これからの広告の作り方:Unyoo.jp特別対談: カンヌ金賞受賞の鷹觜愛郎さんに聞く

これからの広告の作り方:Unyoo.jp特別対談: カンヌ金賞受賞の鷹觜愛郎さんに聞く

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博報堂のクリエイティブディレクター、鷹觜愛郎さん

有園:2014年カンヌ(Cannes Lions International Festival of Creativity)でPR部門とアウトドア部門の2部門の金賞を受賞した「Rice Code」(http://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/17683)や、東日本大震災支援「浜のミサンガ『環』」などで有名な、株式会社博報堂のクリエイティブディレクター、鷹觜愛郎さんに、地方の課題と、その解決手段としてのインターネット、デジタル、インタラクティブの可能性、そして、これからの広告作りのポイントなどについて、お話を伺います。

鷹觜:鷹觜です。1990年に盛岡博報堂(※)にコピーライターとして入社しました。秋田博報堂(※)が現地法人化するタイミングで、MD部長として転勤しました。小さい会社なので、クリエイティブ以外も全部見ていました。秋田に3年間で、そのあと、東北が合併する話が出て、仙台博報堂(※)に転勤して1年半、仙台にいました。そこから、東京の博報堂のEBU(エンゲージメント・ビジネス・ユニット)へ移り、この春iディレクション局のメンバーとなり2年半がたちました。(※現在、全て?東北博報堂)

有園:僕の知る限り、輝かしい経歴ですよね。いた場所、いた場所で常にトップ賞をもらって、次へ移ったような感じです。資料によると、岩手の広告グランプリ県知事賞を9回受賞。これは連続ですか?

鷹觜:連続ではありません。

有園:連続ではないけれど、最多受賞ということですね。

鷹觜:岩手県の広告賞の中で、グランプリが知事賞になります。年に1本だけ選ばれます。それを9回もらいました。岩手を離れて7年経ちますが、記録は、抜かれていないと思います(笑)。秋田にいた3年間は、秋田の広告の部門最高賞を3年連続でもらいました。

有園:以前、お話を聞いたときは、CMも作っているとおっしゃっていました。

鷹觜:地方にいると全部作らなければならなくて。分業出来る余力はないので。プロモーションの企画もしますし、チラシも作りますし、テレビCMも作ります。

有園:受賞歴のなかには、地方のテレビCMも入っていたりするのでしょうか。

鷹觜:テレビCMも多いですね。

 

浜のミサンガ『環』

有園:僕の知っている企画に「浜のミサンガ『環』」というものがあります。そのあたりから鷹觜さんのことをお名前だけは知っていて。鷹觜さんとお仕事で一緒になったときに「浜のミサンガ『環』」の話が出て「あ!この人か」と思ったわけですが、「浜のミサンガ『環』」というのは、地方でテレビCMも流したのですか。

浜のミサンガ『環』

http://www.sanriku-shigoto-project.com/about/
鷹觜:ちょっと長くなりますが・・・

震災後、自衛隊や医師のみなさんの活動に何度も涙があふれました。道路をつくる人、家を建てる人、皆、本当に必要な仕事をしていました。その時、広告は世の中から姿を消していました。再開したTVからは、ACジャパンだけが流れました。僕たち広告会社の社員は、あの時、広告を止めるしか仕事がなかったんです。悔しかった。役に立ちたいと思いました。そんな思いをもった会社の仲間たちと取り組みを開始しました。震災で仕事を失った浜の女性のみなさんの「仕事をつくる」という取り組みです。ドキュメンタリーを地元のCM監督、カメラマンの方に無償でご協力を頂きながら映像化しました。地元のテレビ局にプレゼンをして、協業していただきました。そのテレビ局の自社事業としてCMを流してもらいました。

有園:どのくらいからですか?

鷹觜:震災が起こって1週間後から準備を始めました。ミサンガのデザインを決め、作り方をファイルにまとめ、練習会を開催したのが4月の中旬でした。そこから浜の皆さんにミサンガをつくりだしていただき、2011年6月11日、震災から三か月後に、1,000個の商品を作りました。CMは、6月から流し始めました。

有園:商品の材料は、漁で使う網でしたっけ?

鷹觜:漁網ですね。

有園:ギョモウというのですか?

