目次
- 1 ブランドサミットに初めて参加してきた!
- 2 これは素晴らしい!
- 3 キーノートで世界の最新トレンドが分かる
- 4 ソーシャル時代のブランディングのための、3つのステップ
- 5 2つ目のキーノートは ad fraud問題を扱っていた
- 6 業界のランドスケープを集中的に学べる
- 7 デジタルとグローバルは表裏一体。ブランドサミットはそれを体現している
- 8 未来を切り開くためのヒントが転がっている
- 9 未来志向のベンチャー創業者と熱く議論できる
- 10 すぐに商談が始まる
- 11 生かすも殺すも自分の能力次第だ
- 12 今年は、やはり、動画だ
- 13 もっとブランディングの議論を!
- 14 電通・博報堂の力が必要だ
- 15 海外からの参加者がもっと多くてもいい
ブランドサミットに初めて参加してきた!
2015年6月15日〜18日に宮崎のフェニックス・シーガイア・リゾートで開催されたブランドサミット(iMedia Brand Summit Japan)に参加してきた。
ブランドサミットには以前から参加したいと思っていたのだが、忙しいことを理由にこれまで参加を見送っていた。なので、私は今回、初めて参加した。
ブランドサミットは簡単にいうと、動きの激しいデジタルマーケティング業界のトレンドを一気に把握でき、かつ、業種・業界の壁を越えて人的ネットワーキングができるグローバル型カンファレンスだ。
ブランド(広告主企業)とパートナー(ツールベンダー、サービスベンダー、広告代理店など)が参加していて、主催者はdmg::events Japan。今年で5周年を迎えたとのことだ。
3泊4日の間、約300名の参加者と一緒にホテルに缶詰めにされ、プレゼンやディスカッション、そして、ネットワーキング(名刺交換と情報交換)をほぼ一日中、3日間おこなう。
途中にレクリエーションやディナーパーティーなどもあるが、その時間も結局、ネットワーキングをやっているので、ホテルに缶詰めにされて終日仕事をしていることになる。
夜もカラオケや深夜まで個別の宴席があり、実質的に親睦会とネットワーキング。さらに、私の場合は、帰りの飛行機の中でも、たまたま、隣の席が広告主企業のマーケターだったので、そこでも情報交換をしていた。
これは素晴らしい!
さて、参加した第一の感想は、これは素晴らしいイベントだ!ということだ。
すべての広告主企業のマーケターが参加した方がいいと思ったぐらいだ。なかでも、海外展開を目論むグローバル企業のマーケターにはかなり役立つだろう。
実際に、トヨタ自動車、資生堂、花王、ライオン、ソニーマーケティング、パナソニック、キリン、サッポロビール、サントリー、日本マイクロソフト、日本アイ・ビー・エムなどなど、ほかにも挙げればキリがないが、日本を代表する、あるいは、世界を代表するブランドのマーケターが顔を揃えていた。これには、いくつか理由がある。
キーノートで世界の最新トレンドが分かる
まず、最初の理由は、欧米からキーノートスピーチのために外国人スピーカーが招待されていることだ。このキーノートスピーチを聞くだけでも、世界の最新トレンドの一端に触れることができる。
今回の最初のキーノートは、Phil Pallenだった。
Philは、Brand strategist and social media expert という肩書きになっている。名刺交換をして少しだけ立ち話をしたが、名刺にはとくに会社名はなくて「PHILPALLEN.Co」と記載されているので、個人で独立して仕事をしているようだ。企業のマーケティングだけではなく、TVのスターや俳優、起業家などのブランディングやソーシャル戦略も手伝っているとのこと。
Philのスピーチのタイトルは「New Way of Drawing Branding Strategies in the Era All Connected in Social Media:ソーシャルでつながる時代、新たなブランディング戦略の描き方」だった。
Philの主要なメッセージは、ソーシャルメディアの威力が大きくなった現在では、すべてのブランドがソーシャルメディアを使ったブランディング戦略を中心に考えることが必要になっている、ということだろう。
ソーシャルメディアの重要性は以前から説かれていることなので当たり前だと感じるかもしれないが、彼のキーメッセージは、ソーシャルメディアが中心であり不可欠だということだと思った。
実際に、ソーシャルメディアの活用に積極的でないブランドであったとしても、生活者は勝手にブランドのことをソーシャルメディアに書き込んでいく。そこの対応を間違えると、ブランドのパーソナリティーが意図しない形で生活者の間で形成されていってしまうかもしれない。
Philは、「brand has two aspects: content and personality」という話を何回かしていた。
そして、ソーシャルメディアの時代においては、この「content and personality」を再構築し、ソーシャルメディアを戦略的に使いこなすことで、「a solid visual identity」(おそらく、「強固で目に浮かぶぐらいのはっきりとしたアイデンティティー」という意味だと思う)を戦略的に確立することが、現代のブランディングにおいては「the core essence」(核心的な本質)であると話していた。
ソーシャル時代のブランディングのための、3つのステップ
