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広告運用者とレポーティングについて考える
広告運用者と広告レポーティング業務。それは切っても切れない関係です。読者の皆さんは、日々どのようにレポーティングを行っていますか?
様々なレポーティングの自動化ツールが台頭してきたり、Excelなどの表計算ソフトを使った従来のレポーティング方法以外にBIツールやダッシュボードをレポーティングに用いる方法が導入され始めてきたりと、時代が進むにつれてレポーティング業務そのものも進化してきています。
しかし、どれだけ手段や形が変わろうと、運用型広告におけるレポーティングは業務の根幹を成すコアな部分であるということに変わりはありません。
それだけ広告運用者にとって重要な位置を占めるレポーティング(広告レポート)ですが、その考え方や業務体制、こだわっている部分などは各企業・各担当者によって千差万別だと思います。そこで今回は4人の識者に対して、「広告レポーティング」をテーマに、それぞれの考えやお作法を伺ってみました。
※掲載順は企業名五十音順です。
編集:アタラ合同会社 井谷麻矢可
Case1 レポーティングとは、クライアントとの議論のきっかけだ
中川雄大(なかがわ ゆうだい)
アタラ合同会社 チーフコンサルタント。Facebookでアカウントマネージャーを務め、キャリアの前半は様々な業種・規模の広告主を、後半は広告代理店の専任でFacebookを活用したマーケティング戦略の立案やアカウント構成の最適化など、全プロダクトの実装・運用をサポートする。成功事例の創出にも貢献し、広告のみならずカスタマージャーニーを網羅するプランニングを行う。 アタラ合同会社には2015年1月から参画。現在は運用型広告全般のアカウントマネジメントのほか広告代理店へのトレーニングや広告主へのインハウス体制の構築支援、デジタルマーケティング全体の戦略立案など幅広いコンサルテーションを提供している。 著書に『運用型広告 プロの思考回路 』、メディアでのコラム掲載やセミナー等での登壇実績も多数。http://www.atara.co.jp/
弊社では自社で広告アカウントを所有するケースは稀であり、広告アカウントのオーナーシップをクライアントに持っていただいて、アカウントへのアクセス権だけ頂戴する商談がほとんどです。
その場合、クライアントが閲覧したいデータにすぐにアクセスできる環境を提供しているので、従来のレポートはあまり意味を成しません。メールで私に依頼する時間があったら、クライアントが自分で広告アカウントを見に行った方が早いですから。
そうなると、レポートに求められるものは単純な“報告”の域を超え、どれだけアクショナブルであるかが重要だと思っています。「先週はこういう結果でした」とお伝えするための手段ではなく、「こういうことをやったらこうなった。だから次はこうしたらいいんじゃないか」という議論をクライアントと生むきっかけとなるものが、価値のあるレポートの姿だと考えます。
A1:クライアントごとの柔軟性とわかりやすさ
1つ目に、テンプレートを作らないことです。複数のクライアントに対して同じようなテンプレートを流用するのは、業務効率を考えると必要という意見もありますが、広告アカウントと同じように、企業規模や事業のフェーズ、製品/サービスの特定によって重要な指標は異なるはずですから、柔軟にカスタマイズできて然るべきだと僕は考えています。
2つ目はやはりわかりやすさです。見やすさ、とも言えるかもしれません。どういう形式が見やすいか、表が良いのかチャートが良いのかは扱うデータや見る人によって変わるので難しい部分でもありますが、どれだけ丁寧で緻密なレポートであっても、見にくい・どこを見ていいかわからないフォーマットでは全く意味がありません。
A2:レポーティングシステムで自動化し、各コンサルタントが独自に色付け
弊社で開発・提供している自動レポーティングシステム「glu」を内部活用しているので、データの収集、整形、出力はシステムで自動化されています。新興媒体など、APIが無かったり接続が済んでいなかったりするものは一部人の手も介入しますが、基本的にはシステムで完結します。
その上で、各コンサルタントがコメントを書き加えたり、出力先がBIツールであればサマリー、トレンド、アクションアイテムなどをまとめて送付し、定期的にコミュニケーションを始めるケースが多いように思います。
A3:自動化できる部分は自動化し、クライアントとの共有・議論に比重を寄せていきたい
まずは自動化の流れはより加速すると思いますし、必然的な傾向だと思います。人間が作業することでミスも増えますし、何より時間がもったいない。レポート業務が無駄ということでなく、人間がする仕事ではないという意味です。ただ、レポート業務にはいくつかのフェーズがあるとも思っていて、僕としては、3のフェーズまでは極力自動化された未来であってほしいですね(疲弊した担当者を生まないためにも)。
1.収集
2.集計
3.出力
4.共有
3まではコンピューターに完璧に処理してもらって、ルーチンワークに忙殺されることなく4でいかに価値を出すかがクライアントのパートナーとしての価値に直結すると思います。そう考えると、頻繁にデータが更新されて(しかもリアルタイムで)、希望通りにビジュアライズでき、必要な人すべてがアクセスできるBIツールが現在アップトレンドなのも納得できます。
Case2 レポーティングとは、基幹システムだ
田中広樹(たなかひろき)さん
