動画ビジネスとMCNの未来:UUUM鎌田和樹CEOに聞く

動画ビジネスとMCNの未来:UUUM鎌田和樹CEOに聞く

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「YouTuber(ユーチューバー)」に代表されるように、動画という表現方法で発信力を高めている個人がたくさん現れていますが、その個人をサポートする企業についてはそれほど知られていません。MCN(Multi Channel Network)と呼ばれる動画ネットワークはここ数年で世界中に拡がっており、その存在感を増しています。

今回は、日本を代表するMCNであり、動画を通じて個人をサポートする企業として名高い、UUUM株式会社 代表取締役CEOである鎌田和樹さんに、動画を活用したマーケティングと、個人のエンパワーメントについて、忌憚のないお話を伺いました。

話し手:
UUUM株式会社 代表取締役CEO 鎌田和樹さん

聞き手:
アタラ合同会社 取締役CCO 岡田吉弘

※このインタビューは2016年4月に行われました。


MCNとは、何なのか。

岡田:本日はありがとうございます。UUUMは一般的にはMCNと呼ばれる機能を有している企業だと思うのですが、MCNという言葉を聞いてもピンとこない人も多いと思うので、まずはMCNの定義からお聞きできればと思います。

kamata鎌田:MCNとは「Multi Channel Network」のことですが、狭義にはYouTubeのネットワークを指しているものの、字義的には Multi Channel ですから、広義にはYouTubeだけを指すわけではなく、様々なメディアを束ねる存在としてMCNという言葉を捉えるといいのかなと思っています。YouTubeのヘルプにあるように、チャンネルそのものの機能としてだけでなく、ツールやサポートを提供するクリエイター向け支援団体ですね。

岡田:YouTubeのヘルプにはMCNの説明ページがあって、「ご自身で慎重に選択してください」と書いてあったりするので、印象的にはちょっとネガティブというか、構えてしまうのかなと思いました。

参考:マルチチャンネル ネットワーク(MCN) – YouTube ヘルプ

鎌田:弊社ではYouTuberプロダクションという表現をしていますが、「それとMCNはイコールなんですか?」と訊かれることがあります。我々はYouTuberやネットインフルエンサーの人達のマネジメントを行っている一方でGoogleさんからMCNの認定もいただいているので、意味的に重なってしまって分かりにくくなっている側面はあると思います。

okada岡田:「YouTubeに動画をアップロードする個人を支える会社がある」という事実はおそらく一般的には認知されていないと思うんですよね。だからこそ、市場を作ったり市場に参入するときにはシンプルで伝わりやすい言葉があった方が事業を理解してもらいやすいと思います。UUUMにはそういうものはありますか?

鎌田:ちょっと回答としては違うかもしれませんが、我々としてはクリエイター個人をサポートしていきたいし、自社でいろいろなプロダクトを作っていきたいという気持ちもあります。ですので、それらをまとめて「コンテンツカンパニー」だと言っています。UUUMはMCNそのものではなく、幾つかある事業の一つとして ?もちろん主力事業としてですが− MCN事業がある、という位置づけですね。MCN事業の機能を分解すると、やはりサポート機能の比重が大きいと思います。

岡田:なるほど。御社でのMCNの位置づけが分かりました。ちなみにサポート機能というのは、表現者をサポートするという意味でしょうか。

鎌田:その通りです。「YouTubeって一人でできるじゃん、なんでYouTubeに事務所が必要なの?」といったことはよく訊かれます。我々の答えはシンプルで、「一人でできるけれど、高みを目指すと一人ではできなくなってくる。そういうときに私たちの価値が出るんです。」と答えます。クリエイターの代わりに企業と折衝したり、グッズも一人では作れないし売れないので、それを請け負うと。こんな話をすると、「地味だね」と言われたりもしますけど(笑)。

岡田:地味ですかね。

鎌田:芸能事務所などと比較されるので、地味なのではないでしょうか。でも我々に限ららず、基本的にやっていることはみなさん地味で、生まれてくるものがたまたまエンターテイメントであるということだと思います。

