※本記事は、2012年1月に公開されたAttribution.jpからの転載記事です。
第三者配信アドサーバーとの出会い
有園:本日は、世界標準の第三者配信アドサーバーを提供するメディアマインドの日本支社長である布施一樹さんと渡邉桂子さんにお話をうかがいます。まずは、自己紹介をお願いします。
布施:メディアマインドの布施です。当社はさかのぼること1999年、アイブラスターという社名で事業をスタートしました。当時は、リッチメディアに特化した第三者配信ベンダーとして、主に媒体社や広告会社にサービスを提供していました。日本では、2001年よりサービスを開始しており、現在は、クロスチャネルのキャンペーンを管理する第三者配信アドサバーベンダーとして64カ国でサービスを展開するまでに成長しています。
有園:布施さんは、いつから関わっていたのですか?
布施:私は2004年から関わっています。日本人社員第一号として採用されまして、当時、DACと共に国内事業の基盤作り、主に媒体社に対する事業開発をしていました。
有園:なるほど。それでは渡邉さん、自己紹介お願いします。
渡邉:はじめまして、渡邉と申します。営業を担当しています。以前は、媒体社と代理店で勤務しておりました。媒体社に勤務していた2004年頃は第三者配信というと、その実体はよく分からないもの、ちょっとアレルギー反応がありました。でも、2006年頃からマイクロソフトやIBMなどのグローバルアドバータイザーが使い始めているのを目の当たりにし、少しずつ印象は変わってきて興味を持つようになりました。代理店に移ったときには、実際に第三者配信を提案する立場になりました。
有園:第三者配信に興味を持ったからメディアマインドに転職されたのだと思いますが、そのきっかけや理由は何ですか?
渡邉:媒体社で広告営業をしておりましたが、タイアップ記事広告さえ、ページビューではなく、コンバージョン数や関連リンクのクリック数だけを評価対象とされることがありました。記事が閲覧された事実が十分に評価されていないと感じました。閲覧という行為を評価するための物差しがなかったので仕方がないのですが、実際はポストインプレッションコンバージョンというものがあって、それは第三者配信技術で測定可能だと分かりました。その経緯で代理店に転職、次はベンダーに来たという流れです。
有園:今後、ポストインプレッションの効果を図ることはニーズが高まると思われたのですか?
渡邉:データでの裏付けといった部分に、特に重要性を感じました。
有園:ちなみに、布施さんはカントリーマネージャーとして代表をされていますが、社員第一号として入ったきっかけを教えていただけますか?
布施:アイブラスターに転職する前は、オラクルに勤めておりました。当時のデータベース市場は非常に変革期を迎えていました。私自身、ビジネスのスタートアップ期に携わりたいという思いがありまして、新しい市場で仕事をしてみたいと考え、アイブラスターの求人を見つけました。それがきっかけです。
有園:もとから、第三者配信エンジンやリッチメディアなどに造詣が深かったわけではなくて、どちらかと言うとベンチャーマインドに惹かれて伸びそうだなということで入ったわけですね。布施さんの感性は当たっていたということで、現在、第三者配信エンジンは伸びてきていると思うのですが、アメリカでは第三者配信エンジンはどのくらい普及しているのですか?
布施:私の知る限りでは、デジタルマーケティングのキャンペーンマネジメントでは100%に近い形で代理店さんが使っています。100%というのは言いすぎだと思いますので、あくまでベンダー内の情報だと思いますが、逆に海外の広告主が日本の(あまり第三者配信が使われていない)状況を見て大丈夫かと心配する位です。
有園:現時点ではほぼ100%ということで、アメリカでは普及してきていると理解してよいと思うのですが、日本ではまだまだと思うんですね。ここ数年、第三者配信という言葉を聞いたり、使ったりしているお客様の存在を耳にするようになったのですが、いまの日本の状況をお二人はどのようにお考えですか?