そのためには、3つのステップがあるとして、
– positioning(ブランドの位置と方向性を決める)
– build(photos, visuals, designs, logoなどの all the elements of brandを作り込む)
– promote(ソーシャルメディア戦略を構築しプロモーションする)
この3つが大事であるとした。
また、たくさんあるソーシャルメディア中から「three priority platforms」(3つの優先するプラットフォーム、たとえば、TwitterとInstagramとPinterestなど)を選んで、「giving a purpose to update everyday and maintain」(毎日アップデートするための目的を持たせて、そして、維持できるようにする)ことが重要だと話していた。
つまり、毎日アップデートできるぐらいのネタがないといけないのだが、毎日アップデートするのは大変なので、自分の興味関心に沿っていて毎日アップデートできる理由がなければならない。そしては、それは、ブランドのコンテンツとしてふさわしいもので、そのブランドのパーソナリティーを体現できる必要がある。
そのようにして、戦略的に「a solid visual identity」を確立できれば、「to be different, to be memorable」(差別化できて記憶に残る)ブランドになれるとのことだった。
2つ目のキーノートは ad fraud問題を扱っていた
2つ目のキーノートは、Aniq Rahmanだった。彼は、MOATという会社の President だ。
MOATという会社の名前は、私も今年になってから初めて覚えたのだが、いわゆるclick fraud(クリック詐欺)やad fraud(広告詐欺)の分野でソリューションを提供するテクノロジー会社として急成長しているらしい。
インターネット広告のプログラマティックな取引が大きくなるにつれて、そのターゲティングの正確性やビューアビリティについての懸念と疑念も大きくなり、ad fraud(広告詐欺)の問題がアメリカでは大きな議論になっている。
この話は、「ad:tech SanFrancisco 2015のレポート」でも紹介したのだが、ちょうど今回のブランドサミットにも参加していた江端浩人氏が秀逸なコラム(http://www.advertimes.com/20150528/article193120/)を書いている。これをぜひ読んでいただきたい。
業界のランドスケープを集中的に学べる
さて、話を戻して、次に、すべての広告主企業のマーケターが参加した方がいいと感じた2つ目の理由を挙げてみよう。
その理由は、外資系および国内のツールベンダーなどが一気に集結し、各社のツールやサービスのプレゼンを繰り広げることだ。
すでに付き合いのあるベンダーであっても最新機能や最新サービスの紹介がおこなわれるので、各社の最新動向や業界のランドスケープをこの3日間で集中的に学ぶことができる。マーケターにとってはかなり濃密な時間になるはずだ。
デジタルとグローバルは表裏一体。ブランドサミットはそれを体現している
3つ目の理由は、「デジタルはグローバルであり、グローバルはデジタルだ」ということだ。
業界の大先輩である横山隆治氏と榮枝洋文氏の共著『広告ビジネス次の10年』の冒頭に、グローバル化とデジタル化は表裏一体だ、という話が載っている。ブランドサミットは、それを体現するようなイベントになっている。
日本市場ではテレビというメディアの存在感がまだ大きいが(実際には若い世代を中心にテレビ離れは加速しているが)、アメリカやヨーロッパではテレビのパワーが著しく低下している。また、アジアやアフリカなどにおいては、テレビやPCよりもスマホの方が普及している地域があるときく。
つまり、海外でマーケティングをしようと思うと、日本国内のようにテレビなどマス広告に頼っていてはダメなのだ。デジタルを中心に据えなければならない。人口減少で縮小していく日本市場に留まっている企業は成長の余地がない。したがって、多くの企業が戦略的にグローバル展開を志向している。そのとき、必須となるマーケティング知識はデジタルなのだ。ブランドサミットは、グローバルな視点でデジタルマーケティングの最新動向に触れることができる貴重な機会なのだ。
未来を切り開くためのヒントが転がっている
4つ目の理由は、その未来志向だ。
ブランドサミットとは、そのウェブサイトによると、「最先端を行くブランド企業のマーケター300名が集う、完全招待制のビジネスサミット」となっていて、必ずしも、デジタルマーケティングのイベントだとは記載されていない。
しかしながら、「最先端を行くブランド企業」のためにプログラムを作ると、その結果として、デジタルに焦点が当たってしまうということだ。
つまり、デジタルマーケティングには、最先端なツールやサービスで未来を切り開こうとする力が宿っている。旧態依然としたマス広告の領域や日本国内市場だけでビジネス展開しようという企業には、未来がない。このブランドサミットには、未来を切り開くために必要なヒントが散りばめられている。
未来志向のベンチャー創業者と熱く議論できる
また、ベンチャー企業の創業者も多数参加している。
ベンチャー企業の創業者は、未来志向・未来思考の塊のような存在だ。彼らの多くは、伝統的な大企業の窮屈な柵を飛び出して、自らの人生を賭けて新しいことにチャレンジした人間だからだ。彼らの志向と思考に触れるだけでも、未来に向けたビジネスのヒントが得られるはずだ。