鷹觜:はい。漁網(ぎょもう)です。

有園:震災で漁ができなくなり、漁港に落ちていた漁網を使って、商品を作ったんでしたっけ?

鷹觜:NHKの「あまちゃん」では、そうだったんですが、僕らは違うんです。

有園:あれって「あまちゃん」がパクッたんですか!?

鷹觜:いい意味で(笑)。ものすごく売れたんですけどね。僕らは震災後、ご縁のある浜に行ったとき、高台に漁網の工場があって。大量の網が倉庫に眠っていました。港も船も、すべて流されてしまった状況で、開店休業なわけです。「当面、売り物にならないから安く使っていいよ」と言われたのがきっかけです。支援してくださる方が、自分の身に付けた時、浜のことを感じてもらえる材料を探していたので、漁網を使えば、一目でわかると考えました。

有園:そのとき、広告主はいたのですか。

鷹觜:明確な広告主というのはいません。実行委員会を作り、会長は岩手めんこいテレビの社長がなってくださって。テレビ局の事業スポットを自分たちの会社の事業として流してくれました。もし、広告主がいるとしたら、それは委員会です。

有園:御社からは、鷹觜さんだけですか?

鷹觜:いえ。一番中心で沿岸との間で動いてくれた営業もいましたし、東京から知見をもってきてくれたマーケティングのメンバーもいました。基本的には盛岡の営業と東京のマーケとクリエイティブの僕という3人が中心です。さらに、いろんなポジションの仲間が、本当にたくさんのサポートをしてくれました。

有園:なるほど。網でミサンガを作って、ネットで売る。

鷹觜:基本的には、ネットで受注販売しました。

有園:「あまちゃん」で盛り上がったときは、アクセスが殺到してウェブサイトのサーバーがダウンしたとか。

鷹觜:そうですね。最初からダウンしましたね。2011年6月11日の1回目の予約販売で、テレビ局のサーバーが落ちたんです。月に1回予約販売を受け付けていたのですが、2か月目の7月11日も落ちて、翌月から大きいサーバーに移しました。

有園:それは仙台のときですか。

鷹觜:2011年4月1日付で仙台博報堂に転勤でしたが、引っ越し先が被災し修繕が必要なこともあり、岩手に張り付いていました。2011年6月11日に盛岡で事業を立ち上げ、同時に宮城の仙台放送にも協業のお声をかけて、2011年7月11日に宮城版を立ち上げました。相当なハイスピードでした。

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カンヌでゴールドを受賞した「Rice Code」(ライスコード:ネイチャー・バーコード)

有園:そのあとに、カンヌでゴールドを受賞した「Rice Code」(http://nature-barcode.jp/award/japanese/index.html)と続くわけですが、これも地方発グローバルという視点ですね。「Rice Code」は、青森県田舎館村の田んぼをアートにしたというわけですが。

「Rice Code」(ライスコード:ネイチャー・バーコード)

 

鷹觜:田んぼアートは、もともと、青森県田舎館村さんが20年くらい前からやっていたことなんですよ。すごく評判になっていて。年間20万人が、田んぼアートを見るために来るんですが、何も買わずに帰ってしまうんです。通過型観光になっていました。そこで、見る行為、写真を撮る行為が、そのまま販売に直結したらいいなと思って。僕らの方からご提案して、あの仕組みができた感じです。

有園:画像認識アプリでしたよね。

鷹觜:「田んぼアート」をスマートフォンの専用アプリのカメラでかざすと、その中から特異点を認識しお米を購入できるECサイトへ移動するという仕組みを作りました。スダラボ(http://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/16190)を立ち上げたときに、自分たちで新しいデジタルの広告メニューを開発しようと思っていて。いろいろなアイディアがあったんですが、「風景が売り場になるとスゴイよね」と。農地が売り場になったらスゴイよねと。スマホ版・道の駅ができたらスゴイよねと。いずれ、あらゆるものがネット接続していくときに、ものすごくデカイものを接続したい思いがあったんです。接続することで、課題を抱えている人たちの役に立てたらと考えたのが「Rice Code」です。

 