布施:第三者配信という概念はアメリカからきていますので、アメリカでデジタルマーケティングに携わっている方は少なからず接触したことがある概念だと思います。しかし、日本においてはいまだに馴染みの浅い概念だと思います。もともと、日本ではリッチメディアの第三者配信エンジンとして入ってきた経緯がありますので、ごく一部の方々が知るものだったと思います。特に、アイブラスターという社名をご存じの方は、リッチメディアのキャンペーンで関わられていたことでしょう。まだ、メディアマインドって、リッチのアイブラスターのことだったんですか?と言われます。いまは、アトリビューションという概念が注目されはじめており、その状況下で第三者配信技術を活用したDSP、アドネットワークというものが注目されています。日本での第三者配信普及の歴史は欧米と異なるのではないでしょうか。どう進化するとしても、広告のパフォーマンスデータやそれに関連するデータを一元的に管理していないことの多い現状は、引き続き問題視しております。もう少し根底の部分で、この第三者配信をとらえていただきたいと思います。
有園:そうですね。
布施:第三者配信と言っても、いろいろな種類があることを整理したいと思っています。
第三者配信エンジンを使うメリット
有園:第三者配信エンジンを使わないとビュースルーのコンバージョンがとれないということで、ここ数年、私もかなり第三者配信エンジンという言葉を耳にするようになりました。第三者配信エンジンを使うメリットは、ビュースルーのコンバージョンをとれる以外にもあると思います。そもそも、第三者配信エンジンとは、どのような物なのでしょうか?第三者配信エンジンを使うと、どのようなメリットがあるのでしょうか?
渡邉:第三者配信エンジンという言葉には、広い意味と狭い意味があります。それゆえに混乱を招いている印象を受けます。お問い合わせをいただく際に、第三者配信エンジンについてご存知の方もいらっしゃいますが、「アドネットワークのことでしょ?」とか「DSPと何が違うの?」や「そもそも第三者配信って何?」といった質問を受けます。広い意味では、当事者である自社のアドサーバー以外のサーバから配信していることが第三者配信になります。つまり、アドネットワークやDSPも第三者配信の技術の上に成立します。狭い意味での第三者配信のベンダーというのが、我々メディアマインドのような存在です。それは何かと言うと、広告主側で管理するアドサーバーであり、デジタルマーケティングのOSとしてデジタルマーケティングの機軸となる存在です。海外ではキャンペーンマネジメントプラットフォームと呼ばれています。
有園:広い意味では、第三者配信エンジンもアドネットワークと同じと言える。しかし、狭い意味ではメディアマインドさんのようなキャンペーンマネジメントができるもの、という位置付けであると。
渡邉:キャンペーンマネジメントプラットフォームとは何かというと、アクセス解析ツールと両壁を成す広告主さんの武器です。たとえば、図のように広告主がいて自分達のデータベースを持ち、自分たちのウェブサイトを運営しているとします。メディアマインドというキャンペーンマネジメントプラットフォームは、広告主側に属し、外部施策(主に全ペイドメディア)の情報を集約します。一旦サイトを訪問してからの情報はアクセス解析ツールでマネジメントします。この両輪を上手く連結してデータを活用することが「PDCAサイクルを回す」ということになると考えています。ペイドメディアとしては、リスティング広告の媒体社だったり、ソーシャルメディアの媒体社だったり。あとはプレミアム枠と呼んでいますが、純広告枠を持つ媒体社、さらにノンプレミアム枠といわれるアドネットワークやアドエクスチェンジがあります。モバイルスマートフォン広告などもあります。これら全てに配信し、クロスチャネルのデータを一元管理します。ちなみに、よく混乱を招くDSPとの違いは、ここにあります。DSPはノンプレミアム枠をバイイングできますが、プレミアム枠についてはその対象範囲外です。確かに、DSPを活用してリターゲティングの在庫だけ購入することは効率的なのですが、リスティング広告で効率性を追求していくと母数が増やせなくなるように、ノンプレミアム枠だけで追求しても母数を増やすことに限界が訪れます。そこで役立つのが、純広告・プレミアム枠だったりします。繰り返しになりますが、重要なのは、第三者配信のアドサーバーがハブとなって、リスティング広告やソーシャルメディア、純広告、ノンプレミアム枠など、すべてをブリッジして配信し、そのパフォーマンスデータを集約することです。