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フレームワークやモデル、セオリーも使っている
提案書作成時に意識していることとして、追加で紹介したい点がある。それは、自分の場合、よく使うフレームワークやセオリー、あるいは、〇〇作戦のようなストーリー展開の基本形みたいものを使っていることだ。毎回必ず使うようにしている訳ではないが、よく使うパターンのようなものを持っている。
それを意識的に使ったのは、2004年だったのだが、「Rank First Theory」というセオリーをクライアントに紹介しながら提案した。アルバイト情報大手のクライアントで検索連動型広告の運用を担当したのだが、そのクライアントに最初に持って行った提案でこのセオリーを使った。
「Rank First Theory というのがあるのですが、ご存知でしょうか?」
こんな感じで切り出したのを覚えている。「Rank First Theory」というのは私自身が作ったもので、クライアントが知っている訳はないのだが、「え?なんですか、それは?」というクライアントの興味を引き出そうと話し始めたのだ。
「Rank First Theory」とは、当時、オーバーチュア(現Yahoo! JAPAN)で勤務していた私がいくつかのアカウントを分析して、その傾向に気づき、勝手に「Rank First Theory」という名前を付けて資料にまとめたものだった。
1位のときにコンバージョンレートが高くなる条件、Rank First Theory
簡単に説明すると、検索結果の表示順位が1位のときの方がコンバージョンレートが高くなるケースがあるということだった。表示順位が変動してもコンバージョンレートに大きな変化がないケースもあったし、表示順位が低いとき(5位ぐらいのとき)のほうがコンバージョンレートが高くなるケースもあった。その傾向を分析結果から導き出し、自分なりに表示順位が1位のときにコンバージョンレートが高くなる条件を「Rank First Theory」として理論化したのだった。
そして、そのアルバイト情報大手のケースでは、多くの検索キーワードで1位を狙って入札した方がコンバージョンレートが高くなるはずなので、それまでの3位狙いの入札戦略を変更して1位狙いに変えましょう、という提案をした。
提案の結果、1位表示を1週間試してみることになり、そして、期待通りにコンバージョンレートが上がり、獲得単価が下がったので、クライアントは非常に喜んでくれて、その後は継続的に1位戦略を採ることになった。
もちろん、結果として、媒体費も上昇し、クライアントも満足し、かつ、オーバーチュアも儲かるという嬉しい状態になった。
検索キーワードをテレビCMに挿入する、マス連動とAISAS Model
また、10年ほど前によく使ったのが、「マス連動作戦」だ。これは、テレビCMやマス広告に検索キーワードを挿入するというアイデアが浮かんだときに、ほぼ同時に思い付いた作戦名だ。
「きょうは、マス連動作戦という提案を持ってきました!テレビCMを見て興味を持ったら検索することがあると思うのです。なので、テレビCMで検索キーワードを表示してしまえば、その誘導効率が上がると思うのです」
こんな感じで提案していた。ちょうど、2005年頃から電通の秋山隆平さんが提唱していた「AISAS Model」がこの「マス連動作戦」を補強するフレームワークとしてピッタリだったので、それも一緒に活用していた。
「テレビCMで Attention を喚起して、興味を持ったら(Interest)、検索する(Search)という流れがこのAISAS Model でも証明されています。だから、テレビCMに検索キーワードを挿入すると効果が上がるんです」
こんな感じでよく使った。
Dual AISAS Model®を提唱している
最近では、「Dual AISAS Model®」を提唱しているが、これも2014年末から提案で使っている。
たとえば、先日、コメ兵さんが1社提供するSNS連動番組「#モデる」(テレビ朝日:毎週日曜よる11:10 – 11:15、関東エリア)についてのプロジェクトを発表したが、このプロジェクトでも「Dual AISAS Model®」を活用している。
参考記事:コメ兵が仕掛ける、Dual AISAS Modelを活用したテレビxSNS連動プロジェクトの全貌:MarkeZine(マーケジン)
それから、5年ほど前には、「アトリビューション」を使った「全体最大化戦略」というベタなものも使ったりしていた。
この他にもいくつかあって、詳細は割愛するが、自分がよく使った提案のフレームワークを主なものだけ紹介すると、
<Rank First Theory>
<マス連動作戦>
<AISAS Model>
<赤い海の泳ぎ方>
<青田買い作戦>
<護送船団方式>
<全体最大化戦略>
<3つのアトリビューションレイヤー>
そして、
<Dual AISAS Model®>
などだ。
プレゼンの前にイメージトレーニング
さて、そして、いざ提案資料ができたら、どのようにプレゼンするかが重要だ。面白いアイデアと説得力あるストーリー展開ができても、効果的にプレゼンすることができなければ、せっかくの努力が台無しなってしまう。
