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グーグル時代 AdMob Japan, YouTube 動画広告
有園:僕は、この業界にいるので理解できるほうだと思いますが、菅野さんは短尺5秒間のモバイル動画広告の会社を作った。その感覚が僕らの世代とは少し違うと思っています。FIVE株式会社の代表、菅野圭介さんに、モバイル動画広告についてお話を伺います。
菅野:菅野圭介といいます。FIVEでは、スマートフォンのアプリケーション向けの動画広告ネットワークを事業として展開しています。また、ネットワークで培った技術を個別のメディアへ提供してブランド向けの動画広告のメニューを作っていただく、プレミアム動画広告事業も行っています。こちらは、特に尺を5秒間に制限をしているわけではなく、メディアに合わせて製品設計を行って動画広告配信テクノロジーを提供しています。
有園:FIVE の設立時期と経歴を簡単教えていただけますか?
菅野:2014年10月24日です。まだスタートして7ヶ月くらいです。私の経歴としては、2008年にグーグルの日本法人に新卒として入社しました。2008年はグーグルが東京オフィスで新卒社員を雇い始めた年でして、当時、有園さんにはお世話になりました。
有園:同じチームでしたね。
菅野:グーグルでは、いろいろなチームで仕事させてもらったのですが、最初は営業チームで主に博報堂グループを担当させていただいていました。その後も、有園さんとご縁があるのですが、2009年にグーグルがスマートフォン広告ネットワークのAdMob(アドモブ)を買収した時に、僕はグーグルにおけるAdMob Japanの立ち上げに参加させていただきました。当時グローバル組織でモバイルチームという大きいくくりがあったのですが、その中でAdMobのメンバーだった方たちと一緒に働いてそれはもう楽しかったです。
その後、AdMob自体がAdWordsに統合されるというタイミングがありまして、統合が完了した後はマーケティングチームに移り、主に広告製品、BtoBのマーケティングを担当しまして、特に注力していたのがYouTubeをはじめとするビデオプロダクトでした。
YouTube ではTrueView動画広告などいろいろなソリューションとあるかと思いますが、当時わりと主張していたのが「Made for Web」という言葉です。オンラインにおける動画のコミュニケーションを考えたときに、もう一度考え直すべきことがあるのではないか。クリエイティブの部分もそうですし、効果計測もそうです。そういったところをリサーチしたり、イベントで発表したりしながら、営業チームの後方支援のようなことも含めて行っていました。
動画はMade for Webで
有園:YouTubeの動画を、Made for Webでいろいろと考え直す必要があるというのは、当時、テレビCMの素材をそのままYouTubeに転用しようというケースが多かったので、そうではなく「Made for Web」という文脈ですか?
菅野:TrueViewというと、すでに現在の動画広告のプランニングではファーストチョイスになっていると思います。そこに至る最初のステップって「じゃあまず、YouTubeやってみよう」、「映像のクリエイティブはどうしよう」といったときに、企業は既存のアセットであるテレビCMを使ってオンラインでどのくらいリーチが増えるのかというところから入っていきます。あるいは、テレビCMと重複で接触した場合の態度変容はどうかというのが最初のステップです。
有園:小ネタを挟むと、博報堂DYさんが「TVPlus Simulator」(http://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/18549)というサービスを2014年に出してきて、まさにテレビCMとYouTubeのリーチの重複を含めてシミュレーションするという試みです。こういったことを各広告主から相談されることが多かったということですか?
菅野:私の印象としては、過去2、3年は、そういった環境だったと思います。おそらく、メディアプランやマーケティング手法を最適化するという意味で、ベースの知見となる大切なものだと思います。グーグルにも非常に優秀なリサーチチームがありましたし、シングルソースパネルのように各メディアを統合してリーチやその後のブランドリフトを可視化してプランニングに活かしていく取り組みが、グーグル全社として推進されていたと思います。
有園:シングルソースパネルとは、インテージのシングルソースパネル(https://www.intage.co.jp/landing/i-ssp/)みたいなイメージですか?
