運用型広告と自動化
ユーザー環境のマルチデバイス化や、配信フォーマット・ターゲティングの多様化に伴って、データドリブンなマーケティングが市場へ浸透しはじめたことで、運用型広告を取り巻く環境は急速な変化を続けており、比例してその複雑さも増しています。
複雑さが増せば増すほど、単純さ/シンプルさへの揺り戻しが求められるのは時代の常ですが、それはおそらく、字面通りの「かんたんで分かりやすいことしかできない」のではなく、「インターフェースや入力パラメータを簡素にするぶん、人間がやると大変だったことを機械演算で高精度にやろう」というプラットフォーム側の努力と進化によって実現されるのだと思います。
リスティング広告やDSPの入札業務などはその最たるもので、現在では、(サードパーティの入札ツールなども含めて)キーワードレポートに記載されている情報を元に上限CPCをマニュアルで調整するという旧来の入札業務と、プラットフォームが把握しているあらゆるシグナルを活用した自動入札とでは、配信の規模が大きくなればなるほど、効率でも効果でもほぼ比較にならないレベルまで差がついてしまっているのが現状です。
以前「Google 広告の「データドリブンアトリビューション×自動入札」から考える、広告運用者のこれから」という記事でも触れましたが、2014年の8月に行われた Forrester と Google の共同調査によると、自社のリスティング広告運用(特に入札)を半分もしくはそれ以上自動化している企業は全体の75%にも及び、完全自動化している8%の企業を含めると、全体の8割以上が運用の大半を自動化しているという調査が出ています。自動化を検討するというフェーズは既に過ぎ、どう実施するかという議論に完全に移っている印象です。
※大規模Eコマース事業者(従業員が200人以上)240社の意思決定者を対象
自動化の時代に、運用者がすべきこと
ここで重要なのは、「自動化だから人手が要らない」ということではなく、自動化の促進によって、手動で行う仕事が高度化(上流工程へシフト)し、創造性が必要な仕事の重要性が一層高まっているということだと思います。
マッキンゼーが米国労働省と労働統計局のデータを元に調査した資料「Where machines could replace humans?and where they can’t (yet)」でも、技術系のサービスを含む「Professional」は、データの加工や処理タスクの半分が自動化可能だとしつつも、プランニングや意思決定といったクリエイティブな上流工程のほとんどは人間の仕事だと分析しているように、自動化が進めば進むほど、「仕組みを理解」して「適切な意志決定」ができる人材の市場価値は以前より高まると思われます。
では、「深く理解」し、「実行できる」ようになるためにはどうすればいいのでしょうか。
さまざまな方法論があると思いますが、スポーツやゲームなどと同じく、「場のルールを知る」ことはどんなビジネスでも最低限必要だと思います。個人的な意見ですが、この分野を語る上で、世界最大の運用型広告プラットフォームであり、高精度の自動化機能を有する Google 広告を無視して、この分野を「深く理解」することはできないと思っています。
そこで、今回の特集(全4回を予定)では、Google 広告の仕組みと自動化機能を今一度考えることを通じて、運用型広告の現場に従事する人たちの価値を再構築することを目指してみたいと考えています。
ここからは、実際に Google でGoogle 広告のキャンペーンマネジメントを牽引していらっしゃるお二方にお話をお聞きしながら進めていきます。
グーグルに聞く、運用型広告の構造と自動化の関係性
話し手:グーグル株式会社
広告代理店営業部 エージェンシー プロダクト スペシャリスト/エージェンシー トレーナー
米満智之さん(左)
シニア ソリューション エキスパート モバイル パフォーマンス
水谷嘉仁さん(右)
聞き手:アタラ合同会社 取締役CCO 岡田吉弘
※インタビューは2016年5月に行われました。
自動入札の精度は日々向上している
岡田:本日は、グーグルの米満さんと水谷さんに、運用型広告の構造と自動化についてお話を伺いたいと思います。
オンライン広告の基本構造は、ユーザーが広告を見て目的地まで辿り着くまでに必要な情報である「表示される広告(Ad)」、「広告が表示される条件(Targeting)」、「アクション後の遷移先(Destination/Final URL)」の3点セットが必要で、これが広告を構成する最小単位になると思います。Google 広告はこれを「広告グループ」と呼んでいて、現在の運用型広告のプラットフォームの多くはこれと同じか非常に近い構造でできていますよね。それが積み重なって「キャンペーン」という箱になり、さらにそれの上位がアカウントになります。それぞれのレイヤーごとの役割をしっかり理解した上で設計運用しているアカウントもあれば、きっとそうでないアカウントもあるのが現状です。そこで、今回はその仕組みをちゃんと理解した上で、成果を上げるための自動化はどう活用していくべきなのか、というヒントをいただきたいなと思っています。
