※本記事は、2014年7月に公開されたAttribution.jpからの転載記事です。
有園:本日は、Eメールマーケティングなどクロスチャネルマーケティングの支援を行っている株式会社ディレクタスの岡本さんを迎え、キャンペーン・マネジメント・システムの最新動向やクロスチャネルマーケティングなどについて、お話を伺います。最近では、DMPとアトリビューションを絡めたご相談も多く、ディレクタスさんと一緒に仕事をすることもあります。ディレクタスさんで取り扱っているOracle Responsys Marketing Cloud(オラクル レスポンシス マーケティング クラウド)をはじめとする、クロスチャネル・キャンペーンマネジメントや第三者配信エンジンと連携して、プライベートDMPを構築し、それらをアトリビューションという概念で計測するといったことが増えてきました。レスポンシスのような、キャンペーン・マネジメントの存在は重要だと思っています。キャンペーン・マネジメントに造詣が深い岡本さんに、今後の展開などについてお話を伺えればと思います。
紙のDMからEメールマーケティングへ
岡本:ディレクタスの岡本です。私は、1993年にディレクタスを設立したのですが、設立当初は、ダイレクトメールを支援するダイレクトマーケティングエージェンシーでした。
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有園:それは、紙のダイレクトメールですか?
岡本:そうです。紙のダイレクトメールです。当時はインターネットがない時代だったので。起業前は、リクルートで学生向けの就職情報誌の仕事をしていました。学生向けの販売促進がビジネスになるのではないかと思い、まず学生向けの販促ダイレクトメールの事業で独立しました。ダイレクトマーケティングは、A/Bテストなどで効果を明確に測定することができる点がすごく面白いと思っていました。DMの仕事はそれなりに順調だったのですが、2000年頃からインターネットがマーケティングのインフラとして浸透してきて、ダイレクトメールは紙からEメールに移っていくなと思い、Eメールを使ったマーケティングにシフトをしていきました。
有園:1990年代後半には、ワン・トゥー・ワン・コミュニケーション、ワン・トゥー・ワン・マーケティング、CRMといった言葉があり、流行ってもいましたね。
岡本:全盛期でしたね。そういう波に乗って、僕たちもダイレクトメールの仕事は広がりを見せたのですが、その時点ではテクノロジーが未熟でインフラも貧弱だったという理由もあり、あまり上手くはいきませんでした。ちょっと早かったのかもしれません。当時、ワン・トゥー・ワン・マーケティングをする手段は、紙のDMくらいしかなかったんです。紙のDMを出すか、電話をかけるかくらいしか方法がなかった。Eメールはまだマーケティングに使える規模にはなっておらず、手段が限定的だった時代です。
有園:1990年代後半のことですね。僕は2000年に、日経BPに勤めていたのですが、そこではメールを使った電子DM(電子ダイレクトメール)のことをEDMと呼んでいました。DMといっても、メールを一斉送信しているだけなんですけどね。
転機はANAのEメールマーケティング支援
岡本:ワン・トゥー・ワン・マーケティング、CRMといっても、現実的な手段が少なかったので難しかったですね。インターネットが本格的に浸透し始めた2000年頃からメルマガが流行り出しました。企業から「Eメールマーケティングを本格的にやりたい」という声が出始めたのは、2001年頃からですね。僕たちも経験は浅かったのですが、お客様と一緒に勉強をしていくような形でコンサルティングのご依頼をいただくことになりました。少なくとも紙でのダイレクトマーケティングの経験があったので、その経験を活かしてEメールマーケティングの立ち上げ、運用のコンサルティングと、メールの企画制作で事業を少しずつ展開していきました。
当時、本格的なお手伝いをさせていただいたのがANAさんで、2002年頃からプロジェクトが立ち上がりました。それ以来、いまもお手伝いを続けています。
有園:今年は2014年ですから、13年目ってことですね。
岡本:そうですね。ANAさんでは、戦略を作るところからメールの企画制作、結果の分析と改善提案までお手伝いをしてきました。PDCAサイクルを回すことをいまでも続けている感じですね。
その後ずっと、弊社はEメールマーケティングの支援が主力事業でした。現在提供しているサービスは4つあります。一つ目は、戦略立案や実行プラン策定などのコンサルティング。二つ目はツールの提供ですが、実はこれは最近始めた事業です。三つ目はコンテンツの企画制作。主にメールコンテンツですね。最後の運用アウトソーシングは、メール配信のオペレーションをお客さまのオフィスに常駐してお手伝いするケースと、弊社内のセキュリティールームからお手伝いするケースがあります。Eメールマーケティングに関しては、必要なサービスをワンストップで提供しています。
ツール提供の事業ではレスポンシス(Responsys)をはじめとする主に海外ベンダーの、Eメールだけに限らない、いわゆるクロスチャネルでキャンペーンを管理していくツールを取り扱うようになりました。今はまさにそちらの事業を拡大しようとしているところです。
Eメールからクロスチャネル・キャンペーンマネジメントへ
有園:レスポンシス(Responsys)の取り扱いは、きっかけのひとつだと思いますが、キャンペーン・マネジメントの分野に事業を拡大していらっしゃるのは、どのような理由からでしょうか?