菅野:そうです。そういった取り組みがある中で、いちユーザー目線で見た時に、やはりスマートフォンでは広告接触の態度が違います。TrueViewというフォーマットだと、スキップ可能になる最初の5秒間で成否を分けます。
たとえば電車の待ち時間に、その動画広告を視聴するかしないかというところを含めて、そこでコミュニケーションが成立するかどうかが決まっていくわけです。企業の動画広告をひとつのコンテンツとしてとらえたときに、CMという規格化された映像コンテンツをそのまま使うことがコミュニケーションとして一番良い方法なのかな?という疑問は当時からありました。
例えば今だとHERO, HUB, HELP (※1)という3H 戦略が定着しつつあります。日々のユーザーの接点になるようなコンテンツを作る、あるいはブランドメッセージとユーザーインサイトを結ぶようなストーリーを作りこむなど、さまざまなアプローチがあります。いずれも共通して言えるのは、メディア環境が大きく変化したなかで、オーディエンスに受け入れられるコンテンツとしての広告を作っていきましょうという動きが、「Made for Web」というメッセージに込められていたと思っています。
※1 グーグルの3H戦略については、以下の記事を参照。
「ブランドが発信すべきは、コンテンツ。グーグルが活用する「3Hストラテジー」とは?」(http://www.dhbr.net/articles/-/3346)
FIVE立ち上げの経緯
有園:そこへきて、なぜ、FIVEを立ち上げることになったのですか?
菅野:いろいろと経緯はあるのですが、可処分時間のシフトとフォーマットのリッチネスの組み合わせで考えると、モバイルでのビデオ視聴がこれからのマーケティング文脈ではメインストリームになっていくだろうという実感がまず一つありました。そしてもう一つが、YouTubeあるいはAdMobを担当していた時に感じていたことと少し重なるのですが、AdMobで担当していたとき、当時リッチメディアと呼ばれたキャンペーンがなかなか広がらなかった経験への再チャレンジです。
有園:ちなみに、僕がAdMob Japanの営業責任者として立ち上げに関わっていて、その後、AdMobがグーグルに買収され、それをきっかけに、またグーグルに戻るのもなんだったので僕は辞めたのですが。その後、グーグル内部のAdMobの担当として菅野さんが付いたということですよね。
菅野:そうです。
有園:実は、僕がAdMobをやっている頃から、スマホでの動画配信はあって、最初にメルセデスベンツさんとかが実験的に使ってくれたりしたのですが、リッチメディアというのは動画のことですか?
リッチメディアがスケールしない理由
菅野:当時、プロジェクトとして行っていたリッチメディアの取り組みは動画広告に限りませんでした。たとえば、HTML5でランディングページを用意して、ジャイロセンサーを利用したインタラクティブなゲーム仕様のキャンペーンであったり、GPSの機能を使って今でいうO2O(online-to-offline, offline-to-online )的な導線を引いたキャンペーンを設計したりしていました。
もちろん、その中に動画広告キャンペーンも含まれていました。そのようなプロジェクトを5つくらい実施してみて、個別の事例としては非常に面白いですし、広告効果が高いキャンペーンも出てきました。ただ、そういったリッチメディア、もっと平たく言うと320×50の静止画バナー以外のキャンペーンが主流になるほどにはスケールしなかったんです。
有園:盛り上がらなかったと。
菅野:はい・・・(笑)。そういったのが経験としてありまして。320×50ピクセルの静止画バナーは、スマートフォン登場以来、昔から存在するフォーマットです。スマートフォンでの広告フォーマットはテクノロジーの変化と比べるとあまり進化していないのではないかと当時から思っていたことでした。「スマートフォンの経済がバナー広告で成り立っている現状って最終解なんだっけ?」という思いがあり、こういったプロジェクトに携わってきました。
菅野:2010年当時では、個別の事例は面白いけれど、なかなか一般化するまでには至らなないという状況にありましたが、いま振り返ってその原因を考えた時、大きく3つくらい理由があるのかなと思っています。
まずはデバイスの浸透率。スマートフォンを持っている人の母数が、現在と比べると圧倒的に少なかった。リーチの問題ですね。