水谷:自動化にも様々な意味があると思いますが、まずは入札の自動化についてお話しします。Google 広告をご利用頂く目的や成果指標はお客様によって違うため、Google 広告では様々な目的に合わせた自動入札を提供しています。「クリックの最大化」や「コンバージョン数の最大化」などを始めとして、最近はデータドリブンアトリビューションモデルを利用した自動入札(※)などもローンチしましたので、多くのお客様の入札を自動化しやすい環境が整っています。
※参考:Google 広告の「データドリブンアトリビューション×自動入札」から考える、広告運用者のこれから
このように環境が整ってきたことに加え、「検索ネットワークにおける自動入札機能の活用ガイド」というPDF資料(※)でも解説していますが、検索の自動入札は日々改善されて精度が上がってきています。データがどんどん溜まってくることで予測の精度が高まっているんです。
※リンク(PDF):
https://services.google.com/fh/files/misc/search_autobidding_jp.pdf
岡田:自動化の重要性は明らかになっている一方で、日本のアカウントだと自動化が進んでいるとは必ずしも言えない状況がありますよね。
水谷:自動化の品質は上がっているのでアルゴリズムに任せてほしいと思う一方で、自動化の成果はインプット次第でいくらでも変わってしまうことも事実です。雑音が多かったり、データの学習が活かしにくい構造ではなかなか力を発揮できません。そこで、「自動化ははすごくいいものになったのでインプットをきれいにしてください」というイニシアチブを行なっています。
データ量と、アカウント構造
岡田:日本のアカウントって、細かく分けすぎて複雑化してしまう傾向があるものの、比較的運用者のがんばりによってきちんと整っているアカウントも多いと思いますが、やはりそれでも雑音が多かったり、構造的な問題があるということですね。
米満:日本は細かく複雑な構造になってしまう傾向があるのは仰るとおりでして、ただ、それは別に誰も悪いわけじゃなく、むしろ成果を追い求めてきた結果でもあるんですよね。広告グループを細かく分けるのは、ユーザーに対して的確な広告文を出そうという思いが強いからこそだと思いますし。
岡田:私も、日本のアカウントは頑張っていると思います。いいか悪いかは置いておいて、「クレイジーだ」と言われるくらい偏執狂的に細かいアカウントがあるのも事実ですし。
米満:その結果、広告グループの粒が非常に小さくなる傾向が強まりますよね。広告の良し悪し、ひいては自動入札の精度を判断するにはクリックにしろコンバージョンにしろ、ある程度の量が必要になりますが、広告グループが細かすぎるがゆえに量の観点が抜けてしまい、システム側で「この広告がいいのかどうか分からない状態が続いている」というアカウントが多くなってしまっているのだと思います。
岡田:細切れの広告グループによって機械学習するための十分なデータが揃わなくなり、品質計算の精度が上がりにくくなり、適切な広告が出にくくなってしまうと。そして、そうならないためのイニシアチブを行なっていらっしゃるということですね。
米満:はい。グーグルは情報を整理している会社ですが、情報整理の原型はウェブのディレクトリだと思うんですよ。もし、その企業のウェブサイトのディレクトリ構造に沿った形で広告のアカウント構造を設計したとしたら、おそらく各コンテンツに集まりうる検索クエリは大量にあるはずです。そして、その検索クエリに紐付いているたくさんのシグナルをグーグルは保持していますので、「これはよい」「これは悪かった」と判別していくことができます。仮にそのアカウントでのデータが足りなくても、類推するためのデータも大量にありますので、統計的に有意なユーザー傾向を予測しながら最適化していきます。だからこそ、アカウントの基礎の土台を整えたらきっと細切れにするより効果が出ますよね、という考え方で進めています。
岡田:なるほど。つまり、自動入札のための構造設計ではなく、情報構造を整理することで結果的に広告アカウント側の判断精度も上がり、結果的に自動入札も良くなっていく、ということですね。せっかくですので、そのイニシアチブについて、もう少し詳しくお伺いしたいと思います。【第2回に続く】
第2回は、Googleの行なっているイニシアチブから、運用型広告の自動化と、それによって浮かび上がる現場の価値を紐解いていきます。【第2回】はこちら