岡田:私の仕事も「広告」と言えば派手なイメージですが、実際にやっていることはものすごく地味なことの積み重ねだったりするので、今仰られたことは非常に納得感があります。

伴走する社員も含めて、クリエイター

岡田:今のお話の流れで、UUUMという会社や、MCNというマーケットへの捉え方がどう変わっていくとよいと思われますか? どう見られたいかでもよいのですが。

鎌田:ただ単純にクリエイターのマネジメントだけであれば、MCNではなく「◯◯事務所」や「△△プロダクション」でいいと思うんですよ。UUUMは、シンプルにクリエイターをサポートしたいと思って立ち上げ、後になってからアメリカでMCNというものがあると知りました。

だからMCNになりたいと思って作ったわけではなくて、後からMCNというラベルが付いたけれども、出自としてはクリエイターさんと一緒に何かを生み出していく会社だと思っています。

海外のMCN、例えばWarner Brothers が出資しているMachinimaなどでは、膨大な資金力で本格的な映像をクリエイターと一緒に作り始めています。元々はチャンネルをまとめるだけの役割だったMCNが、クリエイターの想像力やアイデアを借りながら次のコンテンツやプロダクトを作り始めているわけです。我々もそういう風になっていかなければいけないですし、クリエイターが作る動画も、企業さんと一緒に作るマーケティングコンテンツもそうですが、一緒になって生み出していくからMCNだと呼べると私は思っています。単純に「我々の仕事はサポートです」と言い切ってしまうと、事務所色が強くなってしまうと思うんですよね。

岡田:なるほど。最初はクリエイターをサポートする目的でUUUMを創業されたとのことでしたが、海外では今仰られたような動きがあったり、企業からのニーズをまとめていく中で、自らが率先してプロダクトやコンテンツを作り上げていく方向にUUUMはある、ということでしょうか。

鎌田:はい。企業さんからも「何か動画を使ってやりたい」というご要望は非常に多くあるんです。だから最初は営業部隊を作り、受注してハンドリングして、という芸能事務所と近い仕事を中心にしていました。ただ、我々は何が違うのかなと考えてみると、最終的なアウトプットにおそらく違いがあるんだと思っていまして、「CMに出演してください」だとおそらく出演したCM以上のものは生まれませんが、我々の仕事は、動画に付随する視聴者の反応や共有なども含め、様々なものが生まれ、可視化されます。

そして、何より新しいクリエイターが生まれるんです。そういうところにきちんと我々はフォーカスを当てるべきだと思っています。サポートする側は地味だったり、裏方じゃないといけないとすると、マーケットを作っている社員も輝けないじゃないですか。

岡田:サポートしている側も含めて「クリエイター」ということですね。

鎌田:そう。一緒に伴走していくから、弊社はマネージャーでなく「バディ」という表現をしています。アシスタント、マネージャーというと、どうしてもクリエイターから御用聞きをするようなイメージになりますから。

岡田:確かに。

鎌田:ですので、MCNの定義という話に戻ると、単純な動画ネットワークではなく、コンテンツをクリエイターとともに生み出していく共同体というのが定義になるのではないかと思います。

動画クリエイターではなく、“YouTuber”

岡田:ありがとうございます。次は動画というフォーマットとプラットフォームについてお聞きしますが、例えばUUUMは現在日本で一番多くの動画クリエイターを抱えていらっしゃって、ウェブサイトやオフィスの受付を見ても分かるようにいわゆるYouTuberのイメージがあります。

一方で、動画というフォーマットは今やYouTubeだけではなく、FacebookやInstagramなどのソーシャル・ネットワークが非常に力を入れています。そんな中で“YouTuber”という言葉はどこまで汎用性を保ち続けられるのか、ということが気になっています。そのあたりはどう捉えていらっしゃるのでしょうか。

