※本記事は、2012年7月に公開されたAttribution.jpからの転載記事です。
【主な内容】
・ アトリビューションという言葉がひとり歩きしていて危険だ
・ ad:tech SanFranciscoの印象:アメリカのアトリビューションは日本よりも進んでいるのか
・ アメリカではアトリビューションが単なるバズワードではなくなった
・ マーケティング(Marketing)ではなく、マーケティド(Marketed)
・ 検索ログは宝の山:「検索」はAISASのS(Search)だけでなく全ての部分に関わってくる
有園:今回は、株式会社クロスリスティングの治田さん、岡野さん、石橋さんの3名をお迎えしてお話を伺います。最初に自己紹介をお願いします。
治田:治田です。私は19歳からこの業界にいます。最初は、ライコスジャパンというポータルサイトで検索クエリを見ながら、いわゆるディレクトリ検索を作っていました。その後、アイレップでサーチマーケティングのコンサルティングに携わった後、オーバーチュア(Overture:現在のYahoo リスティング)へ移りました。オーバーチュアではプロダクトやツール開発に携わっていました。
有園:オーバーチュア時代からアトリビューションに携わっていたのですか?
治田:まだ当時はアトリビューションという言葉が定着していませんでしたが、概念としては近いことをしていました。
有園:間接効果測定が注目され始めた時代ですね。
治田:はい。オーバーチュアの後は、モバイルのバーティカルサーチのベンチャー企業へ転職して日本以外の国のマネタイゼーションを一年ぐらいやった後、NTTレゾナントへ移り、現在はクロスリスティングに出向中という流れです。
有園:ちなみに、モバイルのバーティカルサーチとは?
治田:いわゆる、モバイルのショッピングサーチみたいなものです。
有園:クロスリスティングでは何をやっていらっしゃるのですか?
治田:実は、アトリビューションが本業ではありません。
有園:なるほど。
治田:でも、関わりはあります。検索データを使った広告以外のマネタイズ手法のひとつとして、データそのものに価値があると考えています。そのデータをどのように使うかというアウトプットの形がアトリビューション的なものだと解釈しています。
有園:19歳の頃からこの業界で活躍し、オーバーチュア時代に「アシスト」を日本へ導入したのが治田さんです。当時から、間接的、アトリビューション的な視点で考えていらっしゃったのですね。
治田:そうですね。紆余曲折した後にNTTレゾナントへ入り、いまはクロスリスティングでアトリビューション的な視点をもって検索データを分析しています。
有園:いろいろとお聞きしたいですので、のちほど、お伺いします。それでは、次は、岡野さん自己紹介お願いします。
岡野:岡野です。私は2011年9月からNTTレゾナントに在籍し、現在はクロスリスティングに出向しています。主に新規事業開発を担当しています。治田と同じような仕事を治田と分担しながらやっています。
有園:同じような仕事とは具体的にどのような内容ですか?
岡野:検索データを使った新規事業を開発しています。そのひとつとして、分析サービスを立ち上げました。私は以前、NTTコミュニケーションズにいたのですが、そこではアフィリエイトサービスや音楽配信サイト、サッカー日本代表の動画が携帯で見られるサービスなどの立ち上げに携わっていました。
有園:昔から、マーケティングやプロモーションに深く関わっていらっしゃったんですね。
岡野:その経験を活かして今の業務をおこなっています。
有園:マーケティングやウェブサイト制作などを経て、クロスリスティングでは検索データのサービス化を手がけているわけですね。
岡野:そうです。
有園:それでは、石橋さん自己紹介をお願いします。
石橋:石橋です。私は2008年にクロスリスティングに入社し、弊社が提供するパソコン向け検索連動型広告(リスティング広告)「レモーラリスティング(REMORA Listing)」の代理店向けキャンペーン運用のサポートをしておりました。2011年の夏頃からリスティング広告運用の猛特訓を3ヶ月間受けまして、現在は検索ログデータを分析するチームにおります。
有園:猛特訓の内容も気になりますね。
石橋:極秘です(笑)検索ログデータの分析は2012年3月から始めています。
有園:実際に案件が入ってきたということは、検索ログデータを分析してほしいというニーズが増えている、ビジネスになり始めているということでしょうか?
