アトリビューション特別対談:株式会社ロックオン マーケティングメトリックス研究所所長中川斉×アタラCOO有園雄一(1/2)

アトリビューション特別対談:株式会社ロックオン マーケティングメトリックス研究所所長中川斉×アタラCOO有園雄一(1/2)

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※本記事は、2011年10月に公開されたAttribution.jpからの転載記事です。

第1部/全2部(2011年10月11日公開分)

 

 

アトリビューションの現状と課題

 

有園:本日は、マーケティングメトリックス研究所所長の中川斉さんをお招きして、いろいろお話を伺っていきます。中川さんは、マーケティングメトリックス研究所の所長を務められてどれくらい経ちますか?

 

中川:約一年半ですね。

 

有園:一年半くらい前から所長をなさってるという事ですね。自己紹介を中川さんからお願いできますか?

 

中川:はい。2010年3月株式会社ロックオンに参加し、マーケティングメトリックス研究所を設立し所長に就任しました。それまでは、コンサルタント会社と広告代理店で、マーケティング職に携わってきています。CIやブランディングなど、マーケティングの中でも比較的上流部に関わる事が多かったです。統計解析やデータ分析は専門ではないものの、マーケティングツールの一つとして使ってきており、特に最近はその重要度が増しているのを感じますね。

 

有園:マーケティングメトリックス研究所では、どのようなお仕事をされているんですか?

 

中川:3つの業務があります。一つ目は、弊社商品である広告効果測定システム「AD EBiS(アドエビス)」と、リスティング自動入札システム「AD EBiS AutoBid(アドエビスオートビッド)」の開発に携わっています。二つ目は、マーケティングソリューションを提供している企業として、マーケティング/広告分析がもっと世の中に広まるような啓蒙活動です。三つ目は、マーケティング/広告まわりの分析コンサルティングサービスです。

 

有園:幅広いですね。面白いお話が聞けそうです。今日のテーマである「アトリビューション分析」や「アトリビューションマネジメント」には、お仕事としてどのように関わっていますか?

 

中川:私は、前職がネット系広告代理店で、「間接効果」という言葉はありましたが「アトリビューションマネジメント」という言葉を聞いたことはありませんでした。当時、一般的に広告の評価は「直接効果」でしか見ていなかったのですが、そのやり方では明らかにディスプレイ広告が過小評価されがちで、「他の評価の仕方は?」とか「もうちょっと裏まで可視化しようよ」っていう動きがありました。そのあたりから、直接効果じゃない部分の分析を始めました。今考えれば、その時すでに、今のアトリビューション的な考え方をしていたのかもしれません。「アトリビューション」という言葉はなかったので、「間接効果」や「アシスト」という言葉で補っていたように思います。ただ、「間接効果」って一言で言っても、いろいろな使い方があるし、評価軸や具体的な計算方法は様々です。「これ!」っていう絶対的な指標があるわけではないので、お客さんやプロジェクトに合わせて、臨機応変に分析方法を使い分けていました。

 

有園:現在のお仕事では、アトリビューション分析にどのくらい携わっていらっしゃいますか?

 

中川:全体の割合で考えると、一割以下かもしれませんね。

 

有園:なるほど。いろいろな業務をやっていらっしゃる中で、コンサルティングをするときは、アトリビューション分析をすることもあると。

 

中川:はい。私自身、これまでも、今後もアトリビューションだけに力を入れようとは思っていません。ただ、広告やマーケティング全体の最適化を考えると、アトリビューション的な考え方が必要になるはずです。現状ではそれを使えそうな時に道具の一つとして使っています。

 

有園:なるほど。ではその辺も含めて、いろいろと聞かせてください。

 

中川:はーい!

 

間接効果分析とアトリビューション分析の違い

 

有園:それでは早速ですが、4~5年前から間接効果分析をやっていらっしゃるということですが、あらためて間接効果分析とアトリビューション分析の違いを、どのようにお考えでしょうか?似たようなところがあるというお話ですが、「間接効果分析をアトリビューション分析という新しい名前で呼ばなくてもいいじゃないか!」という意見もあります。同じコンセプトなんですかね?