アナグラム株式会社 シニアテクニカルアカウントマネージャー。元公共放送の放送エンジニアからのキャリアチェンジで、前職の広告代理店にリスティング広告の運用コンサルタントとしてこの世界に飛び込む。その後、2012年1月にアナグラム第1号社員として入社。広告運用、クルーのブログの編集や自社Webサイトの管理、Google アナリティクス・タグマネージャー・データフィードなどに関する技術支援、セミナー登壇、社内整備など経営以外の領域をだいたいカバー。書籍「いちばんやさしい[新版]リスティング広告の教本」の著者。Google 広告主ヘルプコミュニティにてゴールドプロダクトエキスパートとしても活動。お酒が飲めないのにワイナリーの収穫祭に参加する人。https://anagrams.jp/
レポートデータはお客さまへの報告だけにとどまらず、社内向け経営資料の作成、請求書の発行、予算の進捗把握など、多種多様な業務に活用するもの。これがないと業務の遂行ができないという意味合いも込めて、「基幹システム」と表現させていただきました。
A1:レポートのキモは「見やすさ」。レイアウト配置など細部にまでこだわる
アウトプットするレポートは「見やすさ」にこだわっています。お客様へのレビューに使うレポートはデザインが共通になっているのですが、重要な項目ほど面を大きく、ドリルダウンされた内容は面が小さくなるようにしています。各要素のサイズやレイアウトには日本人が見て美しいと感じる「白銀比(1:√2)」となるように配置をしています。
社内に向けたレポートは事前に要件をヒアリングしたうえで、担当者が使いやすいレイアウトとなるように調整しています。
A2:レポーティング業務はオペレーションチームが一手に引き受け、運用者の負担を軽減
弊社50名のうち私を含めた3名でオペレーションチームを構成し、レポーティングシステムを使った業務を遂行しています。レポートシステムの利用そのものに制限はかけていませんが、レポートシステムの使いかたや深い活用方法などについては、細かい説明は行っていません。
担当者それぞれが、レポートシステムで利用するテンプレートを作成してからレポートを抽出できるまでの時間や教育コストを鑑みると、オペレーションチームで一手に引き受けたほうが、時間コストとメリットを享受できる人数のバランスが取れるからです。
背景として、現場の運用担当者が実現したいことは「大体ベクトルが同じ」というケースが多いこともあり、このような運用体制を取っています。
A3:ダッシュボードとExcel、それぞれが共存し、適材適所で生き残る
BIツールの台頭でダッシュボード化が進む一方で、Excelによるレポート文化も残ると考えています。小さいチーム単位でみればダッシュボードに集まったレポートデータから素早く意思決定が行える一方で、経営陣までのレポートライン上に複数の責任者が介在する場合は、まだまだExcelファイルとしてまとまっていたほうが何かと便利であるケースもあります。
ちなみに、これは組織のサイズや文化や風土などによって適切なレポーティングの手段が変わってくることですので、ダッシュボード化が良くてExcelは古臭くてダメ、またはその逆と言ったような一方的な議論が出てきてもこの議論自体に意味はないのかなと思います。
Case3 レポーティングとは、お客様へのラブレターだ
河野 芽久美(こうの めぐみ)さん
アユダンテ株式会社 シニアSEMコンサルタント。自動車雑誌のライター、課金コンテンツ制作を経て広告運用の道へ。お客様の広告運用やレポ―ティングだけでなく、チーム内部のファイナンスを含む業務効率化、職務環境改善にも取り組む。得意分野は「求人」「不動産」「総合通販」。趣味は美味しいモノを食べること。https://ayudante.jp/
格好をつけた言い方ではありますが、レポーティングは様々な一面を併せ持つ、一つのレターだと考えています。例えば、レポーティングは広告の配信実績の証、であり、予算に対しての進捗・執行の確認書、であり、実施した施策に対しての結果、であると言えます。
一方で、レポーティングの元データには、我々運用者が何をしたかが細かく刻まれており、苦戦した時には、その様も見て取れるもの。それをまとめ上げ、「何を、どうして、こうなった」とわかりやすく記し、そして、このレポートを基に、次に何ができるか、何をするべきか、をお伝えすることがレポーティングだと私は考えます。
ただの数字の羅列を、いかに解りやすく、愛情を込めた施策の結果とともにお客様に伝えるか。そして、次に何をすることがお客様にとってベストなことなのかを検討し提案する、レポートとは、運用者の愛がつまった、まさにレターではないでしょうか。
A1:各お客様に合わせてカスタマイズ。もらって嬉しく、クライアント企業内でも活用できるものがベスト
できるだけ愛情を込めたいと考えていることもあり、できるだけデータの収集とまとめに時間を取られないことを考えています。弊社はQuick DMPという、データ収集からTableauやGoogleデータポータルなどでのビジュアライゼーションまで一貫して実施できるサービスを保有していますので、データ収集については、広告媒体のAPIからデータを抽出できるようになりました。
ただ弊社では、お客様と向き合っているコンサルタントが、各お客さまに即した形でレポーティングをしているので、俗にいう「定型レポート」がありません。そのため、こだわりではありませんが、各お客様がもらって嬉しく、更に、お客様が社内でも活用できるようなレポーティングを心掛けています。
A2:各自が各お客様に合ったレポートを作成
前項でも述べていますが、私たちは「定型レポート」は持たず、各お客様に合ったレポートを作成しています。そのため特別な体制はないのですが、前出の弊社サービスQuick DMPチームとの橋渡しや、APIからは取得できない各お客様の情報(予算やKPI)は、私が取りまとめを行い、ほんの少しではありますが、他のメンバーの負担を軽減できるようにしています。
A3:ダッシュボードフォーマットの辞書化ツールを作りたい!