ネットに接続することで課題を解決する

鷹觜:日本って、世界の先進国のなかでも、少子高齢化がものすごい勢いで進んでいる、課題の先進国です。日本で人口が増えるのって、東京と滋賀と神奈川しかないんですよ。

有園:滋賀ですか。

鷹觜:滋賀は、関西圏内で企業誘致などが増えています。あとは、東京と神奈川しか増えない。他は人口が減っていますが、そのなかで農村は最たるものです。少子高齢化が進んでいって、農業の担い手もいないし、過疎の農村は今後どうしていくのか?答えが提示されていないと思うんです。

有園:なるほど。

鷹觜:僕らは農業に従事する就労人口は増やせないけれど、購買人口や、交流人口は増やせるのではないかと考えました。

青森県田舎館村さんは、田植えや稲刈りをイベント化していて、「田んぼアートを一緒に作ろう」というイベントには、大勢の人が集まります。人口の概念を分解して整理し直すと、地方が抱える大きな課題が解決できるのではないかなと思いました。

有園:青森県田舎館村の人口は何人ですか。

鷹觜:8千人です。そこに、2014年は29万人を超える人が訪れています。「Rice Code」効果があるかもしれませんが、海外メディアの取材も増えました。

有園:「Rice Code」のプロジェクトが始まったのは、いつ頃ですか。

鷹觜:2013年です。お話をして「一緒にやりましょう」と言ったのは8月です。

有園:2013年末に鷹觜さんと一緒にお仕事をした際、私が画像認識アプリの話をしたら、鷹觜さんが前のめりだったことを覚えています。そのときに「Rice Code」プロジェクトの話を少しお伺いして、画像認識で風景をとるって面白いなって思っていたら、あっという間に、カンヌを獲得して。

鷹觜:爆速でやっています。

有園:海外メディアにも、いろいろと取り上げられましたね。

鷹觜:そうですね。香港や韓国、ニュージーランドなど、海外からの取材が2014年は特に、たくさんきました。

有園:「Rice Code」と青森県田舎館村の田んぼアートに取材が殺到ですか。

鷹觜:はい。

 

クリエイティブ、企画の力

有園:青森県田舎館村の「Rice Code」も、浜のミサンガ『環』も、ちょっと普通の広告とモノが違うじゃないですか。この二つ。企画自体が広告になっているというか。カンヌでも、そういったものが賞を獲るようになっているんだなと思いました。しかも、テレビCMって、がんばっても日本国内の1億2千万人にリーチすればスゴイわけですが、「Rice Code」は海外にも発信されているので、ターゲットを海外の方にして青森県田舎館村を訪れてもらってもいいわけですよね。そう意味では、狙っているリーチのポテンシャルも高くて賞を獲られたわけですが、「テレビCMが効かなくなった」という声も聞かれるいま、テレビCMや広告の作り方にヒントなどあったら伺えればと思います。鷹觜さんなりに考えていらっしゃることがあれば、お聞きしたいなと。なぜ、こんな質問をしているのかというと、私はアトリビューションに携わっているのですが、アトリビューションって広告枠の測定で、分かりやすい例を出すと「テレビCMを2000GRP打ちました、認知が60パーセントとれます」という認知カーブがあっても、実際にやってみると20パーセントしかとれなかったり、もっととれたり。バナー広告や動画も同じで、SNSで拡散して流入が大量にあって、コンバージョン、効果があったものがある一方、同じ媒体でも全く伸びないものもあります。結局、投下ボリュームよりも、クリエイティブやキャンペーン企画内容が影響するよねって思うことがあって。

鷹觜:僕は「浜のミサンガ」の体験から、いろいろなことを学びました。広告会社って、基本的に100パーセント受注産業です。クライアントがいて、クライアントの伝えたいことをどうやったら効果的に伝わるのかを考えて、媒体をバイイングして流す受注型モデルなわけですが、「浜のミサンガ」をやったときに、ゼロからすべてを立ち上げました。この時、ネットで購入された方のシェアが一番響いたんです。ソーシャルメディアで多くの方が、情報を拡散してくださって。リピート購入したり、勧めたりしてくださったことによって、約17万セットのミサンガが売れました。単品通販で、ローカルのテレビ局でしかCMが流れてなくて、1億8千万円以上です。震災支援という文脈が強いとしても、すごく驚きました。これまで、地域で広告を作ってきて、ずっと壁に直面していたから・・・地域から全国にうって出ようとしても、マスメディアは高価で思うように使えないのです。テレビのバイイングで「せめて1億流さないと足りない」って言ってもこれを継続できない。地域でそこそこ頑張って領域を広げようと思っても、マス広告モデルの料金と合致しなかったんです。これに対して、ソーシャルメディアや、インターネットでのコミュニケーションモデルは、確実にローカルから広い領域に情報を届けて購買を生み出せると実感しました。しかも、受注型でなくても、そこに、みんが共感できるテーマやモデルがあれば、拡散してもらえるなって思ったんです。