 

中川:「直接効果だけじゃなく、接触広告全体を評価しよう」という、大枠のコンセプトは同じだと思っています。

 

有園:では、違いはどこでしょう?

 

中川:例を挙げて具体的に見ていきましょう。弊社のAD EBiS(アドエビス)も、おそらく他社の広告効果測定システムも近い考え方だと思いますが、「媒体レポートではなく広告主側の仕組みで、媒体を超えて、一つ一つの広告の効果を評価する」ことが目的です。そのため、まずは直接効果を測る機能が作られ、次に間接効果測定の機能が付加されました。このあたりまでは、分析の主語は”一つの広告”ですね、まずは。

 

有園:はい。

 

中川:例えばこの表を見てください(表1)、広告Aに対して、直接コンバージョンしたものが2件あったとします。この広告Aが、直接コンバージョンしたんじゃ無いけれども、他の広告がコンバージョンした場合の、1つ前に広告Aがあったら間接効果と考えます。2つ前、3つ前・・・も同様です。他にも、初回接触の数や直接/間接比率なんかも見る事ができます。

 

有園:これは、AD EBiS(アドエビス)のデータですよね?

 

中川:そうです。これが広告A、広告B、広告C……と登録した分だけ出力されます。これは集計済みのデータなので、実際の広告接触はどうなっていたかというと、次の表(表2)を見てください。

 

aさん〜eさんまで5件のコンバージョンがあり、それが表1に集計されていると考えてください。aさんとdさんに広告Aでの直接コンバージョンがあるので、表1の直接コンバージョンが2になります。間接1は、bさん、cさんにあるので2。間接2はbさん、cさん、eさんにあるので3。同様に間接3、4は1づつになります。また、表2では、広告A以外の広告接触は”他”と簡易的に示しています。aさんは1回接触でコンバージョンして、bさんは3回、dさんは5回というように、接触回数が多いものもあれば少ないものもあったりします。

 

有園:うんうん。

 

中川:間接効果って、この接触回数を無視しています。各広告が何番目に接触したのが何回あったというのを無理矢理足し上げています。

 

有園:流入経路の中の接触回数が1、3、3、5、4ですね。これが、間接効果とアトリビューション分析の違いを語る上で重要ということですね。アトリビューション分析では、この表のdさんのコンバージョンの場合、接触回数が5回なので、1接触あたり1/5というように重みを付けていく。bさんのコンバージョンの場合は1/3ずつ。一方、これまでの間接効果分析においては、接触回数に関わらず、1回は1回でそのまま足し上げてきました。

 

中川:その通りです。

 

有園:だから、1コンバージョンに対しての重み付けという観点が、これまでの間接効果分析には入っていないけれど、アトリビューション分析には入っているという点が大きな違いではないでしょうか?

 

中川:おっしゃる通りです。この違いが意外と知られていませんね。間接効果の数字を、アトリビューション分析と言ってる方もいらっしゃいます。

 

有園:ひとつ気になっていることがありまして、広告Aが間接効果まで見て、どういう風に評価するかを考えた時、僕もそうだったのですが、最初は間接コンバージョンを全部足しあげて、2+3+1+1で7。さらに足すことの直接コンバージョン2件で9。そうすると、広告Aは9件のコンバージョンを生み出しているような錯覚を持ちません?

 

中川:表現の仕方によっては誤解されがちかもしれません。

 

有園:表2を見ればわかるように、実際のコンバージョンは5件なのに、9件のコンバージョンがあるとみなしてしまうのはよくない。ダブルカウントが起こっています。この9個を足してはいけないんです。

 

中川:そうですね。全部足し上げてしまうとおかしな事が起こります。ただし、間接効果と直接効果を別々に考えるならばアリです。その方法は、私も数年前やった事があります。間接1、間接2、間接3、・・・を足し上げて、一つの広告に対して直接と間接の合計の2つの評価軸をつけます。すると、直接を横軸にとり、間接合計を縦軸にとったマトリクスが書けます(下図1参照)。広告Cは直接も、間接も高い。ここは問題なく○。広告Dは直接も低ければ間接も低い。ここはダメですね。広告Aは直接が高くて間接が低い。まぁ、直接が高い分にはいいでしょう。問題はここの直接が低く、間接が高いところ。ここは△。あるお客様に、実際これをやったのですが、△の部分は広告の質的なもの、コスト等を考慮し再評価しました。結局は、×の領域からカットしていったため、△領域はすべて引き続き出稿になりましたが(笑)