実際に今回も、ベンチャー企業である、Kaizen Platform Co-founder&CEOの須藤憲司氏やオムニバス代表取締役CEOの山本章吾氏から、創業期のブランド作りについて熱い質問が飛んでいた。創業期にどのようにしてブランドのパーソナリティーを構築し、それをどうやって次世代に継承し、そして100年続くブランドに育てていくのか。彼らの迫真の議論には、多くの参加者が触発されたことと思う。
すぐに商談が始まる
5つ目は、ビジネスチャンスに溢れていることだ。
「ブランドサミットに参加してもROIが見合わない」という広告代理店やベンダーがいる。パートナー側の参加者は、それなりの参加費を払うため、それに見合った見返りがビジネスとして得られるかどうかが、参加を決定する重要な要素の一つになるのだ。
ただ、今回参加して思ったのだが、「ROIが見合わない」という発言は、自らが無能であるとアピールしているようなものだ。
これだけ多くのブランド広告主が参加しているのだ。
名刺交換と情報交換の時間も十分にある。このブランドサミットで知り合ったご縁を契機にビジネスに繋げる力がないとすれば、それは自分の責任である。このビジネスチャンスを活かせないのであれば、この業界で生き抜いていくことはできないだろう。
したがって、「ブランドサミットはROIが見合わない」という発言は、まさに、ビジネス的な意味で、自らに対しての死刑宣告だとも言えるかもしれない。
私自身、実際、150枚ぐらい名刺交換をした。今回の約300名(実際には320名ほどだったらしい)の参加者のうち、すでに知人だった人が100名ほどいる。なので、残り50人ぐらいとは名刺交換できなかった。
しかし、それでも、ブランドサミット終了の翌日(6月19日)には、さっそくクライアント候補との打ち合わせが入り、NDA(守秘義務契約)締結に向けてやり取りを開始している。
DMP構築やアトリビューションについて相談したいというクライアントも他に数社あり、正直にいって、一気に全部は受けられないなぁと思っているところだ。
私のようなコンサルティングの仕事はサービス内容がざっくりしているので、よほどのニーズがないとすぐには相談しにくいだろうと思う。それでも数社の話がある訳なので、広告代理店やツールベンダー、サービスベンダーは、もっと多くのセールスリードが舞い込んでいるはずだ。
生かすも殺すも自分の能力次第だ
ブランド広告主側はどうなのか?
ソフトバンクモバイルの松田忠浩氏がプレゼンで話していたが、現在取引しているベンダーのうち約70%がブランドサミットで知り合ったということだった。
また、いくつかのブランド広告主の話では、このブランドサミット中に「このツールはうちで使えるか?」「このサービスは試してみたいね」など、参加しているメンバーで話し合っているらしい。そして、ベンダーに声をかける場合は、すぐにアポの依頼をするとのことだった。
もちろん、たくさんのベンダーのサービス内容を一気に聞かされるので、デジタルマーケティングに精通していないと、自社ブランドにとって有益なものであるかどうか判断がつかない人もいるだろう。
そういう意味では、ブランド広告主側も、このブランドサミットを活かせるかどうかは、本人の能力次第といえるだろう。
今年は、やはり、動画だ
すべてのプレゼン内容・プログラム内容に触れることはできないので、簡単に私の印象だけを共有したい。
まず、最初の印象は「今年は、やはり、動画だ」ということだ。
各ベンダーのプレゼンは多岐の分野に及ぶのだが、その中で動画関連のプレゼンを挙げると4つあった:
・ブライトコーブの「Kickstart Your Video Content Marketing 2015:動画マーケティングはクリエイティブ論だけじゃない。」
・Viibarの「Video Marketing Technology Expands Online Video Opportunities:動画マーケティングテクノロジーでWeb動画の可能性を拡げる」
・CMerTVの「Video advertising is now shifting from the Web to real media! We’ll show the ever-evolving latest video ad market at a stroke!:動画広告はWebからリアルメディアへ!進化を続ける最新動画広告市場を一挙公開!」
・オムニバスの「Contents × Technology Our new vision of online video marketing:コンテンツ×テクノロジー オムニバスが目指す動画広告の姿」
また、プレゼンはしていないが動画関連のベンダーは、やはり、数多く参加して存在感を放っていた。
私が記憶しているだけでも、AOLプラットフォームズ・ジャパン、アップベイダー、ブライトコーブ、CMerTV、ファイブ、ゴールドスポットメディア、GYAO、Jストリーム、オムニバス、スキルアップ・ビデオテクノロジーズ、チューブモーグル、Videology、Viibarなどがあった。
動画以外で印象に残ったのは、アジャイルメディア・ネットワークのアンバサダープログラムのプレゼン、ログリーやアウトブレインジャパンのネイティブ広告やコンテンツマーケティングの話しだろうか。詳細は割愛するが、やはり、時代の流れを感じる内容だった。
もっとブランディングの議論を!
