNSでどのデバイスで見るか、普段どのデバイスで動画を視聴しているかなども聞きます。そして収集した情報をもとに、動画のコンテンツの最適化提案と、配信戦略を提案します。コンテンツに最適なターゲット、デバイス、動画フォーマット、動画プレーヤーを選び、配信します。

消費者とブランドの間に感情のつながりを

高瀬:動画の尺の長さについてはどのようにお考えでしょうか?

香川:ターゲットの視聴環境に合わせて短尺、長尺動画を使うのが効果的です。通勤途中にモバイルで見せるのは短尺、PCでじっくり見てもらえる環境に合わせて長尺、と使い分けると良いです。

高瀬:Googleと米国の製菓会社Mondelezとの共同調査では、短尺の動画は広告想起に優れ、長尺の動画はブランド好感度アップに適しているという調査結果が出ていました。こういったユーザーに期待する態度変容だけでなく、視聴環境も意識するとより効果的に動画広告を配信出来ますね。

香川:ちなみに、視聴完了率の高い動画は、心理反応の抑揚が途切れなく続く特徴があります。

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高瀬:なるほど。主だった感情に何かプラスアルファがあった方がさらによいものなんでしょうか。

香川:それは戦略次第ですね。消費者とブランドの間に感情のつながりを持つことが重要です。自社のブランドコンセプトにあった感情とは何なのか。競合企業とは違う種類の感情を狙いにいくのか、もしくは、競合と同じ感情なのか。同じなら、他社より強く出ないと目立たないです。

近頃、「Unruly Pulse™」を発表し、消費者の動画に対する心理反応データを公開しました。アンルーリーのファーストパーティ・データで、欧州、中東、アフリカ、アジア、北米、中南米の数千の動画に対する、50万件以上の消費者の反応を視覚化したものです。デモグラフィック、国・地域、企業業種別分析ができるものです。

Unruly_pulse

「Unruly Pulse™」画面一部

時系列で見てみると、例えばHappyの感情は、毎年10月から12月にかけてピークを見せます。この時期に多くの企業がクリスマス関連の動画を出す影響ですが、動画コンテンツに季節的なトレンドがあります。

企業個別の例では、P&Gのオリンピックスポンサーの動画、”Thank You, Mom”シリーズは、プライド、インスピレーションの感情反応が圧倒的に高く、消費財企業の動画の平均値に比べの2、3倍です。

高瀬:P&Gの五輪の動画もShareRank™を使って分析をされたのですか?

香川:そうです。これは私達が定期的にウェブ上で人気の動画、シェアされている動画を選んで実施したShareRank™の結果です。

Unruly Pulse™は、企業がどういう感情を狙って動画を作ろうかと参考例を探したいときに、便利に使えるデータです。例えば、ミレミアム世代を対象に、「驚き」の感情反応が高かった動画トップ5を探すこともできます。

それから国別に見ると、日本人は動画に対する感情反応が弱いのが現状です。なぜかというと、まずCMの流用が多く、ウェブ用の動画があまりないこと。感情反応を意識してコンテンツを作る企業が海外市場と比べてまだ少ないことに起因していると思います。

高瀬:今出ているコンテンツがそもそも感情を引き出しにくいということですね。日本は何がいいんでしょうね。

香川:一口で言うのは難しいですね。属性によって動画コンテンツへの反応は全然違うんです。年配の人は動画への反応が高い一方で、18?24歳のデジタルネイティブな人達は反応が低い傾向にあります。また、年配の人は温かみを感じる動画を好み、若年層は驚きや高揚感を好む傾向にあります。これは日本だけでなく、世界的な傾向なんですけど、若年層の心を掴むには、相当コンテンツに工夫が必要です。

国・地域によって動画に対する反応も様々です。同じ英語圏でもアメリカ人はイギリス人より動画に対する感情反応が高く、ブラジルやインドなど発展途上国は、世界中で最も反応が良いです。ターゲット国や属性の動画への反応を理解した上で、動画戦略を考えることが重要ですね。

高瀬:他の国の若年層と比べても日本の若年層は難しいんですか?

香川:そうですね。デジタルにすごく慣れていてコンテンツが溢れている中で生きている人達だから、ちょっとやそっとじゃ動画広告に対して反応してくれないということですね。

高瀬:面白いですね。日本の広告主さんがUnruly Pulse™をうまく使ってくれるといいなと思います。

動画広告との向き合い方

高瀬:最近かなり動画関連のニュースを見る機会が増えたような気がします。テレビCMでリーチできていない層を動画広告で取り込んだ資生堂さんの事例ですとか、動画市場自体もさらに成長するというデータも出ていました。実際日本でも引き合いは多くなっているんでしょうか。

香川:はい、まずウェブ用に長尺動画を作る企業が増えてきました。動画でブランディングという新しい流れができつつありますよね。ブランドマーケティングはテレビでやって、ウェブマーケティングが刈り取りを担当、その間がなかったのがこれまででしたが、動画を使ってそこをやるチャンスが出てきたと考える企業は増えています。

一方、日本企業が動画広告に取り組む余地がまだまだあると思います。競合企業と比較して、製品の差別化が難しくなっている現状を踏まえると、ブランディングでファンを作る努力をしていくべきではと。

高瀬:動画広告はテレビCMよりもPDCAを確実に早く回せますし、実際動画広告でのブランドマーケティングのニーズが高まっている一方で、評価をどうすればいいのかという課題もあると思います。

香川:今までは企画がよければやっていましたと。YouTubeでとにかく動画をあげなければいけないし、企画ありきか再生数で評価をしてきたけれども、それだけの軸ではないはずですよね。バナーを踏んで再生して「あ、しまった」みたいなこともあって、エンゲージしていないものもカウントされているわけだから、本当に狙っているターゲットの人達に届いているのかという評価をしたいと思っています。

あとはアトリビューションの話にもだんだんなってきています。消費財の企業だと、最終的に売れるかどうかはウェブではトラックできないので、ブランド好意度や購入意向くらいまでがKPIです。でもよりパフォーマンスに近いところをやっているブランドは、動画を見てどれだけウェブ誘導へ寄与したか、実際の購入に動画がどれだけ寄与したのかを知りたいと思っていますね。どう広告を評価していったらいいのかと相談されることもあります。

高瀬:なるほど。再生数ではなく動画の視聴完了率やエンゲージメントを評価の指標にすることは重要だと思います。その先に、じゃあ実際動画広告を投下したことでブランド好感度はアップしたのかという話や、オンライン、オフライン含めて売上にどれだけ貢献したのかというアトリビューションの話が出てきますね。動画広告単体の評価、成果で完結するのではなく、マーケティング施策全体の一部として向き合うことが出来る広告主が増えればいいなぁと思います。

今回ShareRank™やUnruly Pulse™のご説明をお聞きして、感情を切り口とした動画広告のプランニングの有効性を理解することが出来ました。ちなみに、感情ターゲテングによるカスタムオーディエンスのサービス「Unruly Custom Audiences」もお持ちですが、日本でのローンチ予定はありますか?

香川:現在、テスト配信しており、今期中のローンチを目指しています。

高瀬:すごく面白そうだなと思っています。本日はありがとうございました。


オフィシャルサイト:アンルーリー

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