パブリッシャー連携は2通りの方法
アレックス:裏の仕組みについても少し複雑なので、もう一度触れておきたいと思います。パブリッシャー側のユーザーがいます。このユーザーに対してまず何をするかというと、Cookieとハッシュを紐付けます。具体的には、ユーザーがパブリッシャーサイトにログインまたは新規登録します。あるいは、パブリッシャーから送っているメールを開封・クリックします。事前にCriteoのタグをウェブサイトとメールに入れているので、このアクションがあるとパブリッシャーからCriteoに対してハッシュメールが提供されます。ハッシュメールはMD5形式のものです。Criteoはハッシュメールを受け取ってすぐに、このユーザーのブラウザにCookieを付与します。ここまでの動きは瞬時に起きます。これで、Cookieとハッシュメールの紐付けは完了です。次に、このユーザーが広告主のサイトを訪問すると、Criteoは閲覧状況をモニタリングし、広告メールを送るべきだと判断すると、パブリッシャーとのAPI連携を通して、メールアドレスを受信して、広告メールを配信します。もう少し説明すると、広告主サイト上での動きはCookieを使ってモニタリングし、そのCookieに対して広告メールを送るべきだと判断すると、Cookieに紐づいているハッシュメールを識別子として、APIで、識別子に対するメールアドレスの有無と、該当メールアドレスへの配信可否(広告メールの配信が可能かどうか)を確認して、問題なければAPIでメールアドレスを提供いただき、広告メールをCriteoが配信します。広告メールの配信後は、メールアドレスを削除するので、Criteoのサーバに個人情報が残ることは一切ないです。
杉原:なるほど。非常によく考えられた仕組みですね。パブリッシャーの方の作り込みは大変でしょうか?APIのリクエストに対するレスポンスの機構とか。
アレックス:まず、パブリッシャーとの組み方は2つあります。1つは、Cookieとハッシュメールをご提供いただくこと。2つ目が、メールアドレスをご提供いただくこと。両方一緒にやるのもOKですし、いずれかでも大丈夫です。このCookieとハッシュメールをご提供いただくためにやることは極めてシンプルです。ウェブサイトとメールにタグを張っていただいて、パブリッシャーのユーザーに対して満遍なくCookieを付与していく、ということだけです。
杉原:APIのリクエストの方は?
アレックス:APIの口をあけていただいて、Criteoのリクエストに対してレスポンスをしてもらうロジックをコーディングしていただくだけなので、技術的に複雑なことはなく、開発工数もそんなにかからないです。
杉原:なるほど。わかりました。そんなに工数もかからないようですね。事例などはありますか?
アレックス:フランスでは、エールフランスにご利用いただいています。エールフランスの場合、開封率が50%以上、クリック率が20%以上、さらにコンバージョンも6%以上上がったという事例があります。海外の広告主でよくご利用いただいているのはアパレルEC、総合EC、それから旅行系が多いですね。
杉原:もともとメールの利用が盛んだということもあるんでしょうか。日本の場合だといかがですか?同じようになりますか?
アレックス:日本でヒアリングしたベースですと、海外でよく利用されている業種に限らず、幅広い広告主からご興味をいただいています。というのも、広告主にはリスクがないんですよ。今まで、メールマーケティングは通数ベースでコストを支払うのが一般的だったんですが、CriteoはCPCベースにしているので、ほぼパフォーマンスベースです。ですので、広告主にとっては、ほぼリスクがない状態で新しいユーザーの獲得と既存ユーザーの売上最大化が図れるので、とりあえずやってみる、となりやすいです。
杉原:確かにリスクが少ないですね。日本での営業戦略について伺ってもよろしいでしょうか?
