テレビメタデータが切り開く、通信と放送の融合の可能性

テレビメタデータが切り開く、通信と放送の融合の可能性

テレビメタデータの活用事例

有園:業界が注目しているテレビメタデータの活用ですが、他にはどのような事例がありますか。

薄井:約1年半前に、テレビ局さんの資本が入ったことによって、我々は、次世代テレビメタデータ構想を推進しています。その構想に向けたイノベーションのテーマが4つあります。

「オフィシャル」、「リッチ」、「リアルタイム」、「カバレッジ」というものです。

キー局さんとの資本提携で、「オフィシャル」はクリアされ、残りの3つの中でも「リッチ」と「リアルタイム」にフォーカスしています。その一つの事例として、2014年春から始まったのが、TBSさんの「ぶぶたす」というアプリで、放送前情報をメタ化する取り組みです。TBSさんから提供されます放送前に台本のような情報や映像をベースに、放送前にテレビメタデータを生成します。

薄井さん

放送前にテレビメタデータを生成「前メタ」

有園:「前メタ」と呼ばれるものですね。

薄井:そうです。その中には出演者や紹介される予定の商品、お店や宿、音楽情報や映画、CMなどの情報が含まれています。それをタイムライン(番組構成の時間軸)に基づいて、遷移させる先のURLと共にメタ化します。TBSさんは「ぶぶたす」アプリに連動して、ユーザーさんが、「王様のブランチ」などの対象番組を見ながら「ぶぶたす」アプリを利用すると放送番組にピッタリと同期して、出演者や商品などの情報がSNSのようなタイムラインで表示されます。

ユーザーさんが、たとえば「この商品、気になるな」とコンテンツバーをタッチするとECサイトなどに遷移して、すぐに商品が購入できるという仕組みです。これがテレビ局さんと連携した「リアルタイムメタ」という取り組みの特徴です。

有園:事前に、番組でどの商品を取り上げられるか分かっているので、アプリ側での準備ができて、仕込まれているという状態になるわけですね。

薄井:はい。もう一つのテーマの「リッチ」ですが、オペレーターが実際に番組を見て判別できないような情報があります。たとえば、タレントさんが着ている衣装やロケ地などです。これらもテレビ局さんの保有情報をお預かりして、非公開情報や裏側の情報まで、よりリッチなテレビメタデータが生成できるようになります。

3_TBS実績

テレビを見て「あれ、どこで買えるんだろう」

有園:「この俳優が身につけているネクタイ、かっこいいな」なんて気になることが、たまにあります。ブランドや、どこで売っているかが分かる。そういうことが、すでに始まっているんですか?

薄井:はい。基本的に運用としてはできる状態になっています。あとは、テレビ局さんが出す、出さないのお考えに応じて情報の出し分けがされます。

有園:現状、俳優の着ている服などについては出ていないわけですね。それってけっこう可能性があると思います。昔、トレンディドラマを観ていた世代としては「このソファいいな」と思っても、それがどこで売っているか分からなかった。そういったソファが「IKEAで売っている」など分かる。テレビ局側としても、頻繁に視聴者がスマホなどの画面に行かれては困ると思うので、いまは慎重に進めていらっしゃるのでしょうかね。

薄井:これは番組単位での特性やポリシーが異なると思います。ドラマなどの専念視聴型コンテンツもあれば、朝の情報番組は身支度をしながらのながら視聴型番組もあり、それぞれでネットやデバイス連携の有効手段は変わってきます。

「ぶぶたす」が秀逸なのは、CMとの連動機能も備えていることです。例えば、番組でCMがオンエア中に、「ぶぶたす」アプリで当該CMの内容がスマホの画面いっぱいに最大化し、色が変わったり点滅したら、ユーザーさんは思わずタップします。すると、広告主のランディングページに遷移しキャンペーンに参加できたり、新商品のサンプリングに応募できたりします。当然ながら、その申込みに際し、視聴者の属性情報も取得でき、操作(視聴)ログと共にユーザーの視聴傾向や嗜好性などがデータ解析できるようになります。

広告主さんにとっては、テレビのリーチ力やブランディング効果に加え、スマホアプリを通して獲得型のパフォーマンスやコンバージョン効果も狙えるばかりか、視聴者の解析やマーケティング施策の効果分析までできるメリットがあります。まさに「放送と通信の連携」による新たなクロスチャネルマーケティングモデルです。