有園:たしかに、僕も「浜のミサンガ」を知ったのはフェイスブックでした。

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地域の課題をクリエイティブで解決する

鷹觜:ええ。そこから、地域の課題を自分のクリエイティブテーマにしたいなって思って、意識的に地域課題と向き合ってきました。「Rice Code」は、過疎の農村の課題を、いままでにない方法で解決できたらって思ったとき、農業とデジタルって一番遠いところにあるんで、これを結びつけると、前例のない解決方法が生まれるのではないかと。

有園:なるほど。

鷹觜:あと、「ジュエリーかまた」という、青森県弘前市の宝石店さんの仕事をしていますが、地方の専門店さんって大変なんですよ。必死で品揃えをしていても、大型ショッピングモールが出店したり、Amazonや楽天などネットで買えないものはない状況が生まれたり、少子高齢化で既存の顧客が減っていったり。このような三重苦のなかで「どうやってこの先へ進むか?」という未来課題に直面しています。これに対して、事業の規模ではなく、シェアされるサービスの力を高めることで困難な課題を解決し、未来を見出していくことができるのではないかと思っています。今までのやり方だと行き詰っていたことが、デジタルやインタラクティブを地域に合ったモデルとして組み込むことで、一気に開けると感じています。

有園:なるほど。

 

秋田美人が「もっきり酒」にチュー

鷹觜:秋田の老舗である「高清水」を製造販売する秋田酒類製造株式会社のフェイスブックページ(https://www.facebook.com/takashimizu.sake)を担当したんですが、今ものすごいネット上で評判になっています。女の子が「もっきり酒」にチューするだけなんですけどね。

有園:え。

鷹觜:秋田美人が、もっきりのお酒にチューするんです。

有園:もっきりのお酒?

鷹觜:日本酒を飲むときに、お酒をなみなみ注ぎますよね。あれを、もっきりって言うんですよ。

有園:コップや枡に、なみなみ注ぐ、あれですね。

鷹觜:はい。東北では「もっきり」です。なみなみと注がれているので、あふれないように、こぼさないように、自分からお酒に口を寄せていって秋田美人がチューするんです。それを「もっきり美人」と呼んでフェイスブックのシリーズコーナーにしています。

有園:今日は、この人、明日は、この人って感じで「もっきり美人」が、たくさん出てくるんでしょうか。

鷹觜:いま、5回くらいやっているんですが、けっこうそれで、「いいね!」がばーっとついています。

有園:「美人時計」(http://www.bijint.com/)みたいな感じなのかなって思ったんですが。

鷹觜:ちょっと近いかもしれませんね。女の子がお酒を飲むときに、コップに顔を近づけてチューする瞬間の顔をアップで撮っています。

有園:それも、アイディアは鷹觜さんからですか。

鷹觜:秋田時代の部下だったプランナーのアイデアです。僕は全体のディレクションをしています。

有園:なるほど。

鷹觜:「高清水」さんは、老舗だからこその課題をお持ちです。ソーシャルメディアで、次世代ターゲット層とどんなコミュニケーションを生み出していけるかを積極的にトライされています。

有園:そうすると、カンヌを獲ったから先入観を僕がもっていたのかもしれませんが、ローカルの課題を解決して、グローバルに打って出ようってことを、あらかじめ考えていたわけではないってことでしょうか。

 

地域の課題は世界共通

鷹觜:東京のクリエイティブ課題って、とても緻密な、メッシュの細かいことを解決していると思うんですよ。競合との厳しい戦いの連続ですから。海外賞の審査を考える時、このメッシュの細かさは「クラフト」には向きますが、明快な社会課題解決といった仕事には合わない場合が多いと思います。向き合っている課題が伝わりにくい。たとえば、日本のテレビCMを海外の方が突然見た場合、「これは誰にとって、何を解決するCMなのか」ってところが秒数も含めて分かりにくいと思います。一方、地方が抱えている課題って、世界中の多くの人々に伝わる課題が多い。メッシュが粗く、クッキリ伝わります。