岡本:もともと日本の場合、Eメールマーケティングというと、大体はメルマガの配信のことだと思われてきたんですね。毎月メルマガを作って配信することがメールマーケティングだと捉えられていて。でもメルマガの効果はこの10年で次第に低下してきました。
有園:効果というのは、基本的には率のことだと思ってよいですか?
岡本:はい。開封率、クリック率、その先のコンバージョン率とかですね。
有園:2000年以降、インターネット広告業界では、インターネットユーザーが増え、配信する広告のボリュームも増えました。当然、メールの利用者も増えているので、メルマガを配信するボリュームも増えていくのかなと。
岡本:そうですね。
有園:だけど、開封率が10パーセントだったものが、例えば2パーセントになってしまうこともあると。
岡本:はい。もちろん会社によりますが、毎月配信するメルマガだと、最近の開封率は大体10パーセント程度じゃないでしょうか。以前は20パーセント以上あった開封率が、この10年弱の間に10パーセント程度に落ちています。
有園:なるほど。
配信頻度が上がり過ぎると反応率は落ちる
岡本:というのも、例えばEコマースならメールを1本送ると確実にいくらか売り上げが上がる。そうすると、もう1本メールを送る。当然ながら、頻度が上がるんです。一方、受け取るお客さまからすると、あまりに頻繁にメルマガが届けば段々とスパムメールに近い感覚になっていく。面倒だから直接ゴミ箱に振り分けるようにしちゃう。メールの開封率はどんどん低下していく。だいたいどこの企業でも同じようなことが起きていました。
そんな中で5年前くらい前に僕たちが取り組み始めたのが、お客さまのweb上の行動に合わせてメールを送る『行動ターゲティングメール』という手法です。当時オムニチュアのSiteCatalyst(サイトカタリスト)を使ったマーケティングの先進的な事例で、アクセスログを使ってメールを送信するというのがありました。「あ、これだな」って思ったんです。いま、お客さまは何に関心があり、どのような動きをしているか。それに合せて最適なメールを配信することができたら、お客様にも喜ばれてきちんと効果も上がるだろうと。
そこでオムニチュアさんとも話をさせていただいて、パートナーになってSiteCatalystのことを勉強し、アクセスログを使ったメール配信を始めました。当時、ANAさんと日産自動車さんで取り組ませていただけることになり、このページを見た人にはこのメールを送るというのを手動でやっていました。
例えば、飛行機の空席を検索しているけどまだ購入していない方に、検索している路線の情報をメールでお送りするとか。
そういうメールは一斉配信のメルマガと比べるとはるかに高い効果を上げました。
有園:それは何年頃のことですか?