もう一つは、通信環境。いまは、3Gから4G/LTEとなってきていますが、当時はユーザーからみたら動画広告は「遅い」、「重い」という不満がどうしてもあったと思います。
最後に制作の問題。リッチメディアキャンペーンのために、制作費を潤沢にかけてモバイル向けに個別のキャンペーンを行うというのは、事例を作るという点では実験的で面白い取り組みにはなるのですが、毎回当たり前のようにそうしたことができるかというと、なかなか難しかった。しかし今は映像制作のハードルはかなり下がってきています。こうした当時解決が難しかったマクロの環境が、わりと整ってきたこのタイミングが、FIVEを始めた一つの理由です。
有園:いいなぁ。僕がAdMobでスマートフォン向けアプリ内広告を売り始めたときは、「スマホが本当に日本で普及するのか?」とか言われていたので、なんか羨ましいですね。
マクロの外部環境的な側面で、時代が菅野さんに追いついてきたってことですよね。
デスクトップとモバイル、動画の視聴完了率の違い
菅野:そこまでは言いません(笑)。ただ当時、取り組みとしては面白かったので、もっとスマートフォンでの広告は多様化しても良いはずだとは思っていました。その後、動画広告にあらためて向き合うきっかけは YouTube でした。TrueViewの数字を見ていると、デスクトップとモバイルだと同じ動画広告でも視聴完了率って違うんです。モバイルの方が低い。デスクトップと比較して、モバイル動画広告はマネタイズしづらい状況がありました。
考えてみると、スマホで動画を見る瞬間って、デスクトップに比べると細切れです。電車の中で動画を見ていてプリロールで動画広告が出てくるという体験と、デスクトップで動画を見ているのとでは、きっと大きな違いがあると思うんです。
有園:僕の感覚では、かなり違いますね。
菅野:その違いを、そのままにしていたら根本的な解決にはなりません。当時はMade for Webのクリエイティブやコンテンツ戦略の文脈での議論でしたが、FIVEとしてはモバイル動画広告を考えたときに、ユーザーエクスペリエンスの部分でモバイルユーザー向けに発想しなくてはならないと考えています。
スワイプ、スクロール、バウンスなど、ユーザーはモバイルデバイスを物理的に指先で操作しています。そうしたモバイルのユーザーの指先に最適化されたエクスペリエンス、そこで配信されるモバイルユーザーに受け入れやすいクリエイティブ、そして大前提としての動画配信・制御技術をユーザー目線で徹底的に考え、総合的にモバイル仕様にしていくことにチャンスがあるのではないかなというのが、FIVEをスタートしたときからのコンセプトです。
アテンションスパンは平均5秒
有園:先日、サンフランシスコへ出張して「ad:tech San Francisco 2015」を見てきたんですが、「アテンションスパン(attention span)」という言葉が出ていました。必ずしも今回、初めて聞いた言葉ではありませんが、あらためてアメリカ人が言う「ジェネレーション」、「Z」ですね、「1990年代以降に生まれた人たち」というまるっとした定義の人たちの「アテンションスパン」、「集中力が続く時間」、「注意が継続できる時間」のことですが、そのアテンションスパンが短くなっていて、平均5秒だと言っていました。菅野さんは、その世代でしょ?
菅野:1985年生まれです。
有園:85年ということは、ちょっと上ですが、アテンションスパンが短いということについて、僕はこの業界にいるので頭では理解しているのですが、5秒動画のビジネスをスマホで立ち上げて、アドネットワークとOEMで提供しようというFIVEの試みは、僕にはハードルがあるんですよね。
その領域で会社を自分で創業するってことは、そこに人生を賭けているわけでしょ。ジェネレーションの差を感じるというか。新鮮でもあるのですが。
世の中一般的に、同じ世代を見て「アテンションスパンが短くなっているな」というのを、菅野さんは肌で感じているのでしょうか?
インターネットが生産と消費の時間を増加させている
菅野:そうですね。感覚的な話になりますが、インターネットが出てきて、生産と消費に使える時間が、すごく増えたと思っています。さらにモバイルが出てきたことによって、普段の生活の中で、ちょっとした待ち時間やトイレに入っている時間さえ、細切れでスマートフォンに触れています。そこでニュースを読んだら消費ですし、チャットを返したら生産ですし。
有園:それは情報の消費と生産ということですね?
