the Connected Age には、より戦略的で活発な議論を!:ブランドサミット2016イベントレポート

the Connected Age には、より戦略的で活発な議論を!:ブランドサミット2016イベントレポート

電通・博報堂に厳しい意見も聞いた

次に紹介したいのは、これは私にとっては残念なことなのだが、今回のブランドサミットの中で「電通・博報堂が広告の素人になった」という趣旨の話を2回聞いたことだ。ディナーパーティー中にブランド側の担当者から、それぞれ別々に聞かされた。

私は15年以上に渡って、電通・博報堂と仕事をしてきたし、現在も、私の仕事の半分以上が、総合代理店と協業しているのが実情だ。電通も博報堂も非常に優秀なスタッフを多く抱えていて、デジタル広告についても詳しい人がたくさんいる。もちろん、ブランディングやマーケティングについてのプロも数多くいる。私は、この電通・博報堂との仕事を通して、多くのことを学んできたし、正直にいうと、彼らに育てて頂いたと思っている。

だから、「電通・博報堂が広告の素人になった」という話をブランド側から聞くと、まるで自分のことのように悔しい。

「電通・博報堂がネット広告の素人だ」といわれるのは、昔からそうだったし、ネット広告だけの領域ならネット専業代理店もかなり優秀なスタッフがいるので、仕方ないかと思うところもある。

しかし、「電通・博報堂が広告の素人になった」といわれると、「いや、そんなことはないよ」と反論したくもなる。ただ、そう言われている背景や理由もあると思う。

まず、デジタル領域については、これだけ多くの媒体があり、多くのツールやサービスが存在しているため、電通・博報堂の営業局のスタッフが全てを把握するのは不可能になった。

そのため、例えば、Google や Twitter、Facebook などのメジャーな媒体であっても、細かい点についてブランドから質問されると「持ち帰って確認しますのでしばらくお待ち下さい」となって、その場で対応できないケースが多い。デジタルマーケティングの専門家として仕事をしている私だって、全てを把握できている訳ではない。なので、ある意味、この点については仕方ないところがある。

「マスとデジタルを連携した施策」に課題がある

ただ、これは大事だと思うのだが、「マスとデジタルを連携した施策」について、その手法や効果、あるいは、その経験値を問われると、まだまだ人材不足だと言わざるを得ない。

ブランド側からすると、「マスとデジタルを連携した施策」についての課題解決を、デジタルしかやっていないネット専業代理店に期待することはできない。そのため、自ずと電通・博報堂の門を叩くことになるのだが、このマスとデジタルを連携したプランニング、コミュニケーション・デザインができる人、あるいは、この両方の領域の特徴をきちんと把握しているクリエイティブ・ディレクターが不足している。まったく存在しない訳ではないが、人材不足は否めない。

その結果、電通・博報堂が頼りない存在になってしまい、「電通・博報堂が広告の素人になった」と感じてしまうのだ。

その間隙を縫うように、コンサルティング会社がマーケティング領域に入ってきて、跋扈しつつある。あのマッキンゼーですら、弊社に問い合わせをしてくるぐらい、マーケティングと広告の領域に入ってきている。

Googleでの経験で感じていること

私はGoogle在籍中に、Sales Strategy and Planning という営業戦略チームでシニアマネジャーをしていたため、Google Japan の営業戦略立案に関わっていた。

この営業戦略チームは当時、APAC(アジア太平地域)で連携して活動していたため、私の上司はオーストラリアの Google に在籍していて(ちなみに、日本にも上司がいて、ダブルラインといって2人の上司が存在していた)、そして、同じチームのメンバーたちは、インド、シンガポール、中国、韓国など、みんな別のエリアにいて、常にテレビ会議でミーティングをしていた。

