動画ビジネスとMCNの未来:UUUM鎌田和樹CEOに聞く

動画ビジネスとMCNの未来:UUUM鎌田和樹CEOに聞く

動画のバーティカライズ(業種化)と広告

岡田:どんどん聞いちゃいます。次はコンテンツの中身についてお聞かせ下さい。UUUMではいわゆるホールビデオ(Haul Video)と言われるような「買ってきた動画」「使ってみた動画」や、“マルチクリエイター”とジャンル分けされている方々がやっているエンターテイメント系の動画が多いと思います。

一方で、最近は、料理や美容、旅行などにジャンル分けされた動画ネットワークがどんどん出てきていますよね。バーティカライズされた分野にユーザー規模がついてくると広告も出稿しやすいですし、コンテンツそのものも作りやすい。マーケットの規模は狭まる反面、運営のしやすさや拡大のスピードも出やすいのかなと思っています。実際私もTastemadeTastyなどは好きでしょっちゅう見ています。

様々なクリエイターさんが支える反面、何ができるのかが分かりにくいと思ったりもするんですが、そのあたりはいかがでしょうか。

鎌田:今のご質問は、まさに以前から社内でディスカッションしていることです。仰る通りUUUMはさまざまなコンテンツの集合体であり、今では月間再生数が15億回を超えていますが、決して特定の何かにカテゴライズがされているネットワークではありません。海外では特に、どんどんバーティカル化が進んでいます。

私は2014年が動画元年だと思っていて、その頃は何でも動画だったら許されるところがありました。動画である必要が必ずしもないコンテンツがあり、そういう批判すら吹き飛ばされるくらい何でも動画だったらいいよという風潮です。それは今でも多少続いているかもしれませんが、後発でいろんな企業さんが出てきていて、みなさんカテゴリーを特化した戦略を採っていらっしゃいます。我々もここまでの戦略はシンプルに伸ばすことでしたが、今後はよりセグメントを分けることを意識した運営をしていく予定です。

例えば、女性がいる動画とゲーム実況動画では、再生回数の伸びはまったく違うわけです。だから伸びやすい方に舵を切るのではなく、我々は全部やるべきだと考えています。アメリカではカテゴリーそれぞれで成立する市場規模がありますが、日本では全部やらないと無理だと思っています。

岡田:それは単純にマーケットサイズの理由からでしょうか。

鎌田:そうですね。まだ動画の市場規模は1,000億円もないと言われていますから。

岡田:数字を見るとまだまだこれからだけれども、今後は分からないと。

鎌田:そうです。日本が抱えるネット動画の最大の課題はマネタイズだと思います。世の中で一番高い動画は映画なんですよ。わざわざ観に行かないといけなくて、1800円払う必要があるわけです。一方で、ネット動画は今ではスマートフォンでワンタップで無料で見れますから、とにかく便利です。便利であるがゆえに、ユーザーが広がりすぎていて、そこに輪をかけてネットではブランドがなかったりしますので、実際には効果はすごく良いものが多いのに、デフレ化が進んでいくわけです。

岡田:単価が上がっていきにくい構造を打破するためには何が必要なのでしょうか。

鎌田: ハリウッド映画みたいな単価の高いところで一人勝ちしているビジネスに対抗するためには、映像に力を入れて作っていくしかないと思うんですよ。制作費をリクープする仕組みがなかなか難しいですが、アメリカではMCNが制作会社として成立している例もありますし、ネットで見られるコンテンツにどう価値を付けてブランドを作っていくか、バーティカル化と合わせて進めていくことで、現状の差を埋めていくしかないと思います。確固たるブランドができれば、そこに広告したい、スポンサーしたいという企業さんの流れもついてくると考えています。

動画と音楽産業の相似

岡田:ありがとうございます。マネタイズの話をもう少しお聞きしたいのですが、先ほど「動画の市場規模が1,000億円」という話がありましたが、それは動画広告の市場規模を指していらっしゃると思います。

そこで例えば音楽産業に目を向けてみると、21世紀に入ってCDが年々売れなくなってきている反面、ライブの入場料やグッズ販売、配信や著作権料など、収入のポートフォリオを変えてきた歴史がありますよね。オンライン化でコンテンツへの到達コストが劇的に下がった代わりに、リスナーはフィジカルな体験を求めてライブへ以前より足を運ぶようになり、ライブやコンサートの動員数は年々増えています。

動画産業を同じように捉えてみると、マネタイズは必ずしも動画素材だけを対象にする必要はないのではないかと思っています。先ほどのクリエイターへのサポートや、コンテンツそのものの価値をより高めていくというお話の中で、HIKAKINさんのような、多様なマネタイズの道をUUUMがバディとしてサポートしていく流れはあるのでしょうか。

鎌田:それもすごくいい質問ですね(笑)。社内には「うちはなぜプロダクションじゃなくてコンテンツカンパニーなのか」という説明をするのですが、我々の強みは「クリエイターさんがいることで、日々新しいコンテンツが生まれていくことなんだよ」という伝え方をします。

UUUMのクリエイターが作った動画に、寝ている子を起こさずに電球でテニスをするという動画があるんですけど、そのアプリを作ったら瞬間的にアプリランキングで3位になったりするんですよ。それからLINEのクリエイターズスタンプのランキングに入っているこれ(ヒカキンスタンプは書き起こし時は4位。38位にもぽきお/PockySweetsスタンプ)もUUUMのクリエイターです。UUUMがプロデュースしています。

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岡田:アプリクリエイターではなく、YouTuberなんですよね?

鎌田:YouTuberです。彼らがスタンプを出して、それを動画に載せると、ぽーんと売れます。コンテンツは人自身でもあるし、そこから生まれる映像やLINEスタンプもそうですし、Tシャツや、リアルイベントもその一つだと思っています。このようにIP(Intellectual Property:知的財産)が生まれ続けていくことが、コンテンツカンパニーだという所以なんです。先ほどの音楽産業の話と同じように、今後ますます変わっていくと思います。

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IP展開のイメージ
 

クリエイターが育っていく仕組み

岡田:すごくよく分かりました。IPのような権利関係の強化は、コンテンツの著作権問題と絡めても、非常に重要ですよね。

鎌田:そうですね。よく「UUUMに入ったらやっちゃいけないことが増えるんですよね」みたいなことをクリエイターさんに言われるんですが。

岡田:たぶん本来そんなことはなくて、やっちゃいけないようなことを今までやっていたからそう思うのかもしれませんね。

鎌田:おそらくクリエイターさん自身が考えないといけないことが増えるとは思います。再生回数だけを取ろうとするコンテンツはいくらでも作れると思うんですよ。世の中ルールがないところですごいことをしたら勝てますよね。でもやっぱり不快感を煽ったり、モラルに反するようなものにならないように「考えて作った方がいいよ」と言う場面はあります。今まで誰にも言われなかったことを伝えるわけですから「キツいっすねUUUM」みたいに言われることもありますが、「いやこれが普通だから」と。UUUMに所属してようがしてなかろうが、動画の後ろに一般の方がいたらモザイクをかけるのは当たり前、写り込みと写し込みは違うんだよと、当たり前のことを当たり前に伝えます。

岡田:そのレベルから分からない方もいるということですね。

鎌田:そういうことは一つずつきちんと教えていますし、コンテンツホルダーさんとの会話も増やしています。例えば妖怪ウォッチなんかにしても、クロスメディアをうまく活用して成功している戦略がありますよね。「動画」というキーワードで取り組みを増やしていくことで、クリエイターが育っていくと考えています。

最終ページ: 動画広告の運用と、動画プラットフォームの未来

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