石橋:社内やグループ内での分析から始めていますが、現在は社外のお客様から引き合いをいただいています。
有園:ちなみに、クロスリスティング入社前はどのようなことをしていらっしゃったのですか?
石橋:コンピューター系の商社で、データ入力専用マシーンのインストラクターをやっていました。
有園:データの取り扱いや活用に詳しそうですね。検索ログを調べる際「どのような視点で切り出すか」という仮説が描けないと、適切なアウトプットはできないと思います。膨大なデータを取り扱う上で、皆さんの前職での経験や培ったセンスが大変役に立っていそうですね。
石橋:ありがとうございます。
それはアトリビューションとは呼ばないのでは?
有園:石橋さんと岡野さんには後ほど、検索ログデータの解析や、その結果を有効活用する方法について詳しくお聞きしたいと思います。その前に、治田さんにお話を伺いましょう。治田さんは、2011年10月4日にクロスリスティング、Fringe81、アタラの3社が共催したアトリビューションの専門イベント「Attribution Night 2011(アトリビューションナイト)」の発起人ですが、現在、日本で起きているアトリビューションの盛り上がりをどのようにお考えですか?
治田:アトリビューションという言葉がひとり歩きしていて危険だな~って思っています。
有園:実は、私も同じように感じています。
治田:アトリビューション分析に携わっているという方と話をしても、みなさん言っていることがバラバラで、なかには「それはアトリビューションとは呼ばないのでは?」と指摘したくなる方もいたりして。
有園:どのような点を「それはアトリビューションとは呼ばないのでは?」と感じたのですか?
治田:端的に言うと「ビュースルーコンバージョンがクリックスルーコンバージョンの5倍でした。だからアトリビューション効果がありました」みたいなことを言う人は、ちょっと違うのではと。
有園:なるほど。「ビュースルーコンバージョンの効果がクリックだけを見ているときよりもありました」と言われても、それは間接コンバージョンを数えていれば同じようなことが言えるということですね。
治田:そもそも「ビューをしてコンバージョンをした件数」と「クリックをしてコンバージョンした件数」は間違いなく前者のほうが多いです。
有園:たしかに。
治田:それを「アトリビューションをやったおかげだ」と言ってしまうのは、ちょっと違うのではないかと思います。
アトリビューションは対応するものではない
有園:そうですね。「コンバージョンパスデータを分析することがアトリビューション」だと思っている方がいらっしゃいます。コンバージョンパスデータをアウトプットできるようになったサービスを「アトリビューションに対応しました」と書いているプレスリリースもよく見かけます。
治田:ありますね。
有園:アトリビューションという言葉を使いたんだと思いますが、それはアトリビューションとは違うのでは?と思っています。
治田:そもそも、アトリビューションは対応するものではないですよ。
有園:おっしゃるとおりですね。
治田:「APIに対応しました」「無線LANに対応しました」と言うのとは違います。「アトリビューション」という言葉を使えば注目される、取り上げられやすいと思っているような気がします。
有園:私は、アトリビューションがきちんと浸透していないためにこのような状況になっているのだと思います。治田さんはアトリビューションをどのように認識していますか?