他方、テレビ局さんは、テレビ受像機以外にスマホ画面に広告枠を広げ、収入機会を創出できます。

その意味でも、「ぶぶたす」アプリを開発したTBSのご担当者は、革新的発想とそれを実現する開発力、推進力に優れており、秀逸な取組みと感じる理由です。

有園:あと、私が知っている限りでは、テレビメタデータは、テレビ・レコーダーなどにも導入されている。東芝さんやソニーさんなどですね。

薄井:そうです。

有園:テレビ・レコーダーをインターネットとつなぐことでテレビメタデータが連携され、その番組が何時何分に、どういう話題で、どういうタレントが出て、何を話していたかインデックス情報を取得して、それにあわせ見たいシーンやCMを視聴できるようになるわけですよね。

薄井:さすが! パーフェクトです(笑) 詳細はAV WATCHの記事をご覧いただければと思います。キーワードでのシーンやCMの検索・再生だけでなく、各テレビメーカーさんのテレビアプリからの操作性の向上やそこからのEC連動、番組やCMに関するリサーチやポイント連携、レコメンドやSNS連携、更にはVODやネットでのテレビコンテンツを配信するキャッチアップサービスなどにも有効活用されます。

特にネットを介して取得されるログ解析で、ユーザー属性や視聴特性を踏まえ、スマートデバイスからのシーン再生の際にCMを差し込んだり、そのCMをターゲティングして当てる手法にもテレビメタデータが有効に機能すると考えており、その構想も進めています。

TV Rank(テレビランク)とは

有園:そうなってくるとマーケティングの可能性が広がりますね。
ところで、梅田さんのライフログ総合研究所ですが、どのような活動をされているのでしょうか。

梅田:ライフログ総合研究所はエム・データが母体です。エム・データは、テレビメタデータ、テレビストリームをテキストで記録していて、そのデータをもっている会社です。それ以外の、特に、視聴者から発生する活動記録とテレビのストリーム情報を掛け合わせて、何が見えるのかを考えていくのがライフログ総合研究所の仕事です。

もともと、エム・データは、お客さまからテレビのデータを使って「こういうことはできませんか」といった、ご依頼をよくいただいていたんです。ある程度、同じような依頼や課題があり、データを整理して、依頼内容や課題内容に応えることをコンサルティングとして個別に対応してきました。

今回、それを自動化するダッシュボード「TV Rank」を開発し、テレビメタデータをマーケティングの課題解決に活用できるよう整理しました。これまで、世の中一般的にテレビメタデータは存在も含めて認知されておらず、利用もされてきませんでした。それが利用できるようにならないかと考えたのが「TV Rank」です。

テレビには番組視聴率というデータがあります。視聴率は、テレビで放送された番組を、どのくらいの人が観ていたかというデータです。情報の単位は番組です。我々は、デジタルマーケティングで使われているような、ワード単位で露出状況をまとめ、そのワードのカテゴリごとにランキングを作ってみようと考えたのが「TV Rank」です。

2015年上半期テレビで放送されたワードのランキング

梅田:TV Rankは、テレビで放送されたワードのランキング情報です。2015年上半期の集計版がこちらです。

4_TVRank2015half

2015年1月1日から6月30日までの、関東地区で放送されたテレビコマーシャルの企業別ランキングです。花王さんが1位です。6月末までの約6ヶ月間で約28万秒。CM本数が約1万6千本。テレビメタデータがあるので、簡単に集計できます。

有園:この本数は15秒を1本として換算ですか。

梅田:いえ。CMとして放送された単位で換算しているので、15秒だったり、30秒だったり、60秒だったりします。これはCM放送企業名のランキングですが、商品名も出せます。業界カテゴリを絞ったりもできます。あとは、CMで起用されたタレント、その商品が属する業界、商品カテゴリなどで集計できます。現時点では、CMデータの情報の集計ですが、今後は番組データにも対応し、トレンドワードや人物、企業名、商品名、事象なども対応していきたいと考えています。

有園:広告代理店さんなどから、けっこう引き合いがありそうですね。

梅田:そうですね。それから、たとえば、「月曜日の12時台に一番出ていたタレントは?商品は?企業は?業界は?」といったことも調べることができます。クロス集計も手元でできます。