岡本:2009年ですね。
有園:わりと最近のことなんですね。
レスポンシス(Responsys)が日本進出
岡本:そうですね。この方法は、効果は出るのですが、ものすごく手間がかかります。それに本当にOne-to-Oneにしようと思ったら一人一人配信すべきタイミングも違う。手動じゃ無理なんですね。なんとか自動化できないものかと思いました。アメリカの例を見ても、自動化が進んでいます。日本でもできないかと思ったのですが、そのような開発をしているメールベンダーさんがいなくて。困ったなぁと思っていたところ、今はオラクル(ORACLE)に買収されていますが、レスポンシス(Responsys)が日本に進出するという話を聞きました。レスポンシス(Responsys)はSiteCatalystのアクセスログを自動的に取り込んで、それをもとにターゲティングする仕組みを、すでに作っていました。
有園:アメリカでは、すでにそのようなニーズがあり、インテグレーションの開発も進んでいたわけですね。
岡本:そうです。レスポンシス(Responsys)のことは以前から知っていたので、日本に進出するなら、パートナーになりたい、なるべきだと思い、日本での販売代理を始めました。それが2012年のことです。アメリカではコミュニケーションの自動化だけでなくクロスチャネル化も進んでいて、レスポンシスはディスプレイ広告をターゲティング配信する機能まで実装していました。
有園:つまり、アクセス履歴、行動に基づいてメールを送るだけでなく、アクセスログを分析して興味関心を類推し、それに合せたバナー広告をDSPで配信していたというわけですね。レスポンシス(Responsys)にDSP機能があるのですね。
自動化のカギを握るキャンペーン・マネジメント・システム
岡本:そうです。日本では、色々な理由で結局実装されなかったのですが、こうやってコミュニケーションチャネルが広がっていくんだなということは感じました。
これからはクロスチャネルでのワン・トゥ・ワンコミュニケーションの自動化が進むし、キャンペーン・マネジメントがその鍵を握りそうだということで、その後弊社も営業を本格化していきました。ところがお客様の環境やニーズも色々で、例えば個人情報はクラウド上に置けないという企業さんもあるし、メール配信システムは変えられないという企業さんもある。そうするとレスポンシスでは対応できないケースも多いんですね。それに一つのシステムだけを扱っているとノウハウも偏るし、同じキャンペーン・マネジメント・システムと分類されていても実際の機能はかなり違う。それをきちんと理解して最適なソリューションをご提案できるようになりたくて、色々特性の違うキャンペーン・マネジメント・システムを取り扱うことにしたんです。
「キャンペーン・マネジメント・システム」は存在しない!?
有園:岡本さんがイメージする、キャンペーン・マネジメント・システムって、どのようなものですか?
岡本:キャンペーン・マネジメント・システムというのは、顧客のデータをもとにセグメントを作って、セグメントごとのコミュニケーションのシナリオを設計し、そのシナリオをクロスチャネルで実行する仕組みだというのが私なりの定義です。アメリカの調査会社フォレスターの資料などを参考にしました。
実は、言葉の定義をきちんと整理するべきだと思っているんです。統一していくべきというか。そういう運動をしたいなって思って。なぜかというと、まずアメリカでは、キャンペーン・マネジメント・システムという呼び方はあまりしていないんですね。もともとは、クロスチャネル・キャンペーン・マネジメントとか、マルチチャネル・キャンペーン・マネジメントという風に分類されているんです。クロスチャネルとかマルチチャネルという概念が必ずついてくる。私はクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント、CCCMと呼ぶことにしています。
有園:それは、分かるような気がします。アメリカ人の発想として。たとえば、広告のキャンペーンといっても、テレビCMを打つのも広告キャンペーンなので、アメリカ人にとっては「so what?」になってしまうのかなと。マルチチャネルだからマネジメントできる。メール、バナー、ランディングページ、スマホのアプリ、紙のDM、テレアポなどがあるのを、どう連携して、マネジメントしていくかになって初めてマルチチャネルだから。複数のチャネルがあるからマネジメントが必要だってことですね。
岡本:そうです。
有園:もちろん、チャネルが1つでもマネジメントは必要ですが、1つだったら手作業でできるという話だと思うんですよね。
クロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)の役割
岡本:はい。アメリカのマーケターはCRMのデータベースに登録されている顧客に対してダイレクトメールやアウトバウンドコールなど複数のチャネルを使ったキャンペーンを行っていて、それらを管理するためのツールとして、クロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)が作られました。だから予算管理のような全体管理機能もあります。
有園:クロスチャネルでキャンペーンをやるための。
岡本:そうですね。
有園:アドワーズ広告の管理画面やYahoo!プロモーション広告の管理画面も、リスティング広告キャンペーン・マネジメント・システムですよね。
岡本:そういうことですよね。
