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急拡大するショッピング広告と、広告の在庫問題
Eコマース事業者にとって、急拡大するGoogleのショッピング広告(旧「商品リスト広告」)はもはや無視できない存在です。
米広告代理店の Merkle が四半期ごとに出しているデジタルマーケティングレポートには、ここ何回かは必ずショッピング広告についての言及がありますが、現時点(2016年3月)での最新版である2015年の第四四半期(10−12月)のレポートには、以下のような記述があります。
“Across all devices, PLAs overall accounted for 38 percent of retailers’ Google search ad clicks in Q4 [2015], up from 30 percent a year earlier.”
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すべてのデバイスをまとめて見ると、Googleのショッピング広告(PLA)は、Googleの検索連動型広告における2015年第四四半期のEコマース事業者のクリックのうち、約38%を占めており、年率30%も増加している。
ショッピング広告は(日本では)2012年からスタートしており、開始以来4年間ずっと伸び続けている広告です。一部の事業者が公表している数字だとはいえ、2016年には既に小売業者にとって最も注力するチャネルの一つとなっていることが伺えます。
一方で、その成長性には、これまでずっと広告在庫(供給枠)の問題がつきまとっていました。
ショッピング広告は検索連動型広告の一形態であるため、コマーシャルクエリと呼ばれる「購買意向がある検索クエリ」の回数がそのまま広告の在庫数になります。ショッピング広告の需要の急拡大にともない、Googleは毎年のホリデーシーズン(第四四半期)を中心に、矢継ぎ早に様々な対策を行なってきていますが、購買に繋がる検索数が増えない限り、どこかで規模の拡大が頭打ちになってしまう構造です。需要に対して供給が追いつかないという問題を抱えていた、とも言えるかもしれません。
検索連動型広告には、Coverage(カバレッジ:検索クエリに対して広告が表示される割合)と Depth(デプス:検索クエリに対して表示される広告の本数)という概念があります。ショッピング広告は商品情報を表示する広告である以上、商品に関連するコマーシャルクエリにのみ広告を表示することができるため、Coverage は極端には増えません。そのため、これまでは主に Depth にフォーカスが当たっていました。
※CoverageやDepthについての詳しい記事はこちら
リンク:RPM、そのビジネスの中心
広告在庫を増やすためのさまざまなテスト
Depthにフォーカスするということは、言い換えれば「広告が表示可能な枠(広告在庫)を増やす」ということです。そして、検索エンジンの場合、ただやみくもに広告枠を増やすのではなく、どうすればユーザーの検索体験を損なわずに(むしろ向上させながら)ショッピング広告の広告ユニットを増やせるのか、という工夫が必要になります。
ここで問題になるのが、検索結果の表示面積です。ショッピング広告は画像や価格などの商品情報を検索結果に表示する広告フォーマットであるため、通常のテキスト広告より検索結果にどうしても広い面積が必要になります。
表示面積を広げすぎて検索結果の画面が商品画像で埋め尽くされるようなことになってしまうと、検索エンジンそのものの利便性が損なわれ、ユーザーが離れてしまう危険性があります。つまり、ショッピング広告は、通常のテキスト広告より Depth に制限があるということです。
Google はこの制限に対して様々なチャレンジを行なってきました。表示面積とユーザーの利便性を損なわないギリギリのバランスで検索結果を表現するために、これまで 多くのショッピング広告の表示形式をテストしてきています。
テスト例(1):スクロール可能な Carousel(カルーセル)表示
Click to scroll for PLA Ads. Snapshot from Firefox browser @rustybrick @dr_pete @Marie_Haynes #PPC pic.twitter.com/SS9246Vl0I
— Sushan Sharma (@iamsushansharma) 2016年3月8日
上記はデスクトップ/PC での検索結果に右へスクロール可能なカルーセルのショッピング広告が表示されたことを示す画面キャプチャです。ショッピング広告の右隣りに矢印が表示され、スクロールし終えると矢印が左端に移り、元の商品に戻ることができます。
この仕様は、表示面積の小さいモバイルの検索結果では以前から採用されており、ユーザーのアクションに合わせてショッピング広告の Depth を増やす表示方法と言えます。モバイルで奏功している方式を、デスクトップでもテストしているというですね。
テスト例(2):ショッピング広告の拡大表示(Expandable Shopping Ads)
以下のスクリーンショットは米channeladvisorのブログ記事(2016年1月)で報告されたものですが、ショッピング広告の右下の角に矢印のアイコンが表示されており、これをクリックすると(当時はまだ存在した)検索結果の右側の広告群に覆いかぶさるようにショッピング広告が拡大表示されるテストが報告されています。