このデータは、放送記録ベースで集計しているので一覧性、一貫性があります。過去数年をさかのぼれます。そうすると、宣伝部の方などが「データベースとして調べたい」、「○○企業の、○月はどうなの?」といったとき、定量的な傾向を見ていただくために使っていただけるのがTV Rankです。

有園:電通さん、博報堂さんなどは独自にCM投下量などのデータベースを持っていると思いますが、僕の理解だと、ワード単位、タレント単位などの細かい単位でのデータは持っていない、あるいは、すぐに集計して使える状態にはなっていないと思います。

梅田:我々はすでにデータをもっているのでスマートに、ピボットで集計する仕組みを作ったので、ウェブで公開させていただこうと思いました。

有園:やろうと思えば、具体的なタレント名を入れると、そのタレントが何月何日に出ていたかってのも分かるんですね。

梅田:全タレントが出ますが、武井咲さんを例にみましょう。

5_武井咲

これはタレントをキーにして関連情報をまとめるだけですが、有効なのは「武井咲さんって今、どこのクライアントの何の商品に出ているんだっけ」ってときに、タイムテーブル上、どこに一番出ているかが分かり、特定の企業だけで絞り込んだ場合にどうなるかも分かります。ニーズに応じて、いかようにも条件抽出できます。

これが提供させていただく情報サービスのベースです。TV Rankなので、ランキングの他、指定日、指定期間、毎週、毎月、何が一番でどういう順位かも発表できます。
エム・データが生成するデータを集計、更新するのがTV Rankです。
当然、時系列表示や週別・月別トレンド、曜日別・時間帯別・局別のヒートマップ、業界別・商品ジャンル別シェアの集計できますし、競合比較や企業や商品、業界などでの条件集計も可能です。

他のデータを掛け合わせて何を読み解きくかは二次的な話ですが、ニーズが高まってくれば他のデータもインポートできるので、いくらでも掛け合わせができます。

有園:これは、広告の仕事をやっている人にとっては、だいぶ使い勝手のよいものですね。

データを掛け合わせる

梅田:このTV Rankのスタンダード版に対し、「TV Rank Pro」というプロ版もあります。これは全部カスタマイズ型で考えています。我々が持っているのがテレビCMの放送データで、ここに、番組データや広告の視聴データ、検索とSNS、ブログとTwitter、売り上げのPOSのデータ、Googleアナリティクスのデータを入れたり、他にデータはなんでもインポートできます。これを何で見るのかっていうところからコンサルティングが必要で、マーケティングのPDCAをハイスピード化する領域になります。

有園:なるほど。

梅田:これを、我々が作り込んで広げていくのは体力的にもなかなか厳しい面もあるので、コンサルティングができるパートナーさんと組んで一緒にできないかなということで、ひな形として作ってみました。

6_TVRankPro

有園:データを入れるというのは、たとえば広告主が、売り上げのPOSデータを購入していて、それをここに投入するってイメージですか。これがダッシュボードとして使えますよってことですか。御社で、たとえば、検索データとSNSデータなどを持っているわけではないのでしょうか。

梅田:ダッシュボードとして使えるようになりますが、全てのデータソースを保有しているわけではありません。ただ、テレビメタデータをソーシャルリスニングツールに提供させていただいたり、その他にもデータを提供している様々なパートナーさんと協業させていただいたりしているので、データ連携が可能です。これはクライアント企業がついている前提での話ですので、クライアント企業のファーストパーティデータを含め、クライアントの希望条件次第で、どのパートナー企業さんのどのデータを利用するかを使いわけするのが、実際の展開になるかなって思います。

有園:なるほど。

テレビとの相関、関連性が見える

有園:ということは、アナと雪の女王の事例の話がアドタイの記事に出ていましたが、ここで使っているブログでのバズの情報は他の協力会社からもらっているんですね。

梅田:はい。パートナー企業から提供を受けております。いままでコンサルティングのようなことをやってきておりまして、要望に応じてファイルなどで提供していた成果物をTV Rankで半自動化したら、こういうことができるという例です。

テレビの露出に対してのブログ、テレビに対するサーチ、テレビに対するセールスの相関など、ある程度はわかります。

データさえあれば、コンバージョンを見ることも、このツール上では簡単にできます。このダッシュボードで、PDCAサイクルを回すための目的で使っていただけるかと考えます。テレビCMを同じ秒数やってもブログの記事数や売り上げが違います。「どうしてだろうね」というのが、まさにコンサルティングの領域になっていくかと思います。

有園:そういうことですよね。

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