アレックス:現時点で、日本で一番重要なのはサプライサイドデータベースの構築です。現況として、デマンドサイドにはCriteoのディスプレイ広告をご利用いただいている広告主が豊富にいる状況で、Criteo Emailに対しても高いご興味をいただいています。そのため、サプライサイドが一定水準整えば、サービスをローンチできます。サプライサイドの作り方ですが、大きなデータベースを構築するには時間がかかるため、まずは一定水準のデータベースを構築して、広告主に対して、Criteo Emailを提供し始めることが最初のステップだと考えています。広告主に対してサービスを提供することで、パブリッシャーに収益を還元でき、パブリッシャーの収益が見えてくるとサプライサイドをさらに大きくし易くなります。サプライサイドが大きくなると、広告主のパフォーマンスが上がる。こういった具合に、両サイドを絶妙なバランスで大きくしながら、サービス事業規模を拡大していくイメージです。
ディスプレイ広告との合わせ技がキー
杉原:わかりました。今のリターゲティング広告と同じように、日本の場合だと大手代理店さん経由で取り扱っていくのでしょうか?
アレックス:そうですね、既にCriteoを取り扱っていただいている代理店やパートナー企業に、追加でお取り扱いいただく予定です。
杉原:なるほど。実際のCriteo Emailのメールの中身を見るまではどの程度広告寄りかわからなかったのですが、これであれば今の代理店の既存の部隊が同じように扱えるのかな、と思いますね。データフィードも同じようですし。
アレックス:そういう意味ではそうだと思います。少し話が戻ってしまいますが、売り方としては、ディスプレイ広告と同じCOS(Cost of Sales)、つまりROIベースのKPI設定をしていきます。そのため、ディスプレイ広告かCriteo Emailかではなく、設定しているCOSに対して両方のソリューションを使うことで、期待できるパフォーマンスを提示するアプローチを取る予定です。
杉原:なるほど。基本的には合わせ技、ということなんですね。クリエイティブも合わせた方が効果あるでしょうし、そういう意味では1つのキャンペーンの中で両方やりましょうという打ち出し方をする、という意味ですよね?
アレックス:そうですね。フランスでは、広告主の開封率が平均8%から34%、クリック率が平均7%から35%に上がりました。また、ディスプレイ広告とCriteo Emailに接触したユーザーというのは、どちらかにしか接触していないユーザーよりもさらにコンバージョンが2から3倍高いということが検証できています。そのため、両方のソリューションを使って、パフォーマンスを最大化していく、というセールスアプローチを考えています。
杉原:よくわかりました。他にお話しておきたいことはありますか?
アレックス:はい。日本ですとサプライサイドを作っていく、というのが大前提でこれはグローバルでも重要なことですが、それ以外に今グローバルで力を入れていることは、そもそもの商品自体の機能改善です。10月から組織が変わり、予算がかなり増えて、会社としてもCriteo Emailに対するプライオリティがグッと上がりました。ですので、今はこの商品に対する機能改善がすごく進んでいます。具体的には、ユーザーに対してどういった商品やサービスをレコメンドするべきか、というレコメンドロジックの改善。また、ユーザーに対してどのタイミングで広告メールを送るのがベストなのか、というプリディクト機能の改善。もちろんユーザーがウェブサイトを訪問してからすぐに送るのがベストなのですが、それだけではなくて、送った後に反応がなくても例えば、2日後、3日後、4日後、さらにそれはもしかして土曜なのか、日曜なのか、あるいは金曜がいいのか、というタイミングを見極めて送る、という機能改善を今進めているので、それが出来上がってくるタイミングで、さらにパフォーマンスが上がることを期待しています。
杉原:タイミングはありますよね。それが自動でできるようになる、というのはいいですね。
アレックス:それがCookie単位で最適化できるようになるというのがさらに良いですね。
杉原:確かに。
アレックス:今後の展開では、現在立ち上げ中の日本とブラジルでサービスをローンチして、さらに地理的な拡大をしていく予定です。
杉原:非常によくわかりました。本日はどうもありがとうございました。
アレックス:ありがとうございました。
<<対談者プロフィール>>
Alexander Kibets(アレクサンダー キベッツ)
CRITEO株式会社 Business Development Manager
2015年5月にCriteoへ入社し、新商品であるCriteo Emailの立ち上げを担当している。同社以前は、株式会社マクロミルにて、PMIプロジェクトの一員として、買収先であるMetrixLab社のリサーチ商品の日本展開を担当。また、出資先であったキュレーションメディア「Antenna」でEC事業を立ち上げた。それ以前は、グリー株式会社にて、日本国内で通信キャリアとのアライアンス、ロシアとアラブ首長国連邦における事業開発を担当。