このチームメンバーの多くは、コンサルティング会社出身者だった。上司はマッキンゼー出身のイギリス人だったし、他にもボストン・コンサルティング・グループやアクセンチュア、ブーズ・アンド・カンパニー出身の人がいた。その多くが、ハーバード大学MBA、スタンフォード大学MBA、オックスフォード大学MBAなどだった。

ちなみに、その時のチームには私に3人の日本人の部下がいたのだが、3人とも大学院卒で、そのうちの一人は、コロンビア大学MBA – 東京大学博士号取得、そして、博報堂のストラテジックプランナーを経てコンサルティング会社に転職した後に、Googleに入社。他の一人は、京都大学修士号取得の後に電通に入り、その後にGoogle に転職していた。

コンサルティング会社と電通・博報堂の能力に大差はない

つまり、何が言いたいのかというと、この営業戦略チームは、コンサルティング会社のバックグランドを持つ人間と電通・博報堂のバックグランドを持つ人間が入り混じり、Google Japan の戦略あるいは Google APAC の戦略について日々議論していた。

彼らとの仕事を通して、私が感じたことは、当然のこととして、彼らはみんな優秀で、戦略的思考回路を持っていて、そして、ビジネスの事務処理能力も高く、かつ、人間的な魅力もある人たちだった。

ただし、マッキンゼーなどのコンサルティング会社出身者と電通・博報堂から来た人とを比較した時に、その能力に大きな差があるのかというと、私の目から見て、そこに大差はない。あるとすれば、英語ネイティブであるかどうかぐらいで、それ以外の点、例えば、マーケティングの知識や戦略的なフレームワークの知識、あるいは、デジタル広告に関する知識やその応用力には差がないということだ。

最近の仕事で感じているのは、このコンサルティング会社と電通・博報堂がデジタル回りの競合案件でぶつかるケースが増えてきたということだ。

その時に、この両者に能力的に大きな差異がないとすれば、差をつけるのは、デジタル回りの知識、特に、マスとデジタルを連携した広告の運用に関する経験と知識、そして、人的ネットワークではないかと思っている。なぜなら、やはり、日頃から付き合いがあって、情報交換や意見交換をしている人間同士の方が仕事を依頼しやすいと思うからだ。

電通デジタルからもっと参加して欲しい

そのような観点から、私は、このブランドサミットに参加することには意義があると思う。電通・博報堂にとっても意義があると思うし、コンサルティング会社にとっても意義があると思う。

今回、博報堂は、博報堂本体から3人、博報堂DYデジタルから3人の合計6人が参加していた。一方で、電通は、電通本体から2人、ネクステッジ電通から1人で、合計3人だ。会社の規模を考えると、博報堂が6人を送り込んでいるなら、電通は、その倍の12人をブランドサミットに送り込んでもいいと思う。

今後、電通からの参加人数がもっと増えることを期待したいし、この7月には「電通デジタル」ができるわけなので、来年は電通と電通デジタルから大挙して優秀なスタッフを送り込んできて欲しい。電通デジタルについては、「電通、経営コンサルティングでも勝者を目指す」(日経ビジネスONLINEの記事)が参考になる。ぜひ、目を通して欲しい。

ところで、話は変わるが、最終日の「Brand Summit 2016 Wrap up Discussion」でパネルの一人として登壇した、日本マクドナルドの足立光さん(マーケティング本部 上席執行役員 マーケティング本部長)が、ブランドサミットは素晴らしいものだったと評価しつつも、「もっとマーケティングの戦略的な話も聞きたかった」という趣旨のコメントをしていた。

電通・博報堂が来れば、もっと戦略的な議論もできるはず

R/GAのJay Zasaさんの話にあった Big Idea、あるいは、Whole Idea について議論する面もあったとは思うが、全体の傾向としては、Digital Tactic よりのプレゼンが多かった。参加しているパートナー側のメンバーを見ていると、これも現時点では仕方ないとは思う。

しかし、私も日本マクドナルドの足立さんの意見に共感していて、できれば、今後は、より戦略的な話を議論できるセッションも増やしていって欲しいと主催者の Comexposium Japan にはお願いしたい。