有園:予算管理もできるし、期間の指定もでき、ターゲットごとに配信キーワードを設定するとか、あれもキャンペーン・マネジメント・システムなんですよ。いつから、いつまで配信するか。リスティング広告の場合、終わりがなく、基本的にはずーっと配信することが多いですが、それらをコントロールするのが管理画面の役割です。
岡本:発想は同じですよね。
有園:そこに、メールだったり、DMだったり、DSPだったりを一緒に管理できるようなものかなと。
岡本:まとめて実行しようとすると当然手動ではできないから、徹底して自動的にやろうとするわけですよ。
おそらく日本の会社の場合、マーケティング担当者がクロスチャネルでキャンペーンを管理するという発想そのものが無かったんだと思うんです。そういう機能は大手企業の場合は広告代理店がやってくれていた。だから日本に紹介されたときは自動化機能ばかりがクローズアップされて、クロスチャネルという言葉が抜け落ちたんじゃないでしょうか。そうやって日本独自の呼び方ができてきた。そういう意味では日本では「マーケティングオートメーション」という言葉もアメリカとは少し違うニュアンスで使われています。
クロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)とマーケティング・オートメーションとの違い
有園:実は、そこの違いも今日は聞きたかったんです。
岡本:アメリカで製品ジャンルとして「マーケティング・オートメーション」という言葉を使う場合は、いわゆるリード管理、見込み顧客の管理機能と、キャンペーンの管理、キャンペーンマネジメント機能の両方を備えていて、B2Bのマーケティングに使われていることが多いです。見込顧客を発掘して、その見込顧客の「見込度」を評価して、コミュニケーションで「育成」して、SFAにデータを渡して営業担当者がアプローチする。そういったマーケティング活動を支援するために使われているのがマーケティング・オートメーションです。BtoBだけじゃなくて、住宅とか自動車のような見込顧客を営業担当者が時間をかけてフォローしていくような業態ならマッチします。
最近日本に入ってきたMarketo(マルケト)や、オラクルが買収したEloqua(エロクア)、それからHubspot(ハブスポット)も同じジャンルに分類されてますね。マーケティング・オートメーションというと、だいたいそういったシステムのことを指していることが多いんです。
ただ、話がややこしいのは、機能が被っていることです。クロスチャネルでのキャンペーン管理はどちらも出来るので、アメリカでもクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)とマーケティング・オートメーションの両方に分類されている製品があります。
有園:Marketo(マルケト)や、Eloqua(エロクア)が日本に入ってきたことは知っていますが、実際どのようなことをしているのか詳しくありません。マーケティング・オートメーションとは、リードを管理して、ナーチャリングするってことですか?
岡本:そうですね。見込顧客管理とリードナーチャリングを支援するツールだと言っていいと思います。見込顧客とのコミュニケーションにキャンペーン・マネジメントの機能を使っているわけですね。メールを送ったり、DMを送ったり。それをお客さまの動きに合わせてワン・トゥー・ワンで行うようになっています。そこの機能だけとって見れば、キャンペーン・マネジメントと特に変わりはないんです。ただ、見込顧客の管理・育成という意味ではやはりBtoBビジネスでの利用がメインになってくるし、開発側もそういう意識を持っているはずです。
有園:たとえば、コカ・コーラを自動販売機で買おうとした際、ナーチャリングは必要ありませんからね。B2Cではなくて、B2Bの方がナーチャリングという概念がフィットしやすいってことですね。
岡本:そういうことです。
有園:マーケティング・オートメーションは、リードを管理しナーチャリングするところも含めて自動化していく。クロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)は、どちらかというとリード部分をとってくることは気にしていないんだけど、メール、バナー広告、ランディングページ、アプリ、プッシュ通知、紙のDMなど、もろもろ含めて、どういうコミュニケーションをとればよいか、キャンペーンの効率化をするという分け方になっていると、岡本さんはおっしゃっているかと思います。
岡本:そうですね。
有園:それが、ごっちゃになることは、あまりよろしくないのでしょうか?
岡本:機能は被っていても、元々目的が違いますからね。マーケティングオートメーションは主にBtoB企業のマーケターをターゲットとして開発してるはずだし、クロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)はクロスチャネルで顧客とダイレクトにコミュニケーションしたいBtoC企業をイメージしている。今後の開発の方向性も自ずと異なります。
それをまるで同じジャンルの製品のようにごっちゃにして語るとユーザーから見て非常に分かりにくいし、行き違いも起きやすいですよね。営業から説明を受けて初めて「あれ、マーケティングオートメーションだと聞いてたけど全然イメージが違う」とか。
有園:岡本さんとしては、マーケティング・オートメーションと、クロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)は別物なんですね?