その結果を、広告主に戻すタイミングで、彼らのデータ(例えばアクセス解析ツール側で取れる情報)とマージをして、データをためていきます。そのデータをセグメント化し(例えば実際にウェブサイトにきて買った人=グループX、買ってない人=グループYのように定義化)セグメント別に再度配信をします。すべての媒体をつなげてネットワークを築くためのツールが、この第三者配信プラットフォームです。細かく媒体を区切って小さくPDCAを回すのではなく、広告主としての一大オリジナルネットワークを作ってダイナミックにまわす。変化する状況に応じて、施策を変えていくことが重要であって、そのためのツールが我々の提供するソリューションです。
有園:技術に詳しい方なら分かると思いますが、御社の第三者配信エンジンを使うことによって、すべての媒体、すべての枠に配信されたものが、ひとつのクッキーでつながるということですね。リスティング広告は配信するのではなく、データを連携するということですが、どのようなやり方をするのですか?
渡邉:API連携をしているので、システム側にリスティング広告のIDやパスワードを入れていただくことで、裏側でURLの書き換えラッピングをおこないます。リスティング広告側の運用に一切影響を及ぼすことがなく、データのトラッキングができる仕組みです。クリックトラッキング用のリダイレクトURLを発行するなどの苦労なく、何千というキーワードをトラックできます。
有園:ソーシャルメディアはどうですか?
渡邉:ソーシャルメディアも対象です。Facebookは配信タグ自体を受け入れていませんが、トラッキングタグは受け入れています。広告そのものは配信しないけれど、データは収集できる。すなわち、投資がすべてデータに換えられるので無駄がありません。配信を受け入れてないプレミアム媒体(Yahoo!など)もクリックトラッキングをすることで、パフォーマンスデータの中に組み込んでいくという仕組みになっています。
布施:媒体側でも広告効果促進のためにリッチ化を戦略的に進めています。たとえば、ブランディングキャンペーンの中でリッチバナーのみを配信するのではなく、リッチバナーとスタンダードバナーをミックスすることでROIの向上を目指します。ファイナンス系クライアントさんの事例では、ブランディング目的のリッチバナークリエイティブを1回目と2回目のインプレッションで出したところ、もっともコンバージョンが上がりました。スタンダードバナーで配信するよりも、初回はリッチバナークリエイティブでリーチして、その後にスタンダードバナーで刈り取る。このような異なるフォーマットを織り交ぜることによって、コンバージョンをあげていく施策がありました。通常媒体側で用意しているリッチバナーの仕様に関しては、基本的に媒体側のテクノロジーに依存します。ただ、当社側がリッチメディアソリューションを持っていることによって、媒体側の負荷を軽減しながら、かつ、一定の標準化されたものを実装できます。当社ならではの特徴は、リッチメディアではないかと思います。
メディアマインドの測定指標「Dwell」とは?
有園:リッチメディアの話は非常に面白いと思いました。初回でリッチメディアを出したほうがもっともコンバージョンが増加したということは、それだけ効果があったということだと思います。リッチメディアを見せることの効果測定には、御社は特別な指標があると伺っています。
渡邉:Dwell という指標があります。Dwellとは、ユーザが広告と関係を持っている時間やレートのことを指します。インタラクションに近いですがDwellでは接触時間も評価対象となる点が異なります。たとえば、ビデオが入ったバナーでは、3分間再生していてもその長さをインタラクションとして評価できませんが、Dwellの場合は1秒以上のオンマウスを含む広告に滞留している時間をDwell Timeとしてカウントします。また、配信インプレッション中にユーザがエンゲージした割合をDwell Rateとし、Dwell Time とDwell Rateを掛け合わせてDwell値を算出します。マイクロソフトさんとコムスコアさんと、アメリカで実際に行ったリサーチがあるのですが、Dwell値が高ければ高いほど、ブランディングに寄与するという結果がでました。具体的には、Dwell値が高いほどブランド系のキーワード検索の比率が高まり、ウェブサイトの閲覧数が増える、コンバージョンレートが向上するなどの傾向が立証されています。
有園:Dwellというのは日本では耳にしない指標だと思いますが、御社独自の指標と考えた場合、アメリカでは結構使われているのですか?