アトリビューションを単一の広告メディアの中だけで語ってはいけない
治田:難しいですね。忘れてはいけないのが「アトリビューションを単一の広告メディアの中だけで語ってはいけない」ということです。だから、先ほどの「ビュースルーコンバージョンがクリックスルーコンバージョンの5倍ありました」という話はアトリビューションではないのです。必要に応じて複数ユーザーのタッチポイントを可視化するべきです。それを、どのように活用するかがアトリビューションには含まれていなければなりません。具体的なやり方は業種によって様々だと思いますが、その観点が含まれていてこそアトリビューションだと考えています。
有園:オンラインの場合は、一人のユーザーが複数のタッチポイントに触れてコンバージョンした際、それぞれのタッチポイントがどのように貢献したのかをきちんと分析すること。それが、アトリビューション分析の基本かなと思っています。その後に、配分やクリエイティブの話になります。一般的に、初回、中間、ラストなどと言いますが、それぞれに対してどのようなクリエイティブをあてていくのか。コミュニケーション設計を含めて最適化していくのがアトリビューション・マネジメントだと思います。コンバージョンのパスデータを使った分析から得たものを有効活用するのがアトリビューション・マネジメントなのに、その手前の経路データを出すことをアトリビューションと表現している日本のツールベンダーが結構、多いですよね。
アトリビューションは広告主のためにある
治田:そうですね。私が一番危惧しているのは、アトリビューションという言葉が広告媒体側に都合の良いように解釈されて広がっていくことです。「コンバージョンする広告」が売れるのは当たり前ですが、現状はコンバージョンする広告が少ない。広告媒体側が「うちの媒体はビュー効果があります」という文脈でアトリビューションを語ることに危機感を覚えています。アトリビューションは広告媒体側の評価を助けるものではないと声を大にして言いたいです。
有園:なるほど。分析結果は広告主のマーケティング効果を最大化することに役立っていないと本質的には意味がないですね。
治田:そうです。アトリビューション分析をやった結果、本当に価値のない媒体やメディアが判別できるようになります。
有園:広告主側にとっては、媒体をふるいにかけるといった良い意味での新陳代謝が起きますね。価値のある媒体が分かると、媒体選びから施策までを適切におこなえるようになります。例えば、日経BPであればBtoBのお客さんと相性が良いですし、Yahoo! JAPANは一般コンシューマー系の検索ボリュームがあるのでBtoCに強いといった区別ができたり。
治田:日経BPであれば、ウェブサイトのコンテクストと広告主のコンテクストを合わせることが必要です。
有園:そうすると、アトリビューションは広告主のものであり、複数のタッチポイントを分析して貢献度を割り出していくことだといってもよいかもしれませんね。これは、分析手法は異なるが、オンラインだけの分析であっても、オフラインを含んでいるケースでも同じでしょうね。
治田:そうですね。
有園:2012年に入ってから日本でも、オフラインを含めたアトリビューションのニーズが増えています。アメリカでは、Market ShareやVisual IQなど複数のアトリビューションベンダー企業がオフラインでのアトリビューションについて語り始めています。オンラインの場合はコンバージョンに至る経路を分析するのが主流です。しかし、オフラインを含めたものは数理統計的な相関分析や確率論のベイズ統計を使ったモデル化なので、伝統的なメディアミックスモデリングなどと手法は本質的には変わりません。
治田:扱えるデータが増え、深さが変わりましたね。
有園:CRMと連動して、店頭の販売とテレビ、そしてオンラインのデータを結びつけ、仮想のシングルソースのような状態のデータベースを作り上げて分析できるようになりました。技術的にオフラインを含めたアトリビューションができるようになりました。
治田:そうですね。
アメリカのアトリビューションは日本より進んでいるのか
有園:そこで気になるのが、アメリカのアトリビューションはどのような状況にあるのか、ということです。治田さんはad:tech San Francisco 2012へ行かれたそうですが、そのあたりはいかがでしたか?
治田:日本よりもアメリカのほうが技術的にも先をいっていますが、それは想定の範囲内です。アメリカは、アルゴリズミックやオートメーションの部分が進んでいます。でも、日本と全く違うわけではないので大差は感じません。
有園:4月のad:tech San Francisco 2012で発見はありましたか?