検索結果ページいっぱいに広がり、8列?2段にわたって表示されるこの広告では、通常のテキスト広告とオーガニックの検索結果はショッピング広告の下に押しやられます。かなり大胆な表示に見えますが、これもユーザーのアクション(意図的に右下をクリック)の結果なので問題ない、という判断なのだと思います。思い切った Depth 対策です。
これらの表示方式のうち一部は、2016年3月の時点でアメリカなどの一部の国でテスト段階を終えて既に実装されています。 また、Googleは Depth対策の他にも、ショッピング広告内のEmoji表示(これはすぐに取り下げられましたが…)や、商品のランキング表示、Buyボタンなど、先述の RPM の表で言う Quality に該当する対策にも非常に力を入れています。ショッピング広告が広告事業においての勝負どころだという明確な意思が見て取れますね。
Image Source: Search Engine Land
解消の兆しを見せるショッピング広告の在庫問題
試行錯誤を繰り返していた広告在庫問題ですが、ここ最近、徐々に解消の兆しが見えてきたことを示すデータが、冒頭で紹介した Merkle の「Digital Marketing Report」の2015年第四四半期版で公開されています。
<参考>
Digital Marketing Report – Quarterly Trends & Analysis
Google’s Shopping Campaign Expansion To Search Partners Is Gaining Traction
このレポートでは、ショッピング広告における検索パートナーのシェアが、2015年8月から急増していることが報告されています。グーグルの検索結果だけでなく、パートナーでのショッピング広告表示の増加が、広告の表示機会を押し広げているようです。
これで思い出すのは、Google が2014年9月に発表している、「AdSense for Shopping(ショッピング向けアドセンス)」です。
このショッピング向けアドセンスは、リテールサイトに特化した AdSense の新しいユニットで、ショッピング広告のみがこの枠のオークションへ参加することができます。Googleの検索結果だけでは限界が見えていた広告在庫問題にパートナー開発で活路を見出そうとしていた施策が、1年越しに結実したということだと思います。
一般には、「サイト上の広告枠=ディスプレイ広告」として認識されており、広告の技術的な話題はディスプレイ広告のターゲティングに偏りがちですが、ショッピング向けアドセンスはサイト内検索を在庫の元としているため、サイト内検索は「ユーザーのその瞬間の興味」にターゲティングが可能です。興味関心をわざわざ類推するディスプレイでのターゲティングよりも関連性の高いリードが獲得可能ですので RPM も高く、ショッピングサイトの収益化にとってもプラスに働くことが証明されたのではないかと考えられます。(実際、Kohl’s や Target で表示が始まったようです)
<参考>
Inside AdWords: Extend the reach of your Product Listing Ads to qualified shoppers
ショッピング向け AdSense – AdSense ヘルプ
ショッピング向けAdSenseが拡げる、商品リスト広告(PLA)の可能性 ~ admarketech.
また、パートナー開発という意味では(米国のみですが)イメージ検索の結果にショッピング広告を表示するようになったのも、パートナー表示のシェアを高める要因になったのではと考えられます。商品画像を検索するクエリに対してもショッピング広告を表示することで、表示機会は大幅に増えているようですね。
<参考>
Google Product Listing Ads Live in Image Search
パートナーはディスプレイにも拡大し、ショッピング広告は必須の施策へ
検索パートナーではないですが、2015年9月に発表された YouTube内の動画向けカードである「Shopping Ads for YouTube(YouTube向けショッピング広告)」も、ショッピング広告の広告在庫を拡げる代表的な施策として挙げられるでしょう。
<参考>
YouTube向けショッピング広告がスタートし、企業の動画利用は次のステージへ
Eコマース用途としてのYouTube動画広告についてまとめてみた
YouTube向けショッピング広告は、動画広告に商品情報を付帯させる「TrueView for Shopping」とは違い、YouTube内の動画がショッピング広告の配信面になる、という意味です。動画が(TrueView以外の方法で)広告在庫になるということですね。
Googleの代表的なデータフィード広告であるショッピング広告(当時は「商品リスト広告」)は、2012年に登場してからわずか数年間でEコマースにはなくてはならないメインチャネルの一つになりましたが、ここに来て、パートナー比率の上昇による配信ボリュームの増加は目を見張るものがあり、2016年もこの流れはますます加速することが予想されます。(日本はパートナー開発が進まないのか、検索結果以外のボリュームはまだ微々たるものですが…)
もちろん日本でもパートナー表示の割合が増えてくれば、Googleのショッピング広告、そしてその根幹であるマーチャントセンターは、小売企業のデータプラットフォームとして今までよりも更に存在感を増してくると考えられます。
ショッピング広告は、パートナー表示の増大によって(特にアメリカでは)一足早く次のステージに突入した感があります。結論はいつもと同じなのですが、Eコマースの広告運用にデータフィードはもはや必須なんだなあと改めて思います。Eコマースを営む企業が、商品データベースを当たり前のようにマーケティング利用する時代が始まっています!