布施:Dwellは、メディアマインド独自の指標です。前述のマイクロソフトさんとコムスコアさんとのリサーチは三社で共同のホワイトペーパーも出しています。最近ようやく、ポストインプレッションが日本で市民権を得てきたと思います。これまでは、技術面での制限からクリック依存型の評価が中心になってきましたが、リッチメディアクリエイティブですと、接触のみで(クリックしてキャンペーンページに飛ばずに)エンゲージメントが完了しています。クリックされなかったからといって、評価しなくて良いのでしょうか。デジタルのクリエイティブを評価するうえで、CTRインタラクションという指標がありますが、インタラクションはマウスの動きをベースとしたしたものですので、マウスのアクションが多いほどインタラクションが上がる仕組みになっています。その場合、クローズボタンを押したこともインタラクションとして評価されてしまうという穴があります。そこでポジティブのアクティビティーだけを評価することを、第三者配信ベンダーが共通してやり始めましたが、動画が増えてきて、動画は視聴率なのでインタラクションが交わらなくなってきました。ですから、動画と実際のマウスエンゲージメントを総括して測る指標が必要だと。それを我々はDwellと呼んでいます。
有園:メディアマインドを使うと、アトリビューション分析がビュースルー含めた形で出来ます。なおかつ、リッチメディアを配信した場合には、Dwell値とコンバージョンがどうなっているか。Dwellスルーコンバージョンみたいな感じでしょうか?調査によるとDwell値が高ければブランド系キーワードの検索ボリュームが増えていると。私の知る限り、他のツールでできるところがないという理解で大丈夫ですか?
布施:Dwellはメディアマインド独自のKPIです。もちろん、他のツールが採用したいということであれば、我々も業界標準にすべく動いていますので、ウェルカムです。
データ一元管理への道
有園:先ほど、第三者配信のメリットとしてデータを一元管理できるという話があったのですが、そうするとGoogleディスプレイネットワークのリマーケティングとか、それ以外のサービスを使わずに、御社の第三者配信エンジンだけでとったクッキーでリターゲティングの設定をしたほうが効率的のように思います。たとえば、Googleのリマーケティングを使うと同時に、御社のリターゲティングの設定をするのはちょっとナンセンスですか?
布施:併用は可能です。KPIとキャンペーン設計次第ですね。例えば、最初は媒体側のリマーケティングを利用して、ある程度のターゲットを分類したあとで、そこからキャンペーンマネジメントという概念でクリエイティブ評価も含めてコンバージョンを高めていくということになります。そうなると、リアルタイムなプランニングが必要です。媒体側のリマーケティングメニューだとリアルタイム性や媒体横断の観点から見ると自由度が下がってしまいます。そこを、フロントでメディアマインドをキャンペーンマネージメントツールとして置くことによって、活用範囲を広げます。アドエクスチェンジの世界でも同様です。DSP自体は第三者配信ですが、そこにキャンペーンマネジメントの機能が十分で無いのです。買ったものを出すという第三者配信であり、そこをどのように出していくのか。実際に出すものをどう変えていくのか。そこはリッチメディア の出番です。恐らく、将来的にはDSPでのリッチメディア対応もあると思います。しかし現時点では、その役割は純広告だと思います。
聞き役: 有園 雄一(Yuichi Arizono)