治田:「自分の考えていることは間違っていない」ことを再認識できたのが一番の収穫です。
有園:なるほど。
治田:アメリカのほうが進んでいる部分は沢山ありますが、進んでいる部分も自分のベクトル上にあり、しかも距離は離れていないと感じました。
有園:たとえば、動画配信の効果分析について何かありましたか?
治田:実は、私もアメリカへ行く前はリッチメディアの解析や効果分析の話を楽しみにしていたのですが、残念ながらその辺の話は全く出ませんでした。そこが意外というか、日本がアメリカに先行できる部分かなと思いました。
有園:なるほど。
治田:あとは、アトリビューションのコンサルティング会社の存在感が増していたことを付け足しておきます。AdometoryやEncore Mediaなどのアトリビューションコンサルティング企業が登壇する際「いまやホットトピックになりましたアトリビューションのエキスパートの方々に登壇していただきます。どうぞ」といった紹介のされ方をしていました。専門分野としての知見が求められていると感じました。
アトリビューションが単なるバズワードではなくなった
有園:アトリビューションが単なるバズワードではなくなったということですか?
治田:間違いないです。2011年8月にSESへ行ったとき、Google アナリティクスのコーナーで「Multi Channel Funnels」(マルチ・チャンネル・ファンネル)という機能が紹介されました。いわゆるクリックパスが取れる機能です。それを世間はアトリビューションだと言い始めたんです。その時に「アトリビューションってどうやるんだろう」「これ、流行るのかな?」という状況になったわけです。
有園:いわゆる、きっかけですね。
治田:そのエマージングからホットトピックになったと感じています。
有園:なるほど。
治田:エマージングからホットトピックになって、ポピュラーになって、最終的にメジャーの階段を上れるかは今後次第だと思います。
お客さんのライフタイムバリューを上げる「マーケティド(Marketed)」
有園:キャンペーンマネジメントのプラットフォームとして第三者配信を考えてもらう時に必要な要素の一つとして、CRMとの連携があると思います、その辺のデータ連携の盛り上がりはいかがでしたか?
治田:アトリビューションという言葉が一番多く出てきたセッションはEメールでした。刈り取ったカスタマーへ購買データなどの情報をセグメントして提供し、カスタマーのライフタイムバリューを上げる方法を考えた時、効果があるのがメールであると。カスタマーをよりマーケティド(Marketed)なカスタマーにするには、どのようなアトリビューションをおこなうべきかという文脈が非常に多かったです。
有園:マーケティド(Marketed)というのは、具体的にどのようなことを示すのですか?
治田:マーケティング(Marketing)という言葉はマーケット(Market)の進行形です。つまり、お客さんを自分の市場に招き入れるというイメージです。その後、招き入れてコンバージョンしたお客さんに対してライフタイムバリューを上げる施策が「マーケティド(Marketed)」です。マーケティド(Marketed)する人を、マーケティドカスタマー(Marketed Customer)と呼ぶように定着しないかなと密かに思っています。
有園:ナーチャリングみたいなことですね。
治田:そうです。以前、有園さんがおっしゃっていた顧客育成、顧客教育に近いです。コンバージョンした後にそういった動きが必要であるという考えです。いずれはコンバージョンした後のアプローチに力をいれる傾向になると思います。実際、アメリカではそういった傾向が見え始めています。
アトリビューションとEメール
有園:ライフタイムバリューを上げるために、より顧客をマーケティド(Marketed)するために、アトリビューションの貢献度を考えた施策が始まっているわけですね。先ほどのメールのセッションの例は、具体的にどのような話ですか?