 

有園:へ~。

 

中川:ただし、これだと軸が2つあるのでシンプルに評価できないんですね。

 

有園:なるほど。実は、この四象限に分けてやる方法は私もやりました。そして、行き詰まりました。行き詰まった理由は、中川さんが仰ったように、直接コンバージョンと間接コンバージョンという2つの軸があるので、評価指標が一次元にならないからです。そこから、何に行き詰まったかというと、具体的に直接コンバージョンも間接コンバージョンも加味した形でAという媒体、Bという媒体、Cという媒体、Dという媒体のそれぞれのコスト効率が見れなかったんです。

 

中川:そうですよね。僕の場合は、実際の直接コンバージョンと間接コンバージョンを、別々に無理矢理コストで割ってました。

 

有園:なるほど。コストパー間接コンバージョンみたいな感じですね。でも、そうすると、ある媒体に対して、2つの軸が出てきてしまいます。いずれにせよ、一元的には管理できませんね?

 

中川:そうなんです。

 

有園:シンプルに評価できない、あるいはコスト効率を見ることができないという問題も、貢献度を配分していくアトリビューション分析を導入すれば解決できるということですよね?

 

中川:はい、できました。

 

有園:そこが、間接効果分析とアトリビューション分析の一番重要な違いです。違うんだから、間接効果分析とアトリビューション分析をイコールで結んではいけません。そこは、あえて分けましょうねということで、皆さんよろしくお願いします!って感じです。

 

中川:その違いをきちんと使い分けている人が少ないと思います。まだまだ、正しい情報が浸透していませんね。啓蒙が必要です。

 

有園:そうですね。

 

中川:弊社のAD EBiSでも、標準の管理画面ではアトリビューションの値が表示されません。もちろん、今後は実装する予定ではいますが、急場しのぎとして、アトリビューション計算マクロを作ってお客様に無償提供しています。

 

有園:今後、御社では再配分コンバージョンやTCPAと呼んでいる指標をAD EBiS(アドエビス)に入れていくんですか?

 

中川:バージョンアップのタイミングで機能追加する予定です。

 

用語の統一化は必要か

 

有園:そうすると、新たな課題を感じるのですが、弊社では「アトリビューションスコア」と呼んでいるものを、御社では「再配分コンバージョン」と呼んでいます。同じことを指しているのに、言葉が違います。これまた、混乱の元になると思っているのですが、いかがでしょうか?

 

中川:「間接効果」と「アトリビューション」もそうですが、新しいものは用語がきちんと定義されていないと、広まりにくという問題がありますよね。

 

有園:実は、アタラでは「アトリビューションスコア」と呼んでいるものも、アメリカの資料を見ると「何とかウェイテッドポイント」とか、「何とかイーブンアロケイテッドスコアリング」とか呼ばれています。いろいろな呼び方があって、各ベンダーごとに違うみたいです。それを見た時も、今後は用語の統一が必要になるだろうなって思いました。

 

中川:そう思います。

 

有園:中川さんが書いていらっしゃる記事に「TCPA(トータルCPA)」という言葉を見つけました。私も同じコンセプトを使った分析をするのですが、そのときは「シークエンスCPA」と呼んでいます。中川さんは、1コンバージョン発生した時に、流入経路ごとのコストをつかってCPAを計算することを「TCPA」と呼んでいらっしゃるかと思います。しかし、私は、一連の連なった流入経路の連なったデータになっているので、一連のという意味のシークエンスという言葉を遣い「シークエンスCPA」と呼んでます。

 

中川:そうでしたか。

 

有園:使っている表現は違いますが、考え方としては、どういうパターンで流入してきた時が、一番コスト効率がよいのかを見るときに使ってらっしゃるという認識で合っていますか?