菅野:はい。たとえば、夜寝る前にベッドのなかでチャットでスケジュールを合わせてビジネスミーティングを設定したら、それって企業としては生産活動じゃないですか。そうした細切れの生産・消費機会が、めちゃくちゃ増えたと思います。
自分の父親の世代だと、1日の使い方って、もっとゆっくりしてある意味でメリハリがあったと思います。1時間のミーティングがあって、移動時間が30分あって。きっと、30分とか1時間くらいのブロックの塊が時間単位の体感としてもあったと思うんです。
でも、今の人たちの働き方って、僕もそうですが、ミーティングのアポイントをとるのも、ほとんどフェイスブックのメッセンジャーでやるわけで。外で歩きながらアポイントが決まったり意思決定されたりする。すでに実態として、生活者のコンテンツアクセス、インターネットアクセスはよくも悪くも常時接続で細切れになっていると思うんですね。
僕の持論ですが、インターネットって、基本的には大きな単位のカタマリを小さな単位に切り分けて、そのリソースを最適分配することが得意な仕組みだと思っています。きっと時間の使い方も、そういう風に小さい単位に分解されつつあるのかなと。
有園:それはある意味、ロングテールですよね。細かい、細かいテールの、滅多に売れない本なんかもAmazonなどインターネットにのせると売れる、十分生産性がとれる。そういった世界ですよね。
菅野:そうですね。需要と供給が一致する。
有園:100万冊売れなくても、10冊でもビジネスになる。
広告も時代の流れから逃れられない
菅野:そういう世界です。それってインターネットビジネスのなかで多くのひとが興奮した要素だと思います。そのような力学が働いているとして、コミュニケーションもその力学から逃れられないのではないかと思っています。さっきのような状況が起きているなかで、じゃあ広告コミュニケーションだけがフォーマットを変えずにいられるかというと、そうではない。人と人のコミュニケーションも、昔は手紙を書いていたけれど、Eメールができるようになり、今はLINEのスタンプひとつで感情のやり取りをしている。
有園:僕はスタンプ、よく分かんないんですが(笑)
菅野:使ってください(笑)そういった意味では、良くも悪くもコミュニケーションの時間単位が実際に小さくなってきています。映像で考えると1時間のテレビ番組、30分のテレビ番組があったけれど、YouTubeが出てきて数分のビデオクリップになり、モバイル・インターネットではVine(バイン)だったり、Instagram(インスタグラム)だったり、MixChannel(ミックスチャンネル)だったり、数秒の動画が出てきている。
そのような大きな流れがあります。いまのユーザーは、そうした数秒の動画を当たり前のように楽しんでいて、かつ、自分たちでも作るわけです。こうして映像コンテンツを生成して共有するというプロセスを、すでにユーザーが企業よりも先んじて行っているという現実があります。
有園:女子高生とかがね。
菅野:やはり、どんどん若い世代が変えていくものなんだなって思います。そういった環境の中で、企業が映像でのコミュニケーションをする時、僕らみたいな動画広告サービスを提供する人たちは環境にあわせたフォーマットやクリエイティブの考え方を提供しなければならないと思っています。
どんどんロングテール化して、時間も細切れになっていきます。実際に若い人たちの行動をみると、そうなっている。広告コミュニケーションも、その力学からは、きっと逃れられないのではないかという感覚はあります。
有園:それは、いつ頃からあったんですか?
菅野:いつ頃からか明確には記憶にないのですが、「とりあえず長いよな」という思いはありましたね。
テレビを集中して見ていられない
有園:長いというのは何?テレビ?1時間番組は長い?
菅野:そうですね。テレビにかぎらず映像メディアって単位あたりの情報の摂取量が、作り方によってはすごく少ないメディアだなと思っています。テキストであれば自分のペースでどんどん読めるじゃないですか。
でも、たとえばテレビ番組では、作り手が意図したタイムラインに受け手は合わせなくてはいけない。無数の情報コンテンツが可処分時間を奪い合っているなかで、映像というのは時間軸が存在するフォーマットですから、この「単位時間あたりの情報量」という視点は重要だと思っています。
有園:それは飽きるってこと?例えば、NHK特集が1時間やっていても「もっとコンパクトにまとめられるでしょ?」って思ってしまうってこと?ちょっとイライラするの?
菅野:僕が同世代の代表性があるかどうかは分かりませんが。
有園:いいんです。
菅野:たるくて見ていられないことが多いんです。
有園:たるくて見ていられない。「たるい」って、「かったるい」のことですよね?それ、すごく大事なことです。今日は、そういう言葉を聞きたかったんです。なぜかというと、それが「アテンションスパン」じゃないですか。1990年代以降に生まれた人たちの情報摂取に対する感覚が、だいぶ違うということなんです。今日は生の声を聞きたかったんです。たるいんですね。
リアルな場、ライブな体験の価値
菅野:そうですね。よほど映像に釘づけにされない限り、面白い情報やコンテンツは無数にあるわけで、一瞬でも退屈したらどうしてもほかの情報探索・情報消費へ飛び移ってしまう。
ただ一方で、ちょっと話はそれますが、フェスだったり、映画館やコンサートといった体験型の価値が相対的に高まってきているなと感じます。普段の情報がわーっと入ってくる細切れの情報シャワーの状態を抜けだして、塊の時間を身体的に過ごすという行為の価値が反動的に高まってきているのではないかとも思います。
有園:それはライブだからだよね?