私は今回のブランドサミットには基本的に満足しているのだが、それでも、いくつか要望がある。
まず、ブランディングについてもっと議論があってよい。
キーノートのPhil Pallenのセッションと最後のWrap-upセッションでは、ブランディングに触れていたが、全体を通してみると、少ないのではないか。とくに、ブランド広告主の話がもっとあってもよい。
やや乱暴な言い方だが、ブランド広告主は、歴史的に、テレビCMを始めとしたマス広告のことしか考えてこなかった。一方で、パフォーマンス系広告主はCPAとコンバージョンのことしか考えていない。それに呼応するように、総合広告代理店はマス広告中心、ネット広告専業代理店がインターネット広告中心のサービスを展開してきた。
したがって、マスとデジタルを俯瞰してプランニングまたはブランディングをできる人材が日本の広告業界には不足している。
たとえば、アドテクノロジーに精通していて、かつ、テレビCMなどマス広告を理解し、DSP、検索連動型広告、YouTubeなどの動画広告、ソーシャルメディア広告、ネイティブ広告、スマホのアプリ広告などを駆使したコンタクトポイントを考慮して、ブランドと生活者のコミュニケーションを戦略的に構築し、ブランドエクイティを向上するためにオペレーションをマネージメントできるような人材が日本にはいないのだ。
10代・20代がテレビを見なくなっている状況やマスメディアの影響力の低下を考慮すると、マスとデジタルを総合的に視野に入れたブランディングについて、改めて本気で骨太の議論をすることが必要なのではないか。ブランドサミットは、そのような議論をおこなう格好な場を提供することができるはずだ。
電通・博報堂の力が必要だ
そのような骨太のブランディングの議論ができない理由の一つに、電通・博報堂の影が薄いということも関係しているのではないか。
参加して思ったのだが、電通・博報堂のスタッフも参加しているのだが、人数が少ないせいか、あるいは、プレゼンをしなかった為か分からないが、彼らの存在感は感じられなかった。
これでは、ツールベンダーやネット系代理店がブランド広告主と勝手に商談をおこない、電通・博報堂が関与しない領域が増えていってしまうのではないか。
ツールを使うだけ、あるいは、インターネット領域だけのビジネスならそれでもよいかもしれない。だが、マスもデジタルも包含した骨太のブランディングをおこなうには、やはり、その領域のプロフェッショナル、つまり、電通・博報堂が必要だ。
その意味では、電通・博報堂にもっと多くの優秀なスタッフを送り込んでもらって、新しいブランディング手法や方法論、思想などをプレゼンし、議論して、日本のマーケティングをリードし、グローバルに向けて発信して欲しいと感じた。
総合代理店には黒子に徹するという伝統的な考え方があるが、ブランドサミットのようなイベントでは前面に出てリードした方がいいのではないか?
海外からの参加者がもっと多くてもいい
たとえば、電通・博報堂のクリエィティブディレクターやストラテジックプランナーと海外の外資系ブランドエージェンシーのクリエィティブディレクターやストラテジックプランナーなどが一緒になって、ブランディングについて議論するなども面白いのではないか。そう考えると、海外からの参加者がもっと多くてもいい。
あるいは、海外の注目ツールベンダーや海外のブランド広告主で海外で活躍している人々を何人か招いたりしてもいいかもしれない。
キーノートセッションでは、そのような意識が感じられるのだが、ほかのセッションにも海外から来日したベンダーがいてもいい。ブランド広告主も、たとえば、成長余力のあるアジアから招待すれば、日本国内のツールベンダーにとってはアジア展開の足掛かりになるはずだ。
もしかすると、経済産業省やJETRO、外務省などのバックアップを得て、もっともっとグローバルなカンファレンスにしていくこともできるのではないか?と思った次第だ。
このように、いくつかの個人的な要望はあるものの、総じて、ブランドサミットは非常に有意義なカンファレンスであり、今後の展開が楽しみなイベントだと感じた。