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アジアのスタートアップを支援するTech in Asia?
2015年9月8日?9日に東京渋谷ヒカリエで開催されたスタートアップカンファレンス「Tech in Asia Tokyo 2015」に参加してきたのでその報告をしたい。
2010年の設立以来、アジアから発せられるテクノロジーやスタートアップニュースを主に伝えているウェブメディア「Tech in Asia」が主催するこのカンファレンスは、毎年3回シンガポール、ジャカルタ、東京とそれぞれの都市で開催されており、たった5年でスタートアップイベントとして大きな人気を誇るようになった。今年、東京での開催となったカンファレンスにも、アジア全地域から2000人以上もの人たちが現地まで足を運んでいる。
創業者であるWillis Wee氏は、シンガポールの大学に在籍当時、自国だけの狭いエリアだけではなく、より広くアジア全体の、特にアーリーステージにあるテクノロジー情報に注視していくことが重要だと考え、それを実現するために大規模なカンファレンスの主催する「Tech in Asia」を設立したという。
同社のイベントでは、毎年スタートアップ(起業を試みる人たち)、投資家、メディアやテック業界のメンバーを集め、ビジネスマッチングをできる場を提供している。イベントでは、数百社のスタートアップ企業の中から選抜された10社が、互いのビジネスプランを戦わせ、自社の強みをアピールする。優勝したスタートアップには賞金$10,000が与えられる。今年、東京で開催されたイベントには、Andreessen HorowitzのBen Horrowitz氏、DeNAの南場智子氏などの業界著名人がゲストスピーカーとして登場したことも見どころのひとつとなった。
今回、このイベントを取材することにしたのは、マーケティングデータがますます複雑化、拡散していく昨今の状況においてその方向性を見極めるためにも、メディアの取り組みにおける最新動向や新興の技術により早い段階で触れておく必要があると考えたからである。印象的なスタートアップは多々あったが、その中でも既存マーケティングエコシステムで変革を起こそうとしている PopSlide、Shortlist、Shakr の3つが注目を引いていたように思う。順を追って紹介したい。
ユーザと広告主双方にメリットのあるロックスクリーン広告「PopSlide」
2012年10月に設立されたシンガポールを本拠地とする YOYO Holdings が提供する PopSlide は、ロックスクリーン広告(待ち受け画面に表示される広告)とモバイルリワードプラットフォームと呼ばれる仕組みを提供している。
ユーザは Google Play から PopSlide をインストールすると、スマホのロックスクリーンにニュース、天気予報などの各種情報の合間に広告が配信されるようになる。ユーザはその広告を参照することで通信料などに換算(redeem)できるポイントを獲得できる。もしその広告に興味があればさらにその広告が意図する操作(例えばゲームアプリであればインストール)を行うことでより多くのポイントを得ることもできる。
YOYO Holdings の CEO である深田洋輔氏は PopSlide 立ち上げのきっかけについて聞かれて次のように述べている。
「東南アジアにおいては、スマートフォンの端末自体はより安くなってきており、スマートフォンの所有率は急速に伸びてはいます。ただ通話料やインターネット通信費はまだまだ高くて、例えば、端末代が $32 だとするとネット使い放題のプリペイド月額利用料金は $20?$25 程度と端末代に近い金額。現地のユーザにとっては非常に高額な料金体系で、せっかく安価な端末を購入したのにネットに接続できないという本末転倒な状態を招いています。そのような状況を解消するため、テレビみたいに広告を入れることで、モバイル利用を無料化したかったのです。」
PopSlide を利用することで、ユーザもマーケターも Win-Win の関係になる仕組みにしたいとの思いだ。
広告を出す側からの視点で考えた場合の PopSlide のメリットをまとめてみる。
- 広告ビューアビリティ:スマートフォンの待ち受け画面は、必ずユーザに見られる場所なので、ユーザーがコンテンツを開かない場合でも、広告はユーザーに見逃されることはない。ユーザのスマートフォン画面を自社の広告で占有できるので、当然といえば当然だが、PopSlide は広告ビューアビリティをいかに確保するかという課題にひとつの解決策を提示している。
- コンバージョンの促進:ポイント収集というインセンティブから、アプリインストールや会員登録などのコンバージョンへつなげることも期待できる。このようなゲーミフィケーション手法(人を楽しませるゲームの要素でユーザーモチベーションを向上すること)を取り入れることで、ユーザーエンゲージメント(ユーザーがコンテンツに関心を持つ、行動を起こすことなど)をより促進する。