すでに今、実施媒体は増え、検索連動・ディスプレイ・動画など、KPIも異なるケースが増えています。そして、コンバージョンの概念やアトリビューション導入にあたってのカウント方法など、様々な指標が複雑化していると言えます。しかし、1日24時間しかないことは今後も変わることがなく、お客様に対してのラブレターは、気持ちが伝わるように書き続けなければなりません。これ、本当に大変だと思います(笑)。
そのためどうなって欲しいかと問われると、「各媒体の正しいデータを集約し、各KPIを入力することで、自動的にレポートができる、魔法のボックス(ツール)」が欲しい、というところでしょうか(笑)。しかし、現実はそう簡単にはいきません。KPI自体、単純なものから複雑なものまで様々であり、一括りにはできないのが現状。ではKPIを揃えてしまうか、というのも違うと思います。
そこで今できることとして考えているのが、”ダッシュボードフォーマットの辞書化”をすること。「このようなレポートを作成したい」と思ったら、そのダッシュボードフォーマットに数字を流し込むことで、数字をまとめてレポートの原型を作れるツールが用意できれば、各担当者の負担が減るかなと思っています。とはいえ、それを設計するのにも時間が必要であり、なかなか実践できてはいないのですが、コンサルタントが伝わるレターを、愛を込めて書く時間を増やすためにも、必要だと感じています。
また、運用者であれば必ずレポーティングを実施するので、レポートに愛をもっている人たちと会談できたら、更に面白い視点でレターを綴ることができるのではないか!?とも、思っています。
Case4 レポーティングとは、キャンペーンマネジメントのリズムだ
足立誠愛(あだちのぶよし)さん
株式会社オーリーズ 取締役副社長。在学時に現代広告の研究室に所属。実践主導の研究活動を通じて広告コミュニケーションを学ぶ。同時期にワークスアプリケーションズのインターンシップに参加し、最高ランクの評価を獲得し、同社に入社。ERPパッケージ「COMPANY」導入・保守運用部門のコンサルタントを経て、アカウントマネージャーとして顧客の最終責任を担い、クライアントと組織のROI向上に邁進する。その後、2014年1月よりオーリーズにて運用型広告に特化した広告代理事業を開始。サービス領域責任者として事業開発を担い、現在に至る。
https://allis-co.com/
世界がデジタルでつながると、複雑性や不確実性が高まり、未来を予測することが難しくなります。運用型広告の一つをとっても、どのプラットフォームや機能を利用し、どんな役割を与え、何を指標とするのかなど、手段やプロセスは実に多様です。
見通しを立てづらい状況では、手段やプロセスを反復的・漸進的にテンポよく開発しながら、良いものを見つけては定常運用に乗せていくという、アジャイルなキャンペーンマネジメントが理想的です。つまり、施策のアイディアと同じくらいに「キャンペーンマネジメントのリズム」が大切な時代といえます。そんな時代に、私たち代理店のレポーティング業務の在り方を考えると、「アドホックなレポートとBI/ダッシュボードによる定型レポートを両輪で回す」ことがポイントであるように思います。
最近では、マーケティング領域でもBI/ダッシュボードの活用が進み、多様なデータを一元的に管理し、可視化できる環境が整ってきました。代理店のレポーティング業務も、ダッシュボードを通じて行われている事例を見聞きします。
弊社もDOMOなどのダッシュボードを活用していますが、それだけでレポーティングが完結することはありません。アジャイルなキャンペーンマネジメントを行うためには、Excelなどによるアドホックなレポーティングも必要です。
得てして広告運用に関わる人たちは、レポーティング業務に対して「いつかすべてを型化して、楽になるんだ・・・解放されるんだ・・・」「Excelなんてなくなってしまえ!」という想いのもと、標準化・効率化に向き合っているのではないかと思います。しかし、いまの時代は常に新しい施策の検討・検証がついて回るので、レポーティングについても、ある程度のカオスを前提にして前進しつづけるマインドセットが必要に思います。