菅野:そうです。おそらく、多くの情報のなかで、身体的な価値が貴重になってきているんだと思います。
有園:テレビは映像の情報を一方的に摂取していて、生ではない、嗅覚とかに訴えるものではないんですよね。その時の風だったり、五感に訴えるものがライブに比べると圧倒的にテレビは少ない。だから、ライブの方が気持ちは盛り上がる。映画館の方がテレビより良いのは、画面も大きくて音声も豊かで、それはつまり情報量が多いってことだと思うんです。
フィジカルに体感するのは結局、目と耳だけではない情報を得ているということですね。テレビは情報が薄まっている、1時間も見ていられないからコンパクトにしてくれよっていう感覚と表裏一体で、ライブみたいなものは長くても情報量が圧倒的に多いから楽しめる。そういう感じかな。
菅野:そういう視点で考えたことがなかったのですが、結局、単位時間の情報量ということかもしれませんね。逆説的ですが、デジタルマーケティングに携わっているなかで感じることは、体験的な価値というのは情報が溢れるほどにかえって高まるのではないかと思います。私たちのモバイル動画広告のアプローチはより “busy” な情報環境を前提としていますが、ちょっと引いた目ではそうした文脈でも捉えなおしてみたいな、とは思っています。
FIVEが目指すもの
有園:そういう感覚をお持ちだから、FIVEという会社を立ち上げたんだろうと思っています。スマホで短い時間の動画を流して、アドネットワークとOEMで提供することについて、ユーザーエクスペリエンス、あとはビューアブルな時だけ買い付けるといった、菅野さんが思い描いていたことは、FIVEでは実現できていますか?
菅野:そうですね。僕らがFIVEの製品コンセプトとして大事にしようと定めていることが、一言で言うと「ユーザーにコントロールを渡す」ということです。
有園:それはさっき言った「これかったるいな」とか「ちょっとイライラするな」って思った瞬間に、すぐ止められるとか、すぐ次に行けるとか、そのような意味でのコントロールを渡すということですか?
ユーザーにコントロールを渡す
菅野:はい、そうです。やはり見たくないものをずっと見せられるとキツイし、それはコミュニケーションとしても持続的ではないと思うんです。スマートフォンのひとつの大きな特徴って、ユーザーが指先で物理的に情報コンテンツを操作していることなので、同じように動画広告も操作されるべきであるというのが大きな考え方です。コントロールを渡すべきであると。ユーザーが見たかったら見るし、必要なかったら見ないということが、最終的には必要になると思います。
有園:「できる限り主導権をユーザーにもたせたい」という感じですかね。
菅野:そうですね。その中のひとつの要素として尺の問題もあります。スーパーショートと呼んでいる短尺のコミュニケーションも、先ほど申し上げたような環境の中でユーザーが扱いやすい秒数です。
有園:スーパーショートって何ですか?
菅野:スーパーショートムービーです。これは 5秒間で完結したコミュニケーションを提供しようという試みです。もう一つが、ユーザーネイティブです。スマートフォンであれば指先で情報コンテンツをスワイプしたり、フリックしたり、スクロールしたりしていて、そうした普段の動作に中に、なるべく動画広告も同じように扱われるようなエクスペリエンスを提供したいという思いがあります。
今、ネイティブというと、いろいろな意味がついてくると思いますが、私たちの視点としてはメディアネイティブな議論が多いのかなと思っています。メディアのデザインやしつらえに合わせていくよりも、ユーザーの操作感や指先にネイティブであるかというUXの視点も大事なのではないかと思っています。
あとは、ビジブルなパフォーマンスも大事にしたいと思っています。これまで、動画広告は、配信しておしまい、「それで、結局何だったんだっけ」ということが起きがちだったと思うんですよね。
有園:ビジブルなパフォーマンスというのは、効果測定していく?
菅野:はい、効果測定を含めてマーケターにもコントロールを渡す必要があると思っています。具体的には、いまプレミアム動画広告の取り組みでは、接触・非接触での広告認知や態度変容をカジュアルに実施するサーベイ機能も提供しています。
SUPER-SHORT, USER-NATIVE, VISIBL-PERFORMANCE をプロダクトコンセプトとしてどんどんブラッシュアップしています。
有園:ビューアブルの部分だけ買い付けるというのは、すでにアドネットワークで実現しているのですか?