過疎の農村に新しい購買モデルを生み出すっていうのは、ものすごくハッキリしたものです。人口減の地域がシャッター通りになっているという課題も、はっきり伝わる。地域の課題のほうが、世界中の文化や言語の違う審査員にはっきりわかる。

 

ローカルこそマジョリティ

有園:すごいなって思うのは、都心に対して地方のことをローカルって言いますが、それが、海外の人からある種の評価がされるってことは、普遍性があるってことですよね。細かい、局所的な課題を解決する広告であっても。

鷹觜:たぶん、都市は人口が多いかもしれないけれど、都会で暮らす地方の人も含めて、総数でいうとローカルの人のほうが多いんですよ。だから、マジョリティはローカルなんです。

有園:マジョリティはローカル。なるほど。

鷹觜:バランスの悪い世の中になっています。都市と地方のバランスが、ものすごく悪くなっている。僕は、もっとよくなる方向性をメッセージとして示して行くべきだと思っています。地域の課題を解決することは、世の中の課題を、大きな軸で解決していくことだと思っています。

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デジタルの施策こそが、地域の状況や環境を変える

有園:地域の課題をデジタルで解決する方法というか、やり方みたいなのは、どういったものがありますか。コツみたいなものは。

鷹觜:地域は、デジタルの広告が、全く進まないじゃないですか。先日のad:tech tokyo 2014でも、20年間、地域の広告モデルは変わっていないというテーマで話をしたんですが、リスティングやバナー広告といった、いまや一般化されたデジタル広告でもほとんど活用されていません。本当は地域こそインターネットを使ったほうが飛距離をだせるのですが、クライアントも広告会社もまだ上手に使えていません。明治維新で服のモデルが変わったけれど、横浜あたりの人は洒脱な洋服と靴でも、地方に行ったら着物と草履だったわけですよ。明治30年でも。

有園:はい。

鷹觜: でも、最初だから、ワクワクも大きいんです。

有園:そのなかで、あえてデジタルに飛び込むから、おもしろいのでしょうか。

鷹觜:今後は、デジタルこそが地域の環境を大きく変えると確信しています。「浜のミサンガ」で体感したんです。革命は、いつの時代も、地方から始まりますからね。

 

ブランドが自分のことを語るCMの限界

有園:視点を変えて伺います。鷹觜さんと一緒に仕事をしたときに「この人、おもしろいな」って思った言葉が、いくつか僕の頭に残っています。

鷹觜:はい。

有園:これまでマスメディアのメッセージは一方的になることが多かったわけですが、インターネットが登場して、それが受け入れられにくくなったのではないかと思っています。それに対して、鷹觜さんがおっしゃったのが、地方に住む主婦に対してメッセージを届けるためには、ブランドがブランド自身のことを直接発信しなくても、その人の場所で、その人の身近なところで、その人に興味がある内容を、その人の言葉で語るってスタンスの企画を用意されていました。ご一緒したときは3つくらいあったと思いますが、全部が基本はそういったスタンスで、ブランドの企業が「こんなにすごいんですよ」といったことは言わなかったんです。それがとても印象に残っていて。

鷹觜:あとで「ジュエリーかまた」のCMを見てもらえると嬉しいのですが、弘前で85年、時計修理からはじめた宝石店さんですが、職人さんを大事に育てていて、オーダーメイドの指輪を作れるんです。古いジュエリーのリフォームも本当に丁寧にしてくれます。親から子へ宝石を受け継ぎ、リペアして使う文化は日本には根付いていませんが、これからはすごく求められると感じでいます。マスメディアは、ブランドが一人称で語ることが多かったと思います。ソーシャルメディアは、お客さまに語っていただく、シェアしていただくことが主流です。お客さま目線で、お客様にとって役立つ言葉になっていなければなりません。