その前提を受け入れたうえで、ダッシュボードを通じた定型レポートによって状況認識をリアルタイムで同期しつつ、アドホックなレポートによって新たな施策を開発していくという使い分けが、キャンペーンマネジメントの「良いリズム」をつくるポイントだと思います。
※参考
A1:リズムとシンプルさを重視
リズムについては上述の通りです。アドホックなレポートと定型レポートを両輪で回すことで、アジリティの高いキャンペーンマネジメントを目指しています。シンプルさとは、運用責任を担う私たち代理店が目的をもって情報を取捨選択し、できるだけわかりやすいビジュアルによって広告主へ成果報告を行うことです。
キャンペーンマネジメントのリズムが変われば、定例ミーティングの在り方も変わります。キャンペーンマネジメントのテンポが速くなると、これまで以上に意思決定の頻度が増えます。ゆえに、定例ミーティングの目的は、状況報告ではなく意思決定に向けることが理想的です。ダッシュボードを通じてリアルタイムに提供される定型レポートによって、状況認識が揃っている状態でスタートし、良質な意思決定に多くの時間を使う、という状態が理想的だと考えます。
代理店による情報の取捨選択は、透明性を損なうこととは違います。大切なのは広告主がデータにアクセスできるかどうかであり、すべてを報告することではありません(弊社ではすべての広告主に広告アカウントへのアクセス権をお渡ししています)。
多様なデータにアクセスできる時代だからこそ、不要なものをふるい落とし、重要なデータをわかりやすく可視化してレポーティングすることが、私たち代理店に求められている大切な役割一つであると考えています。
A2:各ツールのテンプレートカスタマイズは各自が実施。より専門的な作業はマスターがヘルプ
弊社では、glu(自動レポーティングシステム)やDOMOなどのツールや、SQLに精通したメンバーが全体の1割ほど在籍しています。この人たちのことを、非公式ですが「○○マスター」などと呼んでいます。
gluやDOMOの操作方法については、メンバーの誰もが知識を有しています。それぞれのツールにテンプレートを用意しておき、メンバーが個別にカスタマイズをして利用するのが基本的な運用方針です。
そのうえで、データの出力定義を組み替えたり、複数のデータソースからデータを統合したりするような、より専門性を有する作業については、上述したマスターの力を借りながら組み込んでいきます。
A3:「一つのプラットフォームからあらゆるデータにアクセスできる」環境が実現すれば、広告運用はもっと楽しくなる!
アジャイルにキャンペーンマネジメントを実行していくためには、機能横断的で自己組織化されたチームをつくる必要があります。戦線において自律して課題設定から解決までを実行できるチームです。これは、広告主と代理店の関係においても同じです。
そのためには、チームが目的達成に必要な「機能/情報/権限」を有している必要があります。この「情報」を支えるのが、BI/ダッシュボードの役割です。統合されたデータ環境があれば、マーケティングに関わる人たちが一つのプラットフォームを通じてあらゆるデータにアクセスし、自律した施策立案と検証ができます。
冒頭の理想の実現は、この多様化の進む世界では一筋縄にはいきませんが、昨今のBI/ダッシュボードツールの進化によって、優れたUIを通じて少ないストレスでデータと向き合える環境が、少しずつ実現されてきているように思います。
レポーティングは、奥の深い業務だ!
今回、「広告レポーティング」という一つの共通テーマに対し、4者4様の様々な意見や考え方を伺うことができました。それだけ、レポーティングとは十把一絡げに型にはめてやり過ごすものではなく、柔軟に各々の最善の方法を模索する奥の深いものだということです。
忙しく業務に追われる日々の中で、時には「面倒だなあ」「このレポーティングって意味があるんだっけ」と思う瞬間もあるかもしれません。しかし、今回4名の識者に伺った中で、様々な考え方はあれど、どなたも共通して「レポーティング(ひいてはクライアント)に対する愛情」を前提に語っておられたように思います。
運用型広告の運用者たるもの、社内向けであれ社外向けであれ、レポーティングをする意味を再確認し、愛情を持って、最善のレポーティング方法を模索し続けていきたいですね。