治田:2011年か2010年に、ユナイテッドエアラインがコンチネンタルを買収し、マイレージプログラムを統合することになりました。そもそも、この二社はユーザー属性が違うので、これを機会にユーザーを徹底的にセグメントすることになったのです。各ジャンルに分類して、それぞれに適切なEメールの文章、コンテンツ、配信タイミングでメールを送ったところ、従来の費用対効果と比較して9倍以上の改善が見られた、というケースがありました。
有園:興味深いですね。
治田:DSPの解説でCRMリターゲティングという言葉も出ていました。
有園:最近では、メールでのアプローチを最適化する事業を行なっている企業がCRMデータや配信技術と連携することによって、様々なパターンでのアプローチをしていると聞きます。ユーザーがバナー広告経由でウェブサイトを訪れてコンバージョンした場合、コンバージョンしなかった場合でアプローチは違います。リターゲティングで追い、資料請求をした方にはそれ用のメールを送る。マーケティド(Marketed)したお客さん向け、マーケティド(Marketed)しそうなお客さん向け、マーケティド(Marketed)しそうにないお客さん向け、とアプローチを分ける時代になってきました。
治田:そうですね。例えば、Aに興味のあるユーザーが、Aに関するウェブサイトでAの広告を見た場合と、Aと関係がないBというウェブサイトでAの広告を見た場合では見え方が違います。もちろん、Aに関するウェブサイトでAの広告を見たほうが良いです。だから、AとBのウェブサイトでのビューを同じ1ビューとカウントするのはどうかと思います。違うものとして考えるべきです。アメリカではその辺は重要視されていますね。
検索ログは宝の山
有園:話は変わりますが、私はお客さんから「コンバージョンした後は検索行動も変わるのですか?」と質問を受けます。たとえば、ある住宅メーカーさんでは、実際に住宅を購入した後と前とではその住宅メーカーのウェブサイト上での行動パターンが異なるはずで、それを分析できないかという話しがあるのですが、同じように、住宅購入以前と以後では検索行動も異なるのではないか?そのようなデータを有効活用してターゲティングできないか?みたいな質問をクライアントから受けることがあります。御社では検索ログデータを分析していらっしゃいますが、具体的にどのような分析をしていますか?担当の石橋さん、いかがでしょう。
石橋:検索ログ分析サービスの説明をクライアントにする際、「検索」はAISASのS(Search)だけでなく全ての部分に関わってくるという話をします。
有園:A(Attention)、I(Interest)、S(Search)、A(Action)、S(Share)のすべてに、検索は関わってくるということですね。
石橋:そうです。クロスリスティングでは、ユニークユーザーの行動を時系列で追えるので、ユーザーがどのようなキーワードをどのようなタイミングで検索しているかが分かります。そのログデータをもとに、より良いアプローチ方法を模索したり、ユーザーの悩みやウェブサイトの抱える問題を解析して解決策を考えたり、広告の影響度を調べてアトリビューションの重み付けに役立てていただいております。
有園:最近の発見はありますか?
石橋:検索ログはユーザーの行動をいろいろな面から見られるので、消費行動のデータマイニングの一環として分析でき、一般的なマーケティングとは異なる手法がとれます。検索ログ分析から、ユーザーの行動を把握すると、ユーザーがコンバージョンする場所が見えてきます。そうすると、あとはコンバージョンする場所へ導くアプローチを考えるだけです。
有園:なるほど。いろいろなデータを分析してデータマイニングを行なっているわけですね。岡野さんはどのようなことをやっていらっしゃいますか?
岡野:検索ログを使って広告の効果を測定したり広告を改善したりするだけでなく、マーケティング全般にも広く使える分析サービスの企画をしています。
有園:具体的にどのような使い方をしているのですか?
岡野:新しいサービスを立ち上げる案件の場合は、市場調査の観点でマクロから検索傾向を分析します。また、会員制サービスを提供している場合では、ミクロで会員一人ひとりの検索ログから検索傾向を分析します。検索ログを使えばかなり広い解析ができますし、退会の可能性等も把握することができます。
有園:携帯電話で例えると、auの携帯電話を使っているお客さんがソフトバンクに関するキーワードを検索し出したら、auを解約してソフトバンクに乗り換えてしまう可能性があるということですね?