- 柔軟なプラン:広告の出稿に関して、広告主は CPM、CPC、CPI(コストパーインストール・アプリインストール課金型)、CPA の4つの中から、自社にとって費用対効果の高いプランを選択することができる。ユーザーポイントは、広告の配信前にプランに応じて調節され、配信の際にはコンテンツから得られるポイント数がロックスクリーン上に表示されるため、ユーザにとっても透明性がある。
- ユーザーターゲティング:性別、年齢別などの基本的なユーザ情報に加え、GPS に基づく地域別などのより詳細な情報を踏まえてターゲティングすることが可能である。
現在、東南アジアの新興国では、PopSlide が最大のモバイル向けリワードプラットフォームとして拡大してきており、既に McDonalds、Unilever、Nestle、Intel などの大手各社が PopSlide を広告プラットフォームとして活用している。
動画広告制作費を大幅に削減するツール「Shakr」
韓国発で、現在はシリコンバレーを拠点とする Shakr Media は、動画広告をより安く簡単に、より迅速に作成できるプラットフォームを提供している。広告制作者は、ファッション、美容、フィットネス、レストラン、自動車などのカテゴリー別に予め用意されている1,200以上のテンプレートからその一つを選択し、自社の写真やビデオクリップをその上にドラッグアンドドロップすることで動画広告を作成する。テンプレートは Nike や Samsung などの大手ブランドの動画コンテンツを作成してきたデザイナーが作っており、動画広告の経験が浅いマーケターでも数分ほどで高品質な動画広告を作れると、同社CEOの David Lee氏は主張している。
Lee氏によると、比較的小規模な広告主にとって Google AdWords の動画広告配信プラットフォームへの参入するにはその制作費が障壁になっていると言われているが、Shakrを利用することでその敷居を大幅に下げることができるようだ。例えば、従来の制作方法では50,000ドルはかかるだろうと思われるマツダ自動車の動画広告が、Shakrのテンプレートを活用することで、制作時間はたった5分、費用は50ドルに抑えられた、という例も挙げていた。
動画広告フォーマットは他の広告フォーマットより CTR が圧倒的に高く、非常に早い速度で成長してきている。Facebook の Mark Zuckerberg も、今年のフェイスブックF8デベロッパーカンファレンスで、今後フェイスブックが動画中心時代に入ると予告していた。リッチコンテンツでユーザーの注目を喚起したいが、まだ動画作成のノウハウがない、あるいは予算を抑えたい、という中小企業の広告運用者にとって、Shakrのこのプラットフォームが革命的なソリューションを提供してくれるかもしれない。
クリエイティブ制作の道のりをより短く
その他にも、オーストラリア人の Martin Konrad氏とアメリカ人の Joey Fraiser氏が開発したマーケティングパートナーマネジメントプラットフォーム「Shortlist」が興味深かった。マーケターは自身の広告要件をもとに仕事を依頼するクリエイティブプロバイダーを地域や得意分野などのキーワードで検索し、見つかった相手との契約から納品検収までの一連の作業を統一的に支援してくれる仕組みだ。
このプラットフォームを活用することで、企画意図に対してより強みをもったベンダーを、予算、提案能力、過去の実績などの条件をもとに世界中から探して比較することができる。また、予算管理や情報共有はもちろん、広告制作に必要な定型的な管理業務は機能として供給されているので、広告完成までに費やされる事務的な作業も削減することができる。
「現在、一般的な広告運用者は、事務的な作業に彼らの時間の7割を費やしている。彼らが、より良いキャンペーンの政策に注力できるように、われわれのサービスでその時間の割合を逆にしたいと思っている。」と同社COOである Joey Fraiser氏は述べていた。
ちなみに、既に Nike のような大手ブランドが Shortlist の利用を検討中のことなので、今後の彼らの動向は気になるところである。
技術とマーケティングは切っても切れない
以上の取組はまだ初期の段階ではあるものの、既に大手企業やブランドのマーケターがこれらのサービスやプラットフォームを活用もしくは活用を検討しているという状況においては、このようなテクノロジーの中のいくつかは、いずれは我々の現場に広く浸透し当たり前の存在になる可能性がある、ということである。
確実に言えるのは、現代では技術とマーケティングは切っても切り離せない存在であるということだろう。この分野では新しい業界動向、イノベーションの種が次々と生まれているので、次のトレンドにキャッチアップするという意味でも、見逃すことはできない。新しい技術が定着するに従って、ブランドのユーザーとのコミュニケーション、広告主のキャンペーンや予算管理、ターゲティング戦略などが大きく変革していくのではないだろうか。
Let’s stay tuned to the progress of these initiatives!