菅野:私たちのSDKでは、非ビューアブルなタイミングでそもそも動画が出現しない仕様になっていて、基本的にはインビュー状態でしか再生されない形になっています。どのフォーマットも。
有園:なるほど。今はアプリだけですか?
菅野:はい、今はアプリにフォーカスしています。
有園:それ以外に、FIVEの特徴ってありますか?
動画のABテスト
菅野:そうですね。FIVE VIDEO NETWORKの方では、やはり、これまでのデジタル広告と比較するとクリエイティブの重要度が非常に高いと思っています。現在のところは、静止画バナーを代替するようなスーパーショートビデオを何パターンか作りそれを運用的に効果の良いものを残していくというアプローチをとっています。
有園:それは動画のABテストですか?
菅野:そうです。例えば、広告主がゲームアプリのプロモーションをするとき、これまではバナーでインストールを促すキャンペーンをしてきました。バナー広告やテキスト広告では、当たり前のようにクリエイティブのABテストをします。実際、それは重要な領域だと思いますが、動画の場合は、なぜか作ったものを、そのまま流すという発想になりがちです。
これって、動画の制作プロセスが、これまでは「完パケ主義」だったからだと考えています。クオリティの高い映像を一つ作って、みんなに見てもらうというアプローチです。テレビのようなリーチメディアでは皆が同じ広告を体験するという同期的なコミュニケーションが成立する世界だと思いますが、映像の制作プロセスが多様化する中で、それとは違った動画の捉え方もあると思っています。
先ほどのゲームのプロモーションであれば、訴求軸、例えばキャラクターを見せた方がよいのか、ゲームの操作シーンを見せた方がよいのか、オープニングムービーの綺麗なところを見せた方がよいのか、それに加えるBGMはどういったものがよいのか、テロップを乗せる場合はどんなコピーがいいのか。そういった要素を分解して複数のキャンペーンを配信したりしています。いろいろな方法論を模索していますが、5秒間なので、そういったトライがしやすいというのはありますね。
有園:編集でいくつも作れてしまうってことですよね。5秒動画を3本とか4本とか用意して入稿して、スマホの動画広告枠で動画が流れて、5本作ったら5本ずつローテーションで流れるような仕組みになっているのですか?
菅野:はい、そうです。
有園:動画広告の制作は御社でも行うのですか?
菅野:はい、FIVE ではデザインのバックグラウンドをもったメンバーがディレクションも行います。モバイル動画広告にまつわるテクノロジーとクリエイティブ両輪でサービスを提供する会社と位置付けています。また、パートナーの制作会社と組んで、僕らも過去の蓄積をもとに、「こういったパターンはこうすると上手くいく」とノウハウを一緒に蓄積しながら、提案させていただくといったアプローチをとることも多いです。
テレビCMもABテスト
有園:昨日たまたま、株式会社 売れるネット広告社の加藤公一レオさんにお会いしたのですが、彼のところで「売れる TVCM クリエイティブテスター」(https://www.cmtester.jp/)というツールを出しています。そのツールのコンセプトは、ABテストをするというものです。素材を複数用意して、例えばヤフーのバナーからランディングページに飛ばし、そこに動画があると、例えば3本あれば3回に一回ずつローテーションして、どれが次にページ遷移しやすいか、一番視聴時間が長いかなどを測定して、その中で一番良かったものをCMに使うと売れる。彼は通販が強いわけですが、過去の経験から分かっているという話でした。結局、最初のつかみのコピーと、最後にCTA(Call-to-Action)で何を持ってくるか。加えるとすればシズルカット。ビールなら泡が出ているところ、お姉ちゃんがビールを飲んでいるところ、美味しそうに見える部分を、あらかじめテレビCM制作時に複数撮ってもらい、編集で組み合わせて作るというプロセスを踏むことで、断然ABテストの結果で効果が上がるという話をしていたのですが、発想はほとんど同じですよね?
菅野:そうですね。
有園:それを5秒でやるのか、15秒・30秒でやるのかの違いですね。時代の流れは、そっちにきていると思っています。今までの完パケでやってきたことに比べれば、とても画期的なことです。多分、大手の代理店さんは、なかなか、すぐにはそこにいかないと思います。でも、そういう流れはくるでしょうし、おそらくテレビもスマートテレビになって、ネット接続になってという時代になれば、視聴スタイルもだいぶ変わってくるでしょう。見逃し視聴というものがありますが、あれは見逃しているのではなく見ていないのですが、今年の秋からネットに出していき、一部の番組が出せないとかの話もあるらしいですが、そもそも全部出さなければって話になっていくでしょう。
スマホでも見られるってことになると、テレビの製作スタイルも変わってきますね。きっと今も、菅野さんみたいな感性を持っている人はテレビ局の中にもいて「1時間は長いよ」って思っていて、そういう人たちが短いテレビ番組を作り始めるなど、変わっていくだろうなって思っています。そのような中で、テレビCMにしろ番組にしろ、ABテストみたいなものが出てくると思います。
あとは、Netflix(ネットフリックス)みたいなタグをたくさんつけて分析して、番組を作るという流れになっていくとは思いますね。そうしたこと、FIVEでは先にやっているということですよね?