岡野:そのとおりです。現在も会員の方とすでに解約した方のデータに絞込んで、それぞれの傾向を分析して、比較すれば対策も練りやすくなります。
有園:実際にやってみていかがですか?
岡野:まだノウハウを溜めている段階ですが、あるサービスを解約した方は、解約する前に競合他社のサービス名で頻繁に検索をする傾向があります。品質や価格とのアンド検索をする方も多いです。検索ログを見れば解約理由まで把握できるようになっています。
有園:ユーザーの傾向を把握して問題が把握できれば、そこに最適なアプローチをすることで解約を回避できるかもしれないということですね。
岡野:そういうことです。
治田:YahooやGoogleはやろうと思えばできると思いますが、今のところはやっていないですね。
有園:となると、クロスリスティングを使わない手はないってことですね。
治田:そうです!
有園:検索ログデータの分析でもコンバージョン後の検索行動に着目しているということで、アトリビューションが単なるメディアプランニングの最適化から、マーケティド(Marketed)するためにメールや検索ログデータを活用してモデル化する段階に入ってきたことを感じます。
アトリビューションを流行で終わらせてはいけない
有園:ところで、まだまだ深くお伺いしたいテーマなのですが、時間がなくなってきました。最後に、それぞれ、メッセージをお願いできますでしょうか。
治田:結局はマーケティングです。アトリビューションという言葉が注目を集め、画期的なサービス、最先端なツールであると騒がれています。でも、実際は昔からある考え方のひとつでしかありません。可視化できるひとつの方法論としてアトリビューションが存在していると思っています。本質的には、それはやって当たり前なことであって、概念としてはさほど新しいものではありません。だから、「これはすごい」「きますよ!」とか言われることに違和感と危惧を覚えます。このままでは単なるブームで終わってしまうのではないかと心配しています。
岡野:私からは、最後に検索ログを使う3つのメリットを紹介します。1つめは、検索ログには具体的で詳細な消費者のインサイトが入力されていること。2つめは、自社と接点がない部分の情報が得られること。3つめは、ほとんどフィルターがかかっていない人たちが分析の対象であること。謝礼目的の人とは違い、非常にリアルで面白いデータです。メリットの多い検索ログをぜひ活用していただければと思います。
有園:ありがとうございます。では石橋さんお願いします。
石橋:以前、有園さんがどこかで「素晴らしいマーケティングプランを練っても、商品やウェブサイトに問題があれば意味がない」とおっしゃっていましたが、まさにその部分が重要だと思っています。商品やウェブサイトの抱える問題が検索ログを見ることによって浮き彫りになります。マーケティングプランを練る前に、検索ログをチェックしていただきたいです。
有園:Twitterやブログなどで語られている自社のサービスや商品の問題、お客様の声を拾いましょうという話があります。検索ログを見れば、検索行動に現れる消費者の声がリアルに把握できますね。
石橋:検索をするときに他人の目は気にしません。でも、ソーシャルメディアでの情報発信は人に見られる前提でおこなっています。ある意味、セーブされた表現のはずです。だから、検索ログのほうがより本音に近い、生身の声だと思います。
有園:面白い視点ですね。治田さん、岡野さん、石橋さん、ありがとうございました。
聞き役: 有園 雄一(Yuichi Arizono)
【アトリちゃんの視点】アトリビューションという言葉や定義の一人歩き現象はよく耳にするようになりました。新しい取り組みによくある現象ですが、きちんと理解した上で使われるように働きかけていきたいですね。Marketedの考え方は興味深いですね。顧客育成するための中間施策/KPIについてもよく語られるようになったので自然な流れなのかもしれません。それにしても、検索ログに触れたことがある身としてはクロスリスティングさんの検索ログデータ、ものすごくインサイトが豊富だと理解できますし、何と言っても見てみたいですね〜w 治田さん、岡野さん、石橋さん、ありがとうございました!