鎌田: “YouTuber”というのはそもそも造語でして、2014年くらいから海外では“YouTube Star”などと言われています。最初はHIKAKINに「YouTuberっていう職業があるんですよ」と教えてもらったことで知ったのですが、正直「嘘でしょ」と思っていました(笑)。内容だけ見ればたしかに「動画クリエイター」と名乗るのが分かりやすい表現ですよね。

でも、今だからこそ思うのは、2000年代後半にYouTubeをGoogleが買収して、様々な広告メニューを作り、AdSenseと連携させて一つのエコシステムを作り上げた。あの一連の仕組みは、やはりすごいことだと思っています。多くのプラットフォームが自分たちのプロパティに動画を取り入れないと、とやっきになって動き出していますが、個人のクリエイターにその恩恵を還元する仕組みがまだ作り上げられてはいません。

動画を公開するという表現活動をひとつの職業として成り立たせることに成功した現時点での唯一のプレイヤーだということを考えると、私はやはり“YouTuber”という表現が相応しいと思います。“動画クリエイター”だと映像を受託で作る人みたいなニュアンスに思う人もいるかもなってしまいますし。

岡田:動画の制作者というイメージが浮かんでしまいますよね。

鎌田: YouTuberがやっていることは、YouTubeに動画をアップロードして、広告収入を受け取ったり、企業さんと一緒にコンテンツを作ったり、活動の中心がYouTubeであると思うので、私はそのままでいいのかなと思いますね。

YouTubeがエコシステムの中心

岡田:ありがとうございます。もうちょっとだけお聞きしますと、通常MCNは、YouTubeから発生した広告収入をレベニューシェアしますので、動画の本数や視聴数の増加に応じて収入がある程度連動していくモデルですよね。似たような仕組みで言うと、FacebookのInstant Articlesのように、パブリッシャーのコンテンツを特定のネットワークにアップロードして、アップロード先がホストするかたちで閲覧できるというモデルがあります。

Instant Articlesであればパブリッシャーはアップロードしたコンテンツのデザインや広告枠にある程度の自由度があるので、YouTube以外でもMCNに近いような仕組みが可能だと思います。今後はそういった情勢も変わりそうでしょうか。

鎌田:そうですね。YouTubeは結果としてYouTuberのような個人が力を持って作ってきたコンテンツプラットフォームのようになっていますが、弊社のクリエイターは年齢層の問題なのかFacebookをやっている人が必ずしも多いとは言えず、視聴者のボリュームゾーンも若年層が大きいのは事実です。Twitterは情報発信の一つとしてやっているようなのですが。

岡田:オープンなプラットフォームであり、すでにエコシステムが成立しているし、クリエイターに焦点が当たるYouTubeが最優先ということですかね。

鎌田:そうですね。会社を作ったときから「他のプラットフォームとは仕事しないんですか?」という質問は頻繁にいただくのですが、それに対しては「YouTubeがビジネスの面で適しています」という回答をしていました。もう少し厳密に言えば、「我々のクリエイターが作っているコンテンツは、YouTubeに適している」ということだと思うんですよ。

Facebookではビジネス誌のような媒体社が優先されると思いますし、短尺のニュースのようなものが好まれるとすれば、我々がそういったアセットを持っているわけではないので、今は違うのかなと。

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岡田:なるほど。ちょっとしつこい感じで恐縮ですが、でも、マーケットというか、可能性はそこに厳然と存在しているわけじゃないですか。Facebookのようなプラットフォームに適したコンテンツを作れるクリエイターが今はいないけども、プロデュースしたり一緒に作ればいいという話でもあるのかなと、一人の外野としては思ってしまうのですが。

鎌田:厳しいですね(笑)。でも非常にいい質問です。YouTube以外のプラットフォーム向けに何かをやるとすると、今仰られたとおり、専用に何かを作るのか、コンテンツを仕入れてディストリビューションするのか、いろいろと選択肢があると思います。日本ではあまり流行っていませんがアメリカではそういう動きも進んでいるので、本当に検討段階入ってきているなと思います。

次ページ: 業種化する動画ネットワークと、音楽産業からの学び

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