菅野:そうですね。完パケ主義の話ではありませんが、映像の作り手って、すごく多様化しています。テレビ番組を作るプロもいますし、クラウドソーシングも作り手が多様化している一役を担っています。またゲームの実況もユーザーからすれば映像コンテンツですし、YouTuber(ユーチューバー)もオンラインセレブレティーみたいな人もそうですし。MixChannel(ミックスチャンネル)を見ていると、クラスの人気者やカップルなど自分たちの身近な日常がコンテンツになって人気を集めています。
そうした映像制作の多様化のなかで、企業のマーケティングコミュニケーションもいろいろなチャレンジができるのではないかと思います。たとえば、スマートフォンで自撮りしたような、視聴者と同じ目線のクリエイティブの方が親近感は湧くかもしれません。
有園:忍者女子高生みたいなね。
菅野:忍者女子高生は、かなりしっかり作られていると思いますが(笑)
有園:確かに(笑)でも、「粗い」感じはしますよね。
菅野:極端な話、コミュニティで人気なユーザーがスマホで撮ったクリエイティブを、そのまま広告に使ったらよかったねという話が、ひょっとしたら出てくるかもしれません。その辺の裾野が広がっているところを、なるべく僕らとしては、いろんなチャレンジをして、実際に数字で見ていくのがよいのかなと思っています。
実際、プレミアム動画広告では、メディアごとにクリエイティブを企画制作した結果、非常に成功したキャンペーンも出てきています。しかもこれは5秒短尺にかぎらず、です。
有園:それだけ裾野が広がっているわけなので、そこにビジネスチャンスがあるということですよね。
菅野:そうですね。広告の作り方も、いろいろなパターンが出てくるのではないかと思っています。
MixChannelとFIVEの提携
有園:今回、MixChannel(https://mixch.tv/)という言葉が何度か出ていますが、MixChannelとFIVEは提携している?MixChannelにFIVEを導入してもらっているんですよね?
菅野:MixChannelは、株式会社Donutsという会社が運営しているスマホ向けの動画のコミュニティメディアです。規模は非常に大きくて、単独のスマホ動画メディアとしては最大規模だと思います。
有園:どのくらいの規模ですか?
菅野:ウェブとアプリを両方合わせて、月間利用者数は約400万人です(2015年6月現在)。モバイルアプリは300万ダウンロードで150万MAUくらいの規模ですね。
有園:400万というと、日本経済新聞の購読者数が400万くらいだったような気がします。スカパーの契約者数も350万、400万くらいなので、それと同じくらいですかね。それがほとんど女子高生なんですよね?
菅野:ほぼ女子中高生です。
有園:女子中高生。おそろしいですね。
菅野:ある意味、とても偏った特徴的なメディアではあります。株式会社Donutsの運営担当さんに話を聞くと、すごく面白いんです。視聴しているタイミングは、夕食が終わった後に自分の部屋で、しかも一番多いのがベッドの上なんです。接触シーン目に浮かぶようです。その時に見ているコンテンツが、教室でふざけている、おもしろ動画だったりカップル動画だったり、そういったものを好んで見ている。
しかも、視聴時間がすごく長いんです。1日あたり平均で25分くらい見ているというデータが出ています。僕らよりも下の世代の人たちが独自のカルチャーやコミュニティを形成しながら当たり前のように動画コンテンツを楽しんでいる。
これまでMixChannel ではサービスの成長を優先して広告のマネタイズは図っていなかっのですが、FIVE が提供している技術を採用していただいて、トップページでいわゆるプレミアム広告の販売を開始しました。インフィード、中面の方でも我々のアドネットワークを採用していただいて、一緒に収益化を図らせていただいています。
有園:かなり売り上げは伸びているのですか?