岡本:そうですね。名前はどうあれ、分けて考えるべきだと思っています。
クロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)にはどのようなものがあるのか
有園:クロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)には、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
岡本:大きく分けると、トラディショナルな生粋のクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)とメール配信システムなど他の仕組みから発展したものがあると思います。
トラディショナルなクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)としては、IBMが買収した旧ユニカ(Unica)、現IBM CampaignやSAS Marketing Automationなどが代表的です。SASの製品は製品名が「マーケティングオートメーション」なんでちょっとややこしいんですけど。
歴史もあるので基本的にオンプレミス型が多いですね。
有園:オンプレミス型というのは、簡単に言うと、お客さまのハードディスクやサーバーにインストールして、ライセンスをとって、買い取る方法ですね。
岡本:そうです。導入した側は、それを資産として償却していきます。
有園:たとえば、会社で、マイクロソフトのオフィスを購入して、パソコンにインストールして、会社の資産として5年で償却するのと同じですね。
岡本:同じモデルですね。
メール配信システムからの進化系
岡本:もう一つ、メール配信システムなどから進化してキャンペーン・マネジメントになったものがあります。例えばOracleが買収したレスポンシス(Responsys)やセールスフォース・ドットコムが買収したエグザクト・ターゲット(ExactTarget)、エクスペリアンなどは元々メール配信システムでしたが、シナリオ作成と自動実行の機能を追加し、さらにメール以外にもソーシャルやモバイルなど対応するチャネルを拡大しました。そして調査会社の評価レポートなどでもキャンペーン・マネジメントとして評価されるようになったんです。
有園:評価というのは、フォレスターとかの評価ですか?
岡本:そうです。フォレスターやガートナーの評価レポートですね。
あと、これらのシステムはSaaS型で提供されることが多いです。
有園:SaaSとは、Software as a Serviceの略ですね。
岡本:はい。クラウドとも呼ばれますね。導入が簡単だし同じクラウド上だとデータ連携も楽なので今後はSaaS型の方が増えていくと思います。
大手ITベンダーによるクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)の買収
岡本:これは最近の話なんですが、ご存知のように、大手のITベンダーがクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)に分類されるベンダーを次々と買収しています。具体的にはIBM、Oracle、Adobe、Salesforce.comなどですが、この動きはこれからのクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)を考える上で重要な示唆があると考えています。
大手のITベンダーは、買収したクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)やメール配信システムなどのコミュニケーション実行系のソリューションを自社のプラットフォーム上で一つにつないで、まとめて提供し始めています。今までは、例えばアクセス解析ソフトからアクセスログをクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)に取り込んで、シナリオの実行にはそこからメール配信システムなどに指示を出していたのですが、全部最初から繋がっていて一つのソリューションになっている。
大手ITベンダー各社が2010年以降買収したマーケティングテクノロジーベンダー
いままではマーケティング分野では存在感の薄かったITベンダーも、一気にマーケティング分野に参入してきていて、さまざまなソリューションを買収しているんですが、共通して必ず買収しているのが、クロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)なんです。
クロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)を核にしてメールやソーシャルやモバイルなど、それぞれのチャネルでの実行機能を揃え、クロスチャネルでのワン・トゥー・ワン コミュニケーションを一つのプラットフォームで実現できるようにしようと。そうすると、同じプラットフォーム上でクッキー(Cookie)データなんかも最初から共有しているので、データの連携や開発が必要なくて、しかもデータを全てリアルタイムで活用できる。
流通業でいうところのオムニチャネルに対応できるワン・トゥー・ワンコミュニケーションを実現できるソリューションとして提供され始めていて、このあたりの競争が2013年あたりから本格化しています。
見逃せないのが、広告のところまで取り組んでいることです。データベースをつかったマーケティングの一つとして捉えていて、そこまで含めた統合と管理が視野に入っている。
DMPとクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)
有園:マーケティング分野に参入してきているITベンダーの中にオラクル(Oracle)があって、BluekaiのDMPも入ってますね。日本にも、いわゆる、XrostDMPやAudienceOneなど、データセラーとしてのDMPがあります。クロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)の定義として、セグメントを作るという話が出ましたが、セグメントをつくって、自動的にキャンペーンを実行する部分ですが、いわゆるデータセラーとしてのDMPを導入してバナーのDSP配信につなぐことができます。メールも打てるわけですが、そこと、どう違うのでしょうか?