ジュエリーかまた

http://www.j-kamata.com/cm
有園:はい。

鷹觜:「ジュエリーかまた」の場合は、全編お客さま目線になっています。「Rice Code」も「浜のミサンガ」も全部そういった視点です。ソーシャルメディアで情報を発信してくれるのは、一人ひとりの感動ですから、その人たちの自分事になっていることが大事です。そうでなければ話さないじゃないですか。企業から言われることをそのまま語りたくはないし。ストーリーを自分事に、どう置き換えてもらえるかということを大事に考えています。

有園:そういう感覚って、いつ頃からもっていらっしゃるのですか。

 

企業が語るのではなく、お客さまに語ってもらう

鷹觜:「浜のミサンガ」をやっているときからモヤモヤしていて、須田和博さんと出会ってはっきりしました。「インタラクティブとは、そういうことなんだ」って。世の中の大きなモデルチェンジって、やっぱり、ワンウェイからツーウェイになったってことだと思うんです。インタラクティブな表現というのは、こっちが喋るのではなく、相手に喋ってもらうってことですから。須田さんが、確信を与えてくれました。

有園:須田さんとは、『使ってもらえる広告』(アスキー・メディアワークス)の著者、須田和博さんですね。

鷹觜:はい。EBUの須田チームに僕は配属され、東京に来てからの2年半は、ずっと須田さんと一緒にやっています。これからは、ブランドが自分のことを語るだけではなく、お客さまにブランドのことを語ってもらうための、コミュニケーションの作り方になっていないとダメですね。頭の中に、お客さまに語ってもらうっていう回路がないと、どうしてもブランドが言いたいことだけを言ってしまいます。

有園:言いたいことを言ってしまうとは、どういうことでしょうか。

鷹觜:企業さんの嬉しい部分だけを、喋ってしまいがちってことです。

有園:企業が言いたいことを言うのではなくて、それはぐっとこらえて、違う視点でクリエイティブを作ったとき、企業には、どのくらい受け入れてもらえるものでしょうか。

鷹觜:自主開発では全部やれるんですが、クライアントがいる場合は、ジャッジする人の理解が必要です。でも、最近はぐんぐん理解が高まっているように思います。ソーシャルメディアって到達率ではなく拡散率が大事、どれだけシェアされたか、どれだけ語ってもらえたかが大事。この辺りは東京では常識で、地方でもちゃんと話せば受け入れてもらえます。

有園:デジタルな世界では、企業の語るメッセージが必ずしもブランドを作るわけではなく、消費者が語る言葉がブランドを形作っていくということでしょうか。

 

コマーシャル15秒の限界

鷹觜:すべてがそうとは言えませんが、シフトしていくと思います。日本のコマーシャルはリーチ優先で、15秒が多いじゃないですか。15秒の情報量だけでお客さまに語ってもらえるかというと、難しいところもあります。まして、地方のテレビ局って、1億円かけた全国区のテレビCMと30万円くらいの地方だけのテレビCMが横並びで流れますから、この情報を撃破して語ってもらうのはかなりハードルが高いと思います。

有園:あはは(笑)

鷹觜:それって自分のブランドを傷つけるから、僕はあえて長尺の体験の深いものを作っています。「浜のミサンガ」も60秒、120秒でつないでいますし。「ジェリーかまた」も90秒でつないでいます。リーチではなくて、「体験の深さ」をどれだけ作るか。方法論はいろいろありますが、僕はあえて、量の勝負はしないやり方をやっています。

有園:「浜のミサンガ」のウェブサイトに、60秒、120秒のCMを用意しているのは、そのような意識で。

 

映像にすることによって説明ではなくエモーショナルになる

鷹觜:そうですね。これからもっと、地方であってもインターネット経由で情報を収集すると思うんです。でも、インターネットって情報がありすぎるから、面倒なんですよ。情報接触量が増えすぎているから、楽に吸収できる映像コンテンツはネット上の領域を拡大し続けると思います。ブランドを理解してもらうには、1本見ればある程度、ブランドがどういう思いでやっているのかが伝わる、ストーリーとしてブランドがやろうとしていることが、まずはしっかり伝わる映像コンテンツを作るのが良いと思っています。12ページのパンフレットを読むより、20ページのHPを見るより、60秒の映像にまとめることができたら、そっちのほうがいいと思うんですよ。ホームページに20ページ書いていることはなかなか読んでくれないから、60秒にまとめたほうがいい。「このブランドってこうなんだ」ってことを映像で見てもらったほうが圧倒的に体験が深い。映像にすることによって説明ではなくエモーショナルになるんです。ものすごく感動的になる。それが、お客さまの言葉で語られると、自分のこととして拡散してもらえるから、いま地方のブランドに対して、深い体験の映像コンテンツをお勧めしています。説明ツールは、読まないじゃないですか。