あくまで私の個人的なやり方の紹介ではあるが、それなりに場数を踏んできた経験から、注意していることがある。
まず、プレゼン原稿や下書き文書などは作らない。丁寧にドキュメントを書いてしまうと、その原稿どおりに話そうとして意識がそっちに取られてしまう。その結果、自分の場合は、効果的なプレゼンができなくなってしまう。なので、書くとしても、メモ程度だ。
というか、どっちかというと、メモもあまり書かない。プレゼン資料の流れを事前に頭に叩き込み、ほとんど資料を見なくても話せるぐらいに準備するのが理想だと思っている。まぁ、理想は理想なんだけど。
そして、事前準備の際には、予行練習として声を出したりもしない。よくストップウォッチを見ながら時間を計っている人を見ることもあるが、自分の場合は、このスライドでどんなことを話すか、そのイメージを頭に入れるようにしている。
予行練習として実際に声を出して話す練習はしないが、話している自分と聞き手がどんな反応をしているかをイメージするようにしている。いわゆる、イメージトレーニングを事前にするという感じだろうか。
主観的視点と客観的視点を意識する
そして、イメージトレーニングの際に、どこで緩急をつけるか、あるいは、主観的に熱狂的に話す箇所と客観的に冷静に話す箇所とを分けて、どんなトーンで話すかなどをイメージするように心掛けている。
主観的な視点と客観的な視点というのだろうか。それを意識的に使い分けるようにしている。それができると、説得力が増すと同時に、共感を得やすいと感じているからだ。
自分でアイデアとストーリーを作った場合には特にそうだが、良い提案を作ったと信じているので、その良さをクライアントに伝えるために、何かに取り憑かれたように熱狂的に(ある意味でゾーンに入ったように)トークをする箇所と、データなどに基づいて客観性をもって冷静に話す箇所とを使い分けるようにするのが理想だと思っている。
カメラさん目線で「わかるわかる」の共感を演出する
そのように準備をして、いざ本番を迎える。
プレゼンルームに入って最初にやることは、なにげなく部屋全体を見渡すことだ。そして、自分がどの位置に立って話をするのか、聴衆がどこに座るのか、すでに聴衆が座って待っている時には、メインの決裁権を持っている人はどこに座っているのかなどを確認する。
その後、これは理想論だが、イメージとしては、頭の中に、部屋全体を、あるいは、会場全体を見渡すカメラを設置する。
仮にこれを頭の中の「1カメ」と呼ぼう。「1カメ」では、部屋全体を頭上から客観的に見渡すような視点を意識する。
そして、「2カメ」を取り付ける。これは、自分の表情をアップで捉えるカメラだ。自分を客観的に見つめる視線を頭の中にイメージするのだ。こうすることで、「おい、ちょっと、表情が悪いぞ」と自分に心の中で話しかけることができる。
「3カメ」で、聴衆全体の反応を捉える。聞き手が眠そうな顔をしているなどしたら、できるだけ話すペースを変更したり、ポインターを使ったり、歩いてプレゼンの立ち位置を変えて動きに変化をつけたりできるのが理想だ。
そして、「4カメ」。このカメラで、決裁権のある一番立場の上の聞き手をアップで映し出す。この人の表情を意識しながら、この人に話しかけることができるようにするためだ。この決裁権のある人に共感してもらい、納得してもらうことが大事だ。
理想論だが、それぞれのカメラさん目線で状況を把握しながら、自分のプレゼンで共感を得られるように演出できればとても素晴らしいと考えている。
いざプレゼンを開始したら、共感、共感、共感だ。決裁権限者に共感してもらえれば、プレゼンは大成功だ。
提案資料を作る際には、アイデアとストーリーにこだわり、面白くて説得力のある「うまい話で裏切らない」ロジカルな資料を作ることを心掛けている。
しかし、人間は頭では分かっていても、頭ごなしに説得されると、ちょっと反論したくもなる。ロジカルシンキングを意識して資料を作りつつも、プレゼンでは感情を大事にする。繰り返すが、共感だ。
「あー、たしかに、そうだよなぁ。わかるわかる。なんか、それなら、うまくいくかもしれない」
その話は「わかるわかる」、「共感する」という感情をクライアントが持てば、勝率は格段に上がる。ロジックだけでは人間は動かないし、理屈っぽいだけだと煙たがられる。
「なんか話もわかるし、共感できるし、この人だったら、一緒に仕事をしてみたいなぁ」とクライアントに思ってもらうのが、プレゼンでやるべきことなのだ。
根拠はなくてもいいから、自信を持とう
ここまで話してきたことは私なりの理想論に過ぎない。各人各様のやり方や考え方があっていいと思う。
でも、自分としては、アイデアとストーリーにこだわって面白くて説得力のある提案資料を作りたい。そして、プレゼンのイメージトレーニングをして、会場ではクライアントに共感してもらえるように努力する。
このような意識で提案やプレゼンができれば、勝率は上がってくると思う。
そして、最後に必要なのは、自分を信じる勇気を持つことだ。
「きょうはなんかいい日だなぁ。きっとプレゼンはうまくいくに違いない」と考える。自信を持ってプレゼンするのだ。自信には根拠なんてなくても構わない。
必ず成功するという自信を持って本番に臨めば、きっと、プレゼンの女神が微笑んでくれる。
そう信じる力が自分の本番でのパフォーマンスを高めてくれる。
大型案件獲得のコツは、そういうものだと思う、たぶん、ね。