そのためには今後、このブランドサミットに、マッキンゼーなどコンサルティング会社のマーケティング領域の担当者と、電通・博報堂のストラテジック・プランナー、コミュニケーション・デザイナー、そして、マスとデジタルに精通したクリエイティブ・ディレクターなどに、もっともっと参加して盛り上げてもらいたいのだ。

最後に、アメリカのブランドサミットなど海外イベントと比較して、お願いしたいことがあるので、記しておきたい。

海外イベントと比較すると、質問と議論が少ない

昨年、私はアメリカのブランドサミットに参加したのだが、感じたことは大きく3つある。

一つは、参加している年齢層が日本よりも高くて、ブランド側から50歳代のCMOクラスが日本よりも数多く参加している点だ。今回のこの沖縄のブランドサミットには、おそらく、昨年よりもブランド側のCMOクラスが多かったと思っているので、少し前進したと思っている。が、もっともっと参加して欲しい。

次に、アメリカのブランドサミットも日本のブランドサミットも、全体的な内容やレベル感はあまり変わらないと思うのだが、その一方で、大きく異なるのは、質問と議論の内容だ。

アメリカの方が圧倒的に質問が多い。プレゼンが終わった後に、「Any question? 」というが、どのセッションでも必ずと言っていいほど、質問が出る。

それに、彼らは「Any comments?」ということもある。質問だけではなくて、プレゼンに対しての意見を求めて、時には、熱いガチバトルが展開されたりする。つまり、質問ではなくて、自分の意見を長々と話して、そして、プレゼンターと議論したりする。

昨年のアメリカのブランドサミットのレポートを以下の記事で書いているので、ぜひ読んで欲しい。

アメリカのiMedia Brand Summit 2015に参加して 〜 業界が抱える6つの課題、そして、迫真のガチバトルとは? 〜

この記事の中でも扱っているがQ&Aの時間に、「I am Sr. Director, Field Marketing of McDonald’s」と言ってマクドナルドの担当者が自社のことについて延々と意見を述べて、熱く議論したのは印象的なシーンだった。

私は、アメリカが国として強いのは、オープンに議論する文化が社会の隅々にまで浸透しているからだと思う。議論することで、自分の気付いていなかった新しいアイデアや概念、あるいは、感性について学ぶことになり、それが、新しいイノベーションにつながっていると思うのだ。だから、日本のブランドサミットでも、もっともっと質問や意見が会場から出て、時に、時間をオーバーしてしまうぐらいがいいと思っている。

そのぐらい活発に戦略的な議論をすることが、日本全体のレベルアップにつながるし、「the Connected Age」(すべてがつながっている時代)においては、ネットワーキングしながらお互いのつながりを深めて、意見をぶつけ合うことが次のイノベーションにつながると思うだ。

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来年は家族も連れて来よう!!!

最後に、海外のこの手のイベントでは、家族同伴で参加する人が多い。

昨年のアメリカのブランドサミットもそうだったが、リゾート地で行うこともあって、妻(あるいは、夫)や子供も一緒に参加して、夜のパーティー会場などに家族も連れてきている。もちろん、昼間のプレゼンなどのセッションには家族は同席せずに、ビーチやプールで過ごしている。

ワーク・ライフ・バランスという言葉があるが、欧米のエリートはワークも趣味の延長でライフとワークの区別が曖昧で融合しているような人が多い。そして、ワークの場に家族も同席することで、家族の理解も得られやすくなるのではないかと感じている。

ワーク・ライフと分けて考えるのではなく、その両者がつながった(Connected)ような働き方が、この「the Connected Age」にはできると思うし、生産性が上がるスタイルなんだろうと、欧米人を見ていて思うのだ。

ぜひ、来年は、家族同伴で参加する人が増えて欲しいと思っている。自分も妻に話してみよう。

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