岡本:いままでのクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)は顧客データを使ったCRM的なコミュニケーションを想定していました。基本的にはすべて個人情報をベースにしています。それがいま、個人情報はないけれどCookieデータだけはある、といった人がいます。自社の顧客であるかどうかも実は分からないんだけど、サイトには何回も訪問していて、買い物をしようとしてくれている人。そういう人とコミュニケーションをとろうとすると従来のクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)では十分な対応ができません。DMPのような機能が必要になるのだと思います。今後は個人情報のない人たちもコミュニケーションの対象にすることになると思います。
有園:いま、おっしゃっているような話は、『USERS 顧客主義の終焉と企業の命運を左右する7つの戦略』(アーロン・シャピロ 翔泳社)に書かれているようなことですね。
岡本:そうですね。CRMの今後の姿を考える上でとても示唆に富んでいました。カスタマーというと既存顧客だと捉えられていますが、実際には、顧客ではなくてもサイトを訪れていたり、ソーシャルメディアで書き込んでくれたりしている人も全てコミュニケーションの対象となる。この本ではそういう人たちを「ユーザー」と定義しています。そのユーザーが、ある時は商品を買ってくれて顧客になるけれど、それはユーザーの一つの形態に過ぎない。企業がコミュニケーションの対象として考えるべきはユーザー全体だ。そのような考え方です。
私たちは商品を買うときに、その会社の評判を必ずチェックしているし、自社の顧客以外の人たちが、ものすごく影響力を持つようになっています。たとえば、サイトに1回でも来てくれた人に「このサイトいいな」「この会社いいな」と思ってもらうことが重要な要素になっていきています。もちろん、2回、3回きてくれるような人たちも、まだ顧客ではないけれどファンかもしれない。口コミを書いてくれているかもしれない。
私はこれまでは顧客に限定して考えられていたCRMが今後対象を大きく広げていくことになると考えています。そのためにはDMPのような機能がCCCMなどのマーケティングテクノロジーと連携する必要があります。
広告配信とクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)
有園:ところで、先ほどのお話しだと、メールマガジンを一斉送信しているだけでは効果が下がっていくので、メールはシナリオ配信するようになったということですね。
岡本:はい。お客様一人一人のサイト上の行動などに合わせて最適なシナリオでメール配信するようになってきました。
有園:例えば航空会社であれば、フライトを毎月する人、年に2回の人、滅多に飛行機には乗らない人など、いろいろいます。最近、飛行機に乗っていない人が、たとえば、今年になって、国際線のウェブページでイタリア行きの航空券を探していることがわかったとき、その人にはイタリア旅行のメールを送ったほうが反応はよいってことですよね。
岡本:そうですね。
有園:コミュニケーションのシナリオを描き、そのとおりに送る、開封しなかったら再度送るといったシナリオを組んでいく。クロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)を導入すると、イタリア行きのフライト情報を探した人には、その行動履歴に基づいて自動的にメールを送れるし、そのメールを開封していない人にイタリア旅行のバナー広告を表示することもできる。会員なら年齢や性別も分かるので、30代女性には青の洞窟のツアーの広告を表示することができる。それは、既存顧客であればできるわけですよね。そのほうが、自動化できて効果も出る。
岡本:そうですね。ただ実はクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)とDSPの連携は、まだ日本ではあまり実績がありません。
有園:CCCMとDSPを入れるだけでCRMデータに基づいてバナーを配信できるわけではない。そこは、開発が必要になるわけですね。
岡本:DSPの場合は運用面も問題になってくると思います。ただ、これからは先ほどお話ししていた広い意味でのCRM的な視点で、何らかのデータを保有しているユーザーに対しては、バナー広告もメールなどと同じコミュニケーションシナリオの中に組み込んでいくことになると思います。
実際CCCMのクロスチャネル展開はどんどん進んでいて、例えば今年6月に日本でローンチされたセールスフォース・ドットコムのエグザクト・ターゲット・マーケティングクラウドは、LINEとの連携で話題になりましたが、facebook広告のターゲティング配信機能も既に実装されています。
有園:Xrost DMPやAudienceOneなどが、いろいろと連携しているリリースを見かけますが、それらも結局、顧客の情報は分かりません。たとえば航空会社であれば、CookieのIDと顧客がサイトにログインして航空券を買ったときの情報を格納して、普通のインターネット検索では、どのような行動をとっていて、航空券ページでは、どのような行動をとったかが分かった上で、適切なコミュニケーション手段がみえてくるわけですね。現時点では、メールを送って5日経っても開封しない人には、バナーを見せようといったシナリオを組んで対応しているけれど、それを手作業でやるのは大変なので、自動的に実行できるようにするのがクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)の役割だと思ってよいですか?