菅野:そうですね。プレミアム動画広告については、想定以上に販売を重ねている状況です。
有園:20代の女性って、日本に700万人くらいいるらしいです。女子中高生の数は分からないのですが、女子中高生400万人を押さえているってことは、女子中高生の半分くらいを押さえているってことでしょうか。
菅野:いま、中高生の1学年が、だいたい100万〜120万人くらいらしいです。
有園:6学年だと600万人だから、10代の女子を、男子もいると思うけれど、そもそも僕もMixChannelに入っているので、そういうマーケティングの仕事で必要に迫られて見ている40歳代のオッサンを考慮しても、きっと女子中高生の半分は押さえているってことですね。
菅野:女子中高生の1学年に一週間でまるまるリーチできるって、けっこうスゴイことじゃないですか?
有園:すごいすごい。
菅野:次のトレンドを作っていく世代でもあるので、注目も集まっていますね。
今後の展開
有園:御社として、MixChannelの取り組みも大成功だと思いますが、今後はどのような展開を予定されているのですか。
菅野:ネットワークの方は配信量が急激に成長してきているので、引き続きネットワークの質を保ちながら規模を広げていくことが主要な課題です。僕らのプロダクトも順次アップデートしており、直近でもわりと大きなアップデートがありました。
それをベースに広告効果も高めながらリーチを増やしていくのが、一つ大きなチャレンジかなと思っています。また、プレミアム動画広告についても、MixChannelは一つの事例ですが、こうした取り組みを広げていこうと考えています。
実際、今度はGMO MEDIAさんとの提携が決定しており、320万MAU規模でのプレミアム動画広告の販売を間もなく開始します。
有園:ところで、スマホって、いる場所によって通信速度って変わると思うのですが、通信環境とかも探知して出すコンテンツの重さが変わるとか、そういったコントロールもされているのですか?
菅野:技術面のお話ですね。まず、動画はある意味でユーザーにとって負荷の高いコミュニケーションだと思っています。点ではなく線、つまり時間軸の概念が発生するフォーマットなので、それ特有のチャレンジがあります。
数秒の動画を見せるのに数秒待たせてしまったら本末転倒じゃないですか。だから、ロード時間を限りなく0に近づけるというのは重要なテーマとして研究開発を行っています。
具体的に何をやっているかというと、僕らはユーザーに対してアドリクエストがある前に動画広告を事前予測して配信しているんですね。それって、僕らみたいな動画の配信を行うプレイヤーからすると、ある意味コストが事前にかかってしまう状態です。
しかしそこは「このユーザーさんは動画を視聴してくれやすい」という配信実績に基づく予測であったり、音声環境の有無よる広告効果の変化など様々なシグナルを利用して配信ロジックを組んでいます。
それらを総称して動画視聴関連シグナルと呼んでいます。それはモバイルデバイスでの動画視聴ならでは部分も多く、この辺が技術面では重要な部分かなと思っています。
有園:位置情報も使っていますか?
菅野:位置情報は、まだ使っていないです。今のタイミングでいうと、セグメントを細かく切りすぎると今度はリーチがとれないということになってくるので、そこはユニークユーザー数の推移を見ながら、順次ターゲティングオプションを提供していこうと考えています。
現在の商流
有園:代理店さんに説明して回っているかと思いますが、案件は代理店さん経由で入ってくるのですか?それとも直接ですか?
菅野:FIVE VIDEO NETWORK について言えば、いまは比較的アプリのプロモーションが多いので、ネット専業代理店さんだったり、あとはトライアルの時から直でやらせていただいているような広告主さまもいらっしゃって、両方という感じですね。
有園:50対50くらいですか?
菅野:今は代理店さんからの商流が増えました。MixChannelをはじめとしたプレミアム広告では事例作りを一生懸命やっていて、トライアル期はしばらく直接の取り組みが続きました。現在は代理店・メディアレップさんを通じての商流がしっかりできてきたので、7月以降はナショナルクライアントを中心に満稿状態が続いています。MixChannelについては、まずはプレミアム動画広告としては立ち上がったイメージです。
有園:なるほど。なんか急成長しているようで、今後が楽しみですね。今日はありがとうございました。
《対談者プロフィール》
FIVE株式会社
Co-founder, CEO 菅野圭介(かんの けいすけ)
2008年に グーグルに新卒一期として入社。買収後のAdMob の日本
オヘ?レーションの立ち上け?、YouTube 広告製品のフ?ロタ?クトマー ケティンク?て?収益化、動画のクリエイティフ?エコシステムの拡大を 担当。2014年にヘ?ンチャー参画後、FIVE を設立。