有園:読まないですね。

鷹觜:かといって、15秒というサイズも、日本のマスメディア、テレビのサイズで。ちょっと特殊、ガラパゴスなサイズだと思っています。

有園:あーなるほど。

 

ボルボのトラックの実験

有園:2014年にボルボのトラックの実験があって、YouTubeで見たんですが、これもカンヌを獲りましたよね。

鷹觜:はい。

有園:何も語っていなくて。2台のトラックが並走していて、その間で両足を開いて静止しているわけです。それで、安定して走るトラックであることを伝えているわけですが、言葉を語らなくても消費者が映像を見て「すごいね」と思ってくれるようなコンテンツで、シェアされるという点では共通しているのでしょうか。

鷹觜:ボルボに関しては、なにがスゴイって、トラックのことって、みんながみんな興味があるわけではないんですよ。普段の会話でトラックについて語ったりはしませんよね。でも、トラックを買うときって、実は家族の言葉だったり、トラックを運転する本人ではなく周囲の声だったりが影響しているらしいんです。そこで、ボルボがやろうとしたのは、トラックのことを、みんなが語る、普通の車と同じように、あるいはそれ以上に、トラックが世の中で目立つことをやろうとしたんです。最初はイーベイ(eBay)でオークションするところから始まって。様々なライブテストが世界中のシェアを生み出し続けました。過去に、あそこまでトラックのことを語らせたブランドはないですよ。ソーシャルメディアの使い方を、ものすごく分かっていると思います。みんなが語るか語らないかだから。

有園:語らせるコンテンツになっていたわけですね。

鷹觜:そういうことですね。ものすごく語ったってことですね。

有園:ブランドが一人称で語るのではなくて。

鷹觜:はい。「このトラックは、こんなにスゴイんです」ってコマーシャルを流しても、あれほどの効果はなかったと思います。

有園:今後は消費者に語ってもらえるものを作ることが、これからの広告作りのポイントということでしょうか。ブランドがブランド自身のことを自画自賛するような広告では、消費者の興味を引くのも難しいし、シェアしてもらえる可能性も低いですよね。企業が語るメッセージではなくて、消費者が発する言葉でブランドが形成されるということを強く意識しないとならない時代になっているようですね。きょうは、たくさんのお話しを聞けて楽しかったです。ありがとうございました。

 

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<以上>

 

【Unyoo.jp編集部コメント】

「マジョリティはローカル」という部分、ハッとしました。どうしても都市の目線で地方を語ることが多いように感じます。肩に力が入りすぎているわけでもなく、地方の課題を真摯に、かつ冷静に捉え、クリエイティブの力、企画の力でやれることを地道にやっている、そんな印象を受けます。
これからの広告作りのヒントは、ブランドが一方的にブランドのことを語るのではなく、消費者に語ってもらえるものを作ること。意外とできていないように思います。改めていい気づきをいただいたと思います。
鷹觜さん、どうもありがとうございました!

 

 

 

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対談者プロフィール

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株式会社 博報堂

クリエイティブディレクター

鷹觜愛郎 Takanohashi Airo

博報堂iディレクション局クリエイティブディレクター。 1990年、盛岡博報堂入社。岩手の広告グランプリ「県知事賞」9回受賞。歴代最多。 2008年、秋田博報堂マーケットデザイン部長。 在籍中、秋田広告賞・最高賞を3年連続受賞。 2011年、東日本大震災を支援する「浜のミサンガ」を企画。仙台クリエイターオブザイヤー最高賞受賞。 2012年、博報堂エンゲージメント・クリエイティブ局出向。須田氏とともに広告の新メニューを自主開発する「スダラボ」を立ち上げる。 2014年、スダラボ開発商品「rice-code」がアドフェストグランプリ、カンヌゴールド2、アドスターズグランプリ6など、世界の広告賞を37受賞中。 「地域課題と向き合うクリエイティブ」あり方を実践で模索中。

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