 

中川:全くその通りです。

 

有園:今日ここでは結論を出せないと思いますが、いずれにしても、用語がバラバラなので統一したほうがいいんじゃないかと考えています。

 

中川:はい。その気持はよくわかります。関わっている方は同じように考えていると思います。話しづらいですからね。

 

有園:「トータルCPA」と呼ぼうが「シークエンスCPA」と呼ぼうが、どちらどもいいんですが、もっと良い名前があれば皆さんと一緒に作っていきたいです。

 

中川:協会とかが「今日から○○で!」と決めてくれると楽かも(笑)協会を作っちゃってもいいんじゃないですか?

 

有園:中川さん発起人になって作ってくださいよ。「アトリビューション分析協会」とか「日本アトリの会」とか。

 

中川:それは、アタラの杉原さん会長でやったほうがいいんじゃないですか。

 

有園:そうですね(笑)わかりました。

 

コンバージョンに至らなかった流入経路の分析

 

有園:今日は「アトリビューションの現状と課題」をテーマにお話を伺っています。他にアトリビューションの課題だと感じていることはありますか?

 

中川:リスティング広告とディスプレイ広告をどう配分するかで、アトリビューションを語られることが多いのですが、ディスプレイ広告をきちんと評価しようと思うと、やはりビュースルーがこれからの課題になるかなと。前回の対談で、Fringe81の田中さんが「検索の50%がビュースルー経由」と仰っていましたし、ビュースルーはいまでも測ろうと思えば測れるのでやらなくちゃいけない。とはいえ、技術的課題は残っています。大変ですが、やっていきたいと思っていますし、実際に実験は始めています。

 

有園:田中さんも「ビュースルーコンバージョン数はかなり多いです」と仰っていましたが、私が分析していても結構あると見ています。今、メディアマインドを使っているお客さんがいまして、それにも出てくるのですが、やはりそこは重要だなと思っています。今後、これを計測できるツールがもっと手軽に出てきたほうがいいなと思います。

 

中川:そうですね。

 

有園:よく皆さん、コンバージョンが発生した流入経路の分析は、ある意味当たり前としてやってらっしゃいます。でも、コンバージョンに至らなかった流入経路っていうものもデータとして出てきます。コンバージョンなんて1%か2%の確率でしか発生しないので、コンバージョンに至らなかったデータを分析することこそ大事じゃないかと思っているのですが、いかがでしょう?中川さんは分析する際、どのように扱っていらっしゃいますか?

 

中川:出稿量が多いディスプレイ広告やビッグワードなどの場合、元々の数が多いのでコンバージョン数は多くなります。しかし、流入経路パターン毎にCVRで見てみると、CVRが高いパターンの意味、低いパターンの意味が見いだせる事があります。特に元の数が多いのにも関わらず、コンバージョンが少ないものなんかが見つけられたら、そりゃ悪者ですから、すぐに退治しないといけません。 CVRなので、コンバージョンに至らなかったものがみれないとこの分析はできませんね。

 

有園:流入経路パターンにもCVRと言う考えを持ち込むと、効率が測れるわけですね。数だけで、効率を無視すると、予算配分計画が歪んでしまう可能性がありますね。その点からしても、このコンバージョンに至らなかった流入経路も、きちんと分析しないとダメですよね?

 

中川:さらに深く、行動分析ができることになる。経路パターンから、購入の理由やキモチが見えると思うんですよ。

 

有園:そうですね。今の話でいうと、僕は「勝ちパターン分析」と呼んでるのですが、質の良かった経路のクリエイティブの中身をよく分析してみると、きちんと初回で認知をとるとか、中間でそれをさらに好意を高めて、初回の人に対するメッセージと2回目の人に対するメッセージが違うみたいな所が、もしかしたらきちんと区別されてたり、効果的なコミュニケーションが出来ている可能性があったりするのが見えてくるっていう事ですよね。

 

中川:そういう可能性がありますよね。リスティングでもディスプレイ広告でも、その商品と人とその広告のメッセージがフィットする物と、そうではない物の差が出てるという所が見えてくるかもしれないというところですね。

 

聞き役: 有園 雄一(Yuichi Arizono)

2/2に続く

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