アドテクとマーケティングテクノロジーの融合
岡本:はい。いずれにしても広い意味での顧客データに基づいてシナリオを自動実行する仕組みが広告の視点からも必要になってくると思います。大手ITベンダーは一部で既にDMPを取り込んでいますが、DSPを開発しているアドテク企業がキャンペーンマネジメント機能を開発してDMPと繋いでいる例もあります。
ただ、もともとCCCMのようなCRM系のマーケティングテクノロジーとDMPのようなアドテクノロジーは全く別な進化を遂げてきているので、そこがきれいに繋がって成果を上げている例はまだあまり見かけません。
マーケティングテクノロジーとアドテクノロジーの融合が今後の焦点の一つになってくると思います。
有園:オラクルやIBMのような大手ITベンダーが、広告の領域に入ってくる動きが加速するのかもしれませんね。ただツールを買収しても使いこなすことは難しいのではないでしょうか?ITベンダー側は導入のコンサルティングができても、利用イメージを描けなければカスタマイズができない。実際のマーケティングに活用するには、利用イメージを、きちんと設計に落として使える形にしなければならない。
それを現状、日本の広告代理店がやっているのでしょうか?出来る人はいるのかもしれませんが、広告代理店としては全体の総力は媒体を売ることに注いでいるので、メールマーケティングなどのことには、それほど強くないでしょう。
例えばシナリオを組んでDSPとメールの効果を見てメールをやりましょうとか、コールセンターの方の画面に、こういったことを表示しましょうといった対策を練る、設計をすることは、いまの代理店ではネット系代理店も総合代理店も難しいのではないかと思います。広告主企業内で担当者が行うといっても、部署異動もあるし、在籍期間も短くてナレッジがたまらない、長けている方は少ない。そこのコンサルティングって、ぽかっと穴が空いていますよね。ディレクタスさんは、その穴を狙っていらっしゃるのでしょうか。
岡本:まさに、そこをお手伝いできる会社になりたいと思っています。拡大版のCRMとして広告も含めたクロスチャネルでのワン・トゥー・ワン・コミュニケーションのシナリオを組み立てて、それをクロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)のようなツールを使って運用する。私たちの強みはこれまでのEメールマーケティングのノウハウを活かして実際の運用もしながらPDCAサイクルを回すことができる点だと思っています。結局そこができないと、「ツールは導入したけど使いこなせない」ということになるので。
効果測定にアトリビューションが必要
有園:ところで、ちょっとだけアトリビューションの必要性に触れておきますが、クロスチャネル・キャンペーン・マネジメント(CCCM)を入れました、DMPを入れましたといったときに、その効果測定をするとアトリビューションに落ちますよね。シナリオって、一回のコミュニケーション、二回のコミュニケーションと、組んでいくからシナリオであって、ラストクリックだけ見て効果測定していたのでは意味がないと思っています。
岡本:まさにその通りだと思います。チャネルのフラグメンテーションが進んでいますからね。ワン・トゥー・ワン・コミュニケーションのチャネルも、中には「メールは終わった」という人もいますが、実際は無くなる訳ではなくて単に細分化が進んでいってる。リアルのダイレクトメールなども含めて全部残っていて、そこにLINEのような新しいチャネルも増えてくる。そういったチャネルをまとめて管理できないと、一貫した顧客体験が作れなくなると思います。
有園:ありがとうございました。
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対談者プロフィール
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株式会社ディレクタス ( Directus Inc. )
代表取締役 岡本 泰治 ( Yasuharu Okamoto )
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【アトリくんの視点】
CCCM(クロスチャネル・
チャネルのフラグメンテーションが進んでいくなかで、
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